真の闇の王
●登場人物
ANTIQUE
・ココロ…始まりの存在のバディ。強力なテレパシーで仲間を見つける旅のリーダー。
・吉田大地…土の能力者。右腕に宿る能力で土、石、砂などを自在に操る。
・シルバー…鋼の能力者。肉体を様々な鉱物に変える事ができる。
・キイタ…火の能力者。右手から鉄をも溶かす高温度の炎を生み出す。
・ガイ…雷の能力者。義手である左腕から強力な電力を発動させる。
・アクー…水の能力者。水を操る。また右手から水でできた武器を出現させる。
魔族
・クロノワール…三種の魔族の一種、竜の一族アテイルの首領。
・シュベル…三種の魔族を蘇らせた闇の使い手。真の闇の王と呼ばれる存在だがその正体は今だ不明。
●前回までのあらすじ
フェズヴェティノスの追撃を振り切った能力者達であったが、凍った地面に馬の足を取られたココロ、キイタ、大地の三人は先の見えない崖下へと落下してしまう。
一人難を逃れたアクーが駆けつけると、三人とも大きな怪我もなく無事であった。ほっと胸を撫でおろしているところへ遅れて追いついたシルバーは、ガイが重傷を負っている事を皆に伝えた。
ガイに背を向けて車座に座ったココロ、大地、シルバー、キイタ、アクーの五人は、ひそひそと声を殺して話し合っていた。
その中心には何とか無事であったカンテラに移されたキイタの火が明々と燃え、五人の顔を照らしていた。
そっと盗み見れば、どうやら眠ったらしいガイの体を金色の光が包みこんでいる。ガイの怪我を治すべくウナジュウが必死の看護を始めたようだ。
「とにかく、足の骨折は治療した。痛み止めも飲ませた。道具も何もないこの状況でできる事はすべてやったよ」
アクーがガイを見ながら呟く。
「後はウナジュウに頼るばかりか…。一体どれだけかかる事やら」
大地もため息交じりに言う。
「ガイはもともと頑丈だから」
キイタが思ってもいない希望的観測を口にする。
「そうは言うけど…」
「いや」
大地が悪い方へ考えそうになるのをアクーが遮る。
「僕に言わせれば大地がこの期間でここまで回復したのだって正直驚きなんだ。やっぱりANTIQUEの回復能力は僕らの常識を逸脱している」
「ガイは戦士だ、大地よりも遥かに体は強い」
アクーの語る前向きな意見にシルバーが乗る。
「じゃあ、一晩眠れば治る?」
「いや、さすがにそれはないと思うけど…」
「でも」
ココロが口を挟む。
「ガイは死なない。雷のANTIQUEがガイを見捨てずにまだここにいるんだから。そうでしょう?」
以前アクーが言った台詞をすっかり真似て話すココロに、アクーは頷いた。
「それは、その通りだと思うよ」
その言葉にココロはほっと息をついた。
「それにしてもフェズヴェティノス、強かったねえ」
大地が話題を変え、ため息と共に呟いた。
「アテイル、エクスヒャニク、そしてフェズヴェティノス…」
「エクスヒャニクは三種の魔族じゃあないよ」
今まで出会った敵の名を指折り数えていたココロに大地が声を掛ける。
「そうなの?」
「あれはアテイルが時空を飛び越えて方々から掻き集めた道具に無理やり命を押し込んで作った機械人形だ。死を恐れない、究極の兵隊…」
大地はテリアンドスの荒野で死闘を繰り広げたエクスヒャニクを思い出し身震いする思いであった。重症を負わされたシルバーも、剣を折られたココロも、そして命の危機にまで追い込まれたキイタも。皆エクスヒャニクの事を考えると忘れていた恐怖が再び頭を擡げてくるのを止めようがなかった。
「すると、魔族はもう一種いると言う事だな」
気を取り直すようにシルバーが言った。
「どんな奴らなのかしら?」
ココロの呟きに大地が口を開いた。
