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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
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公軍の方策

●登場人物

・ロズベル…アスビティ公国第二境界付き第二警備隊々長。いち早くANTIQUEの存在を知り、彼らを援護すべく立ち上がった十人の人間の一人。

・ブルー…アスビティ公国特殊遊撃班々長。同じくANTIQUE援護部隊の一人。ココロやシルバーが最も信頼する隊士。

・ウルカ…アスビティ公国デューカ守備隊第三分隊長。公軍大臣の娘であり剣の腕は分隊一の実力者。援護部隊の一人。

・コスナー…アスビティ公国特別行動騎馬隊第八分隊筆頭隊士。元はガイの部下で共に山賊をしていた。援護部隊の一人で山岳活動が得意。



●前回までのあらすじ

 アテイルに襲われ重傷を負ったブルーが寝かされた部屋で、それぞれの決意を胸に十人の隊士達が別れてから半月程が流れた。

 傷のえたブルーは新設された特別行動騎馬隊特殊遊撃班の班長に任命されていた。それを補佐する副班長はつてのガイの部下である巨漢のパッキオである。

 アスビティ公国公爵でありココロの父親でもあるドナル三世の号令の下、魔族との戦いを想定した大掛かりな編成改革を行った特別行動騎馬隊であったが、その実自らをANTIQUE援護部隊と名乗るブルー達十人以外の一般隊士達には未だ真実が伝わる事はなかった。

 それを歯痒はがゆく思いながらもそれでも彼らをアテイルとも同等に戦える隊士に育てようとパッキオは鎮圧術を仕込もうと指導を開始する。

 しかし殺人技とも呼ばれる鎮圧術ちんあつじゅつの習得に疑問を持った隊士の一人であるシャンデルはあからさまにパッキオに反発を示す。

 言葉ではわかり合う事ができないと判断したパッキオは、鎮圧術を持ってシャンデルを徹底的に痛めつける。

 パッキオのすさまじい戦いぶりとブルーの適格な説明に、新設部隊である特殊遊撃班の隊士達は瞬時に二人にせられ、班の士気は一気に高まるのだった。







 座学訓練を終えた特別行動騎馬隊第七、第八分隊の隊士達が屋外演習場に移動すべくぞろぞろと部屋から出てくる。

 二週間程を故郷で過ごし、中央に戻るなり第八分隊への配属を命じられた元山賊の一人、コスナーの姿がそこにあった。

「コスナー」

 廊下を歩く彼は自分を呼ぶ声に振り向くと、そこに以外な顔を見つけ声を上げた。

「ロズベル隊長!」

 養生中ようじょうちゅうのブルーの部屋で別れたきりであった境界警備第二小宮警備隊第二分隊長、ロズベルの相変わらず貫禄かんろくのある姿がそこにはあった。コスナーは仲間達から離れ、小走りにロズベルに近づく。

「お久しぶりです」

「ああ、本当に」

 コスナーが挨拶あいさつをすると、ロズベルは伸び放題の無精髭ぶしょうひげゆがめて思いの外若々しい笑顔を見せた。

「いつこちらへ?」

「何、つい今しがただ。すぐ訓練か?」

「いえ、昼を挟んで午後からは屋外で」

「そうか…。お前だけか?」

「先に出て行った七分隊にはユーリがいたのですが…」

「気が付かなかったな。他のみんなは?」

「みんな、それぞれ別の部署に配属されました」

「ああ、ブルーが新設隊の隊長になった話は聞いている」

「特殊遊撃班ですね。正確には班長です。パッキオはそこの副班長に収まりました」

「そうなのか」

 遅れて部屋から出てきた数名の隊士がコスナーに声を掛け去っていく。コスナーも気安く返事を返していた。

「うまくやっているか?」

 ロズベルが気遣きづかわし気に言うとコスナーは笑顔を見せた。

「まあ、気のいい連中なんで」

 去っていく仲間の背中を見ながら言ったコスナーはすぐに顔をロズベルの戻した。

「隊長もご存じでしょう?あの後すぐに特別行動騎馬隊は大掛おおがかかりな編成改革へんせいかいかくがされたのを」

うわさ程度だ、詳しくは知らん」

「そうですか…」

 コスナーは一度チラリと周囲を見回す。仲間達はおおむねいなくなったようだった。今まで自分がいた部屋からも人の気配は消えている。それを確かめたコスナーは再びロズベルの顔を見て話しだした。

