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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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異国の公軍隊士

●登場人物

・アリオス…元アスビティ公国特別行動騎馬隊第四分隊副隊長。暴走気味の分隊長であったガイを補佐する冷静で優秀な隊士であったが現在は隣国ンダライ王国へと亡命している。ANTIQUEの存在を知る数少ない人間の一人。

・ポルト・ガス…死亡したキイタの両親に代わり大国ンダライ王国の代行執政を行う男。先王存命中は多くの大臣の中でも最も王に信頼されていた男であったがアテイル四天王の一人メロに操られ国王夫婦を殺害、ンダライを壊滅かいめつ寸前にまで追い込んでしまった過去を持つ。

・マルコ…アスビティ公国特別行動騎馬隊第四分隊でアリオスと共にガイの部下として活躍していた。クナスジア戦争の生き残りの中ではハリスに次いで若く、幼年部隊から隊士として戦場に出ていた。現在はアリオスをしたい共にンダライへと渡っている。

・タスニット…ンダライ王国主要戦術部隊であるシュナイドリッツA小隊の一等兵。ココロ達と別れたアリオス等がンダライを訪れた際に彼らに馬の世話をした事がある。非常に真面目まじめで気の優しい優等生タイプ。現在はアリオスの部下として学級委員長のような役回りをしている。

・アッカラ…シュナイドリッツC小隊の二等兵。喧嘩けんかっ早く、非常に血の気の多い問題児。



前回までのあらすじ

 急遽きゅうきょアスビティ公国中央都市へと登央とおうした第二境界小宮付き第二警備隊々長のロズベルは座学訓練を終え部屋を出たコスナーを見つけ声を掛けた。半月振りの再会を喜ぶコスナーにロズベルは、今夜中にもANTIQUE援護部隊の仲間達に話したい事があると伝える。

 一方、援護部隊の仲間であるハリスを何とか自分の隊へ編入へんにゅうさせたいと考えるデューカ守備隊第三分隊長のウルカは自身の父親でもあるケシミ公軍大臣に何度目かの打診に向かうも貴族だけで構成こうせいされたデューカ守備隊に庶民の出であるハリスを編入させる事はできないと突き放され、剣かになってしまう。

 公務終了後の会合を約したロズベルはそれまでの時間を利用し、新設された特殊遊撃班の訓練風景を見学に行く。そこでロズベルは班長のブルーから、今のままでは魔族と戦う事はできても勝つ事はできないと打ち明けられる。公国が未だに真実を一般隊士に公表しようとしない為、対魔族を想定した訓練ができていないのだ。それを歯痒く感じるブルーにロズベルは、自分が今回登央した理由が国の方策を変えるかもしれないと伝えるのだった。







 アスビティに残ったANTIQUE援護部隊の仲間達があの日以来二度目の会合を今夜にでも開こうと画策かくさくしているその同じ日、彼らを集めた当の本人であるアスビティ公国特別行動騎馬隊第四分隊元副分隊長であったアリオスは隣国、ンダライ王国 執政官室にいた。

 午後のおだやかな日差しを存分に取り入れる大きな窓からは長く横たわる山脈がかすんで見えている。あの山の向こうには四年振りの帰国を果たす早々捨てざるを得なかった故国アスビティがある。

 様々な証拠を示唆しさされながら尚戦う意思を見せないアスビティを見限みかぎり、ンダライ王国に魔族打倒の可能性を見出したアリオスは、部下であるマルコ一人を連れ亡命してきた。

「部隊の様子はいかがですか?」

 万感ばんかんの思いを込めてアリオスがながめる山脈を背に、執政官席しっせいかんせきに座り穏やかな声でいてくるのは国王代行執政官であるポルト・ガスだ。

「はあ、我配下マルコ共々王国一の軍隊であるシュナイドリッツに組み込んでいただけた事にまずはお礼を申し上げます」

 そう言うとアリオスはガスに向かって一つ頭を下げた。

「当然ですよ。このンダライを窮地きゅうちおとしいれた魔族の事を承知しているお二人であれば…。いえ、それを差し引いてもお二人はシュナイドリッツにお入りいただくだけの十分な資質と実力を備えておられる」

