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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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嘆きの洞窟

●登場人物

・シルバー…若くして公軍の大隊長を務めた経験を持つ実力者。戦いでは常に仲間を導くリーダー的存在。

・キイタ…ンダライ王国の第二王女。火のANTIQUEに選ばれ戦士として旅に加わる。

・ガイ…元はシルバーの部下だった男。誰よりも真っ先に敵に立ち向かう為怪我が絶えない。

・アクー…記憶を失った少年。弓矢の腕前は百発百中、冷静な判断と素早い身のこなしで戦いを補佐する。


・エイク…ジルタラス近隣の村に住む青年。ひょんな事からシルバーと出会いレヴレントとの戦いに巻き込まれた。



前回までのあらすじ

 レヴレント達からココロと大地を助け出した謎の馬車は二人をラディレンドルブルットと呼ばれる古城へと連れて来た。そこで二人を出迎えたのはマヌバラと言う名の女性を筆頭にした数人の女中達だった。

 ラディレンドルブルットの女中達は夜も明けきらぬ早朝にやって来た珍客に嫌な顔も見せず歓迎してくれた。

 マヌバラに案内され客室へと向かう途中、螺旋階段の壁や長い廊下の壁に掛けられたこの城の代々の当主や妃、王女達の巨大な肖像画を見上げながらココロは相当歴史のある一族の城だと想像する。

 二人を案内しながらマヌバラが語る話しによれば、この城に住む一族は元々ジルタラス共和国の国民ではなく、戦禍に追われ僅かな兵と女中を連れ逃げ出して来た国王の一家であるらしかった。

 フェズヴェティノスやレヴレントに追われ一睡もしていないココロは歩きながら急激な睡魔に襲われる。朦朧とした意識の中で、マヌバラの語る話しをどこかで聞いた事があると感じる自分に奇妙な違和感を感じたココロだったが、疲労には勝てず、部屋に入るなり大地共々ベッドに身を投げ出し眠りに落ちてしまう。

 意識を失う直前、頭の中に謎の言葉が響いたが、それを追求する間もなくココロは一気に夢の中へと落ちてしまうのであった。









 闇の中に剣と剣を交える鋭い音が響く。息を乱し、それでもシルバー、キイタ、アク―の三人は善戦していた。

 周囲には首や足、腕を飛ばされながらも死にきれず、執念深しゅうねんぶかく地をうレヴレントの体がいくつも転がっていた。

「アク―!何体倒した!?」

 剣を手に襲い掛かってくる敵を防ぎながらシルバーがアク―に向かって大きな声でいた。

「えぇ?そんなのイチイチ数えて、ないよぉ!」

 敵の攻撃をくぐり、小さいながらも最高の切れ味を見せる白刃の剣を振るいながらアク―が答える。

「倒した敵の数を数えるのは冷静さを保つのに役立つんだ、やってみろ!」

「そんな事しなくても、僕は、冷静だ!」

 次々と敵を倒していく三人であったが、どこからいて来るのかレヴレント達の攻勢は一向に弱まる気配を見せなかった。

 そんな状況を楽しんででもいるかのような言い方でシルバーがアク―に声を掛けたのは、体力の限界を感じ始めた自分を叱咤しったしようと強がっているのだ。しかしアク―にはシルバーのような強がりを見せる余裕すら既にないようであった。

「シルバー!」

 背後からの叫びにシルバーが振り向く、その(すき)をついて襲ってくる敵を上段から真っ二つに切り分けたシルバーは再び急いで振り向くと、すぐにその場を離れ走り始めた。

「キイタ様!」

 向かう先ではキイタが複数のレブレントに囲まれ追い詰められていた。次々とレヴレント達を焼き払ってきたキイタだが、今彼女の周りにいる敵は皆手に大きなたてを持ち身を守っていた。

 鉄をも溶かすフェルディの炎を完全に防ぐたてなどこの世にあるはずもないが、敵にしてみれば最初の一波をかわす事で一気に間を詰める事ができる。それを数体がじんを組んで繰り返した結果、今キイタをその射程内に捕らえたのだろう。

