死なない体
●登場人物
シルバー…鋼の能力者。ココロに忠実な公軍隊士。
キイタ…火の能力者。大国ンダライ王国の第二王女。
ガイ…雷の能力者。元はシルバーの部下であった男。
アクー…水の能力者。弓矢の名手。記憶を失っている。
エイク…たまたま道に迷い居合わせた若い行商人
前回までのあらすじ
姿の見えないココロと大地を捜しに一人暗い崖の下へと降りたシルバーは、そこで微かに残る轍に馬車が走った事を知る。
よもや二人はここで馬車に乗ったのか?その行動を不審に思い考え込んでしまったシルバーの前に怯える一人の青年が現われる。彼はエイクと名乗り、近くの村で行商の仕事をしていると説明した。
彼が怯えているのはレヴレント。それこそココロと大地を襲った緑に光る骸骨達の名称だった。エイクはレヴレントに追われたココロと大地と思しき一組の男女が一台の馬車に乗り込むのを見たと証言する。
そんな二人の前に突然何体ものレヴレントが現われ襲い掛かる。恐怖に震えるエイクを連れ、シルバーは必死にアクー達の元へと逃げ戻るのだった。
結局エイクに追いついたシルバーは肩でエイクの尻を押し上げるようにして残りの崖を登った。そうやって漸くまずはエイクが、続いてシルバーが崖の上に転がり出る。
「アクー!アクー!」
地面に倒れたままシルバーはアクーの名を叫んだ。すぐに闇の中から灯りを手にしたアクーが文字通り飛ぶように現れた。
「シルバー!」
顔を上げたシルバーはアクーの姿を認めるとすぐに身を起こした。
「彼に手を貸してやってくれ!」
「この人は?」
「話は後だ!急いで彼を連れてキイタ様の所へ!」
「わかった!さ、僕に捕まって」
シルバーの様子にただ事ではないと悟ったアクーは多くを聞かずすぐにカンテラを地に置くと、茫然とした顔で一言も発しないエイクに手を貸して立たせた。
アクーに抱きかかえられるようにして歩いていくエイクの背中を見送ったシルバーは今自分が登ってきた崖を振り向き、その下を覗き込んだ。
さっきまで自分が佇んでいた崖下に緑に輝く光達が無数に取りつき、こちらへよじ登って来ようとしているのが見える。
理由のわからぬ怒りを覚えたシルバーは呻き声を上げながら這い上がってくる無数の光に向かい足元の岩を蹴り落とすと、崖に背を向けアクーを追って走り出した。
「シルバー、こっち!」
声のする方へ顔を向けると、闇の中にカンテラの放つ小さな灯りが見える。ガイを治療するANTIQUE達の光も強く光っていた。
「一体何があったの!?」
崩れるようににしゃがみ込んだシルバーにアクーが訊ねた。息を荒げて自分の足元を見つめていたシルバーが途方に暮れた顔でアクーを見る。ふと目を転じれば、アクーの向こう側ではキイタが不安げな顔でやはり自分を見つめ返している。
「いや…」
ようやくシルバーが声を出した。
「私にも何が起こったのかよくわからない…。彼の方が状況はわかっていると思う」
シルバーは言いながら膝に顔を埋めたままのエイクを見る。
「それが、彼も何も話さないんだ。どこにも怪我はしていないようなんだけど…」
何を思ったのかキイタは何かに気づいたように立ち上がると、馬の背から下した荷物の方へ駆けて行った。
「彼の名はエイク、この先の崖の下にいた」
「崖の下に降りたの?それで何があったんだよ?大地とココロは?」
しかしシルバーは黙って首を横に振るだけであった。
「何だよそれ?二人は見つからなかったの?」
「アクー」
シルバーを責めるように声を荒げたアクーに、戻って来たキイタが声を掛ける。見れば彼女の両手には優しく湯気をあげるカップが包まれるように握られていた。
「これを、この人に…」
興奮したシルバーにつられて取り乱した自分を恥じるようにアクーはキイタの差し出すカップを受け取ると、震え続けるエイクの背に手を置いた。ビクリと大袈裟なほどエイクの肩が跳ねる。
「エイク、さあこれを」
