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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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追跡者

●登場人物

ココロ…アスビティ公国公爵令嬢にして、「始まりの存在」のバディに選ばれたANTQUEのリーダー。テレパシスト。

吉田大地…埼玉県に住む高校二年生。土のANTQUEのバディに選ばれ、時空を超えてプレアーガまでやって来た能力者。

シルバー…アスビティ公国公軍隊長であり、鋼のANTQUEにバディとして選ばれた能力者。振るう剣は公軍 随一ずいいちの実力を誇る剣士。







 一通りの儀式をの当たりにした大地は、小さくため息をついた。まったく、堅苦い事だ。

 大地の意見に全面的に承諾する事はできないシルバーの唯一の妥協だったのであろう。大地の言う事は聞けないが、ココロが言うのであれば従う理由があると、そう言う事のようだった。

(くだらないプライドだなあ…)

 大地は呆れて胸の中でつぶやいた。

(長らく不戦の誓いを守り続けた日本ではすっかり失われた”忠義の心”ってやつなんだろうけどさ)

 と、そこは一定の理解を示し、大地は殊勝しゅしょうな態度を取って見せた。

「軍服を処分しろなんて言って悪かったよ。せめて綺麗にたたんで、鞄の底の方にでもしまっておいて」

 最大限の譲歩じょうほをして言う大地をにらみつけたルバーだったが、それでも何も言わずに立ち上がると、アスビティの国章が入った軍服を荒々しく脱ぎ取り、静かにたたみ始めた。黙々と着替えるシルバーに、目のやり場に困ったココロがもじもじと赤面しているのがわかる。

 大地に言われた通り丁寧にたたんだ軍服を荷物の奥底へとしまい込んだシルバーは、再び静かに立ち上がった。しばらく名残惜しそうに軍服のしまわれた荷物を見下ろしていたが、想いを断ち切るようにココロを振り向くと言った。

「姫、それではいち早くここをち、首都ハンデルへ向かいましょう」

「そうね、今度の事ではイリアとも話がしたいし」

「イリア?」

 ココロの口から出た聞き慣れない名前に、大地がき返す。

「ええ、イリア。このンダライ王国の姫なの。先王が崩御ほうぎょされたので、次の国王、つまり女王になるべき人よ」

「知り合いなの?」

「そうね、ンダライはアスビティの同盟国だから、子供の頃から何度か会っているわ。年も私とそんなに変わらないから話も合うし」

「女王になるべき、って事は、まだ王位にはいていないの?お父さんが亡くなって一年くらい経つんでしょ?」

 大地の鋭い指摘にココロは一瞬言葉を失った。それを引き継ぐようにシルバーが説明をする。

「先王が崩御ほうぎょされた直後は、イリア様の母上であられるおきさきが一時王位を継承されたのだ」

「ん?」

「王妃様も、国王崩御こくおうほうぎょのふた月後に、亡くなられたの…」

 ココロが歯切れ悪く言いえる。言いながらココロとシルバーの二人も、それが妙なことである事に気づき始めていた。二人が奇妙に感じた事を、遠慮もなく大地が言葉にする。

「おかしくない?王位が空席になって数か月も経っていて、未だに次の王が立っていないなんて。世襲制せしゅうせいなんでしょ?イリアがまだ幼いとか?」

「幼いと言っても、私と一つしか変わらない十三歳よ?王位にくのに問題がある訳じゃない。それに、妹のキイタはちょっと人見知りで大人しいけど、イリアは私なんかよりもずっとしっかりしているの」

「なのに王位も継がず、国王崩御こくおうほうぎょの後、この国はおかしくなった?妹がいるって言ったね?」

「うん」

「王位継承についてめているとか?」

「そんなはずはないわ、ンダライの世襲制せしゅうせいは、長子継承ちょうしけいしょうと定められているの。確かにイリアとキイタは双子の姉妹だから、年齢は同じだけど…。でも、イリアが姉と昔から決められていたし、あの二人はもの凄く仲の良い姉妹なのよ」

 ココロはまたしてもンダライや、その国の双子の姉妹を擁護するように説明した。

「それが何?」

 ココロの必死にも聞こえる口調に対して、大地が感情のこもらない冷たい声で答えた。

「え?何って…」

「しっかりしているとか、仲が良いとか、それはココロの感じた印象でしょ?俺が知りたいのは、実際はどうなのかって事なんだよね」

「貴様、姫…いや、ココロ様に向かって、何という…」

 大地のあまりにも無情な言い方に、シルバーが抗議の声を上げたが、ココロ様などと慣れぬ呼び方をしたせいで尻切れ蜻蛉とんぼとなり、何とも迫力を欠いてしまった。

「首都に向かうのはいい、でもイリアに会うのはやめておいた方がいいな」

 シルバーの抗議が不発に終わったのを見越した大地がとどめを刺すように言い切った。

「でも…」

「確実に力になってくれる保障はあるの?今現在自分の国も治めきれていないその双子のお姉さんが?」

「イリアは本当にしっかりしていて、もっとずっと小さい頃からいつかンダライの王になる事をちゃんと理解してた。私なんかより、ずっとずっと、国や国民の事を考えていて…」

