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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
必然デスティーノ
9/97

芽生えた気持ちⅣ

 体育大会もいよいよ最後となり、残りは学年別のリレーを残すところとなった。

  私は横の人に助けられたが、途中で別れた。何とか一人で歩けるようにまでは回復した。

  私がテントに戻ってくると、そこには鈴ちゃんの姿はなかった。もう行ってしまったのだろう。


「ことみぃぃぃぃん!お疲れさまでぇぇぇぇす!!」


  戻ってくるなり、アリスちゃんがハイテンションで出迎える。その背後には、いつも通りのメンバーがいた。


「琴美、おつかれ。体力ないのによく走れたなぁ。」


  と少しトゲがあることを言う愛ちゃん。


「す、水分を、ほ、ほ、補給しないと…ね、熱

 中症にな、なりますよ?」


  と心配してくれる舞ちゃん。


「おつかれ。早くテントに入りなよ。」


  とツンツンしているが、心配してくれる香奈ちゃん。みんな言うことは違ったが、香奈ちゃん以外は笑顔だった。

  私は嬉しかった。体育大会でみんなが笑顔で出迎えてくれるのは初めてだ。まぁ、香奈ちゃんにも笑顔でいてほしかったのだが…


「ことみんことみん!」


  アリスちゃんが私を呼ぶなり私にカメラを見せる。そこには、私と鈴ちゃんが走っている姿が写ってあった。


「ほらほらぁ、こんなにも女の子の二人が全力で走っているぅ!もうたまらないね!!」


  アリスちゃんはよだれをまた垂らしている。口調も変わっている。せめてよだれだけでもどうにかしてほしいと私は思い、ポケットティッシュでよだれを拭き取る。アリスちゃんにそれを舐めてほしいと言われたが、無論そんなことはしない。


 …それにしても、アリスちゃんの写真は本当にすごいな…


  私は水分を摂りながら、アリスちゃんの写真を見ていてふと思った。

  アリスちゃんが撮る写真は本当に素晴らしいものだ。プロの写真家とも争えるぐらいだ。将来は女優をするか写真家として生きていくかで迷っているらしい。

  私は写真を一つずつ見ていく。転けそうなシーンも撮られていた。私は少しムスッとしたまま、次の写真を見た。

  それは、鈴ちゃんが私に抱きついている写真だ。しかも、私が少し笑っている。私自身、笑っていた記憶はない。

  私はその写真を見るなり、顔を真っ赤に染める。手元も少し震えている。

  すると、いきなり香奈ちゃんが私の手をとる。私は驚いてカメラを落としそうになる。


「琴美ちゃん。もしかして…」


  香奈ちゃんは私に詰め寄る。私が鈴ちゃんと抱きつきあっている写真を見て恥ずかしくなっているのがバレてしまったのだろうか。

  私は心臓の鼓動を抑えようとする。けれど、おさまることはない。

 

「もしかして…」


  私はもうダメだと思い目をギュッと閉じる。


「もしかして、痙攣してるの?」


  …ん?


「熱痙攣って、琴美ちゃん知らない?」


  私は「ううん、知らない。」と返事をする。それよりも、気づいていないみたいだ。私はホッとする。


「熱痙攣ってのはね、血液の塩分の濃度が低下して起きるの。お弁当に塩分のあるものがなかったし、さっき水しか摂ってないからそのせいかも。」


  そう言いながら香奈ちゃんは、ポーチの中をごそごそと漁る。ちなみに、香奈ちゃんのポーチは赤色で、所々にラメが入った星マークがついてある。

  香奈ちゃんはなにかを見つけたらしく、ポーチから手を出す。手には飴みたいなものをもっていた。


「これ、あげる。」


  香奈ちゃんに言われるがまま、私はそれを受け取った。色は白い。


「これって…」


  アリスちゃんが何かを言おうとしたが、私はそれを聞かず、それを口にいれる。

  その瞬間、口のなかがしゅわしゅわした。私は驚き、むせてしまう。そのあとに、ほんのりと塩の味がする。


「あぁ、食べちゃったんだ、ことみん…」


  アリスちゃんが遅かったかと言うような顔をして言った。どうやら、被害者は私だけではなかったらしい。


「ことみん。それは塩サイダー味の飴なの。しかも、香奈ちゃんの手作り。」


  なるほど、しゅわしゅわするのはサイダーのせいなのかと私は思う。

  私は香奈ちゃんを見る。そのときの香奈ちゃんの顔は、私を心配しているような顔だった。


「琴美ちゃんも、これダメなの?」


  香奈ちゃんは私に尋ねる。どうやら、アリスちゃんにも同じ質問をしたのだろう。そして、アリスちゃんはこれが好きではないのだろう。

  あとで聞いたのだが、香奈ちゃんは甘いものが好きで、休日はお菓子を作っているらしい。初耳だった。それで、この塩サイダーの飴は試作品らしい。しゅわしゅわを作るために試行錯誤したのだと聞く。