アクーが囁くように優しい声で話し掛けると、エイクは恐る恐る顔を上げた。その目の前に温かな湯気をあげるカップが差し出される。
「ゆっくりと飲んで」
アクーの手からカップを受け取ったエイクはゆっくりと中の液体を喉に流し込むと、大きく一つ息を吐き出した。
「落ち着いた?」
エイクは小さく頷くと口を開きかけた。すぐにアクーがそれを押しとどめるように話し始める。
「無理に話さなくていい。僕の名前はアクー。今、君と一緒に来た男はシルバー、こっちの飲み物を運んでくれた女の子はキイタ。みんな僕の旅の仲間だ」
「………旅の、仲間?」
「そう。事情があって僕達は今一緒に旅をしているんだ。今夜、イーダスタ共和国からここへ来た。取り合えず東諸国に渡り、クナスジアを目指している」
隠密の旅である以上、旅の予定を軽々に話すべきでないのはアクーにもわかっていた。しかし、今はとにかくエイクの不安と恐怖を取り除く事が先決と判断したらしい。それが功を奏したのか、アクーの話しを聞いていたエイクの目に徐々に正常な光が戻り始めた。
「海を渡るなら、何でこんな所に?」
「え?」
ポツリと漏れたエイクの呟きにアクーが訊き返す。シルバーも顔を上げ、エイクを見た。
「海へ出るなら道は逆だ」
「エイク」
跳ねるように身を起こしたシルバーはエイクの肩を掴んだ。
「ここはどこなんだ?さっき、ディアッキャからハブルートへ帰る途中と言っていたな?」
「う、うん…。ここはジルタラスの南境界線付近だ」
「ジルタラス?ジルタラス共和国か?」
「そ、そうだよ」
「何と言う事だ!」
シルバーは乱暴にエイクの肩を放すと吐き捨てるように言いいながら腰を落とした。
「シルバー、どうしたの?」
アクーが不安げな声で訊くが、問われたシルバーは、で顔を覆うようにして大きなため息をついただけだった。
「一周、しちゃった感じなの」
質問に答えないシルバーに代わり、キイタが囁くような声を出した。
「一周?」
「うん、ジルタラス共和国はアスビティ公国の北の端と国境を接する国よ。今方角は全然わからないけど、ここから南へまっすぐに下ればアスビティ公国に戻ってしまう」
そう言われてもイーダスタの森の中で暮らした記憶しか持たないアクーには今一つピンと来なかった。黙ったままのアクーに気が付いたキイタが再び説明を始める。
「ココロとシルバーはアスビティ公国を出発して東へ向かった。それが私のいたンダライ。そこから北東に進路を変えてテリアンドス、更に北上してイーダスタに入った」
「う、うん…」
「そのままイーダスタも抜けて北上を続ければ今私達のいるジルタラス共和国の東端に出るの。ジルタラスの東部はこことは比べ物にならない位に栄えているわ。そこには大きな港町があるの」
「東から北上して行くべき道を、我々は誤って西へ向かってしまっていたのだ。それもこれもみんなあのフェズヴェティノスに追われたせいだ、くそ!」
顔を伏せたまま漸くシルバーが声を出した。ここまでの旅が徒労に終わりつつある事に感情が昂ったのか、彼にしては珍しく汚い言葉を吐いた。
「で、でも取り合えずジルタラスには入れた訳だし、多少遠回りはしたけどここからその東部を目指せばいいじゃん」
ひどく落ち込んでいるシルバーを励まそうとアクーが軽い調子で言った。しかしシルバーもキイタもすぐにはそれに応えなかった。
するとカップの中身を飲み干し、完全に落ち着きを取り戻したエイクが二人に代わって話し始めた。
「ジルタラスってのは、こう、未開発な西南部がその領土の大半なんだ、そこから東へ向かう程段々上に向かって細くなっていく…。横に長い国なんだよ」
アクーは手振りを交えて話すエイクに顔を向けた。
「東部の港まで行くには馬で駆け続けて四日。複数人で、女の子まで連れているならまあ、多めに一週間は見た方がいい。それも休みなく走ったとしてね」
「何だ、そんなもん?」
アクーが心底驚いた、と言った声を出した。
