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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
必然デスティーノ
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Thinking of you with love at Christmas.

香奈の住むマンションに入ったのは何度もあるが、その度に私は平常心でいることを心がけてきた。無防備な姿で眠っていたとしても、下着が丸見えで寄り添って来たとしても、私はムラムラした気持ちを圧し殺し、平常心を保っていた。どんな状況でも、どんな姿でも、私はいつも耐えていた。

しかし、耐えれば耐えるほど、香奈への欲求は治まることなく、いつしかこんなことをしなければならないほど、私は香奈に堕ちてしまっていた。

最初は興味本位でやっていたのが、香奈への欲望が高まる度に、こうしていないと落ち着かなくなっていた。やった後の悦楽と無気力になるあの瞬間は未だ慣れないが、別に慣れたくもない。


「~~っ!!っはぁ…。はぁ…。こんなことで気持ちを押さえ込むなんて、どれだけ私馬鹿なのよ。」


体に気持ち悪さと指先に違和感、それに心の罪悪感を残したまま、浴槽から出るとお湯を抜き、一度シャワーを浴びお風呂場から出る。長時間液体に浸かるのが幼い頃から苦手で、出る際もシャワー等で洗い流してから出るようにしている。故に、海は正直苦手である。

ことみんたちと海に行く話になった時、どうしようかと思っていたが、苦手な素振りをしなかったため耐えることができた。


だが、シャワールームにて長時間シャワーを浴びていた。


お風呂場から出ると、洗濯機の上に真っ白のバスタオルと小さめのタオルが置かれてあった。私が準備したものではなく、香奈が準備してくれたのであろう。入浴中、外が少し騒がしかったのもそのせいだろう。

バスタオルを手にした私は体の水滴を全て拭き取り、畳んで洗濯機に放り込む。特に意味はないのだが、昔からよくこうしていたため、いつの間にか癖になってしまっている。

後日、この事をまいたんに話したところ、止めておいた方が良いですと言われ、近々直そうと決意した。何しろ、汚れが少し落ちにくいらしい。

髪を拭く小さめのタオルを手にすると、爽やかな香りとシャンプーの香り、そして香奈の残り香が香ってくる。そのタオルに顔を埋めた私は、香奈の香りを荒い息使いで摂取した。気持ちを抑えるための行為だが、私ですら変態だなと思っている。

気分はとっても最高だが。


ーはぁ…。香奈ぁ…。香奈ぁ…。あぁ香奈ぁ…。好き、大好きだよぉ…。ー


タオルを嗅ぐ私は、自然と手が太ももを触れていることに気付くのが少し遅れた。ハッと顔をタオルから出し、惜しみつつも香奈の香りがするタオルを洗濯機に入れ、白のレースパジャマを着用する。いつもならばパーカー付きのモコモコパジャマなのだが、香奈のマンションには夏以来来ていないため、冬用のパジャマがなかったのだ。

ただ、お風呂から出たばかりのため涼しいのはありがたかった。色々な意味で。

髪をドライヤーで乾かしお団子ヘアにまとめると、私は香奈のいるリビングへと向かった。

リビングの戸を開けると、中からはテレビ番組の音声が耳に入ってきた。深夜帯の番組は見たことも出演したこともなく、少し新鮮さを感じた。

時刻は一時七分。つまり日付が変わり、待ちに待ったクリスマスデーになっていたわけだ。お風呂に向かう前には変わっていたが。

ソファーから出ている香奈の頭を確認すると、私は香奈の肩に頭を置き、後ろから抱きついた。


「香奈ぁ、お風呂出たよぉ。ねぇ、今から何見る?宅配ピザもジュースだってあるんだから、朝まで遊び三昧だよ。それに明日は日曜日だし、仕事も学校もない。まさに遊べってことだよ。」


ユサユサと香奈を揺らす私だが、少し違和感を感じた。いつもならば、「わかった。わかったから離れて。」や「夜更かしは体に毒だよ。」などと何らかの台詞を吐いてくる。

しかし、今日はいつまで経ってもそんな台詞を吐く様子はなく、ただ無言のままであった。その静かな間が、私の気分を狂わせる。


「…ちょっと香奈。少しは反応してよ。寂しいじゃん。」


肩から顔をあげた私は香奈に眼差しを送る。すると、香奈は敢えて反応していないのでなく、寝ていることに私は気づいた。寝息をたてている香奈の口の端には、私がお風呂に行っている間に食べたであろうピザ生地の欠片が残っていた。