  私はその飴を舐めながら、テントの中にはいる。しゅわしゅわは最初の三十秒ほどで、あとは塩の味しかしなかった。今度一緒にこれの完成品を作ろうと、私は香奈ちゃんに約束した。

 

  運動場では、一年生のリレーの人たちが入場していた。

  その中には鈴ちゃんの姿もあった。私にゴムを貸してくれたため、片方は結んでいない。舞ちゃんとお揃いの髪型になっている。


 …鈴ちゃん、大丈夫かな?


  私は心配をする。そんな私の心境を知らない鈴ちゃんは、私たちがいるテントに向かって大きく手を振る。相変わらず子供っぽいのだが、それが鈴ちゃんだ。


  心配はいらないかな…


  私は少しホッとする。

  鈴ちゃんはアンカーなので、一番後ろにいる。まぁ、どこにいても髪の色でわかるのだが。


「ねぇ、ことみん。」


  私の横にいたアリスちゃんが私に話しかける。私はアリスちゃんをちらっと見る。そのときのアリスちゃんの顔は真剣な顔をしていた。


「りんりん、何かおかしくない?」


  アリスちゃんにそう言われ、私は鈴ちゃんを見る。けれど、特に換わった様子はない。


「気のせいだよ、アリスちゃん。」

 

  私はアリスちゃんに言う。アリスちゃんは「ことみんが言うなら…」と言い安心している。

  けれど…


  少し、心配かも…


  アリスちゃんが真剣な顔をして話すとき、それはあまりないことだ。お昼の時もアリスちゃんらしくないことを言っていた。

  私は鈴ちゃんを見る。鈴ちゃんはリレーに向けて準備体操をしている。どこもおかしいところはない。アリスちゃんの勘違いだろう。

  私がいろいろ考えているとスターターが鳴ったのだった。第一走者は一斉に飛び出すと、それと同じタイミングで各テントから応援が始まった。

  私たちのクラスも走っているので、私たちは応援をする。

  最初は各クラス共に接戦だった。しかし、二走者目になり私たちのクラスがトップになる。それほどの差はない。体一つ分ぐらいだろう。

  そして三走者目に入り、差がひらく。私たちのクラスはダントツの一位だった。まぁ、陸上部二人が出ていることもあるだろう。

  これなら大丈夫だと安心しきっていた時だった。


  私は鈴ちゃんがいるところを見た。すると、鈴ちゃんは心臓の辺りに手を当てていた。そして、かなり苦しそうな顔をしている。

  私の背筋にスゥーと汗が流れる。暑いからではない。走って疲れたからでもない。私の背筋に流れた汗は冷や汗だった。

  私はテントから出ようとしたときには遅く、鈴ちゃんはバトンを受けとって走り出した。練習したかいもあり、驚異的な早さでその差をますます広げる。それを見て安心したが、そんなに甘くなかった。

