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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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レヴレント

●登場人物

・シルバー…つてはアスビティ公国公軍大隊長まで務めた男。鋼のANTIQUEの能力を発動する事で体を鋼鉄にしたり体の一部を鋼の武器に変える事ができる。戦闘経験が豊富で戦いの場面では常にリーダーシップを執る。

・エイク…ハブルート村の若い行商人。夜道に迷いシルバーと出会う。



前回までのあらすじ

 怪我をして動けないガイの為に薪を探そうと仲間達から離れたココロと大地はうっかりと足を滑らせ二人揃って崖下へと転落してしまう。

 幸いにも軽傷を負っただけで済んだ二人であったが、落ちた崖下には甲冑を纏い怪しく体を発光させる何体もの骸骨がいこつば立ち尽くしていた。

 二人に気が付いたガイコツは恐ろしいうなり声を上げ、剣を振りかざして二人に襲い掛かって来た。

 今までどんな敵にも果敢に立ち向かってきた大地であったが、唯一の弱点は幽霊であった。大の苦手である生きるしかばねを前に大地まったく役に立たなくなってしまった。

 震えるばかりの大地を連れ途方に暮れていたココロの前に突如謎の大型馬車が現われる。御者に言われるままその馬車に乗り込んだココロと大地は寸でのところで化け物の追跡を振り切る事ができた。

 ようやく安心したココロに向かい猛スピードで馬車を走らせる御者は「ラディレンドルブルットへ連れて行く」と伝える。

 一方崖の上に残ったシルバーはアクーから受け取ったカンテラの灯かりを頼りに姿を消したココロと大地を捜し暗闇の中を走り回っていた。

 二人が崖下に降りたと予想したシルバーは躊躇なくその深い闇に向け身を躍らせるのであった。








 カンテラを片手に下げたまま驚異的きょういてきな速さで崖下に降り立ったシルバーは、再び周囲を照らしながらココロの名を呼んだ。しかし、やはり返事はなかった。

 だがココロと大地がこの崖下に降りた事を微塵みじんも疑わないシルバーはわずかでも二人がここにいた痕跡こんせきを見つけられないものかと必死に足元を照らした。

 星すら見えない闇の中、岩ばかりの地面に二人の足跡を探し当てるのは容易ではなかった。如何いか場読ばよみが得意なシルバーとは言え何の痕跡こんせきも見つけられない中、二人の動向を予測するのは不可能であった。

「ココロ様…、大地…」

 二人の身に何が起きたのか、そのヒントすらつかめずにシルバーは不安を色濃くした顔を上げ、あてもなく周囲を見回した。

 もうすぐ夜が明ける、そうすればもっと多くの情報が手に入るはずだ。しかしただじっと日の出を待っていられる程の余裕は今のシルバーにはなかった。

 一度諦あきらめかけたシルバーは気を取り直すと、再び地をうようにカンテラをかかげ、目を凝らして歩いた。

 ジャリ…っと足元で小石が鳴る。下りてきた崖下を離れ、広い平野を文字通りさ迷うように歩き回っていたシルバーは、その音で周囲の様子が変わってきた事に気が付いた。

 今までは踏みしめる地面までもが草一本生えない岩石であったものが、この当たりの石は細かい。土、とまでは言わないまでも、歩きやすいように整地したようにも見える。

 よく見れば脇の方にはわずかながら草も生えているようだ。その丈の短い草地に挟まれるようにあるこの場所は、粗削あらけずりながらも道の様相ようそうていしていた。

 もしココロと大地の二人がこの場所にいたっていたとすれば自然とここを歩いたに違いない。しかし灯りも持たずこんな場所まで果たして来られるのだろうか?

 カンテラを持った自分ですら確信を得てここまで辿たどり着いた訳ではない。如何いかにガイの為とは言え、その行動は少々 常軌じょうきいっしている。

あるいいは、迷ったか―――?)

