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ANTIQUE  作者: OOK&YOK
103/440

逃走の果てに

●登場人物

・ココロ…始まりの存在に選ばれた能力者。強力なテレパシストで仲間を集めながら旅を続ける。

・吉田大地…土の能力者。ココロに呼ばれ時空を超えて仲間になった唯一の地球人。

・シルバー…鋼の能力者。最も早く仲間になった能力者。戦闘時には常にリーダーとして先陣せんじんを切る。

・キイタ…火の能力者。ANTIQUE最強と呼ばれる火の能力を操る体も気も小さな少女。

・ガイ…雷の能力者。元はシルバーの部下であった男。気が優しくいつも真っ先に敵に向かっていく。

・アクー…水の能力者。イーダスタの深い森の中で記憶を失くしたまま暮らしていた少年。


●前回までのあらすじ

 フェズヴェティノス達の行く手を阻んだ黒い光の壁。それはココロ達能力者の宿敵、アテイルの使者であるダキルダが生み出したものであった。

 激しい追撃の末、追う者追われる者双方が気づかぬ内にイーダスタ共和国を抜けていた。国境線に壁を築いたダキルダは、この先ジルタラス共和国はアテイルの管轄かんかつする国であると宣告せんこくし、フェズヴェティノスの侵入をこばんだのであった。

 ダキルダ一人に翻弄ほんろうされほぞを噛んだフェズヴェティノス達の前に首領であるオヤシロサマが現われる。オヤシロサマは真の闇の王であるシュベルが始めた現宇宙侵攻の戦いから身を退き、この地上に安住の地を見つけるための旅に出ると宣言する。

 これに反しオヤシロサマの孫娘であるハナはあくまでも人間と関わる事を目的にANTIQUEを追う事を決意。

 一族のおさと別れハナについて行く事を決めたのはシキとして共に歩んで来たタマとヒカル。ANTIQUEに強い恨みを持つラプスひきいるオオグチの一族。まだ戦い足りないと言う理由で十一騎と呼ばれる精鋭せいえいのみを残した戦闘集団、モリガノひきいるオウオソの民であった。

 誰を敵と定める事もなくこの地に残った少数 精鋭せいえいのフェズヴェティノス達の新たな戦いが始まろうとしていた。








 結果的にダキルダに救われた形となったココロ達能力者の一向は、しかし、そうとは知らずその後も必死に馬を走らせていた。

 ココロの背中にはキイタがしがみついている。彼女のすぐ横には大地とアクーを乗せた馬が疾走しっそうしていた。

 目に見え、肌に感じる距離に仲間がいるのは心強い限りであったが、主力となるシルバーとガイの姿が見当たらない。

 背後に迫るフェズヴェティノスの気配にココロは馬の速度を落とす事ができずにいた。いつの間にかき出た厚い雲に星の光もさえぎられ、ココロの走る平地は闇に包まれていた。

「ココロ!」

 突然キイタが鋭くココロの名を叫んだ。その声にハッとしココロは、前方により大きな闇を見つけ慌てて手綱たづなを引いた。広大な平地は無限に広がり続けるものだといつしか思い込んでいたのだ。

しかしひづめませる平地はそこで唐突とうとつに終わり、先の見えない下りとなっていた。その先がゆるやかな坂道なのか切り立った崖なのかすら、この闇の中では見極める事ができなかった。

 それでもこの距離であれば止まる事ができる。そう判断したココロは馬に急制動きゅうせいどうを掛けた。その途端とたん馬のひづめが地をすべり、その体を大きく横に倒した。

「きゃあぁっ!」

 悲鳴と共にココロとキイタは冷たい地面に投げ出されてしまった。

「うぅわ!」

 耳に届く大地の声に、彼もまた同じく転倒したのだとわかる。しかしそれだけでは終わらなかった。転倒した二頭の馬と地に投げ出されたココロ、キイタ、大地の三人はそのまま地面の上をすべりり平地の切れた闇の中へと飲み込まれていった。

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

「うわあぁぁぁぁっ!」

「大地!ココロ!」

 咄嗟とっさに転倒する馬の背から飛び降りたアクーが一人、闇に落ちていく三人の姿を見た。慌ててがけふちいよったアクーは、眼下に広がる闇に向かい必死に仲間の名を叫んだ。