「恐縮です」

 アリオスはもう一度軽く頭を下げる。「国防の刃」と呼ばれるシュナイドリッツ。アスビティとは比べ物にならない大国、ンダライ王国防衛のかなめである王政軍の中でもとりわけ強力で、あらゆる戦闘において先陣せんじんを切る主力部隊である。

 入国するなりこの主力部隊の小隊長に抜擢ばってきされたアリオスは、アスビティ公国特別行動騎馬隊でつちかった技術と知識を買われ、主に馬術と剣術を指南しなんする立場にあった。

「さすがにンダライ切っての戦闘部隊、元より備わった素質には恐ろしいものすら感じます。しかし、何よりそれに加え、軍全体が特殊な敵との戦いが遠からずやってくる事を意識している。わが祖国アスビティとの決定的な差が、そこにはあります」

「ふむ」

 自軍に対するアリオスからの賛辞さんじに気を良くしたのか、満足そうにうなずいたガスは席を立つと大きな机を回り込むように歩きながら続けた。

「ドナル殿が私のしたためた文書を無視されたのは何とも残念であった」

「三百年をほこる平和の持続がそうさせるのでしょう。有史以来 かたくなに守られ続けてきた国の方針はそのまま国の、そして国を形成する国民の思考となり定着するものです」

「正にほこるべき歴史と言えるでしょう。あらゆる国に見習っていただきたい。我々が求めても得られぬ真に平和の歴史…。嘘偽うそいつわりなく正直、いささか嫉妬しっとを覚える程、心からうらやむべき、曇りなき歴史です」

「しかし、そのお陰でこの人類史上最大の危機を前に未だ動く事ができずにおります。もう遅い、このまま敵の策略が進行すればいざ参戦となった時、アスビティは一手も二手も遅れを取った国となります」

 後ろ手に組み、窓の外をながめながらアリオスの言葉を背中で聞いていたガス代行執政官は、しばらくの沈黙の後、態勢を変えないまま静かに言った。

「ところがどうして、貴殿きでんの祖国もなかなかのもの…」

 ポルト・ガスの言った意味がわからず、アリオスはその背中を見つめた。

「ドナル殿はわずかひと月足らずの間に公軍の大改革をやってのけたとか」

「閣下が?」

「その新体制は正に超大戦に備えたものであると聞く」

「公軍が…」

「なるほど、未だにその真意を公表しようとしないアスビティ公国はあなたの言う通り出足の遅い参戦国となる事は間違いがないでしょう。しかし…、公国主要部は事実を把握はあくし、着々と準備を進めているようです」

「…執政官しっせいかん…」

「世界的に永久戦争 放棄ほうきうたったの公国は、他国への感情を考慮こうりょして明確な戦闘準備に入る事はできない」

執政官しっせいかん!」

「しかし、その日が来れば我国にも匹敵する強大な力が発揮できるよう、おこたらず備えている」

 背中のままそこまで言ったガスはゆっくりと振り返るとアリオスを見つめた。何かを悟ったような、静かで、しかしきびしさを備えた瞳であった。

「何を驚いた顔をしている?アリオス殿。勘違かんちがいのないよう。我々は悪人ではないが、聖人君子せいじんくんしと言う訳でもない。他の国々同様、自国防衛の為隣国の動き位は把握はあくしている。それが、国を治める者の使命ではないかな?」

 三種の魔族の一つ、アテイル一族に崩壊寸前ほうかいすんぜんにまで追い詰められた国と思えば、アリオスにとっても同士の思いが強くあった。しかし、仲間と思っていたその国もまた、裏では諜報ちょうほう活動に余念よねんがなかったと言う訳だ。

異論いろんがあるかな?」

 確かに少々がっかりした思いもあった。しかし、よく考えれば至極しごく当然の事。アリオスは自分の考えの甘さに思いいたり、深く反省をした。

異論いろんなど毛頭もうとうありはしません。恐れ入りました」

 アリオスはよどみなく答えると、三度みたび頭を下げた。

「結構です。時に…」

 アリオスの賢明な回答に、ほっとしたような表情を見せたポルト・ガスはそこで話を変えた。

「我姫、キイタ様をはじめとするANTIQUEの皆さんですが…。テリアンドス帝国 領内りょうないであなた方と別れて以降その足取りはまったくと言っていい程 つかめていません」