 ふと、そんな考えが頭をよぎる。その時シルバーは見つめる足元に不自然な跡を見つけた。慌ててひざをつき、灯りを向ける。

 一見したところそれはただの地面でしかなかった。しかし不自然にえぐらられたような跡にも見える。そして何よりそのえぐらられたような跡が連続性をもって一方向に伸びている。

 立ち上がったシルバーは蛇行だこうしながら続くその線をまたぎ数mを歩くと、再び地に灯りを落とした。

(これは…)

 思った通り、そこには今見つけた傷痕きずあとのような線と、それに平行して走るもう一本の線が見つかった。仲良く並んで伸びる二本の線。

わだちだ…」

 探したのがシルバーでなければ間違いなく見落としていた。少なくとも夜明け前にそれを見つけるのは不可能であっただろう。それ程微かすかで、他の小石に混ざり溶け込んだそれは馬車の車輪が作ったわだちであった。

「二人は…、馬車に?」

 夜明け前のこの時間、このように荒れ果てた平野を走る馬車。それはどう考えても不自然だった。ココロにしろ大地にしろ、簡単にそんな怪しいものに身をゆだねるとは思えなかった。

 何か余程の事情があったかあるいは…。力づくで拉致らちされたのか…。しかしココロはともかくとして、大地が付いていたのだ。そうやすやす々とさらえるものでもないはずだ。

「デュール」

 シルバーは静かにつぶやく。デュールの力を身にまとったシルバーは目をつむり、一心にココロに呼びかけた。

(ココロ様、ココロ様シルバーです。今どちらへおられますか?ココロ様、どうかお答えください)

 しかしシルバーに届くのは、耳障みみざわりなノイズのような音だけであった。いくら呼びかけてもココロからの返事はなかった。まるで何か大きな障害が二人の交信を意図的に邪魔しているかのようだった。

 シルバーは静かに目をあげ、後ろを振り返った。闇に沈んだ風景はまるで視界が利かなかったがその先には今自分が下り降りてきた崖があるはずだった。

(落ちたのか?)

 大地が、あるいは二人ともが怪我をし、抵抗ができなかった。そう考えればここで馬車に乗せられたのも理解できる。

 ますます々不安をつのらせたシルバーは先程よりも強く念じ始めた。シルバーの思いに比例してデュールのパワーが上がっていく。彼の体を縁取ふちどるように包み込んだ銀色の光が強さを増していく。

 その時だった、甲高かんだかく短い悲鳴が聞こえた。シルバーはすぐに目を開くと声のした方を見た。ゆっくりと左手のカンテラを右手に持ち直す。空いた左手で腰の剣をつかんだ。

「誰だ?誰かいるのか?」

 応答はない。シルバーは静かに声のした方に足を進めた。短い草が群生ぐんせいする中、所々に大きな岩が点在していた。中でも一際大きな岩に当たりをつけたシルバーは、そちらへ向け歩みを進めた。

「ひぃっ!」

 あと数歩でその岩に手が届く、と言う場所まで来た時だった。突如とつじょそんな声を上げながら岩の裏から人影が飛び出してきた。

「待て!」

 一瞬 きもつぶしたシルバーだったが、即座に冷静さを取り戻すと逃げ去る影を追った。草や転がる石に足を取られている相手にシルバーの健脚けんきゃくはあっという間に追いつくと、その腕をつかじり上げた。

「やめて!助けて!殺さないで!」

 シルバーが捕えた相手は泣き声混じりにそう叫びながら手足をバタつかせ必死に抵抗した。

「待て!待て、落ち着け!何もしない!何もしないから落ち着け!」

 シルバーが手に力を込めて叫ぶと腕を取られた相手はすぐに大人しくなった。急いで灯りをその顔に向ける。シルバーの腕の中で男がまびしそうに顔をそむけた。

 大地と同じ真っ黒な髪をしていたが、涙でれたその顔は大地とは似ても似つかなかった。

「あ…」

 男はシルバーの顔を恐る恐る見ると声を出した。

「あんたは、に、人間?」

「何?」

 一瞬、言葉の意味をつかみかねたシルバーは怪訝けげんな顔をしてき返した。相手の男は突然自由の利く右手でシルバーの肩や胸をしきりに触り始めた。

「お、おい…」

「レ、レヴレントではない?」

「何を言っているのかよくわからんが、私は見ての通り正真正銘しょうしんしょうめいの人間だ」

 シルバーがカンテラの灯りを自分に近づけながら言うと、男は大きなため息とともにへなへなとその場に力なく座り込んでしまった。

「よ、よかった…」

「今度はこっちがく番だ。君は誰だ?あんな所で何をしていた?そしてもう一つ、君は馬車にのる一組の男女を見はしなかったか?」

「ちょ、ちょっと待って。そんなに一度にかないでよ」

 男は顔をけると四つんいになってシルバーから離れようと試みたがシルバーが逃がさなかった。

「待て、頼む!緊急事態かもしれないんだ」

 振り向いた男はシルバーの真剣な目を見ると、急にキョロキョロと周囲を見回し始めた。シルバーの体を押すようにして近くの岩場に身を隠した。

「一体何を恐れている?」

「質問が多いな。一つづつ答えるよ」

 多少落ち着きを取り戻したらしい男はまだ周囲へ鋭い眼差しを向けながら言った。

「まず、僕の名前はエイク。この先、歩いて二日位の所にあるハブルート村の者だ。それから、えーっと、ここで何してるか?だっけ?ディアッキャの町に行商ぎょうしょうに行った帰りに道に迷って、よりにもよってこんな所で日没を迎えちまった」

