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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
志抱くコンフェッション
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好きだから Ⅴ

 咲ちゃんと謎同盟を結んだ翌日のお昼休み。一人第二校舎の職員室から戻っている最中、食堂から出てきたお下げに戻っている珠穂ちゃんと晴ちゃんにばったり出会った。昨日のこともあり珠穂ちゃんはすぐ晴ちゃんの後ろに隠れてしまい、代わりに晴ちゃんがぺこりと頭を下げる。


「先輩、今日は一人なんですか?」

「今はね。ちょっと他校舎の先生に用事があってね。みんなは多分、教室で討論してるはず。」


「討論、ですか。」と不思議がる晴ちゃん。私の周囲ではごく希に討論会が突如として開かれるのだが、毎度毎度くだらない題材で討論している。過去に行われ討論内容はアイスを食べるタイミングは開けてすぐか半溶けになってからか、お風呂は入浴が先か身体を洗うのが先かなどである。だが正直、どれも個人の自由なので討論するべき内容ではない気がする。もちろん私は、まだ一度も参加したことはない。


「…ねぇ晴ちゃん。少しの間、珠穂ちゃん貸してもらってもいいかな?お昼休みが終わる前には教室に返すから。」


 私のお願いに一度珠穂ちゃんの様子を確認した晴ちゃんは、「構いませんよ」と言って珠穂ちゃんの前から離れる。剥き出しになった珠穂ちゃんは再び晴ちゃんの後ろに隠れようとするが、その晴ちゃんは逆に私の後ろに隠れてしまう。悲しそうな表情を浮かべる珠穂ちゃんはまるで親とはぐれた子どものよう。とはいえ…。


「出来れば、晴ちゃんは先に教室に戻ってくれると嬉しいな。」


 きっと晴ちゃんがいた方が珠穂ちゃんは話しやすいのかもしれない。けれどこの話に限っては、むしろ晴ちゃんはいない方が本人のためでもある。


「…水瀬先輩の件、ですか。」


 私の耳元で囁く晴ちゃんに小さく頷くと、少し間を空け「分かりました」と教室の方へと戻っていった。その背中を寂しそうに見つめる珠穂ちゃんは今にも泣き出しそうに顔を歪めていた。とはいえこれは珠穂ちゃんのためでもある。


「…とりあえず、場所移そっか。」


 私は珠穂ちゃんの手を握ると、人の多い食堂から少し離れたベンチに座らせた。食堂から距離があまり離れていないとはいえ、食堂に比べると圧倒的に人の数は少ない。私にも珠穂ちゃんにも良い条件と言える。


「急に連れ出したりなんてしてゴメンね。ちょっと話したいことがあってさ。」


 怯える珠穂ちゃんをどうにか落ち着かせようと優しい口調で話しかけるも、一向にこちらを向いてくれない。それもそうだ。私はまだ直接、珠穂ちゃんと話したことは一度も無いのだ。…いや、話しかけてはいるが、珠穂ちゃんが相手をしてくれない、というべきだろうか。


「…私もさ、珠穂ちゃんみたいに女の子に恋をしてて、恋人として付き合っているんだ。」

「…本当、ですか。」


 私の一言に反応してくれた珠穂ちゃんはこちらに顔を向けると、先ほどまでの子犬のような瞳は消えていた。


「うん。名前は言えないけど、付き合っているのは事実だよ。」

「…私その、咲先輩のことが…。」

「知ってるよ。昨日あれだけのモノ見せられたら、知りたくなくても知っちゃうよ。」


 私の余計な一言に顔を真っ赤に火照らしてしまった珠穂ちゃんは、再び今にも泣き出しそうに顔を歪める。しかし咄嗟に弁解したのが幸いで、珠穂ちゃんはすぐ落ち着きを取り戻してくれた。…晴ちゃんがこの場にいた方が、もしかすると楽だったかもしれない。