「それについては私も一切の情報を持ってはいません。一体、今頃どこにおられる事やら…」

「正式 継承者けいしょうしゃである長子ちょうしイリア様の行方ゆくえも未だようとして知れず…。何があろうとキイタ様の身をお守りしなければ、例え魔族どもに打ち勝ったとしてもンダライの未来は失われる」

「元より、キイタ様は我らにとっても恩人。今すぐにでもおそばけつけたいものでございますが、こればかりは…」

 アリオスも苦し気に眉間みけんしわを深くして答えた。

「うむ…。あの日、キイタ様を始め四人の能力者があのまがまが々しきとうを破壊してくれていなければ、今頃このンダライはどうなっていた事か…」

「今は私の元上官であるガイも、五人目の能力者として旅に同行しております。その者にとってもキイタ様は大恩人。故国アスビティ公国の姫君であるココロ様と同様、キイタ様をお守りする事を使命と心得、付き従っているはず

「それは心強い」

 ガスは思わずこぼれた笑顔を引きめると、改めてアリオスにたずねた。

「あの日以来、国内で敵の目立った動きは見られていないが。軍の中はどうか?」

「はい。私達から見ても彼らの中に敵が潜伏せんぷくしている様子は見られません。私もマルコも、その点については何よりも神経をとがらせております」

「やはりあなた方を受け入れたのは正解であった。くれぐれも頼む」

「お任せください。むしろ私は…」

「ん?」

「いえ、ンダライの攻略こうりゃくあきらめた魔族がこの世界の侵略しんりゃくそのものから手を引いたとは思えませぬ」

「うむ、それで?」

「奴らは今もどこかで同朋どうほうに成りすまし、一国を裏から操ろうと画策かくさくしていると思えてならないのです」

 アリオスの言わんとする内容をはかるようにガスは黙ったまま話しの先を待った。

「世界の経済を乱し、国々の均衡きんこうるがす…。いずれ国同士の戦争が引き起こされます。事実、フェスタルド、クナスジア、ミルナダ、ザシラルなどの名が我耳に届いております」

 ガスは更に黙ったままアリオスに先を話すよううながした。

「執政官には世界にかんたる王国のおさとして、この動きに注視ちゅうししていただく事が肝要かんよう愚考ぐこういたします」

「魔族との決戦が近づきつつあるこの時に、私に他国との政治的 交渉こうしょうを続けろと?」

勿論もちろん私達軍人は対魔族の為、鍛錬たんれんおこたりはいたしません。キイタ様達が魔族との全面戦争に入られたあかつきには、かなわぬまでもその援護えんごとして命をける覚悟はすでにできております」

 アリオスの即答に更に深い意味を読み取ったガスは再び口を閉ざした。彼の顔を見つめるアリオスの瞳に陰が差す。

「メロ、と言いましたか?この国をつぶしかけたその魔族も、ANTIQUEの前ではわずか四人の能力者に敗れ、敗走したとか。奴らにとってANTIQUEの能力者は、死力をくして戦わなければならない相手…。恐らく、人間の国を乗っ取る作戦とANTIQUEを殲滅せんめつさせる事は、奴らにとっても同時に進行できる程 容易たやすいものではないはず

 今日まで自分の頭の中だけで考えてきた敵の戦略を今初めて口にする事にかすかな興奮を覚えたアリオスは、思わず声が大きくなってきていた。

「人間同士が殺し合いを始めてしまえば、奴らは人に手を下す手間をはぶく事ができる」

「それだけ能力者との戦いに集中できるという事か?」

 アリオスにつられるように早口で割り込んできたガスに、アリオスは黙ってうなずいて見せた。

「我が祖国アスビティが対魔族の決戦に備えているとはむしろ吉報。我らがあの化け物達と渡り合うには、人間同士が手を組む必要があります。シュナイドリッツが如何いか強靭きょうじんであろうとンダライ一国が背負うには荷が重すぎます」