 言いながらエイクの声は明らかに震えていた。何か余程恐ろしい目にあったと見える。

「み、三つめ、馬車に乗り込む男女なら、確かに見た」

「何!」

「大きな声を出さないで!奴らに見つかる」

「それで、それでその二人はどんな風だった?無理やり馬車に押し込まれていたのか?」

「いいや、違う。その二人はレヴレントに追いかけられていた。それで、たまたま通りかかった馬車に助けを求め、自分から乗り込んだんだ」

「追いかけられて?さっきも言っていたな、そのレヴレントと言うのは一体何だ?」

「それが四つ目の質問の答え。レヴレントって言うのは、つまり、“幽霊”って事」

「幽霊?」

「そう。最近この辺りに出没しゅつぼつするってうわさが広がっていて、昼間以外こんな所、誰も通らなくなっちまった。なのに俺っちときたら…、まさかこんな所で道を間違えるなんて…」

 最後は自分を責めるようにエイクは悔しそうな声を出した。

「エイク、聞きたい事はまだまだあるが、とにかく一つ教えてくれ。君の見たその馬車はどっちへ向かった」

「え?」

 しきりに闇に眼を凝らしていたエイクはき返しながらシルバーの顔を見た。

「馬車?そりゃ、何だか黒くて、とても大きな馬車だった」

 取り乱し、聞いてもいない事を答えだしたエイクの肩に手を置くとシルバーは辛抱強しんぼうづよく重ねてたずねた。

「そうか、それも大事だなエイク。だがよく聞いてくれ、その馬車は、どっちへ向かったんだ?」

「ああ、ああそうか、ごめん。馬車ならこの道を真っ直ぐあっちに…」

 馬車の去った方を指さそうと立ち上がったエイクはそのままの姿勢で固まってしまった。見れば顔じゅうに汗をかき、上げかけた手が嘘みたいに大きく震えていた。

 そんなエイクの姿を見たシルバーは自分の背後に恐ろしい敵がいる事を察した。いい大人であるエイクをこれ程までに恐怖させる何かが。

 瞬間的にシルバーは目の前に立つエイクの体を突き飛ばし距離を取ると、腰の大刀を抜きつつ振り返った。

「!…こ、これは…」

 そこに広がる光景にシルバーは声を失った。目の前には無数の光輝く玉が飛び交っていた。薄い緑色に光るその玉は、それだけを見ればはかなく美しい輝きを放つほたるの群れと勘違かんちがいしそうであった。

 しかし宙の一点に止まったまま動く事のないその玉がほたるなどであるはずがなかった。闇の中に浮かんだ無数の光は目の前のシルバー達を見つめるように動かなかった。

 シルバーは振り上げた剣を力なく下すと、光の玉に誘われるようにフラリと岩陰いわかげから進み出た。

「だめだ…」

「え?」

 背後からかすかに聞こえた声にシルバーは我を取り戻して振り向いた。そこには蒼白そうはくな顔のエイクが岩にしがみつくようにしてシルバーを見つめていた。

「行っちゃ、だめだ…」

 左右に首を振りながら譫言うわごとのようにつぶやくエイクの姿に、無意識に岩陰いわかげから出ていた自分に気が付いたシルバーはハッとした。その時だった、はるか闇の向こうから重たく響く複数のうめき声が聞こえ始めた。

 その声を聞くとみるや今まで微動びどうだにしなかった光の玉達が一斉いっせいに上昇を始めた。頭上を越え舞い上がった玉達は揃ってシルバーから離れるように飛び去って行った。