「…それで、先輩はその…。こ、告白したんですか。」


 珠穂ちゃんからの初めての質問に嬉しさを感じつつも、私は「したよ」と簡単に答えた。


「けど最初は、相手の方からしてくれたの。夏の、夕焼けが綺麗な海辺でね。」


 今でも目を閉じれば、あのときの状況が鮮明に再生される。「恋人にならない?」と口にした鈴ちゃんの意を決した眼差し、モヤモヤしていた気持ちが晴れた瞬間、私が、鈴ちゃんの告白に「いいよ」と答えたこと。


「その子は私の答えに涙を流してくれたの。けど話せない時期が続いて別れそうになって、話さなきゃって思った私がその時に告白して、正式に付き合うことになったの。」

「だからさ、もし咲ちゃんに何も話していないのなら、私はちゃんと咲ちゃんに話した方がいいよ。そうするだけでも気持ちは…。」

「…です。」


 珠穂ちゃんが何か口にしたのだが最後の部分のみしか聞き取れず、私は言い直してもらおうと口を開いた。が、


「何度も告白したんです、咲先輩に好きですって。最初は好きすぎて気狂いしそうですって告白して、二回目は咲先輩が可愛すぎて吐きそうですって告白しました。三回目はどストレートに言いました。好きです付き合ってください一生愛しますって。で四回目は…。」

「待って待って。いったん落ち着いて。」


 どうやら珠穂ちゃんのスイッチが入ったらしく、告白内容を公の場だというのに一つ一つ私に興奮気味に話してくれた。人が少ないのが幸いであったが、これが食堂前とかであれば自ら公開処刑を招いていただろう。


「とりあえず、珠穂ちゃんは咲ちゃんに何回ぐらい告白したの。聞いただけでも、結構な数になると思うのだけど…。」

「しっかりと告白したのは八回で、以外は四十一回です。」

「…ってことは四十九回も咲ちゃんに告白したの!?」


 これがもし事実であれば、異常な回数である。どれだけ打たれ強い人だとしても、そこまでの数をこなして振られれば傷つくものだ。


「本当にそれだけ告白したの?」

「もちのろんですっ。だって私は、咲先輩と毎日同じ空間で暮らして愛しているって言い合いたいんですよぉ。それで、おでこにチュチュしてもらいたいんですっ。」


 鈴ちゃん同様、下心(?)満載である。


「そもそも私は、咲先輩に忠誠を誓っているんです。咲先輩のためなら、例えこの身が朽ちようとも傷一つ付けさせません。」

「それはきっと、咲ちゃんでも求めていないと思うよ。」


「何でですか」と頬を膨らます珠穂ちゃん。いやむしろ、どう解釈すればそのとうな考えになるのかが不思議でたまらない。


「そういえば、どうして珠穂ちゃんはそこまでして咲ちゃんと付き合いたいの?」

「どうしてって、好き以外に何か理由って必要ですか?」


 ー好きになるのに理由を求める気持ちは分かるし、私だって昔はそうだった。けれど理由なんてなかったの。その子が好き、それだけが答えで、それがたまたま女の子だっただけ。きっとみほるんも、さほど明確な理由なんて無いと思うよ。ー

 ー誰かを好きでいる理由なんて、とても単純で当たり前なことなんだよ。ー


 瞬間、私の脳裏には昨日のアリスちゃんの言葉と、千夏ちゃんとの過去を話した際の鈴ちゃんの言葉が蘇ってきた。鈴ちゃんやアリスちゃん、それに珠穂ちゃんにとって付き合いたい理由、付き合っている理由は例え何であろうと結局はその人を愛しているから、好きだからに行き着くのであろう。