「どんな奴らにしろ闘いは簡単じゃないよ。ただ単純な力と力のぶつかり合いじゃない。エクスヒャニクにしろ、フェズヴェティノス達が儀式で使っていた機械にしろ、あれは俺が生きていた世界にあるような物ばかりだった」
「地球に?」
「全部地球の物とも言い切れないけど、少なくとも今のプレアーガには絶対にありえない物だ。言っておくけど、俺が生きていた地球に比べてこのプレアーガは四百年は遅れてるからね?」
「四百年…」
その途方もない時間に今まで黙って仲間達の会話に耳を傾けていたキイタが思わず漏らした。
「想像もつかないな…」
シルバーも小さく首を振った。
「そう。敵はその想像もつかない技術を駆使してくる。もともと能力が高い上に、しかも集団だ。それが全部で三グループ…。エクスヒャニクを入れれば四つの軍団が俺達を狙っているって訳だ」
「大地の話を聞いていると勝てる気がしなくなってくるね」
アクーが弱気な声を吐いた。
「でも負けられないの!そうでしょう?」
突然ココロが強い調子で言った。
「そう、俺達は負ける訳にはいかない」
大地がすぐに賛同する。彼はふと、仰向けたまま動かないガイの方を見て続けた。
「ガイも言っていた、俺達は敵わない敵が現れた位で負けてる場合じゃないんだって」
その言葉に全員がガイを見る。
「軍団である事は脅威だけど、同時にそれが弱点となる場合もある」
再び話し始めた大地に全員が顔を戻した。
「軍団である事が、弱点?」
「うん」
シルバーの疑問に大地は頷いた。
「軍団と軍団の戦いなら、単純に力が強い方が勝つ。でも俺達は少数 精鋭だ。たった十一人で挑む戦い方って、あるもんだろ?シルバー」
「まあ…、まともにぶつかれば負けるな」
「だから、まともになんかぶつからずに知恵を使って戦おう。今まで以上に隠密に進むべきだ。フェズヴェティノスは過去に戦ったアテイルやエクスヒャニクのような一部隊ではなく大軍団だった…。俺達は二度とあんな戦いをしちゃいけないと思う。少なくとも能力者が全員 揃うまでは」
一人一人の顔を見ながら話す大地の言葉に全員が決意を固め頷いた。
「俺達は密やかに敵の懐に入り込み、最終的にはこの魔族達の親玉一人を打ち倒す事に専念すればいい」
「親玉って…」
ココロが不安げな顔で訊く。
「クロノワール…」
続いてシルバーが宿敵の名を口にした。
「奴を倒せば、俺達の勝ちだ」
「クロノワール…、一体どこにいるのかしら?」
ココロが夜空を見上げて呟いた。
「アクー、どうしたの?」
大地の話に共感しているように見えていたアクーが、クロノワールの名前が出た途端険しい顔をして俯いてしまっている。それに気が付いたキイタが声を掛けた。
「え?…あ、うん…」
「何か気になる事でもあった?」
アクーの聡明な頭脳に絶対的な信頼を置いている大地が訊ねた。誰の意見は聞かなくとも、アクーの考えだけには何があっても耳を貸す大地であった。
「いや、大地の言う事は正しい。僕らがあいつらとまともにぶつかるのはまだ早過ぎる。それは今回の事でもよくわかった」
そう言うとアクーはもう一度ガイの方に目を向けた。
「それで?」
なかなか続きを話そうとしないアクーに大地が重ねて質問した。アクーは慌てて目を戻すと言った。
「あ…うん…」
「何?」
「あのね…。僕、聞いたんだ。あのオヤシロサマの儀式会場で、オオグチの長、ラプスから…」
「ラプスから?一体何を聞いたと言うんだ?」
シルバーが先を急かすように訊いて来る。
「クロノワールと言うのはアテイルの長でしょう?ラプス達フェズヴェティノスの長はオヤシロサマだ…」
「それで?」
「ラプスは、人間の殲滅はある人物の意思だと言ったんだ」
「その、ある人物とは?」
アクーは訊いて来るシルバーではなくココロの目をじっと見つめながら、ゆっくりと口を開いた。アクーの口から今初めてその名が吐き出される。