  鈴ちゃんは運動場のトラックの三分の一にまで差を広げたときだった。急に鈴ちゃんのスピードがダウンする。驚異的な早さで走ったあとなので、ほぼ歩いているように見える。

  鈴ちゃんの急激なスピードダウンに私のクラスはどよめいた。「大丈夫なの?」や「あれ、やばいんじゃない?」などと言った声が聞こえる。


  もしかして、さっきので体力を消費しすぎたのかな?けれど、鈴ちゃんだし、そんなことはないはず…


  私はテントから飛び出し、テントの後ろから走って行く。体力はもうないはずなのに、私は走っている。何故だかはわからない。けれど、何か嫌な予感しかしない。

  そんな嫌な予感が的中したのか、鈴ちゃんはコースから外れて、そのまま校舎に入っていた。私はそれに続く。遅くなっていたので、私でも追い付けるかもと思った。

  けれど現実はそう甘くなく、私は校舎に入ったとたん、鈴ちゃんの姿を見失った。けれど、すぐに道のりがわかった。

  鈴ちゃんの靴が落ちている。片方は校舎に入って右に曲がったところにあった。私はそれを拾って、靴が向いていた方向に向かう。

  すると、校舎の端まで来た。南校舎に行く道と二階にあがる階段のどちらかに行ったのだろう。

  私は考えるまもなく二階に向かう。理由としては、鈴ちゃんが髪につけてあるミカンのゴムが落ちていたからだ。私はそれも拾う。

  二階にあがるとかすかに鈴ちゃんの声が聞こえる。方向はトイレだろう。

  私はトイレに向かおうとするが、二階にあがるったところで体力が悲鳴をあげる。先ほどまで私の体ではないぐらい軽く走っていた。その代償は痛く、意識が朦朧としていた。

  けれど、私は壁にもたれたままトイレへと向かう。向かうにつれ、鈴ちゃんの声は大きくなっていく。何やら咳き込んでいる。

  私がトイレに着く前に、トイレの前にはアリスちゃんと香奈ちゃんがいた。私よりもあとに出たはずなのに何故ここにいるのかが不思議であったが今はそんなことはいい。


「り、鈴ちゃんは、そこに、いるの?」


  私は朦朧とした意識のなか、アリスちゃんと香奈ちゃんに尋ねる。すると、香奈ちゃんが私に近づいてくる。

  そして、香奈ちゃんは私が持っていた鈴ちゃんの靴を持ち、代わりに薬をもらう。何の薬かはわからない。

  私は香奈ちゃんを見る。香奈ちゃんはいつも仏頂面でたまに笑うが、悲しそうな顔をしているのは見たことがない。トイレの前にいるアリスちゃんも落ち込んだ顔をしている。

 