「そりゃ、イーダスタから加わったアクーにとってはそうかもしれないけど…。アスビティから旅を続けてきたシルバーにはちょっとショックは大きいと思うわ」
「あ、うん、そうか…そうだよね」
キイタの言葉に自分の発言が無神経だった事に気が付いたアクーは顔を伏せた。
「だからと言って落ち込んでいても話は進まねえだろうシルバー!」
突然闇の奥から聞き心地の悪いだみ声が響いた。他にも人がいるとは思ってもみなかったエイクはその声に飛びあがって驚いた。
「ガイ…」
見れば傷だらけのガイがANTIQUEの光を浴びながら必死に身を起こそうとしている。
「動いちゃダメだ!」
そう言って真っ先に立ち上がったのはアクーだった。ガイの傍まで行き、大人しく寝かせるように手を伸ばしたが、ガイはその手を払い除けた。
「誰のせいだ何だと言っている暇があったら、さっさと次の行動を起こそうぜ。嘆いているだけ時間の無駄だ」
アクーとは対照的に静かに近づいてきたシルバーの顔を見上げながらガイが言う。口元は不敵な笑みを浮かべているつもりであろうが、玉の汗が浮かぶ血の気の失せた顔は、まだまだガイが重篤な怪我人であるにん)事を物語っていた。
エイクには見えていない筈のANTIQUEの光の中で足でまといにならないよう強がりを言うかつての部下に、シルバーの心は急激に落ち着きを取り戻していった。
「ゲンムと…テテメコは?」
冷静になったシルバーはふとガイの怪我を治そうと彼の周りに集まっているANTIQUE達を見て言った。
今ガイの傍にいるのは彼のバディである雷のANTIQUEウナジュウ、キイタのバディ、火のANTIQUEフェルディ、アクーのバディである水のANTIQUEハルの三体だけであった。自分のバディであるデュールはまだ腰に下げた銀のメダルの中にいる。
「二人ともそれぞれのバディを追っていった」
シルバーの質問に答えたのは水のANTIQUEであるハルだった。
「私達は常にバディと行動を共にする。君の持つメダルのような無機物に身を宿し、持ち主との間に一定の物理的距離が生まれれば、自動的にその無機物に引かれその身は移動を始める。人間と手を携えている今だけ、我々の存在はその物質に囚われているようなものだ」
ハルの説明にアクーは無意識に自分の左腕にはまった腕輪に目をやった。キイタも知らずに左耳のイヤリングに手を当てる。
「なるほど…」
そう言って頷いたシルバーは苦しそうに自分を見上げるガイを思いやり、その場に腰を下ろした。
「しかしそうは言うがガイ、エイクの見立てで一週間。今のお前を連れて行けばそれ以上の時間が必要だろう」
「だからこそ、悩んでいる暇はねえだろう?」
「それにどのみちまだ私達は出発はできないのだ」
シルバーは自分を見つめてくるガイの透き通るような金色の瞳を見つめ返し、一呼吸置くと続けた。
「始まりの存在を連れ戻す。ココロ様と大地を捜しに行かねば…」
「捜すと言っても、二人は一体どこへ?」
傍にいたアクーがシルバーの顔を見ながら訊く。
「あてはある」
言いながらシルバーは立ち上がった。自分を見上げるアクーとガイを見下す。アクーは戦士としても優秀だ。それはシルバーにも十分わかっていた。そして今や火の能力者として覚醒を果たしたキイタの実力も十分な戦闘力になる。
そうは思っても、目の前の余りにも小さなアクーの姿とその隣に横たわる傷だらけのガイを見るにつけ、抑えようのない不安が胸に渦巻いた。
怪我をしたガイ、ンダライ王国の王女であるキイタ、そして何の力も持たない一般人のエイク。フェズヴェティノスとレヴレントに挟まれたようなこの場所に置いていかれる彼らの身の安全を、この年端も行かない少年一人に託さなくてはならない状況は、シルバーを苦悩の淵に叩き落した。
それでも行かなくてはならない。ここでココロを失えばこの旅に先はないも同然だった。重症のガイを同行させる訳にはいかないし、その怪我の治療にはアクーが必要だった。そうなれば選択肢は一つしかない。シルバーは腰の剣を直す、それが決意の表れだった。