「シュベル…」
「シュベル?」
ココロが訊き返す。アクーは黙って頷くと、ラプスから聞いた言葉を繰り返した。
「真の闇の王…シュベル」
その不可思議な世界の中で、クロノワールは低頭の姿で立ち尽くしていた。周囲には景色と呼べる景観などは一切なく、何の音もしない。深く立ち込める霧は所々虹色に輝き、それが静かにうねるように蠢いていた。
アテイル四天王の長として種族の頂点に立つクロノワール。同じ四天王であるメロ、ズワルド、ゴムンガを前にした時でさえ決して同じ位置に立とうとはしない高貴なプライドを持つ彼が今、更に大きな脅威の前に傅いていた。
「話がなかなか進まないねえ」
霧の奥からそんな声がクロノワールに話し掛けてきた。数人が同時に話すような、男なのか女なのか、若いのか高齢なのか掴み切れない奇妙な声であった。
「申し訳ございません」
クロノワールは霧に隠され姿が見えない声の主に向かって深く頭を下げた。
「別にいいんだけど、何にも急いでないし」
「は…」
「俺はいいんだけどさ、クロノワール達は一日も早くこの世界が欲しいんじゃないの?」
「………」
クロノワールが何も答えずにいると、霧の中の声が再び言った。
「人間はそんなにしぶといもの?」
「我ら三種の魔族が一時にかかれば、一つの星系を無人に変える事など造作もございません」
「仲が悪いから協力できないの?あはははははっ!」
声の主は心底おかしいと言った様子で笑い声をあげた。
「シュベル様…」
クロノワールは身がり切った表情で相手の名を呼んだ。
シュベル。魔族達の口から度々発せられた名前。すべての種族を復活させた真の闇の王。
しかし時の存在しない無限の霧の中から響くその口調はまるで子供のように無邪気であった。姿の見えない闇の王へクロノワールが言葉を続けた。
「確かにそのような面がある事を否定はいたしません。各種族はそれぞれがこの物理的世界を支配する事を夢見ております。自然の中で生まれしすべての知的生命体を駆逐した後の世界を手中に収めようと」
「だから同じ目的を持っていながらも相手を出し抜こうとして一致団結はできないと、まあそう言う事なんだ?」
「必ず裏切るものが出ます。そうとわかっているからこそ、我らは互いに干渉し合う事なくそれぞれの裁量で作戦を進めています」
「いいんじゃない?こっちだって何もみんなで仲良くやってほしいなんて思ってないし」
そう言うとシュベルは音を立てて吹き出した。
「みんなで仲良く大量 殺戮って、シュール~。あっはっはっはっ!」
「今一つは」
シュベルの笑いが収まるのを待ってクロノワールが言った。
「密やかに人間の世界に入り込み裏からこれを操作、いずれ人間共を調略し互いに殺し合うように仕向ける。それがうまくいけばこの作戦は加速的に進行します」
「その調略がうまくいってないんじゃないの?」
間髪入れずに言われたクロノワールはそっと目を逸らした。
「ANTIQUEは?」
クロノワールの感情を見せない美しい目が、初めて小さく左右に揺れた。
「思いのほか、手を焼いております」
「あはははは!正直だなぁクロノワールは。だから好きだよ」
「恐れ入ります」
クロノワールは静かに頭を下げた。シュベルが言う事に嘘はなかった。彼は一番初めに復活を遂げたアテイル一族に一目置いていた。いつの時代、どんな場所にあっても、ドラゴンとは常に人の脅威であり、破壊と力の象徴であった。だからシュベルは、誰もが自在に滞留できる訳ではないこの世界にクロノワールだけを呼び入れるのだ。
現実世界でもなく、虚無の世界でもない空間。そこには生命が生まれ育つ事もなく、自然が息づく事もない。それどころか時の流れすら存在しないここは時空の狭間であった。