「ことみん。なかに入ってもいいけど覚悟は決めといて。」


  アリスちゃんのその一言で、香奈ちゃんは涙目になった。感情を表にあまり出さない香奈ちゃんが初めて泣いたのを私は見た。

  私は壁にもたれたままトイレに入る。アリスちゃんは香奈ちゃんを泣き止まそうと、香奈ちゃんをぎゅっと抱きしめている。

  私が中に入ると、鈴ちゃんは苦しそうな顔をしていた。それは本当に苦しそうな顔だった。鏡から反射して見える。


「り、鈴ちゃん?」


  私が鈴ちゃんの名前を言うと、鈴ちゃんは振り返る。そのときの鈴ちゃんの顔色は青かった。


「どうしたの、琴美ぃ…。こんなところに来てさ?」


  鈴ちゃんは笑顔をつくる。けれどその笑顔とは裏腹に心臓をおさえている。

  私は香奈ちゃんから薬を貰った意味をやっと理解する。

  鈴ちゃんは私が持っている薬を見るなり、手を開いて私につき出す。その手はかなり震えている。

  私は鈴ちゃんに薬を渡す。渡したとたん、鈴ちゃんは勢いよくその薬を口にいれ飲み込む。薬を飲み込んだ鈴ちゃんの顔色はまだ青いが、先ほどよりかは色が戻っている。

  外からは香奈ちゃんが泣いている声が聞こえてくる。


「ねぇ、鈴ちゃん…。」


  私は鈴ちゃんに思いきって話すことにした。


「鈴ちゃんは…何か悪い病気なの?」


  鈴ちゃんのこの状態、香奈ちゃんに渡された薬を勢いよく飲み込む鈴ちゃんの姿、そして、感情を表にあまり出さない香奈ちゃんが泣き出す姿…

  もう、これしか考えられなかった。鈴ちゃんは悪い病気なのだと。

  私の質問を聞いた鈴ちゃんは、一瞬固まってしまうがそのあと笑った。


「病気じゃないよ…ただのパニック障害。」


  パニック障害…


  私はその障害を知っている。中学の時に、私のクラスに一人同じ障害を持つ子がいた。

  けれど、今までそんな素振りは見せなかった。いや、意図的に見せなかったのだろう。私を心配させないように、鈴ちゃんは頑張ってきたのだろう。


  私の…ために…


  鈴ちゃんはそう言い、笑顔で話題を切り替えようとした。


「けど…ごめんね、琴美ぃ。トップで戻って来られなくて…約束、したのにね…」


  鈴ちゃんは笑いながらそう言う。私はその笑顔を見るなり私のなにかが切れてしまった。


「無理しないって言ったじゃん!!」


  私は下を向いた状態でついつい大声で言う。鈴ちゃんは少し驚いたような顔をしている。


「最初は鈴ちゃんには一位で戻ってきてほしくなんかなかった。キスなんてしたくなかった。けど、あんなに練習しているのを見たら…私は鈴ちゃんが一位で戻ってくるところを見たかった。鈴ちゃんがゴールする瞬間を見たかった。鈴ちゃんが一位になって喜んでいるところを見たかった。けど…けど、約束したでしょ?無理はしないって。鈴ちゃんもわかったって言ったよね?何で?何で無理したの?私のために走ってくれるのは嬉しいよ。嬉しいけど…けど…」


  私は鈴ちゃんに話ながら、目から涙が出ていることに気づく。それは一つだけでなく、ポロポロと頬を伝っていく。涙が落ちていく。


「けど私は、無理して走ってなんかほしくない!無理するぐらいなら、最初から走らずにいてほしかった!」


  私は鈴ちゃんを見る。鈴ちゃんは私の泣いている姿を見て、目元がうるうるし始めた。


「鈴ちゃんが家に帰ってからずっと練習していたのも知ってる。さっきまで屋上で練習していたのも知ってる。鈴ちゃんが私のためにたくさんの努力をしてきたことも知っている。知っているけど、もっと自分を大切にしてよ!私なんかのために走ってくれなくても構わないよ!私はただ…私は…」