「ココロ!大地!キイタ!ココロ!返事をして、ココロ!」

 しばらくするとアクーの見下ろす十m程先で小さな明かりがともった。

「キイタ!?」

 その明かりがキイタのともす火の能力と知ったアクーは大声で彼女の名を呼んだ。

「アクー?」

 おびえたようなキイタの声が返ってくる。

「キイタ大丈夫?ココロは?」

 そう言いながらアクーが見つめるキイタの炎が周囲を照らすように左右にれた。

「うん、大丈夫。みんな無事」

 キイタの声にアクーはひとまず息を吐き出した。

「上がって来られる?」

 再びアクーが声を掛けると、キイタに代わり大地の元気な声が返ってきた。

「俺達は大丈夫だけどぉ、馬が…」

「馬が?」

「あ、いや馬も無事なんだけど、ちょっとここを上がるのは難しそうだ。このまま下っていくしかなさそうだよ」

「そうか…」

 つぶやいたアクーはすぐに決意すると、三人のいる崖下がけしたに向かって体をすべり下ろしていった。降りてみれば大した高さではなかった。アクーはすぐに三人のそばけ寄ると馬の様子ようすを見た。

 馬は二頭とも既に落ち着きを取り戻し、しっかりと立っていた。その背に積まれた荷物も大方無事であるように見えた。

「いやあ、びっくりした」

「びっくりしたのはこっちだよ…。あ、イテテ…」

 大地がりむいたふじをキイタの火にあてて顔をしかめた。

怪我けがをした?見せて」

 大地はそう言うアクーに自分のひじを突き付けた。目を近づけて傷の具合を確かめたアクーはいきなり傷口を軽く一つ叩くと冷たい口調で言った。

「こんなもんめときゃ治る」

「あてっ!なんだよひでぇなー」

「ココロ怪我けがは?痛いところはない?」

 アクーは大地の抗議を無視して急いでしゃがみこんでいるココロにけ寄った。呆然ぼうぜんとしていたココロはアクーの呼びかけにハッと我に返った。

「う、うん、大丈夫みたい…。ちょっと、びっくりしちゃって、テヘヘ…」

 そう言うとココロは照れたように笑った。その口調にアクーもほっとした顔を見せた。

「アクー」

 立ち上がったアクーは大地の声に彼を見る。

つばつけられないよ、これ」

 大地が必死に自分のひじに向かって舌を伸ばしているのを見たアクーは、何も言わず目をらすと、今自分がすべり降りてきた岩肌を見上げた。

「地面が、こおっていたんだ…」

「ああ、だからあんなに走り辛かったのか!」

 イーダスタの森を抜けた頃から感じていた違和感の正体を知った大地が納得した声を出した。その声と一緒に真っ白な息がその口からこぼれる。

「寒いね、もう少し火を大きくしようか?」

 キイタは仲間達の中心にくるように手をかざし、少しだけ火を強くした。

「夜明け前のこの時間が一番冷え込むのかもしれないね。まだ雪が降る季節ではないはずだから…」

 星のない空を見上げながらアクーがつぶやく。そこへ頭上から馬のひづめの音と共に、ココロの身を案ずるシルバーの声が聞こえてきた。

「ココロ様!ココロ様ぁ―!」

「シルバー!」

「アクー?そこにいるのはアクーか!」

「そう、僕!大丈夫、みんなここにいる!」

「どうしてそんな所に?」

「馬が足を取られて、みんなでここに落ちちゃったんだ!でも大丈夫、誰も怪我けがはしていない!」

「したってば、ほら」

 すぐ横で大地がりむいたひじをなぜかほこらしげに見せてくるのを完全に無視してアクーは叫んだ。

「シルバー、フェズヴェティノスは!?」

「よくわからんが、追っては来ていないようだ。あきらめたらしい」

あきらめた?奴らが?」

 ダキルダに行く手をはばまれているとは夢にも思っていないアクーはシルバーの言葉に納得がいかず考え込む表情を作った。

「どうやってそこへ行けばいい?」

 すぐにいてきたシルバーの声にアクーは思考を中断した。

「あ、左右を見て。どこかから馬のまま降りられるゆるやかな場所はないかな?」

「わかった、降り口を探してみる。ただ、ガイが…」

「え?」

「あの大蛇との闘いでひどく負傷したらしい」

「何だって!?」

「ガイが?」

 シルバーの言葉にキイタが悲痛の声を出す。しゃがんでいたココロも飛びねるように立ち上がった。

「僕もそっちに行く!上と下からそれぞれ道を探そう!」

「わかった!」

 うっすらとした曇り空を背景にかすかに見えていたシルバーの影が立ち去ったのがわかった。

「アクー、私も!私も行く」

 キイタがすぐに名乗りを上げた。しかしアクーはそれを押しとどめて言った。

「気持はありがたいけどキイタ、君が一緒だと自分のペースで動けない。本当はその明かりが欲しいところだけど、今は一刻も早くシルバー達と合流したい。君はここでココロを守っていてあげて」