 シルバーは走った、キイタがそこまで追い詰められるまで気が付かなかった自分の迂闊うかつさと未熟さを呪いながら、キイタを取り囲む複数のレヴレントの背中を目指し全力でけた。しかし、間に合いそうもない。

「ああ!」

 見る先で数体のレヴレントが燃える剣を頭上に振り上げるのが見えた。あの輪の中にキイタがいる、そう考えたシルバーは走りながら我知らず叫んでいた。

「やめろおおおぉぉぉぉぉぉっ!」

「キイタ…!」

 シルバーを呼ぶキイタの切羽詰せっぱつまった声を聞いたガイは、立ち上がろうと身を動かした。激痛が走ったが気になどしなかった。

「あんた!何やってんだよ!動いちゃだめだ!」

 突然起き上がろうともがき始めたガイをエイクが慌てて押しとどめる。

「どけ!キイタァァァ!」

 エイクに行く手をふさがれながら、ガイは絶叫に近い悲鳴を上げた。誰もがキイタを救える場所にはいなかった。

 何本もの剣が彼女の頭上から振り下ろされ、その体が小さな肉片に変えられてしまう事をキイタ自身を含め全員が覚悟した。

 しかし、振り上げられた剣がキイタの上に降ろされる事はなかった。高々と剣をかかげたまま、突如とつじょレヴレント達は皆動きをとめたのだった。

 キイタを襲うレヴレントだけではなかった。アク―の上にし掛かっていた敵も、走り出したシルバーを迫ってきた奴らも、次々と崖の上にい上がって来ようとしていた連中も、レヴレントと言うレヴレントが一斉いっせいにその動きを止めた。どいつもこいつも大きく口を開けたまま体を小刻みに震わせている。

「な…何だ?一体どうした?」

 大岩の向こうで状況の見えないガイは唐突に訪れた静寂せいじゃく戸惑とまどった声を出した。

「まさか…」

 ガイの大きな体を必死に食い止めようと頑張っていたエイクはそうつぶやくと突然ガイから離れ、戦場へとけだした。

「あ、おい!」

 いきなり手を離されたガイは一、二歩つんのめるように進むとそのまま派手に転んだ。そんな事を気にもせず岩陰から飛び出したエイクは目の前の光景に息を飲んだ。

「やっぱり…、ハ、ハハハ…」

 エイクは突然気の抜けたような笑い声をらした後、腹の底から全身全霊を込めて叫んだ。

「夜明けだっ!!」

 エイクが見つめる崖のはるか向こうの雲間から、まぶしい朝の陽ざしが射し込んでいた。真っ直ぐに伸びる日の光が容赦ようしゃなくレヴレント達の背中を焼いている。

「お…お、お…」

 無数に立ち尽くすレヴレント達の口から小さな声がれた。次の瞬間、全てのレヴレント達は一瞬にして砂人形のようにもろくずれ去った。

「うわぁ!?」

「きゃあ!」

 レヴレント達に目の前まで迫られていたアク―とキイタはくずれ去る敵の体をまともに浴びて悲鳴を上げた。

「ハ…ハハハ…ハハハハハハっ!」

 突然エイクが腹を抱えて笑い始めた。

「エイク…」

 この突然の終結とエイクの豹変ひょうへん振りにシルバーは茫然ぼうぜんとしながら彼の名を呼んだ。しかし、そんなシルバーの声が聞こえないのか、エイクは笑う事をやめなかった。

「ばかでぇ、こいつらばっかでぇ!戦いに夢中で朝が来ている事に気が付かなかったんだ!ざまぁ見ろ!ざまぁ見ろ!俺達の勝ちだぁ!」

 誰にともなくそう叫んだエイクは、両手の拳を高々と天に突き上げた。そんな彼を声もなく見つめるシルバーの後ろでは、アク―が口の中に入った砂を出そうとしきりにつばを吐いている。