 そこまで言ったココロは、自分を見つめる大地の氷のように冷たい視線に、あとの言葉を飲み込んだ。大地は小さく息を吐き出すと低い声でココロをさとすように話しだした。

「ココロ、しっかりして。君の決断に、俺達の命が懸かっている。この世界の平和もね」

 言われたココロは泣き出しそうなのをこらえるように唇を噛みしめ、両手でスカートを握りながらうつむいた。そんなココロの姿を見て黙っていられなくなったシルバーが再び声を出す。

「だからダイチ…」

「こっちだって命懸けだって言ってんだよ!」

 大地が出した大きな声にシルバーが思わず口を閉ざす。ココロはビクリと肩を揺すった。相手を黙らせた大地は畳み込むようにまくし立てた。

「確実に怪しいだろう?二人だって気づいているはずだ。国王やきさきが立て続けに亡くなったのだって、その後王位がずーっと空席のままなのだって、その途端とたんこの国が荒れだしたのだって、この国の中に敵が入り込んでいると考えれば全部 辻褄つじつまが合うじゃないか!そんな疑わしい所へ、行ける訳がないでしょう?」

「だからもう少し言い方があるだろうと私は言っているのだ!」

「やめて、シルバー」

 ようやく言い返したシルバーを、ココロが止めた。

「ダイチの言う通りよ、私が甘かったわ。シルバー、今や私達のり所となるのは親や、昔馴染みの友人ではないわ。まだ見ぬANTQUEの能力者達。彼らだけが、今の私達にとって本当の仲間なのよ」

「姫…」

 そう呼びかけるシルバーの顔をココロが見上げた。

「あ、いや…その」

 つい姫と呼んでしまった事に慌てたシルバーに、大地がため息をつく。その時だった。三人のいる部屋が震えたかと思える程の大音声だいおんじょうが響き渡った。

「シルバァ――――――――!!!」

 シルバーの名を叫ぶその声は宿の表から聞こえた。素早い身のこなしでシルバーが窓の近くへ寄り、片目だけで外を確かめる。それと同時に大地が部屋の扉を開け、廊下を見渡した。

「参ったな、どうやら全員避難完了、って感じだぜ?」

 大地の眼前に伸びる宿の廊下は、ところどころドアが開け放たれ人の気配がしなかった。三人が言い争うように時間をいている内に、他の客や宿の従業員はこっそりと抜け出してしまっていたらしい。