「でも…」

「キイタ」

 なおも食い下がろうとするキイタを背後から大地が呼んだ。

「ここはアクーに任せて、俺達はガイの休める場所を作ろう」

「頼むよキイタ」

 まだ納得がいかない表情のキイタに、アクーは笑顔で声を掛けると風のような速さでその場から立ち去って行った。

「どうせ俺らじゃアクーの足には着いて行けっこないんだからさ」

 キイタのそばに歩み寄った大地がそっとキイタの肩を叩いて言った。

「ほら、それより毛布を降ろしたりお湯をわかしたり。俺達にできる事をしようよ。手伝って」

「うん、わかった」

 大地の言葉にようやうなずいたキイタはすぐに馬のそばけ戻って行った。



 自分達の落下した位置から見て左手に進路を取ったアクーは自分のかんの良さに満足していた。岩肌がき出しになってはいたが自分の選んだ道は比較的ひかくてき広く、そしてゆるやかな上り坂になっていた。

(この道なら馬でも降りて来られる)

 踏みしめる岩の表面はなめらかで、勢いよく飛び移ると足をすべらせかねなかった。もともと摩擦まさつの少ないすべすべとした岩肌なのだろう。もしかすると地下水脈が走っているのかもしれない。れたように表面を光らせる足元の岩を見ながらアクーはそんな事を思った。

 森に住んでいる頃は川に洗われた巨大な岩から岩へ飛び移っていたアクーにとって、この程度は難所とも呼べなかった。何よりシルバーの言うガイの負傷が気になり自然と走る足にも力がこもった。

 右に見えるがけを登ってしまえば一足いっそく飛びに先程までいた平地に出られる事はわかっていたが、今のアクーには馬の通れる場所を探すと言う使命があった。あせる気持ちをおさえ、アクーはえて迂回うかいする道を選んでいた。

 やがて目の前に今までよりも急な坂道が見えてきた。アクーは一気にその坂道をけ上る。登りきるとそこは下へ落ちる前に走っていた平地であった。見上げれば、広く空が広がっている。アクーは後ろを振り返り、今自分が登ってきた坂道を見下ろした。

(ちょっと急だけど、広さは十分だし何とかなるかな?)

 そんな事を考えていると、近づいて来る密やかなひづめの音が聞こえてきた。アクーはそちらに顔を向け、声を掛ける。

「シルバー?」

「アクーか?」

 やがて漆黒しっこくの闇の中でもそうとわかる程近くに馬にられたシルバーが現れた。アクーはすぐさまけ寄ると、シルバーの後ろでぐったりと馬の背にもたれかかるガイに近づいた。

「ガイ…」

 アクーが声を掛けると、うつろな目をしたガイが顔を上げた。この闇の中でも浮かんで見える程、その顔色は白かった。額に脂汗を光らせながらも、ガイは不敵にニヤリと笑った。