「あ、キイタ様!」

 我に返ったシルバーは数体のレヴレントに囲まれていたキイタの事を思い出し、彼女の元へと走った。

「ガイ!あんたそんな所でなにやってんだ!」

 走り出したシルバーを目で追おうとしたアク―は、寝床を抜け出し無様ぶざまに倒れているガイを見つけて走り出した。

 シルバーが思った通りキイタの小さな体は大量の砂に頭からすっぽりと埋もれていた。

「キイタ様!キイタ様!」

 叫びながらシルバーはキイタ包む砂を必死でいた。やがてはげしくき込みながらキイタの顔が現れた。その目は固くつむられ、丸いほほには涙のあとがあった。

「アク―!水だ!」

 どうやらキイタは砂が入り込んだ痛みで目を開ける事が出来ないらしい。一刻も早く洗い流さなくてはならない。

 け付けたアク―は瞬時に状況を読み取ると、すぐに蕾型つぼみがたに合わせた手を上を向かせたキイタの目の位置にもってきた。

 やがてアク―の体が深い青色に輝き始めると、その指先から水があふれ出し、キイタの汚れた顔を優しく洗い流していった。

 そんな能力者達の動きには目もくれずエイクは、大きな岩に腰かけ晴れ晴れとした顔で昇ってくる朝日を見つめ続けていた。



 襲い来るレヴレント達を一掃いっそうした太陽は今や完全に昇りきり、闇に閉ざされていた不毛の地を明るく照らし出していた。

 キイタを救おうと寝床をい出したガイを毛布の上に寝かせ、アク―はようやく一息ついた。

「まったく、無茶をするんだから」

「いや~、いけると思ったんだが…」

 あきれてため息をつくアク―の顔を見上げ、ガイが照れくさそうに笑う。

「何がいけると思っただ!いける訳ないだろう?その体で。本当に脳筋のうきん野郎だな!今あんたに出てきてもらったって足手まといになるだけだって何でわからないのかなぁ?」

 おとなしく横になったガイの頭上からアク―がガミガミとしかりつけた。

「まぁ、その、なんだ…。はい、スミマセン」

 実際、思った以上に自分の体が動かなかったガイは素直に謝った。

「でも、私を助けようとしてくれたんでしょう?」

 謝っているガイに更にくどくどと説教をり返すアク―の後ろからキイタが近づいて来て言った。手には水を張った桶と、清潔せいけつな布を持っていた。

「いや、その…叫ぶ声が、聞こえたもんで」

 水にひたした布をきつくしぼったキイタは言い訳がましく言うガイの顔を見てニッコリと笑った。

「うん、嬉しかった。ガイはいつも私を助けようとしてくれるのね?」

「だってそりゃ…、当然…」

「叫んだ私が悪かったのね」

「いや!いや、キイタは何も悪くない」

「お願いだから、もう無茶はしないで」

 笑いを消したキイタは真剣な顔でガイの目を見つめて言った。

「あ………、はい…」

「はい、じゃあ体をきましょ」

 もう一度笑顔を見せたキイタがガイの胸にれた布を当てた。

 キイタがガイの世話を焼いているのを見てため息をついたアク―はそっと二人のそばを離れると、剣の調整をしているシルバーの所まで来た。

 しきりに剣の具合を確認しているシルバーのすぐ横で、しゃがみこんだエイクがその作業をじっと見上げている。

こわれたの?」

「ん?いや、つばゆるみを感じたのだが、大丈夫だ」

「まったく、そればかりが頼りだからね」

「武具の整備に抜かりはない」

 シルバーは調整を終えた自慢の大剣を朝日にかざした。そんなシルバーの背中を見つめながら、アクーがポツリと言った。

「ガイなんだけどね、やっぱり、思った以上に回復しているよ」

 シルバーは驚いた顔で振り向くのを見たアクーは急いで言い()えた。

「誤解しないでよ、治った訳じゃない。実際、折れた骨はまだそのまんまだと思う。でも、お腹にあったれは引いているし、その後血を吐く事もない…。熱もないようだし、恐らく臓器の損傷そんしょうはある程度 治癒ちゆされていると思う」

