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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
必然デスティーノ
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甘い恋に一言をⅡ

今年のバレンタインは土曜日で且つ補習がないという偶然が重なったため、私と鈴ちゃんはデートをすることが出来た。鈴ちゃん曰く正確には、私の誕生日祝い&初外出デート祝いらしい。ネーミングセンスと鈴ちゃんの誕生日祝いが入っていないことが気になるところだが、これでいいのと鈴ちゃんはこのダサいデート名を変えようとはしなかった。分かりやすいけど。


ーそうなんだよね。文化祭デートを外出デートって言わないから、恋人になってから、鈴ちゃんとの二人きり外出デートはしたことなかったんだっけ。ってことは、鈴ちゃんとのデートってかなり久しぶりだってことよね。ー


揺れる電車内にて手すりを掴んだ状態でバランスを保ちながら、私はラジオを聴きつつそんな事を考えていた。鈴ちゃんのお願いということで外で待ち合わせることとなっており、こうして一人でいるわけだ。まぁその方が、こちらにとっては好都合ではあったが。

ガタンと電車が大きく揺れ少しバランスを崩してしまった私の指先が隣にいたスーツ姿の男の人に触れてしまい、思わず手を引っ込める。それによって、かけていた薄茶色が基調であるショルダーバッグを落としてしまった。慌てて男の人に頭を下げた私は落ちたバックを拾い上げ、中に入っている小包を確認した。視界には先程ぶつかってしまった男の人が私に話しかけていたが、動揺で取り外し忘れていたイヤホンからの音量に勝るはずがなかった。イヤホンを付けていたことに気付くのは、少しあとのこととなる。

至った傷がなかった小包を見て、つい安堵の息を漏らしてしまう。何せ鈴ちゃんへの贈り物だ、傷一つ付けぬよう厳重の管理が必要不可欠となる。


ー鈴ちゃん。喜んでくれると嬉しいな。バレンタインだから分からない程度にチョコ入れてるけど、鈴ちゃんにとっては胃の中に入れば何でもいいはず。…でも、少しぐらい、喜んでくれれば。ー


小包に向けて微笑んだ私は慎重にショルダーバッグの中にしまいこみ、再び手すりを掴んだ。

小包の中身はわかっていると思うが、鈴ちゃんに贈るバレンタインプレゼントだ。先日作ってあげると口にした私は、鈴ちゃんが寝静まったのを確認し深夜にこそこそと作成し、当日である今日の朝四時過ぎに作り終えた。

一切チョコを使用しないクッキーのようなお菓子を作っても良かったのだが、バレンタインにチョコを使用しないことに何故だか罪の意識を感じてしまい、隠し味程度に使用してしまった。味見はしたものの、鈴ちゃんの明確な甘さ基準がわからない以上は現在わかってある唯一の情報であるチョコレート以下の甘さにしなければならなかった。

小さいあくびを手で抑え、涙を拭った私はバックの外ポケットに入れてある携帯を取り出し時間を確認する。現時刻は十時八分。今日のデート場所の集合時刻は十一時で、その一時間前となる。

早すぎると私自身も思ったが、鈴ちゃんは更に早く、八時に目覚めた私の枕元に「先に行ってるね」と簡潔な置き手紙が残されていた。一体何を企んでいるのやら。


ーでも…遊園地デートかぁ。遊園地なんて何年ぶりだろ。鈴ちゃん、絶対に変な帽子とかサングラスみたいなの買うだろうな。絶対可愛いに決まってるじゃん。ー


一人でいることを忘れてしまっていた私は変な帽子と変なサングラスをかけた鈴ちゃんを妄想するなり、つい笑みを漏らしてしまう。この妄想スイッチが最近では自動で付いてしまうことがあり悩みのたねであるが、治そうとは一切考えたことない。

周囲の痛い目線が若干気になるものの、数分で遊園地の最寄り駅に着いた。少し早足気味で電車から出た私は切符を車掌さんに渡すと、すぐそこにある駅の待合室のようなところに行き鈴ちゃんに電話をかけた。


「「…もしもし?どうしたの琴美?」」


五回ほどコールが鳴った後、鈴ちゃんの少し疲れたような声と、それとは別に鈴ちゃんがいる周辺のガヤガヤとした声が聞こえてきた。遊園地の開演時刻は十時のため、既に鈴ちゃんは遊園地にいるのだろう。


「あ、鈴ちゃん。私最寄りの駅に着いたんだけど、今何処にいるの?」

「「着いたって、まだ集合時刻の一時間前なんだよ。早すぎるじゃん。」」

「それ言ったら鈴ちゃん。八時前に出ていく方が早すぎるよ。あんまり理由については問いたださないけど、今度からは置き手紙じゃなくて私に一言伝えてからにして。心配するでしょ。」