「一人で行く。アクー、ここを頼む」
「シ、シルバー…」
ガイには状況が見えているのだろう。シルバーの選択に異議を挟む事はなかった。不安げに自分を見上げるアクーに向かって、シルバーは今まで見せた事もない無邪気とも思える優しい笑顔を向けた。
「大丈夫だ。二人を連れて、すぐに戻る」
その時だった、シルバーを見上げるアクーの表情が一瞬で緊張に包まれた。背後でキイタとエイクが同時に悲鳴を上げるのが聞こえた。
シルバーが迷わずキイタのいる方へ走り出した時、既にアクーの姿はそこにはなかった。
「キイタ様!」
キイタとエイクのいる場所に戻って来たシルバーは二人が声もなく見つめる先に目をやった。先程自分がよじ登って来た崖の淵、そこから緑色の光が覗いている。
「レヴレント!」
言いながらシルバーは剣を抜いた。追ってくるレヴレントの動きを見たシルバーは、どこかで奴らがこの崖を登り切るのは不可能、と決め込んでいた。しかし奴らは来た。呆れる程の時間をかけここまで這い上がって来たのだ。その執念深さにシルバーは、背中に寒気が走るのを止める事が出来なかった。
崖の向こうから頭がゆっくりと見え始める。かつて人であったものがギョロギョロと目玉だけを左右に揺らしながら顔を出す。その時、空を切る矢羽の音が闇に響いた。
アクーの放った矢が、這い上がって来たレヴレントの額を貫かんばかりに深々と突き刺さった。低い唸り声を上げ、射られたレヴレントが身を仰け反らせる。そのまま崖の向こうへと姿を消した。
「キイタ様、エイクを!」
シルバーが言うとキイタはすぐに腰を抜かして震えているエイクの腕を取って立ち上がらせ、引きずるようにしてガイの傍まで連れてきた。
「ここを動かないで!フェルディ!」
エイクをガイの前に座らせたキイタは急いでフェルディを召喚すると、その場に二人を残したまますぐにシルバーの元へと駆けだした。
キイタの呼びかけにガイの傷を癒していたフェルディの姿が大きく燃え上がるように強く輝き、そして消えた。
「あ…」
走り出すキイタの姿に腰を浮かしかけたエイクの服を強い力が引き戻した。見れば身を横たえたままのガイが自分の上着を掴んでいる。起き上がれない程の重傷を負った者とはとても思えない力だった。
「何も、見るな…」
ガイがエイクに囁く。その力強い眼差しに、エイクは何も言い返せず黙って従った。
土埃を上げ元の位置に戻って来たキイタの左耳に揺れるイヤリングが、フェルディの力を宿し闇の中で真っ赤に輝いている。
レヴレントの額を撃ち抜いたアクーが慎重な足取りで敵の消えた崖淵へ近づいて行った。
「アクー、気を付けろ!」
弓を構え、じりじりと崖に近づくアクーの背中にシルバーが大きな声を掛ける。アクーはいつでも弓を引き絞れるように矢じりを向けながらそっと崖下を覗き込んだ。
すぐ足元に額に矢を突き立てたレヴレントが顔をこちら向けて倒れている。その体は落下する事なく、途中の岩に引っかかっているようだ。
大きくあけられたままの口の奥には舌の名残と思しき肉片が見えている。暗く落ちくぼんだ眼孔が自分を見上げているように見えたが、その体はピクリとも動かなかった。
アクーは大きく息を吐き出すと、矢を掴む手から力を抜いた。動かぬ死体の後方にはまだいくつもの緑色の光が揺れているのが見える。アクーはシルバーを振り返ると言った。
「大丈夫!」
その言葉にシルバーとキイタは安堵の息を吐き出した。
「でも、ここは離脱した方がいい。下からどんどん…」
アクーがそう言いかけた時だった、凄まじい力がアクーの足首を掴んだ。
「あ…」
声を上げる間もなく地面に引き倒されたアクーの体が、崖下に引きずられていく。
「アクー!」
キイタが絶叫に近い叫び声をあげる。シルバーはすぐさまアクーを救出する為に走り出した。
自分の右足首を緑色の光を放つ骨だけの手がしっかりと掴んでいる。アクーは自分を奈落の底に引きずり込もうとする力に抗おうと腰に差した短剣を抜き取ると、地面に深く突き刺した。