「そう、なのか…?」

「うん、多分ね。少なくとも命に別状べつじょうはないでしょう」

 驚愕(きょうがく)の表情でたずねた後、すぐにシルバーは気を取り直し、改めてアクーに確認した。

「移動も可能か?」

「え…?」

 シルバーの予想外の質問にアク―は思わずき返した。目の高さに上げていた剣を下したシルバーはアク―から目をらし話し始めた。

「どう言う訳かフェズヴェティノスは追っては来なかった…。しかし、本当に奴等があきらめたのかどうかはわからない。それに、このままここでまた夜を迎えれば、さっきの厄介やっかいな連中が再び襲ってくるだろう」

「あいつらは太陽の光で全滅したんじゃ…」

「それは甘いよ」

 答えたのはそばで二人の会話を聞いていたエイクだった。シルバーとアク―はそろって彼の顔を見た。

「レヴレントは魂の存在だ、決して死にはしない。さっき消滅したのなんか、徘徊はいかいする為の仮初かりそめの体に過ぎない。夜になればまた土塊つちくれに魂を宿し、新たな仲間を求めて歩き回るに違いないんだ」

「一体あいつらの目的は何なの?」

 アク―がくと、エイクは顔を上げて答えた。

「目的なんてないさ。かすかに残る痛みと苦しみ、それにさびしさや悔しさと言う感情の残滓ざんしまぎらわせる為に新たな仲間を増やそうとしているんだよ。より多くの人間に同じ苦しみを味わわせれば、それが分散して消え去るとでも信じ込んでいるんだろう」

「話し合いの余地よちはなしか…」

「ないね。あいつらには人間だった時の記憶なんて、ちり程度にしか残っちゃいないんだよ」

 シルバーのつぶやきにエイクは断定的に答えた。

「そもそもレヴレントとは何なのだ?」

 問われたエイクはそっと目を伏せると小さな声で語り始めた。

「…あいつらが度々目撃されるようになってから、村の長老が言っていたんだけど…」

「ねえ」

 エイクが言いかけるのに、いつの間に近くまで来ていたのかキイタが声を掛けてきた。

「その話、私達も聞きたいんだけど」

「かしこまりました、そちらへ参ります」

 シルバーはすぐに答えると、抜き身で持ったままだった剣をさやへと納め立ち上がった。

「エイク、君の知っている事を私達に教えてもらえるか?」

「そりゃ、あんた達は命の恩人だ。何だって話すよ」

 言いながらエイクは立ち上がると無邪気むじゃきな笑顔を見せた。そんな顔をすると彼がまだかなり若い事が知れた。

 尻の汚れを叩いたエイクは、そのまま先頭に立ってガイの寝ている方へと歩き出した。すぐにアク―が続く。そんな二人の背中をしばらく見つめていたシルバーも遅れて後を追った。

「それでは改めてエイク、知っている事を私達に教えてくれ」

 寝たままのガイを囲むようにキイタ、アク―、エイクが座っている輪の中へ最後に加わったシルバーが水を向ける。

「うん、まあ知っているって言っても村で言われているうわさ程度のもので、本当の所それが真実かどうかはわからないよ?」

「それでもいい。敵の事を何も知らないまま戦うよりはずっとましだ」

「じゃあ話すけど、ここら辺に出るレヴレントはみんな兵士の格好かっこうをしている。昨夜の奴らもそうだったろう?」

 エイクの問いかけに実際にレヴレントと戦った三人は皆無言でうなずく。それを確認したエイクは続けた。

「これまでに目撃されたのもみんなそんな奴等だった。それでそんな話が出たんだと思うんだけど、この土地に出るレヴレントははるか昔、この地に流れ着いたある王国の国王軍兵士の霊じゃないかって言われているんだ」

「ある、王国?」

 自分自身王国の姫であるキイタが急に興味を引かれたようにき返した。

「うん。ずーっと昔、二つの王国がその領土りょうどめぐって大きな戦争を起こしたんだって。それで、負けた方の国の王様家族はこのジルタラス共和国に逃げ込み身を隠した。ところがそれが敵国に知られ、戦争の火はこのジルタラスにもおよぶ事になった。長く続いた戦いは、その戦争とは何の関係もないジルタラス共和国で終結したと言われている」