「それに咲先輩のご家族の方には負けますが、それを除け私はきっと、この世界で誰よりも咲先輩のことを愛しています。つまり私は、咲先輩と付き合うべきなんですよ。」

「後半は訂正した方が身のためだよ。」


 だがやはり、スイッチが入ってしまった珠穂ちゃんの考えはお世辞にも「普通」とは言えない。


「…それとさ、珠穂ちゃんってどっちが素なの?いつもはその凄い大人しいのに、咲ちゃんのことになると急変するじゃん?」


 すると珠穂ちゃんは数秒のフリーズの後、まるで熱があるかのように顔を赤らめては、その顔を両手で覆い隠してしまった。


「私その、じ、自分の好きの何かを話すか、聞くと、素に、戻っちゃうんです。」

「…ってことは、さっきまでのが素なの!?」

「その、私の気狂いさが、他人を不愉快にしてしまって、それで、この性格に…。」


 一応自身の発言が危険であることは理解済みらしい。そしてそれが素であること、本日一番の驚きである。


「…おかしい、とは思ってます。自分の、素の性格が…。」

「そんなことないよ。私も自身の好きなことについて話を聞いているとすごくいい気分になるし、話している時なんて言葉にならないよ。それが恋人なら尚更。」


 とはいえ、素の珠穂ちゃん(あそこ)まではいかないが、まぁ鈴ちゃんであればそうなっているのかもしれない。


「だから珠穂ちゃんは胸を張って、素の自身をさらけ出してもいいと思うよ。」


 私が言えたような立場でないことは分かっているし、それこそ鈴ちゃんやアリスちゃんの方が説得力はあるだろう。けれど本当の自分を見せられていなかった私だからこそ、珠穂ちゃんに言えることだってある。

 珠穂ちゃんは私の目を見たまま動かなくなると、数秒後に勢いよく立ち上がり数歩前に歩き、こちらにくるりと振り返った。


「ありがとうございました、先輩。おかげで私、自信がつきました。」

「ううん。私こそありがとね。改めて、あのこの子のことが大好きなんだって分からしてくれて。」


 ぺこりと頭を下げた珠穂ちゃんは私の目の前でウィッグを取り外すと、側にあった燃えるゴミに「これが自信が付いた証です」と伝えるかのように勢いよく放り込んだ。証明として私に見せつけたのはいい考えではあるが、捨てられたウィッグの入ったゴミ袋を処理する人の気持ちを考えれば良いとは言えないだろう。そんなモノが入っているとは、ゴミ処理の方も想像していないだろうし。

 などとは意思表明をしてくれた珠穂ちゃんには言えず、彼女が立ち去ったのを確認してから私は、もう少し奥の方へとウィッグを押し込んだ。勿論ゴミ袋に手を突っ込んでしまったので、お手洗いで入念に手を洗ってから私は自教室へと戻っていった。


 ******


 出会って間もない頃、私にとって先輩は憧れの対象だった。困っていた私を、先輩は自身を代償に私を助けてくれた。けれど痛そうな顔一つせず、腰を抜かした私に声をかけてくれた。そしてボロボロの手を気にすることなく、私を家まで送ってくれた。ただ身長が小さい私は様々な人に子ども扱いをされ、この先輩も結局は私を()()()()()()でしか見ていないと決めつけていた。

 結論から言うと、先輩は私のことを今でも子ども扱いしている。だけども私は、先輩からの子ども扱いを嫌だとは一度も感じなかった。

 先輩は私を子ども扱いすると同時に、私を一友達として気安く接してくれた。そんな先輩に甘えてしまい、先輩についての様々な秘密を知ってしまった。そしてそれが、先輩に対する親近感が湧いたことによって、いつしか憧れが好きに変わっていた。

 我慢を知らない私は先輩に告白するも当然の如く玉砕。けれど諦めることなく、私はアプローチをし続けてきた。先輩がいるという理由だけに入学したが進展することは一度も無く、気付けば一ヶ月が経っていた。

 だけどまだ一ヶ月。先輩がいなかった一年間のことを振り替えると、一ヶ月などまだまだ諦めるには早いというものだ。それにそんなことで諦めてしまうほど、私の先輩への愛はやわじゃない。私はこの一年、先輩に会うために努力してきた。それを一ヶ月で諦めるなど早すぎる。

 この高校生活の中で咲先輩を振り向かせることができるのかは分からないけれど、私は例え振り向いてくれなくても先輩に気持ちを伝えていく。どれだけ拒まれても、私は決して諦めない。そのぐらい、私は咲先輩のことが好きだ。

 待っていてください先輩。今から愛を伝えに行きますっ!



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