  私は鈴ちゃんの目元から流れた一滴の涙を指ですくいとる。そして、鈴ちゃんに笑顔を向ける。


「私は、鈴ちゃんのその気持ちだけで充分幸せだから。」


  鈴ちゃんは感情が高まったのか、目から大量の涙がこぼれでた。かわいい顔が台無しだ。


「ご、ごめんね。ごめんね、ごとみぃ。」


  鈴ちゃんは泣きながら私に謝る。


「私こそ…私こそごめんね、鈴ちゃん。」


  私も鈴ちゃんに謝る。謝ったあと、私は号泣し始めた。それにつられたように、鈴ちゃんも号泣し始める。

  そして、私は無意識に鈴ちゃんを抱きしめた。鈴ちゃんも無意識に私に抱きつく。そして、お互いの名前を呼びながら私たちはお互いに謝り続けた。

  その間、涙は止まることはなかった。




  三年生のリレーが終了した頃に、私たちは泣き止んだ。体操服はびしょびしょになっている。汗がたくさん流れたわけではない。涙によって濡れたのだ。

  私はもういいだろうと、鈴ちゃんから離れる。鈴ちゃんの目元が少しだけ赤く腫れている。

  鈴ちゃんは小さく息を吐き、口を開いた。


「私にこの症状が起きたのは、つい一年前かな?今は昔ほどは酷くないけれど、それでもやっぱりきついかなぁ…なぁんてね。」


  鈴ちゃんは明るくそう言うが、それが大変なことは私も理解している。

  私は鈴ちゃんに尋ねた。


「どうして、今まで言わなかったの?」


  私の質問に鈴ちゃんはすぐに返答した。


「迷惑かなって思ったの。本当はね、琴美に会った日に言おうとしたんだけど…」


  鈴ちゃんはそう言い、また涙を流している。


「けど…琴美と琴葉ちゃんと一緒にご飯食べたとき、とても嬉しかったの。それで…言いづらかった。こんな幸せな状況で話す内容じゃないと私は思ったの。」


  鈴ちゃんは鈴ちゃんなりに色々と考えているのだと、私は思い、胸が痛くなった。


「いつか、いつか話そうと考えていたら、あっという間に一ヶ月が過ぎて…言えなかったの。」


  鈴ちゃんは右手に拳を作っている。後悔しているのだろう。

  私は鈴ちゃんのその右手を両手で包んだ。鈴ちゃんが手を見たあと、私を見る。


「迷惑だなんて…私こそ、いつも鈴ちゃんに冷たくして…鈴ちゃんの気持ち、わかってあげられなくて…」


  ごめんねと続けて言おうとしたが、また泣きそうになる。あんなに泣いたのに、まだ出るものがあるみたいだ。

  鈴ちゃんは少しムスッとして、私に抱きつく。いつもの私なら、無理にでも剥ごうとする。

  けれど今だけ、私は鈴ちゃんの言うことを聞こうと思った。


「琴美が冷たいのはいつものことだよ。別に気にしていないよ。」


  鈴ちゃんは私に抱きついたまま言う。そして、鈴ちゃんは私に詰め寄った。


「けどね…私も私なりに、我慢していたからさ…」


  鈴ちゃんは唇を私の唇に近づける。その動作でキスがしたいことがわかる。


「…アリスちゃんたちもいるんだよ?」

「…大丈夫だよ。」

「本当に今、したいの?」

「今じゃないと、気持ちがおさまらないよ…」


  私の問いに鈴ちゃんは即答であった。私はキスはしたくはない。けれど、本当に今だけなら、鈴ちゃんの言うこと聞いてあげられる。

  私は鈴ちゃんから貸して貰ったゴムをのけて髪をほどく。けれどハチマキだけは一向にとれる気配がなく、そのままにしておくことにした。


「琴美ぃ…」


  鈴ちゃんの甘い声に反応した私は、自ら鈴ちゃんの唇に私の唇を重ねた。

  これにはさすがの鈴ちゃんも驚いたが、すぐに私を受け止めてくれる。そして、鈴ちゃんは当たり前のように舌を絡めた。鈴ちゃんの舌から、ほんのりとスポーツ飲料の味が伝わってくる。甘くて少しだけしょっぱい。

  私の両手が鈴ちゃんの両手を握る。握るとすぐに、鈴ちゃんが握り返してくれた。私よりも小さい手だが、私よりも温かい。


「ンッ…り…ん……ンッ…ちゃ………ンッ…」


  私はキスしながら鈴ちゃんの名前を言う。けれど所々、声が漏れている。外にいるアリスちゃんたちには多分バレているだろうが、今は鈴ちゃんとの時間を大切にしなくてはいけない。

  私はその後も鈴ちゃんの名前を呼ぶ。鈴ちゃんも次第に私の名前を呼び始めた。鈴ちゃんは私よりも伸長は低いが、私がキスするにはちょうどいいぐらいの伸長た。

  私はそろそろ限界を感じ、鈴ちゃんの唇からはなれようとする。けれど、鈴ちゃんは止めることなく、舌を先ほどよりも絡ませる。

  私は後ろに下がろうとするが、意識が朦朧としていたときに壁にもたれたまま移動したので、後ろが壁だったことに気づく。

  私は鈴ちゃんの手を離し、鈴ちゃんの肩に手を当てて引き離した。


「鈴ちゃん…もういいでしょ?」


  私は息を整えながら言う。そして、少しむせる。鈴ちゃんの唾液が喉を通り、少し気持ち悪かった。鈴ちゃんの唾液が私の口の中から少しだけ出ている。

  鈴ちゃんは私を見て、私の首筋から流れていた汗をなめる。私は鈴ちゃんの舌を肌で感じ、びくりとする。

  鈴ちゃんは私の汗をなめると、二歩後ろに下がった。


「琴美の舌、少ししょっぱかった…」


  理由はわかる。香奈ちゃんの飴だ。塩の味しかしないときのほうが長かったからであろう。

  私は息を整え終わる。その時、私は我に帰った。そして、自分が先ほどまで行っていた行為に私は恥ずかしくなる。


「りりりり、鈴ちゃん!ごごごごめんね!わわわ私、自分自身何したか今思い出して!きき、キスを強要しようとしたしぃぃぃぃぃ!」


  私は完全に取り乱している。恥ずかしさのあまり、私は今すぐにでも死にたかった。ちょうどトイレには人が通り抜けできそうな窓がある。そこから今すぐにでも飛び降りたい。

  鈴ちゃんは私が我に戻り、動揺している姿を見て呆然としていた。無理もない。

  すると、鈴ちゃんはクスッと笑い、また私に軽く唇を重ねた。先ほどよりもとても短いが、先ほどよりも唇の感触がわかりやすく伝わる。

 

「大丈夫だよ、琴美。それに…ありがとね。」


  鈴ちゃんと私の顔の距離は、およそ十センチほどだったため、鈴ちゃんはまた私に顔を近づける。

  私は我に戻ってるのでかなり拒絶したのだが、鈴ちゃんは目を閉じたままだ。

  私は拒絶するのをやめ、鈴ちゃんの唇に私の唇をまた重ねたのだった。

  外からは閉会式のアナウンスが始まった。

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