 遠い過去の話しとは言え、悲惨ひさんな情景を思わせるエイクの話しに、聞いている四人は言葉もなく引き込まれていた。

「追い詰められた王様家族は大きな洞窟どうくつへと逃げ込んだ。だけど敵はそこまで追いかけて来た。多くの兵士が王様を守ろうと必死に戦ったけど、そもそも武器も食料も兵隊の数も足りてなんかいないんだ、とても持ちこたえられるものじゃぁない。勝負は半日もたずあっという間についたって言うぜ」

 そこでエイクは伏せていた顔を上げ、一度 聴衆ちょうしゅうの顔を見回すと再び口を開いた。

ついに最期の時を悟った王様とおきさき様は、一緒に連れてきた一人娘だけをそっと洞窟どうくつの外に逃がすと生き残った兵士達に一切いっさいの抵抗を禁じた…。降伏こうふくをした訳じゃない、その戦争自体を終わらせる(ため)、王様は自ら敵にその首を差し出したって言う話しだ。それはそれは立派な最期だったそうだよ」

 エイクはそこで一息つくと、更に話しを続けた。

「けど、結局王様が死んだ後、生き残ったおきさきも兵士達もしたっていた王様の後を追ってみんな自ら命を絶ったそうだ。そんな事があって以来、その洞窟どうくつはこう呼ばれるようになった…」

 エイクがそう言いかけた時、いきなりシルバーが口を開いた。

「レメルグレッタ…」

 突然 つぶやいたシルバーの声に、キイタとアク―が驚いた顔を向ける。

「あれ?この話、知っていた?」

 エイクにそう問われたシルバーは思わず口をついて出た自分の声に驚いた顔すると、何も答えずに立ち上がった。外していた剣を腰に着けなおす。

「シ、シルバー?」

 シルバーの突然の行動にアク―が更に驚いて声を掛ける。シルバーはいきなりキイタの方を向くと、唐突とうとつに話し始めた。

「キイタ様。ココロ様と、大地を捜しに行って参ります」

「え?あ、はい…」

「捜すって…」

 アク―が混乱した声を出す。

「言っただろう、あてがあると。このエイクが昨夜、レヴレントに追われ、通りかかった馬車に助けを求める一組の男女を見ている。私はそれがココロ様達だと思っている。崖下の道にはわずかだが車輪のあとがあった…、それを追う」