「「琴美、お母さんみたいだね。…わかった。今度からはそうするね。」」


わりとあっさりした鈴ちゃんの反応に不安を抱きつつも、私は話を続けた。


「で、話し戻すけど、今鈴ちゃん何処にいるの?遊園地?それとも別の場所?」

「「遊園地だよ。入り口付近の青色の熊の前にいるよ。」」

「青色…。あぁここら辺ね。わかった。あと二十分ぐらいで着くから、寒かったら室内にいてね。着き次第また電話するから。」

「「わかった。待ってるからね、琴美ぃ。」」


へへっと笑った鈴ちゃんが電話を切ったのを確認すると、私も電話を切り携帯をしまいこんだ。


「さてと…。どうやって行こうかな。」


独り言を呟いた私はバスかタクシー、もしくは徒歩の三つの中から移動手段を考えるも、この場で決めてもと思い、とりあえず、私は駅のホームから出ることにした。

休日のバレンタインともなるとやはり周囲はカップルが多く、現状お一人様の私は肩身が狭い。その合間を掻い潜りつつ、気が付けば私の頬に冷たい風が刺さっていた。外は晴天だが、先週よりも気温は寒く、手袋なしでは少しきつい。

マフラーで口元を覆い隠した私は、黒タイツに少し違和感を感じるも、出発しそうなバスを見つけそちらに向けて走って向かった。


******


寒いから室内にいてと琴美に言われたが、私は従うことなく一人青色の熊の前のベンチに座っていた。春がもう目の前だとういうにも関わらず、冷たい風が私を包み込み、拭ききれていなかった水滴が指の感覚を奪う。例え防寒対策をしてようと、それらが私に寒さを与える。

それでも私は手に息を吐きながら、琴美の到着を待つと共に、昔の事を思い出していた。


「ここに来るの、何年ぶりなんだろ。最後に来たのは確か、引っ越す前だったかな。」


向こう際に建ってある時計台に視線を動かすと、昔の思い出が頭の中で再生され始めた。親に連れられた私たちが、あの時計台で仲良く写真を撮られている思い出だ。私は今と変わることなく琴美をぎゅっと抱きしめており、今となっては少々照れている琴美だが、この頃はとても嬉しそうにしていた。

私が目を擦ると時計台には幼い私と琴美の姿は消えており、変わりに二人の女子高生がキスをしながら自撮りをしていた。それを見るなり咄嗟に視線を戻した私は、手をソッと胸の辺りに当てる。ドキドキしているのは、琴美とのキスを思い出したからだ。


ー琴美。ー


琴美の誕生日であった日以降、琴美からは昔のような空気が徐々に現れていた。抱きしめると少し抵抗のある顔をしていたが、たまににこりと笑ってくれることがある。あれほど嫌そうだったキスも、今では慣れつつある。

だがその変化に、私は素直に喜べていなかった。琴美が私色に染まっていく喜びよりも、それが琴美を傷付ける罪悪感が圧倒的に高いからだ。

琴美が私に染まるということは、琴美が私に傷付けられと同じ事。だから私は、誕生日前までの柊琴美であって欲しかった。にも関わらず、琴美に対する欲望が日に日に増し続け、それを琴美で発散しなければならない身体へとなっていた。

琴美と毎日イチャイチャしたい感情ともう傷付けたくない感情が複雑に混ざり合い、琴美に会うたびにいつも心臓が破裂しそうであった。

朝駅で買った水のペットボトルを開け喉を潤し、開けっぱなしのまま私の側に置く。途端、ぶわっと強風が吹き荒れ、ペットボトルは私がいる位置とは反対の方へパタリと倒れた。


ーあ、やばっ。ー


急いでペットボトルを元に戻すが、やはりだいぶ中身が溢れていた。そこまで飲んでいないこともあり、「はぁぁぁ」と盛大なため息を漏らしてしまった。


ー…琴美、まだかなぁ。早く会いたいし声も聞きたいよ。触れたいし嗅ぎたいし…キスしたい。ー


まだ二十分も経っていないことを知っている私だが、もう我慢の限界であった。

遊園地(ここ)に来てからはまだ三十分も経っていないが、朝から数えるとおよそ三時間も琴美に会っていない。休日のほとんどの時間を琴美と一緒にいたこともあり、幾ら違うことを考えても、脳から琴美の姿が離れないといった禁断症状が私の身に起きていた。

そして気付いたときには、私は琴美なしでは生きられない身体にへとなってしまっていた。

携帯を取り出した私はアルバムを開け「琴美♡」と書かれたフォルダーを人指し指の先で軽く押した。説明する必要はないとは思うが、フォルダー内には琴美が夕食を作っている姿や居眠りしている姿、お風呂から出た姿など実に百枚ほど保存してある。そのほとんどが盗撮だが。

そして、その中で一番のお気に入りが…。


「…琴美ぃ。」


キスをする形のまま眠っている写真だ。約二ヶ月前に撮ったものであり、確かクリスマスシーズン辺りの晩に撮ったもので、琴美には内緒だが私は欲求不満の際は、この写真に向けてキスをしている。

そして今日も、私は写真越しに彼女に口づけた。本物と違い固くて冷たく、全く琴美とキスした気にはなれない。けれど「今琴美にキスしているんだ」と思えば、画面越しでも私の心は熱くなって…。

画面から唇を遠ざけた私は、しばらく目眩のような陶酔感に浸ったあとソッと携帯をベンチに置き空を見上げた。晴れた日が好きな私が正直に嬉しがれないのは、きっと琴美への愛が邪魔をしたからだろう。


「琴美…。」


胸に手を当て、私は小さな声である歌を口ずさんだ。あの日、私を助けてくれた女の子が歌っていた歌を…。

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