「今まで十三分隊あった騎馬隊ですが、突撃部隊としての性格が強かった第一から第三分隊以外はこれと言って区別はありませんでした。しかし今回の変革でそれぞれ特色を持つ分隊組織がされたんです」

「特色?」

「ええ、まずは誰よりも真っ先に戦前に突撃をかける事を明確な目的として新たに遊撃班が作られました」

「ブルーとパッキオが仕切っている部隊だな?」

「そうです。この他に、俺の古巣でもある第四分隊は火砲隊かほうたいと位置づけられる事になりました」

火砲隊かほうたい?」

「はい、主に火薬を使用した銃器を取り扱う隊です。ここにはエミオンが配属されました。あいつは元々火を扱うのがうまかったので」

「なるほど」

「それと、俺の入った第八分隊とユーリが配属された第七分隊は共に、山岳さんがく活動を主眼に置いた部隊です」

「もってこいだな」

 ロズベルが言うとコスナーは照れたように頭をきながら笑った。こうして見ると年齢の割に童顔な男である。

「他にも水域での戦闘を想定した部隊や、守備、伝令、長槍などそれぞれに特化とっかした部隊もあります」

「なるほど、戦場での役割分担を明確にしようと言う事か」

「オールマイティよりエキスパート、って事なんでしょうね」

「つまり地域別の一個分隊ではなく、騎馬隊全体が一丸となって戦う事を想定しいている訳だ」

「そうなんでしょうね。分隊一つですべてをこなすのではなく、全分隊 一斉いっせい出撃を前提とした超大戦の対策としか思えません」

 これだけ大胆だいたんな変革が公軍大臣の発案だけで決まる訳がない。恐らくその裏にはココロの父であるアスビティ公国領主ドナルの思惑おもわくが影響していると思われた。

「ハリスは?」

「え?ああ、あいつは第一分隊の配属です」

「何?守備隊には行かなかったのか?」

 あの日、ブルーの部屋で守備隊に入りたいとハリスがウルカに言っていたのを思い出したロズベルは意外そうな声を出した。

「あ~~~~~」

 コスナーはポリポリと右のほほきながら言葉を探した。

「入らなかった、と言うか入れなかった…かな?」

「入れなかった?移動の希望が通らなかったと言う事か、なぜ?」

「いや、なぜも何もデューカ守備隊は公爵様の一番近くを守る隊ですよ?当然配属される隊士も親子代々貴族の立場にいる奴ら構成されていますからね、そもそも俺達みたいに出の悪い人間は入れんのですよ」