 ガスの目が激しく左右にれる。額には薄く汗がにじんでいた。

「私が、世界に対して発信するべきだと言いたいのだな?」

「魔族に魅入みいられ国をつぶしかけた国主こくしゅの、それがつとめだと考えます」

「アリオス!」

「非礼をおびいたします」

 とがめられる前にアリオスは頭を下げた。先に謝られてしまったガスは、それ以上何も言う事が出来なかった。彼は額の汗をぬぐいながらかたわらの机に手を置き、ため息をついた。

「…少し…、いま少し私に時間をくれ…。時間を…」

 アリオスから目をそむけたままそうり返すガスにアリオスは深く最後の礼を示すと、そのまま背を向け部屋を出て行った。アリオスが出て行ってもまだガスは机に手をついた姿勢のまま、動く事ができずにいた。

 顔すら上げずに何事か思い悩んでいる様子のポルト・ガスをそのままに、アリオスはそっと扉を閉めた。

(おいたわしい…)

 アリオスは一瞬目の前の扉を見つめると、そのままきびすを返し部下の待つ地下訓練場に足を向けた。

 ガスの気持ちは痛い程わかった。魔族に魅入みいられ、自らの手により国をつぶしかけたのだ。そして恐らくは生涯しょうがいけてしたがおうと心に決めた主君しゅくんをその手にかけた…。

 忘れてしまいたいどころか、なかった事にしてしまいたいに違いない。キイタをはじめ、ガスをしたう多くの大臣達がその事実に目をつぶり、指導者不在のこの国を彼にたくしたのだ。それを今になって自らその事実を、それも全世界に向け公表せよと言うのだ。

 彼が告白した途端とたん、彼は世界中から非難され国民からの信頼は失墜しっついするはずだ。当然その地位はうばわれ、社会的に抹殺まっさつされる事はまぬかれないだろう。

 世界を一つにし、陰ながら魔族に立ち向かう準備をする為にそれだけの犠牲を払うのだ。覚悟を決めるのに時間が必要であるのは当然と思えた。

(しかし…)

 アリオスは思う。自分達は魔族との戦いに自分自身はおろか仲間の命までけようと言うのだ。その役目はガスにはできないだろう。しかし、ガスに期待する事を故国ここくの公爵すら動かす事ができなかった自分の力で成しげるのは難しい。

 アリオスは廊下の先で振り返り、閉ざされたままの執政官室しっせいかんしつの扉を見つめた。何としてもガスには成しげてもらわねばならない。

 ガスがすべてを捨てて道を開いてくれれば、我ら全軍討ち死にを覚悟にその道を突き進む事ができる。自分達の死に場所を作る為、まずはガスに死んでもらわなければならない。

 アリオスはその場で閉ざされたままの扉に向かいもう一度深く頭を下げた。





 アリオスが訓練場に戻ると、ちょっとしたさわぎが起きていた。ンダライの兵士達が幾重いくえにも輪を作りさわぎ立てていた。その輪の中心にいるのはアスビティから共をしてきたアリオスの部下、マルコだった。

「こら!やめろ、やめんか!兵士同士の私闘は禁止されている!どちらも退け!」

 輪の外から大声で叫んでいるのは戦術隊の兵士、タスニットだった。アスビティへ帰る途中に立ち寄ったンダライでアリオス達に馬舎うましゃを案内してくれた気の良い男だった。

 彼は今回の亡命の際にも多方面においてアリオス達の世話を焼いてくれた。心根の優しいタスニットを、アリオスはンダライの兵士の中で最も信頼していた。

「タスニット一等兵、何の騒ぎか?」

 アリオスは円の外から兵士達の鍛えられた背中越しに叫んでいるタスニットに声を掛けた。

「あ、小隊長!兵士同士が喧嘩けんかをはじめまして…」

喧嘩けんか?」

 長身を活かしてアリオスが人垣ひとがきの中をのぞき見れば、別の隊の男がマルコをにらみつけるようにその正面に立っている。男も、対するマルコも互いに長刀ちょうとうを手にしていた。