「よぉ、相棒」

「やめてよ気持ち悪い」

「つれねえなあ」

 そう言うとガイは再び顔を馬の背に埋めてしまった。

「まあそんな口が利けるんだから心配はなさそうだね。シルバー、そこ、みんなの所へ行ける」

 アクーは振り向いて自分が登ってきた辺りを指さした。

「本当にココロ様は無事なのか?」

「大丈夫」

「…そうか」

 言うとシルバーはアクーが示した辺りを目指して馬を進めた。

「あ、最初だけ急だから気を付けて!馬から降りた方が…」

 アクーが忠告しかけている内にもシルバーはその急で足元のすべる坂道を難なく馬のまま下って行った。

「…さすがぁ」

 アスビティ公国特別行動騎馬隊の大隊長を務める程の腕前は伊達だてではなかった。驚きから立ち直ったアクーはガイを乗せた馬のくつわを取るとゆっくりと坂を下り始めた。

 シルバー達三人がココロ達と無事合流を果たしたのはその十分程後の事であった。彼女達は数枚の毛布を重ねて地に広げ、湯を沸かして負傷したと言うガイを出迎えた。

 シルバーとアクー、大地の三人掛かりで馬の上からガイを降ろすと、毛布の上にその大きな体を横たえた。時々ガイが苦し気なうめき声を上げる。

「ガイ!」

 ガイが横になるとすぐにココロがけつけ、心配そうにその顔をのぞき込んだ。自ら湯にひたし固くしぼった布でガイの口の周りに残る血の汚れをき取る。

「へへ…、女があんまり強く抱きつくもんで…」

 苦し気な息の下でガイが無理に笑顔を作る。その言葉でアクーはガイがあの大蛇に巻き付かれた事を知った。

「ガイ…」

 ガイのこの状態も結局は自分を助けるために取った行動の結果なのだとココロは胸を痛めた。そんなココロの心情を悟ったガイが更に笑顔で話し掛ける。

「や、やめてくださいよ、そんな顔すんのは…、ココロ様らしくもねえ。大丈夫、俺はこんな事じゃくたばりゃしねぇって」

「アクー、どうだ?」

 シルバーにかれたアクーは無言で立ち上がると、ガイに背を向けた。すぐに大地とシルバーがそのそばに集まる。

「少なくともあばらが何本かはいってる。呼吸をするのも辛いはずだ。自力で立てないところを見ると腰か、背骨にも損傷そんしょうがあるかもしれない。あと、左足も折れてるね。あれにはえ木が必要なんだけど…」

「それが…」

 大地が情けない声を出す。

「火を起こそうと思ってキイタと一緒にまきを探したんだけど、この辺、枯れ枝どころかそもそも木が全然生えてないんだよ」

「この岩場じゃ無理もない」

 シルバーが低い声で言う。

「荷物の中に何か変わるものはないかな?」

「探してみる!」

 大地はそう言うとすぐに馬の所にけ寄って行った。

「胸の骨折は、私にしてくれたようにきつくさらしを巻いて…」

「いや」

 シルバーが言いかけるのをアクーが途中でさえぎる。

「口から出血している。折れた骨が刺さったか、あの蛇に潰されたのかはわからないけど、恐らく臓器ぞうき損傷そんしょうしている。圧迫するのはよくない。ガイの顔、見た?右側が大きくゆがんでいる…。あれは頬骨ほおぼねが折られているんだよ。すさまじい力だったに違いない」

 それを聞いたシルバーがスっとアクーに背を向ける。自分の無力さを痛感したアクーがうつむきながら言った。

「まあ、首の骨が折られなかったのが唯一の救い…」

 言いかけたアクーの言葉は、突然起きた大きな音に途中でき消された。ガイのそばにいたココロとキイタ、え木を探していた大地も顔を上げ、音のした方を見た。

 シルバーがうなり声を上げながらさやごと抜き取った自慢の大刀を激しく岩に叩きつけていた。

「シ、シルバー?」

 シルバーの突然の奇行きこうに驚いたアクーがつぶやく。シルバーは一度 にらむようにアクーを見た後、大股おおまたでガイに近づいた。

「やはり、私が残るべきだった!」

 シルバーは心の底から悔しそうにそう叫ぶと、がっくりとガイのそばにしゃがみ込んだ。

「シルバー…」

 鋼の体を持つシルバーならばヒカルの攻撃にも耐える事ができたであろう。それをガイに任せココロを追った自分をシルバーは今更ながらに責めているのだ。

 ヒカルと戦ったのがシルバーであったならここまでの被害はでなかったはず…。それは、ここにいる全員が感じていた。それだけに誰もそれ以上彼に声を掛ける事ができずにいた。

「冗談でしょ…」

 そう言いだしたのは他でもない、傷つき、荒い息を吐くガイであった。

「あのでっかい体をシルバーの剣でちまちま切り刻んでたら、勝負はいつまでたってもつきゃしねえっすよ…。あれは、ウナジュウの能力で一気にぶっ倒すのが正解…。負けない事より、勝つ事を考えなくちゃ…。でしょ?」

「ガイ…」

 大怪我おおけがをした当の本人になぐさめられた形のシルバーは、そう言ったきり言葉を失った。そんなつての上官の顔を見ながらガイは青白い顔をゆがめて笑みを作って見せた。

「大丈夫、俺にはウナジュウがついてる…。こんな怪我けがは、一晩寝てりゃ治りますって」

 強がって笑顔を見せるガイのそばにアクーが近づいてきた。

「確かに、この状況じゃあANTIQUEの力だけが頼りだ。とにかく動かずにじっとしていて。いいね?」

「は~~~~い」

 ガイはおどけるように返事をする。強気な発言を繰り返してはいるが、相当に痛むはずだ。シルバー、アクー、ココロも、キイタも一様に泣きそうな表情でガイを見下ろしていた。

「あのぉ…」

「何だ?」

 遠慮がちな声を出したガイに、シルバーが身を乗り出して優しく聞き返す。

「そう見られてると、寝れないんっすけど」













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