見れば額に矢を突き立てたままのレヴレントが、必死にアクーの体を引いていた。そいつの背後に多くのレヴレントが餌を求める魚のように群れを成して這い上ってくるのを見たアクーの中に、経験した事のない恐怖が湧き上がって来た。
「この、この!」
アクーは自分の足を掴む相手の顔面に何度も蹴りを加えた。掴まれていない左足が相手に当たる度、蹴られた頭はグラグラと大きく揺れた。
何発目かの蹴りが入った時、相手の額に刺さったままだった矢が折れ飛んだ。だがそれでも足が自由になる事はなかった。それどころか、今や相手は両手でアクーの足を掴み、身を仰け反らせて体重をかけてアクーの体を引いていた。
「た…、助けて!シルバー!助けて、助けて!」
プライドの高いアクーがこんなにも必死に誰かに助けを求めたのはこれが初めてであった。駆け付けたシルバーは、アクーの足を掴んで離さないレヴレントの両腕を力いっぱい振るった剣で叩き切った。
突然 抵抗を失ったレヴレントが、まるでスローモーションのようなスピードで崖下へと落ちていく。シルバーとアクーは言葉もなくその様子を見下していた。
間違いなく急所を打ち抜いたと言うのに、再び起き上がり襲い掛かって来た。戦闘能力も身体能力も比べ物にならなかったが、それでも矢が当たれば倒せたフェズヴェティノスしか相手にした事のないアク―にとって、これ程やりにくい相手はいなかった。
ふと自分の右足にまだ切り落とされたレヴレントの手が残っている事に気が付いたアク―は、必死にそれを引き剥がしに掛かった。
「シルバー!アク―!」
キイタの声にハッと顔を上げた二人は、すぐ右前方から崖を這い上がってくる新手のレヴレントに気が付き、慌てて身構えた。
「フェルディ!」
そんなキイタの声が聞こえたかと思うと次の瞬間、新たに這い登って来たレヴレントの体が真っ赤に燃え上がった。キイタが二人を援護する為、後方から火の能力を発動させたらしい。
しかし全身を炎に包まれたレヴレントの動きは止まらなかった。声を発する事もなく、変わらずゆっくりとした足取りでシルバー達に近づいて来ようとしている。
「うぁ!何だこいつ?」
慌てて立ち上がったアク―が身を退く。
「フェルディの炎が、効かない?」
ゆらゆらと体を揺らしながら迫ってくる炎の柱となったレヴレントの姿に、キイタは愕然とした。
咄嗟に火達磨となったレヴレントの前に飛び出したシルバーは、前に突き出された腕を切り落とすと、返す勢いで振り上げた切っ先でその首を跳ね飛ばした。
暗い空に飛びあがったレヴレントの首は、勢いよく燃えたまま大きく弧を描き、崖下へとボールのように消えていった。首を失くして尚前進を止めようとしない相手の足を大木でも切り倒すようにシルバーは切り落とした。
片足を失ったレヴレントはバランスを崩し地面へと倒れ込む。それでもまだ息絶える事なく蠢いていた。
「肉体を破壊すれば動きは封じられる!」
そう叫んだシルバーの後ろでキイタは決意を込めた顔で右手の炎を大きく燃え上がらせた。弓を背に背負ったアク―も、地に突き立った短剣を引き抜くと次の敵を待ち構えるように崖に体を向けた。
確かにその体を切り刻めば襲い掛かってくる事はできないだろう。しかし敵の数は多い。一匹のレヴレントの動きを封じる為に何度剣を振るえばいいと言うのだろうか?
三人の能力者は額に汗を滲ませながら、無数の呻き声が近づいて来る崖の向こうを凝視した。
「仲間を、求めているんだ…」
岩陰の向こう、シルバー達の戦いを見る事のできない場所に避難したエイクが震えながら呟く。
「何?」
怪我の為に参戦ができないガイが掠れた声で訊き返す。
「レヴレントは生きている人間を襲い、自分達の仲間にしようとしている…」
ガイはそっと頭を巡らせると、大きな岩の向こうを見た。闇の中にぼんやりと赤い光が見えている。あれはきっと、キイタが放つフェルディの炎の色だ。