「ま、まあ、それはそうだが…」

「例外を認めてもらうよう、まだウルカさんがお父上に食い下がっているようですがね、どうなる事やら…」

「そうだったのか…。で、ハリスの配属された一分隊はどんな隊なんだ?やはり突撃隊なのか?」

「それが…」

 コスナーは苦笑いを浮かべ、頭を振りながら答えた。

「戦場医療班なんですわ」

 コスナーの答えに一瞬口を開けたまま止まってしまったロズベルであったが、すぐに納得したように何度もうなずいた。

「なぁるほど。そう言えばアリオスが優秀だと言っていたな。戦場で戦える医者って事か」

「そう言う事。ところでロズベル隊長こそ一体どうして中央に?」

「お?ああ、そうだった。実は、第二小宮の方からもみんなに知らせておきたい事があってな」

「それで、わざわざ来たんですか?隊長自ら」

「おお、そうだとも。すぐにでも他のみんなに会いたい」

「いやぁ、訓練時間中は無理でしょう。滞在たいざいは?」

「明後日の朝には帰る」

「では、今夜か明日の夜…」

「早い方がいい」

 コスナーは、ロズベルの真剣な眼差しに気が付くと静かにうなずいた。

「わかりました。昼の休憩の内に援護部隊全員に伝えましょう」

 コスナーが言うとロズベルはふっと小さな笑いをこぼした。

「ANTIQUE援護部隊か…。うん、頼んだ」





 同時刻―――。アスビティ公国公軍大臣であるケシミの居室きょしつは何度目かの大きなため息で満たされていた。

「しかしウルカ、お前もいい加減 あきらめない奴だな」

 ケシミ大臣は深く椅子に腰かけたまま、目の前に立つ娘に向かって言った。綺麗きれいに整えられた見事な口髭くちひげが不愉快そうにゆがむ。

あきらめが悪いのは生まれつきです。父上もよくご存じのはず

「例え毎日昼休みにこうして大臣 居室きょしつにまで押しかけようと答えは変わらぬと言うのに」

 明らかに敵意をき出しにした愛娘まなむすめの顔に、ケシミ公軍大臣は口元まで運んだ茶の入ったカップを静かにテーブルに置いた。

「父上が翻意ほんいしてくださるまで何度でも参ります。いいえ、家にいる間も言い続けます」

「これは怖い」

 ケシミは娘の剣幕けんまくに苦笑を浮かべながら答えた。

「ウルカ、父上を困らせるのはいい加減に…」

「ハンナ姉様は黙っていてください!」

 父親の給仕に訪れていたウルカの姉ハンナは、妹の怒声にしゅんとして黙ってしまった。その様子を見ていたケシミが苦言くげんていする。

「こらこら、思い通りにいかないからと言って姉様を怒鳴りつける奴があるか」

「…申し訳ありません」 

 言われたウルカは落ち込んだ顔の姉を見て気まずそうに謝った。しかしすぐに気を取り直すと、再び父親に食って掛かり始めた。

「ですが何としても父上にはご理解をいただかなくてはならないのです!」

「なぜそんなにもあのハリスと言う青年を守備隊に入れたがるのだ?」

「そうではありません!どうしても彼を守備隊に入れたいのではなく、どうしても彼の入隊を許可されない父上に腹を立てているのです!」

「おいおい、父親に向かってそうあからさまに言うなよ」

「何度でも申し上げます!今回閣下自らの指揮の下、騎馬隊が大改革されたと言うのに、我ら守備隊は未だ旧態然きゅうたいぜんとした出自しゅつじこだわり力ある者の入隊をこばむ体制に私は大きな疑問を禁じえません!」

「デューカ守備隊は他の隊とは違う、最も閣下のおそばに付き従うのだぞ?海外 高官こうかんの元へも共をする。最低限の礼節は必要だ」

「お行儀ぎょうぎよくお命をお守りできますか!?」

 ハンナのれてくれた茶に手を伸ばすたびにウルカが言い返してくる。このままでは食事もれないまま午後の業務が始まってしまう。娘達を溺愛できあいするケシミ大臣とは言え、さすがに少しイラついた声を上げた。

「閣下の身近に身元明白ならざる者を置けぬと何度言ったらわかる!」

「何度言ってもわかりません!では現在の守備隊々士の身の上は誠、明白であると言えますか?」

「くどい!」

「くどくて結構!彼の実力は一目瞭然いちもくりょうぜん!そんな彼が自ら閣下の身をお守りしたいと申し出ているものを、やれ生まれがどうの身分がこうのとくだらない!」

「くだらないだと!?」

「くだらないではないですか!彼の身の上が心配ならば横着おうちゃくをせずに調べればよいのです!親が貴族ならば子も安心などと一体誰に保証ができるのです?閣下の身を最も案じていないのは父上、あなただ!」