「…香奈。」


鳴り響くテレビはちょうどコマーシャルに入り、陽気な音楽と共にアルコール飲料の紹介が始まった。それを横目で見た私の頭の中を、最低な考えが過っていく。


ーお酒で酔ってしまえば、合理的に香奈を襲えるのに。そうすればきっと、香奈だって許してくれるはず。ー

ーって、何考えてんだろ私。もし香奈が許してくれたとしても、私が私自身を許さないことぐらい、わかるでしょ。本人なんだし。ー


まだ若干濡れている首筋、優しいシャンプーの香り、そして小さくて綺麗な唇。逆に考えるなという方が難しいが、最低な考えをしていることに間違いはない。

小さくため息をついた私は微笑むと、口についてあるピザの欠片をペロリと一舐め。そしてそのまま、舌先で唇に触れた。目は覚めていない。

緊張が解けた私は「ふぅー」と充分そうに息をつくと、回していた腕をほどき香奈の横に座る。が、私の飲み物が出ていなかったため、すぐにソファーから立ち上がった。

すると…。


「ありしゅ…。」


寝ぼけてたままの香奈は、パジャマのフリルを握りしめた。かなりしっかり握りしめているらしく、身動きが取れない。起こして上げようかと思ったものの、そのあどけない寝顔を見れば、起こす気力などスッと治まってしまう。


ー飲み物、香奈が目覚めてからでもいいかな。ー


再びソファーに座った私は、一人で映画を見ることにした。深夜帯の番組は見ないため分からず、仮に見てしまえば香奈同様、眠ってしまうかもしれない。今日は徹夜で遊び呆けると宣言したため、それだけは許せない行為である。


つい一時間ほど前、思いっきり眠っていたが。


ー借りてきた物を見るのは、一緒に借りた香奈に失礼だよね…。香奈、何か面白い映画録画してないかな。ー


ローテーブルに置かれてあるテレビリモコンを手にした私は、録画表を開き一ページ目から順に一つ一つ確認していく。録画表には映画が多数存在してあるものの、その殆どが私がオススメした映画と香奈の好きなジャンルの映画であり、見たことがない映画もあったが、それ等は私が好まない映画ばかりであった。

ちなみに、私の好きな映画ジャンルはホラー、特にスプラッター系がお好みである。この事は、香奈以外には内緒となっており、インタビューの際には「純愛系の映画です」と適当に嘘をついているのだ。

そんな変なジャンルを好む私とは変わり、香奈は恋愛系の映画が好んで見ている。純愛ものから切ないもの、中には女性同姓愛者のものと、恋愛映画全般が好きだと香奈から聞いている。それ以外のジャンルの映画も見るらしいが、ホラー映画だけはあまり見ないらしい。


ー見ない見ないって怒っても、結局香奈は見るんだよね。まぁ、私の腕を抱きしめて怯える姿が見れるからいいけど。ー


香奈との家デートの半分ほどは、今日のような映画鑑賞会を行っている。ホラー映画はたまにだが、その時見せる香奈の表情はたまらなく好きだ。また、「止める?」と私が尋ねても、涙目を浮かべながら「大丈夫。」と強がっている姿も良いものである。

ページ数が残り四となり若干諦め気味であったが、ついに気になる一作を見つけた。

「拝啓、愛する貴女へ。」約一年と半月前に公開されており、あの先輩が出演している映画だ。恋愛とホラーを合わせた作品らしく、当時私は見たくて見たくて仕方がなかった。しかし、ちょうど私が売れ始めた頃だったため、見れずじまいとなってしまった。


「この前やってたんだ。高校に入ってからは、ニュース以外は殆ど見てなかったから、知らないのも当たり前か。」


再生ボタンを押すと、いきなりゾンビのような生き物の顔がどアップで映り、さすがにホラー映画が好きな私でも驚いてしまった。

が、驚いたのはそこまで。後は恋人同士がゾンビから逃げ結局片方が喰われ、その後世界が平和になるというハッピーエンドで終わるのだが、ホラー映画ではあまりない終わり方に、私は映画に引き込まれていった。

映画は一時間ほどと現代映画にしては短かったものの、かなり見ごたえがある作品であった。先輩が出ていたからということもあるが、作中に出てくる主要人物がわずか二人であるところが一番の見所であろう。

ただ、ホラー映画として見るものではなく、どちらかと言えば恋愛映画とした見るべき作品であった。


「恋愛映画はただの妄想の塊だ、なんて香奈に言った私をぶん殴ってやりたいわ。」


肩に寄り添う香奈の頭を軽く撫でながら苦笑した私は、冷めたピザを取り口にいれた。トマトはドロッとしており生地はふにゃんとしたピザはお世辞にも美味しいとは言えず、もう二セットは温めようと立ち上がろうとした時だった。

鼻を啜るような音が耳を通り、私はすぐに香奈に目を向けた。


「香奈、起きてたなら言ってよ。ずっと寝ているもんかと…。」


すると、香奈は私に飛び付いてきた。急なことにバランスを崩してしまった私は、そのまま香奈に押し倒された。押し倒された先がソファーだったのが幸いだ。これが床だとしたら、今頃私は頭をぶつけ悶絶していただろう。