「シルバー!!そこにいるのはわかっている!無駄な抵抗をせず、おとなしく出て来い!」

「ロズベル隊長か…。あんなに張り切って、厄介やっかいだな…」

 窓から見下ろす宿の前には第二警備隊隊長ロズベルを筆頭に、第二境界警備小宮選抜の追跡隊が陣形を展開していた。

「さて、どうするか…」

 シルバーがつぶやく。大地もシルバーと窓を挟む位置まで来てそっと外の様子をうかがった。

「私が出ます」

 突然言い出したココロを大地とシルバーは同時に振り返った。

「私が表に出て、ロズベル達に説明しましょう」

「しかし、ココロ様…」

「それ以外に彼らをおさめる手段がありません」

「危険です!」

「いや」

 ココロの身を案じ反対するシルバーを抑えて大地が声を出す。

「ココロの言う通り、それしか手はないんじゃないかな?」

「しかし」

「俺もココロと一緒に出るよ」

「誰も知らないお前が出て行ったら、余計に話しがややこしくなるだろうが!」

「シルバー!出て来なければこちらから行くぞ!これは命令だ!従わなければ、問答無用で反逆罪とみなす!」

「シルバー、時間がありません。反対は許しません、決断は私がします」

 ココロが静かにシルバーをさとす。

「シルバー、この国の移動手段は何?」

 まだ何か言いたそうなシルバーの気をらすように大地が声を掛ける。

「移動手段?そりゃぁ、馬だが…」

「俺とココロが表に出ている間に馬を連れて来られる?」

「どうだろうな?当然裏口も包囲されているはずだ。逃走を防ごうとしているのなら、馬小屋は一番に抑えるのが基本だ」

「そこはシルバーの腕に任せるよ。何がなんでも馬を連れてきて。それまでは時間を稼ぐ」

「随分簡単に言ってくれるな。我が国の精鋭が守る馬小屋から三頭の馬を奪い、お前とココロ様を連れてこの包囲網から脱出すると言うのか?」

「他にいい手があったとしてもそれを考えている時間がないし、馬は二頭でいい。俺は乗れないから」

「何!?馬に乗れないだと?」

「俺の住んでいた世界では馬で移動する奴なんかいないからね」

 茫然ぼうぜんとして言葉を失くすシルバーをすようにココロが慌てて口を挟む。

「大丈夫よシルバー。私だって馬位乗れます。ダイチはシルバーが責任を持って守って」

 シルバーは、ほうけたような顔で、ココロと大地を交互に見た。

「頼むよ」

 大地がにっこりと微笑むのと反対に、シルバーは急激に不安になってきた。いくら閑職とは言え、表に陣取る連中は公軍の隊士達だ。

 その実力を知っているだけに、こんな素人と一緒にその包囲網を突破しようと言うこの作戦があまりにも無謀むぼうに思えてくる。

「大丈夫、ココロは俺が守るから」

 なかなか動こうとしないシルバーに、大地がもう一度声を掛ける。

 いや、違うのだ―――。

 と、シルバーは声を出しかけた。ここに来て心配なのは、むしろ大地の事だった。

「守るだって?お前が?あの隊士達から?」

 すると大地は窓の外に向けていた目を真っ直ぐにシルバーに向けなおし、きっぱりとした口調で言い切った。

「俺は、土の能力者だ」

 大地の真剣な眼差しを正面から受けたシルバーは、自分の不安を断ち切るようにうなずくと、ようやく作戦の決行を受け入れた。

「わかったダイチ、ココロ様はお前に任せる。何があっても、お守りしてくれ」

「任せて」

 一体どんな根拠を持って言っているのかさっぱりわからなかったが、大地はかなりの自信を見せて答えた。こうなったらもうその正体不明の自信に頼る以外に方法はない。

「ダイチ、前から二列目の、一番左端にいる男が見えるか?」

 覚悟を決め開き直ったシルバーは、窓の外をあごで指し示す。大地もすぐに顔を戻した。

「あの髪の短い?」

「そうだ。万が一戦闘になるような事があっても、あの男を傷つけるのは避けてくれ」

「なぜ?」

「彼の名はブルー、私の腹心ふくしんだ。ブルーは私が姫と共に小宮を出た事を知っている唯一の男だ。恐らく命令にそむく事ができずこの追跡に参加しているのだろうが、うまくすれば助力じょりょくを期待できる」

「わかった、頑張ってみる」

 自信に満ち溢れた言い方に反して、その言葉は何とも頼りなかった。やはり不安を消し去る事はできなかったが、ここで悩んでいても時間の浪費でしかない。そう考え直したシルバーは無言で立ち上がった。

 ココロを見る、ココロもシルバーを見つめた。しかし言葉を交わす事もなく、シルバーは持てるだけの荷物を背負うと部屋の出口へと向かった。

 そっと廊下を覗く。やはり人の気配はない。音もなく廊下へ滑り出る。大地も追うように廊下に出た。数m先でシルバーが振り向く。大地が一つうなずいて見せると、シルバーは背を向けそのまま廊下の角を曲がり姿を消した。

「おお!」

 突然宿の外でどよめきが上がった。

「姫!」

「姫だ!」

「ご無事だぞ!」

 そんな声も聞こえてくる。大地が廊下から部屋の中を振り返ると、ココロが窓を開け放った後ろ姿が目にとまった。ココロはココロで追跡隊の気をそらそうと考えているようだ。

「ロズベル隊長!」

 ココロがりんとした声を放つ。窓の下に立つ隊士達を見渡す。ブルーと目が合い、一時目を止めた。今すぐ宿の裏手へ行き、シルバーを援護してほしかったが、それを伝える術がない。

「私は無事です。今降りて行きます。決して取り乱す事のないように」

 そう言ってココロは窓辺から身を退くと大地のそばへと寄ってきた。

「姫のお出ましだ!」

 開け放たれたままの窓の外から、ロズベルの声が聞こえ、いくつもの足音がそれに続いた。姫を出迎えるため隊士達が下馬げばをしたのだろう。

 ココロと大地はうなずき合うと立ち上がった。大地はココロの左手を自分の右手でしっかり握り、階段を目指しシルバーが向かったのとは反対の方向へ歩き出した。

 相変わらず薄暗い一階のロビーにも人の気配はなかった。そこから見る外はやけにまぶしく、隊士達の姿も良く見えなかった。

 そこでココロは立ち止まった。手をつないでいた大地も一緒に足を止め、ココロを振り返る。ココロはゆっくりと手を離すと、一つ小さくうなずいて見せ、大地をそこに残したまま先に立って表へと出て行った。

















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