「ウルカ!」

 ハンナが思わず出した大きな声に、ケシミ、ウルカともにらみあったまま黙り込んだ。

「言葉が過ぎます、父上に謝りなさい」

 ウルカは父親から顔をけると歯を食いしばりながら言った。

「嫌です」

「ウルカ!」

「まったく、頑固がんこな奴だ」

「父上の子ですので」

 目をらしたままつぶやいたウルカの言葉についハンナが吹き出す。

「ハンナ」

「失礼しました」

 不愉快そうにとがめるケシミに、ハンナが失笑をびる。

「とにかく…」

 ケシミが話をまとめようと言いかけるのをさえぎってウルカが再び強く言い切る。

「説得はお止めください父上、平和ボケが過ぎます。勇気ある例外を作らなければ戦いに勝つ事はできません」

「何と戦うと言うのだ?このアスビティ公国で」

「それは父上の方がお詳しいのでは?」

「ん?」

「いえ…。いずれにせよ公軍内において例外を作れるのは閣下の他は父上しか成しえない事。ご提案だけでもお願いいたします」

「ばかも休み休み言え。私にそのような発言力などない」

「しかし父上は創設以来女子 禁制きんせいとされてきた公軍に私を入隊させた」

「それは…」

庶民しょみん出身の隊士が閣下をお守りする事は、女を公軍隊士にするよりも難しい事でしょうか?」

「お前の出自しゅつじは明白だ」

「それはおごりですぞ父上。私が閣下の寝首ねくびかない保証がどこにございます?」

貴様きさま!」

「午後の訓練が始まりますので失礼します」

 怒りのあまり椅子から立ち上がった父親にウルカはました顔で背を向けると、そのまま部屋から出て行った。

「何だあれは!自分からやって来ておきながら、言いたい事だけを言って出て行きおった!」

「父上…」

 心配げな長女の声に、またもやケシミは大きなため息をつき荒々しく椅子に腰を下ろした。

「私はお仕事の事はよくわかりませんが…、今のお話、なんとなくウルカの言い分もわかるような気がするのですが…」

 ケシミはけわしい顔でハンナを見上げた。

「出過ぎた事を申しました」

 父の顔を見たハンナが素直に頭を下げる。一瞬何かを考える顔を見せたケシミは、しかしそれ以上何も言わず何度も手を伸ばしかけたカップをようやく持ち上げた。その瞬間、建物のどこにいても聞こえる大きな鐘の音が響き渡った。

「あら?」

 ハンナが窓の外を見る。

「どうやらお昼は終わりのようですよ、父上」

 カップを持った手を口の前で逡巡しゅんじゅんさせたケシミは、結局それを飲む事なく音高くテーブルに戻すと天井を見上げ、今日一番の大きなため息をついた。





 公軍大臣の部屋をしたウルカは父親に向けた怒りが収まらないまま大股で廊下を歩いていた。

 ウルカの中では父親にも言った通り、ハリスをどうしたいと言う問題ではすでになくなっていた。さしたる理由もなく、ただ規定きてい慣習かんしゅうに捕らわれた答えしか得られぬ事に大きないら立ちを感じていたのだ。