ANTIQUEも魔族達も、みなこの時空の狭間を抜け、自在に時を飛び、空間を超えていく事ができる。しかし、一惑星に縛られる人間をはじめとした地上の生命体がここに入る事はできなかった。
自然を持たない時空の狭間に、自然の象徴たるANTIQUE達が長く滞在し、存在し続ける事もできなかったし、虚無の住人である魔族達にとってもそれは同じであった。
全宇宙、現実も虚無も含めすべての世界の中でこの空間にこうして居続けられる者はシュベルただ一人であった。ただその一点だけで、彼はこの世に於いて神に等しい存在となっていた。
「現世(yつつよ)の規律を守ろうと、必死な訳だ」
やがてシュベルが呟くように言った。
「厄介です」
クロノワールが答える。
「弱気だねえ」
「しかし人間共が互いに疑い潰し合うよう仕向ければ、我らの総力をANTIQUE 討伐に傾ける事ができます。その前段として今少しの時をお与えください」
「だから別に急いでないってー、お好きにどーぞー?」
「は」
「たださぁ」
「?」
シュベルの声にクロノワールは下げかけた頭を上げた。
「ちょっと退屈になっちゃってさあ」
「いつものように、どこへなりとお出かけになられては?」
「う~ん、ここんとこずっとクロノワールの話し聞いてたらさあ、なんだか俺もこの作戦に一枚 噛みたくなってきた訳よ」
「シュベル様?」
「ANTIQUE今、どこにいる?」
驚いた声を上げたクロノワールを一切無視してシュベルは訊いた。
「は、ダキルダの報告によれば奴らは今、イーダスタにて新たな仲間を得、そのまま我らアテイルの受け持つジルタラスに入ったとの事」
「ダキルダ?」
「我らの斥候です」
「あー、あのアテイルでもないのに仲間になってる坊ちゃんね。あの子って一体何?」
シュベルの質問にクロノワールは一瞬の間を置いて答えた。
「奴には、奴なりの野望があるようで」
「野望?」
「大いなる闇の力を手に入れる事…。その足掛かりとして我らに近づいたようでございます」
「ホントに―?すげぇ度胸じゃん!」
「シュベル様との謁見すら要望する有様…。こちらとしても、十分に利用させてもらっております」
「へー、会うの位いいけど別に」
「奴も喜ぶ事でしょう」
「でもいいの?」
「何がでしょうか?」
「本当に大いなる闇の力なんか手にしたら、今度はクロノワール達に歯向かってくるんじゃないの?」
シュベルの言葉にクロノワールは静かな笑みを浮かべ答えた。
「その時はその時…。我らアテイル、邪魔になるものは例え誰であれ、全力をもって排除するのみ」
「わぁ~、怖ぁ~」
「もともと奴は我らの仲間などではございません」
「ふ~ん」
そう言うとシュベルはダキルダへの興味を一気に失ったようで、話を元に戻した。
「ジルタラスかあ…。あそこには確かあれがいるよね?ほら、えっと…そう!レヴレント!」
シュベルの口から出た名にクロノワールの眉がぴくりと動く。
「あれ、うっとおしいんだよねー。こっちの意のままにならないし。人間の前にあいつらをどうにかしたいなー」
「しかし、レヴレントの一族と戦うのはかなり難しいのでは?」
「うん、だからそれ、俺がやるよ!」
「シュベル様…」
「ついでにANTIQUEの連中にも会ってこようっと!どんな奴らなのかこの目で見てみたいからな」
「お待ちくださいシュベル様!不用意に闘いに首を突っ込まれては困ります!」
クロノワールが大声で言うがシュベルからの返事はなかった。
「シュベル様?シュベル様!」
どうやらクロノワールの話を聞く事なく、シュベルは思いついたまま既に行動を起こし始めたらしい。
「何という事だ!」
また一つ想定外の事件が起きた事に露骨にイラついた声を出したクロノワールは飛び出すようにその場を後にした。