「彼は?」

「は、C小隊のアッカラと言う二等兵です。血の気の多い男でして…。おい!小隊長が来られたぞ!馬鹿げた事はいい加減に…」

「タスニット、かまわん」

「はい!は、はぁ?…、し、しかし小隊長…」

 おどろいた声を上げるタスニットを無視してアリオスは近場にあった椅子に腰かけると、目の前に置かれた講義用の長テーブルに両足を組んで乗せた。

「おいそこ、何人かどけ、見えん」

 アリオスが言うと、人垣を作っていた数人の兵士達が身をさげた。人垣の割れた先に、同士マルコの背中が見える。その向こうに剣を手に立っているのが、血の気が多いと言うC小隊のアッカラだろう。相当興奮しているのがこの距離でもわかった。

「小隊長、止めてください。兵士同士の私闘行為は懲罰対象ちょうばつたいしょうです!」

 タスニットがアリオスに取りすがり必死の声を出すがアリオスは彼の顔を見もせず肩で息をしている他隊の兵士に向けて声を張り上げた。

「アッカラ二等兵、一つ聞く」

 呼ばれたアッカラがチラリとアリオスの顔を見る。

「ここにいたるまでに大人のやり取りはあったのかね?」

「あ?」

 マルコをにらんだままアッカラが乱暴にき返す。

「冷静な話し合いが成された後、一切いっさいの解決方法を見出みいだす事がかなわず今の状況になったのかと聞いている」

 静かだが、よく通る声でアリオスが質問を重ねると、アッカラの口元がニヤリとゆがんだ。

「こんな奴と話す事なんか何もねえよ」

「ほう…。それでは君をそこまで怒らせる程、我が隊のマルコ一等兵は君に何をしたのかな?」

「何をしたかって?ここに来た事自体が気に食わねえ。アスビティの田舎いなかに引っ込んでりゃよかったんだ」

 祖国を侮辱ぶじょくするアッカラの言葉にマルコの顔色が変わる。

「タスニット一等兵の言う通り私闘は懲罰対象ちょうばつたいしょうだ。これ以上続ければ最低でも一日は独房どくぼう入り。飯は抜きだ。その後はまあ、三日間の強制労働きょうせいろうどうってところかな?それでもやるか?」

 アリオスが言った途端とたん、今まで静かな声で話していたアッカラが突然声を荒げ始めた。

「こいつは生意気なんだよ!余所者よそものの新人のくせにいきなりA小隊の一等兵だと?だったらその実力を見せていただこうってだけだ!」

 アッカラが言うと、彼の後方からその言葉に賛同する野次やじがいくつも飛んだ。どうやら数名のC小隊の連中がついてきているらしい。

余所者よそものの新人となると、私もか?」

 アリオスがました顔でくと、背中を見せているA小隊の部下達が気まずそうに肩越で自分を振り返るのが目のはしに映った。

勿論もちろんそうさ。A小隊の誰もあんたを小隊長だなんて認めてねえ」

「そうなのか?」

 アリオスは隣に立つタスニットを見上げていた。

「な!そ、そんな訳…アッカラ!貴様きさま何て事を!」

「他の者もそうなんだな?」

 大慌てのタスニットを無視してアリオスは部下達を見回したずねた。皆顔をせ、応える者はいない。アリオスはそんな部下達の様子に小さなため息をつくとつぶやいた。

「そうか…。うん、まあそれもわからんでもないな。ではここらで隊長らしい事でも一つ言ってみるか」

 アリオスの反応にA小隊の兵士達は意外そうな顔を上げた。

「マルコ、アッカラ。貴様らの持つ剣は訓練用だな?」

「当たり前だ!許可なく訓練場に戦闘用武器を持ち込む程俺はぶっ飛んじゃいねえ」

「よろしい、ではこれを訓練と認めよう」

「小隊長!」

 真面目まじめなタスニットが目をきだして叫ぶが、アリオスはやはりそれも無視した。

「アリオス…」

 アッカラと正対せいたいしていたマルコが横顔だけを見せて戸惑とまどった声を出す。

「馬鹿者、小隊長と呼ばんか。それではこれよりA小隊マルコ一等兵及びC小隊アッカラ二等兵による模擬もぎ戦闘訓練を開始する。他の者は怪我けがをしないように離れたところからよく見て学ぶように」