「ウルカ隊長」

 行きすぎようとした廊下の角から声を掛けられたウルカは、けわしい顔のまま振り向いたが、そこに立つ隊士の顔を見て表情をやわらげた。

「ハリス隊士」

 そこには問題となっているハリスが立っていた。一瞬笑顔を作りかけたウルカの表情がすぐにくもる。

「その様子だと今日もお父上から移動の許可はもらえなかったみたいですね?」

 ハリスの言葉にウルカは顔を上げ、自分よりも頭二つ分は大きな若者を見上げた。

任命にんめいは閣下が下されます」

「とは言え希望をお伝えいただけなければ可能性はゼロ、って事ですよね?」

「あなたは余計な心配をせずに現在の業務に邁進まいしんなさい。どうですか?四年ぶりの公務は?」

 ハリスはウルカから少し視線をらすと笑顔を作って言った。

「新制第一分隊ですか?ええ、医療の専門知識を習うのは楽しいですよ」

「そう、結構ね。はげみなさい」

 そう言って背を向けたウルカにハリスが慌てて声を掛ける。

「あ、ウルカさん」

 ウルカが少し驚いたような表情で振り返る。

「あ、すみません。ウルカ分隊長」

「構いません、何か?」

「ええ、実は…その、ついさっき連絡が来まして…」

「午後の公務が始まりますので手短に」

「あ~、はい。ロズベル隊長が、登央とおうしています」

「ロズベル隊長が?」

「はい。それで今夜、時間を作っていただきたいと」

 ウルカはハリスの目を見つめたまましばらく黙っていた。ハリスも何も言わずその目を見つめ返す。先に口を開いたのはウルカの方であった。

「話は当然、例の件ですね?」

「だと思います」

 うなずきながら答えるハリスの目をなおしばらく見つめていたウルカは、すぐに結論を口にした。

「わかりました。今夜ですね?場所は?」





 急遽中央へと登ったロズベルは、今夜予定されているANTIQUE援護部隊の会合を前にひまを持て余していた。

 登央の名目は第二境界警備小宮 復興ふっこうの資金 りとなっており、既にそのむね政府への報告は済ませていた。

 たかが資金 りの為に隊長自ら隊を離れおもむく理由としてはいささか弱かったが、そこは何とか切り抜ける事ができた。実際それが大きな問題であるのも事実であったからだ。

 しかしその手の話一切をロズベルは同行させた経理財務書記管理班長のイルファーに任せ、本人はフラフラと公軍施設内を歩き回っていた。

「で、その後どうだ体の具合は?」

 自分の部下の訓練を一緒に見つめるロズベルの質問に、ブルーはニヤリと笑って答えた。

「今すぐにでも戦えます」

「そりゃよかった」

「しかし…」

「ん?」

「戦う事はできても、今の私では奴らには勝てきない…」

「なるほど」

「今 しばらくは体を休め、万全ばんぜんの態勢を整えなければ…。パッキオ殿には苦労をかける」

 ブルーがそう言うと、ロズベルは眼下で繰り広げられる遊撃班の勇ましい訓練に目を戻した。その先頭に立って大声を上げているのは副班長の任にいた大男、パッキオだ。

「一日も早く私自身の手で指導したい。普通の戦闘訓練では奴らには勝てないのです。どんなに技をみがいたところで、まともな戦い方をしていては無駄に犠牲者を増やすだけです」

「奴らはそんなに強かったか…」

 ロズベルの質問にブルーは一時口を閉ざした。第二小宮での隊士達になりすましたアテイルとの戦いと、ンダライとの国境付近の山中で剣を交えたアローガ副隊長に化けた敵との一騎打ちを思い出していた。

 今思い返しても全身に嫌な汗が流れる。もしも自分が魔族の存在を知らなければ、そしてアスビティ公国栄光の公軍隊士としての誇りを持っていなければすぐにでも逃げ出し、二度と戦いたくないとさえ思う程ブルーにとって恐ろしい記憶だった。

「力も速さも常人ではあり得ないものを持っている。しかし、それをはっきりと意識した戦いができれば倒せない相手ではありません」

「ほう…」

 ロズベルはブルーの顔を見つめつぶやいた。その表情にはるぎない決心がきざみこまれていた。

 ブルーには背負ったものがあった。国どころかこの全世界、全宇宙を守ろうと公軍を捨て野に下った大恩ある元上官シルバーの思い。国を頼むと言い残し共に旅立った公爵令嬢のココロ。そんな彼らの思いを一心に背負い公軍に残った彼には、二度と引き返す事のできない悲壮ひそうなまでの決意があった。

「それだけに、歯痒がゆいのです」

 部下の訓練から目を離さないままブルーが再び口を開く。

歯痒はがゆい?何が?」

「彼らに本来戦うべき相手の正体を伝えてやれない事がです。魔族などいない、そもそもアスビティは戦争などしない…。心のどこかでそのように思いながら行われる訓練では、本当の鍛錬たんれんにはならない」

 ブルーは、高台のふちまで足を進める。総勢三十名の男達が汗を飛ばし、掛け声も勇ましてく剣を振るっている。

「今だけでいい。この戦いが終わるまででいいんです。彼らには、魔族に的をしぼった訓練を積ませてやりたい。そうでなければ、この戦場に先陣せんじんを切って突撃する事など到底不可能。そして私はそれを彼らに伝えてやる事ができると言うのに…」

「相変わらずの、かん口令か…」

 ロズベルのつぶやきにブルーは黙ったままうなずいた。ロズベルはそんなつての部下を思いやるように殊更ことさら軽い調子で言った。

「ま、あともうひと押し、ってとこなんだろうよ」

「え?」

「言う通り、今度の軍内改革は魔族対策なのは間違いがねえ。しかし、それをそうと公表するにはもう一つそれを後押しする確実な何かが必要なんだろうさ」

「確実な、何か…」

「今回俺が持ってきた土産がそんな力を持ってりゃあいいんだがな。今夜みんなに聞いてもらって、その判断をう」

「一体…」

「ん?まあそりゃあお前、今夜のお楽しみってやつだ。できれば、アリオスにも、聞いてもらいたかったんだがな」

「アリオス殿か…」

 そうつぶやいたブルーは無意識にその目をはるか東の空へと向けた。その先にある異国の地で、同じく魔族との決戦に備えているであろうアリオスとマルコ、二人の顔を思い出しながら。
















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