 言い終わるとシルバーはアク―から再びキイタへと顔を移す。

「馬を一頭借りて参ります。エイク、みんなを明るい内に安全な場所に案内してはくれないか?」

「ああ、そりゃもちろんかまわないが…」

「恩に着る。アク―、後を頼んだぞ」

「シルバー…」

 不安げな顔で立ち上がるアク―の肩に片手を置いてはげましたシルバーは、最後にガイの顔を見た。ガイはらしくもない神妙しんみょうな顔つきでシルバーを見上げている。

「妙な事に、なりましたなぁ」

「お前は余計な事を考えず、一刻も早くケガを治せ。これは命令だ」

 つぶやいたガイに言い置くと、シルバーはキイタに向けてひとつ軽く頭を下げ、風のようにその場を立ち去って行った。

「一番頼りになりそうなのが行っちゃったな…」

 シルバーの突然の行動に呆気あっけにとられた顔のアク―を見ながらエイクが言う。

「ガイ」

 キイタの声にガイは横になったまま目だけで彼女の顔を見た。

「あなたも今のエイクの話、知っているの?」

 そんな質問にアク―とエイクが同時にガイの方へ顔を向けた。注目が集まった事に気が付いたガイは小さく笑うと、かすれた声で話し始めた。

「知っているも何もそりゃ、俺達の国の話しですよ…」

「え?」

 ガイの言葉に今度は三人が声を上げる。

「昔々…正確には今から約三百年前の話だ」

 ガイが話し始めると、アク―はもう一度元の場所に腰を下ろし聞く態勢を整えた。

「エイクの言った二つの国と言うのは、マウニール王国とアガスティア王国の事だ。戦争に勝ったのはマウニール。このジルタラスに逃げ込んだのが、負けたアガスティアだ。戦争の後、二つの国は一つとなったが、この時の戦いを反省して二度と争いを起こさぬちかいいの下、公国として再興さいこうした。それが俺達の故郷、今のアスビティ公国の発祥はっしょうだ。だから、俺達の国にはマウニール人を先祖に持つ奴とアガスティア人の子孫とが今も共存している事になる。まあもっとも、三百年経った今ではその血もほとんど混ざり合ってしまったと思うがな」

 話すのが疲れるのか、ガイは一度目をつむり長く息を吐いた。彼が再び目を開き、ゆっくりと話し始めるまで三人は黙って待っていた。

「敗れたアガスティア王国国王と、きさき近衛このえの兵士達の最期をあわれみ、彼らが死んだ洞窟どうくつをレメルグレッタと呼ぶようになった…。レメルグレッタってのは、この土地の言葉で、“なげきの洞窟どうくつ”って言う意味だ」

 そこまで話すとガイは突然身を起こし始めた。この話の間も残ったANTIQUE達が必死にガイを治療してくれていたのをキイタとアク―は知っていた。

「おいおい無理するなよ」

 言いながらアク―は慌ててガイのそばけ寄ると、その背中を支えた。

「いいんだ、この方が話しやすい…」

 苦し気な声を出しながら何とか半身を起こしたガイは一つ息を吐くと言った。キイタがすぐにもう一枚毛布を持ってきてガイの肩に掛ける。

「ああ、ありがとう」

 キイタの心遣こころづかいに笑顔で礼を言ったガイは、掛けてもらった毛布を自分の体を包むように引き寄せるとエイクの顔を見て言った。

「君の話で一つだけ訂正ていせいするとすれば、洞窟どうくつを逃げ出したのは国王の一人娘じゃあない。正確には第二王女だ。国王家には洞窟(どうくつ)を脱出した第二王女の他、その姉である第一王女、それに王子が二人いた。もっとも、二人の王子はその戦争でいずれも父王より先に命を落としてこのジルタラスには来ていないがな…。しかし、すると何だい?さっき俺達を襲ってきたあの化け物共は、ここで非業ひごうの死をげたアガスティア近衛兵このえへい達のれの果てって事かい?」

「さあね。それが本当かどうかはわからないよ。ただ、村ではきっとそうだって言っている」

「そうか…。アガスティアの甲冑かっちゅう特殊とくしゅな形をしている、俺がその幽霊を見ていたら一発でそれが本当かどうかわかったんだがな」

「シルバーは気が付かなかったみたいだけど?」

「公軍隊士になるとな、必ず昔の武器や武具を展示した博物館に連れて行かれる。俺は興味があって、入隊後も一人でよく見に行ったもんだ…。シルバーだって見た事はあるはずだが、興味がなきゃいちいち覚えちゃいないだろうよ」

 アク―の疑問にガイが力ない声で答えた。

「でも待って」

 と、今度はキイタが言い出した。

「そんな昔に亡くなった兵士の霊がレヴレントの正体なら、そんな話、もっと前からあってもおかしくない?」

「ここら辺は行商ぎょうしょうの帰路としてよく使われる道だ。それまでこんな所にレヴレントが出るなんて話は聞いた事もなかった」

 そう答えたのは地元の村に住むエイクだった。

「何で今頃になって…」

 そうつぶやかれたキイタの疑問に答えられる者はいなかった。

「それはわからないが、しかし…」

 しばらくの沈黙の後、再びガイが話し始めた。

「もし本当にレヴレントの正体がアガスティアの近衛兵だとしたら…、奴等を何とかする手はあるかもしれないぞ」

 血の気のない顔を上げ、静かに言ったガイの言葉にキイタ、アク―、エイクの三人は驚いてお互いの顔を見合わせた。















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