「アリオス小隊ちょ…」

「始め!」

 タスニットの言葉を全部聞く事もなく、アリオスが大きな声を出した。

「へへへ、話しのわかる小隊長殿だ」

 言いながらアッカラは降ろしていた剣を体に沿わせて立てた。それを見たマルコは大きくため息をつくと、アッカラとは逆に剣を下段に構えた。

「恨むぜ…」

 マルコが小さくつぶやく。

 こうして始まったンダライ王国一の戦闘集団と呼ばれるシュナイドリッツ、そのA小隊一等兵マルコとC小隊二等兵アッカラの、訓練の名を借りた私闘はそれ程時間も掛からずに勝負がついた。

 先手を打ったのはアッカラであった。素早い踏み込でマルコとの間合いを詰めると、上段から打ち下ろした。長刀ちょうとうの長さを利用した鋭い一撃であったが、マルコは冷静に身を左にひねり下段から回転させるように立ち上げた剣でこれをはじいた。

 たたらを踏んだアッカラが慌てて振り返ると、その首筋にマルコが伸ばした切っ先が冷たく触れた。訓練場内が水を打ったように静まり返る。本当の殺し合いならのどき切られ、アッカラは殺されていただろう。

 足音すら聞かせない程、静かで流れるようなマルコの動きであった。どちらかと言えば線が細く、屈強くっきょうの兵士達の中では小柄なマルコだが、この重たい長刀ちょうとうを使いこなすさまを見れば腕力は相当強いと思えた。

 大量の汗を流して一歩も動けないアッカラは、自分の目を見つめるマルコの静かな目に歯ぎしりをすると、突然 喉元のどもとに突きつけられた切っ先を自分の剣で振り払った。

「まだだ!」

 アッカラは今度は中段からマルコの腹を目がけて脇に溜めた剣で突きを放ってきた。やはり一歩目の踏み込みが非常に鋭い。一瞬 おどろいた顔をしたマルコは今度も体を左にひねり、寸でのところでこれもかわした。

 やり過ごしたアッカラの背中をマルコの持つ剣の柄尻えじりがしたたかに打ち付けられる。

「ぐわ!」

 打たれた背中に走る激痛に思わず声を上げたアッカラであったが、すぐに態勢を立て直すと、三度みたび深い踏み込みからマルコに襲い掛かった。二人の剣が二度、三度と交差し打ち合わされる。

 何度目かに振るったアッカラのぎ払った剣を身をかがめてかわしたマルコは、そのままアッカラの足を狙って剣を振るった。アッカラはこれを咄嗟とっさに飛び上がってやり過ごす。

 並の相手ならマルコの素早い動きについていけず、右足のくるぶし辺りを砕かれていたに違いない。それをかわしたアッカラの動きにこの戦いを見つめるアリオスの表情が変わる。

 やや余裕を失ったマルコは、しかし冷静にまだアッカラの体が宙に浮いている内にその胸板目がけて強烈なタックルを見舞った。

 地に足をつける事なく正面から強い衝撃しょうげきを受けたアッカラはそのまま後方に吹き飛び、背中から地面に叩きつけられる。一瞬呼吸が止まり、先程 柄尻えじりで打たれた部分に忘れていた激痛が走る。

 マルコは一気に勝負をかけようとアッカラの体が地面に落ちるよりも早く彼目がけて走り出していた。アッカラの体が地面に落ちた一瞬後、追いついたマルコの左足がスライディングをするようにアッカラの右手を蹴り飛ばす。その手から離れた剣がC小隊の連中の足元にすべっていく。

 左足でアッカラの右手首をロックしたままひざ立ちになったマルコは、アッカラの体の上におおかぶさるように乗り上げた。

 仰向あおむけになったアッカラの喉元のどもとに再びマルコの剣先が付きつけられた。生唾なまつばを飲み込んだアッカラののどが大きく上下に動いた。
















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