「何だ?」

 予想外の動きにさすがのシルバーも狼狽うろたえ、飛び去って行く光の玉を見据みすえたままエイクの近くまで身を退いた。

「…レン、ト…」

「何?」

 聞き取れないエイクの声にシルバーが苛立いらだった声でき返す。

「レヴレントだっ!!」

 そう叫んだエイクの見つめる先にシルバーも顔を向けた。シルバーから離れるように飛び去った無数の光の玉は一つに集まりながら今度は地面に向かって急降下を始めた。

 光の玉が地面に突き刺さるように落ちる。完全な闇の中、光が落ちた付近の地面が緑色の光を放つ。何かが起きようとしていた。それも、決して良くはない何かが。

 そうとわかっていながらシルバーとエイクはまるで石にでもなってしまったかのように光る地面から目を離す事が出来なかった。

 やがて薄い緑色に輝く地面があちこちで盛り上がり始めた。すぐにわかった。この冷たく硬い地面の下から何者かが土をき分けい出て来ようとしているのだ。エイクが声もなく地面に尻をついた。

「立て…」

 シルバーは剣をさやにしまうと地面に置いたカンテラを拾い上げながらエイクに言った。その間もシルバーは片時も光る地面から目を離さなかった。

 ぼこぼこと音を立てて土が下から押し上げられている。やがてそこから人の形をした何かがい出てくるのが見え始めた。一体、二体…いや、その後方にも。

 次々と土の中からい出てくるその数が増えるのにともない闇に低く響くうめき声はますます々大きくなってきた。

「立て!」

 未だに尻をついたまま動かないエイクの腕を取って強引に立ち上がらせた。その声に気が付いたのか腰の辺りまで地上にい出し、夜空を見上げていたレヴレントの一体がその顔をシルバー達に向けると、一つ大きな声でえた。

 さっき、崖の上で聞いた鋭く闇を切り裂く金属音のような声。それに呼応こおうするように同じく地上に出て来ようとする何体ものレヴレント達が声を上げた。

 どのレヴレントもギラギラと光る眼玉をこちらに向け、信じられない程大きく口を開けている。痙攣けいれんしたようにほほを震わせながら叫ぶレヴレント達は一層激しく土をき分け二人に向かって手を伸ばしていた。

「走るぞ!来い!」

 恐怖の余り流れ落ちる涙で顔をらしたまま声も出せないでいるエイクに向かいシルバーははげしく命ずると、その腕を引いて走り始めた。

 シルバーとエイクがけだしたのを見たせいか、レヴレント達は更に声を張り上げもがくように地面をき、ついに地上にい上がって来た。すぐに立ち上がった体からはれた土がバラバラと落ちる。

 緑色の光に包まれながら頭を一振りしたレヴレントは走り去っていくシルバー達を大股で追い始めた。動きは決して早くはなかった。しかしうめき声を上げながら群れをなして迷いなく迫ってくるその姿に、シルバーは追い立てられるように走った。引きずられるようについてくるエイクをいっそ抱きかかえてやろうかと思う程、シルバーははげしく動揺どうようしていた。

 やがて自分が下りてきた崖の下まで来たシルバーは目の前に立ちふさがる岩壁のあちこちをカンテラで照らし、何かを調べ始めた。

「何やってんの?」

 エイクが息を乱しながら聞く。背後からは低いうめき声がみるみる近づいて来る。

「何やってるの!?」

「よし、ここだ!」

 迫りくる緑色の光におののきエイクが叫ぶのと、シルバーが目当ての場所を探し当てたのは同時であった。

「エイク!ここを登れ!」

 シルバーは他の場所と比較して傾斜けいしゃゆるいその場所を照らしながら叫んだ。

「ええ!?」

「ここ以上に登りやすい場所を探しているひまはない!大丈夫だ、ここを登れば私の仲間が待っている!」

「無理だよ!」

「無理じゃない!いや、無理でも登れ!追いつかれるぞ!」

 そう言われたエイクは知っている限りの汚いののしり言葉を叫びながら冷たい岩にとりついた。

「何も見えない!」

「何も見なくていい!真っ直ぐに登れ!上に行けば仲間がいる!」

 振り向き、迫りくる何体もの光る化け物を凝視ぎょうししながらシルバーは弱音を吐くエイクに声を掛けた。岩壁を背に立つシルバーを取り囲むようにレヴレント達は半円を作り、その輪をじりじりと狭めてきた。

 右手でカンテラをかかげ、左手は剣のにぎりしめたままシルバーは近づいて来る化け物達を見つめ続けた。近づいて来るに従い相手の顔がはっきりと見えてくる。

 明らかに人ではない。長く髪をらしてはいるものの、その顔はガチャガチャと歯を鳴らす骸骨がいこつそのものだ。

 エイクが崖を登る時間をかせごうとその場に残ったシルバーであったが、レヴレントの顔を見るまでが限界であった。つかを握る左手を離すと、敵に背を向け一心不乱いっしんふらんに目の前の崖を登り始めた。








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