「香奈、ピザ冷めてるから温めたいの。だから少しのい…。」

「何処にも行かないで!」


耳に鳴り響く香奈の声に、私は声が出なかった。たかが「退いてくれると嬉しい」の一文のはずだが、その一文が出なかった。


「私、見てたの。あの映画。それでラストのシーンで、主人公の恋人が死んだ時、ふと思ったの。アリスも、あの恋人みたいにいつか消えていなくなるのかなって。そうなったら私…私、生きていけない。」


香奈は胸ぐらを掴みながら、涙声で話してくれた。始まりがあれば必ず終わりはやって来る。一度終わりを告げようとした私は、その事をよくわかっている。

香奈と離れたくないのは、もう終わりを告げたくないため。そのためなら、香奈の言うことすること何でも許すつもりだ。


「私は、アリス無しにはもう生きていけない。生きていけないから、もう私から離れないで。アリスのためなら私、何でもする。暴力だって受ける、殺しだってする。だから…。」


香奈は我慢が出来なくなったらしく、ついに涙をポロポロと流し始めた。パジャマに落ちれば跡になり、肌に落ちれば感じてしまう。私の気持ちなど知らない香奈は、それでも嗚咽しながら泣いていた。


ー香奈に対する気持ちが異常だと思っていたけど、香奈も私に対する気持ち、異常だな。もしかしたら、私以上かもしれない。でも、それだけ私のこと愛しているってことよね。ー


感極まった私は、泣いている香奈の顔を胸に押し付けた。「わっ」と声を出して驚いた香奈だったが、私の胸に顔が当たった途端、スッと静かになった。私の胸が吸音材の代わりになったのだろう。


「何処にも行かないし、消えもしない。暴力も振らないし手を汚させない。大丈夫、私はずっと香奈のそばにいるよ。」


この関係を終わらせないためにも、香奈から決して離れない。例え、あの人が私を連れて帰り嫁がそうとしても、私は香奈と共にいる、そう私は心に誓っているのだ。


「ごめんね。いつもいつも、悲しい思いさせて。けれど大丈夫。そんな思い、もう絶対にさせないから。」


胸に顔を埋めていた香奈は顔をあげると、何やら心配そうな表情で私を見つめていた。何か変なことを言ったのかと、私は先ほど口にした言葉を思い返した。


「それってアリス、芸能界、やめるってこと?」

「えっ…。あ、そういうこと。違う違う。お仕事はこれからも続けていく。けれどね、香奈と過ごす時間を増やすためにも、オーディションの回数減らすよ。」


「そんなのやだ。」と香奈は再び胸ぐらを掴み、ガクガクと私の頭を揺らす。頭の中身がシェイクされているような感覚に陥る私をそっちのけで、香奈は口を開いた。


「アリスがテレビで出ている姿も、私は好き。だから、仕事の量減らさなくていいよ。私はね、アリス。私は貴女がいるだけで、とても幸せ。だから、いつも通りで構わない。大好きだから。」


香奈の口から出た言葉に、私はもう、我慢の限界だった。


ーごめんね、香奈。ー


「アリス、今何か言って…ってうわぁ!?」


抱きしめていた香奈を私は押し退け、そのままソファーに押し倒してやった。押し倒したせいか、私の銀色の長い髪の数本が、香奈のゆるふわ髪にミサンガのように絡まっていた。

だが、今の私はそんなことに構っている暇はなかった。香奈に対する欲求が限度を越し、もう後戻りには出来ない状況となってしまった。


「アリス…?」


キョトンとした顔をする香奈を見れば、今からやろうとしている私に背徳感を思い出させる。高校に入学し幾度となく、私は香奈にセクハラを行ってきた。罪の意識がなくやっていた行為が、ここに来て露になるとは思いもしなかった。


ーけど、もう昔のようには戻れない。香奈は、私 の…。私の…。ー


私が罪に押し潰されそうだった瞬間、香奈は両手で優しく私の頬を触れた。


「アリス。わかってるよ。今貴女が何をしようとしているのか。だからこそ、一人で抱え込まないで。私が一緒に背負ってあげるから。」


そう言って香奈は私に口づけすると、頬を触れていた手を退け腕を大きく広げた。


「いいよアリス、来て。」


腕を広げた香奈は私に笑顔を向ける。だが唇は震えており、怯えていることは確実であった。こんな状態の香奈としてしまえば、きっと私は暴走してしまうだろう。


「香奈、本当にいいの。もう後には戻れないんだよ。それに、凄く怯えてるし。」

「…あのね、一緒に背負うって言ったじゃん。それも含めてだから大丈夫。もう、楽になろうよ。」


「楽になろうよ。」と台詞を吐いた香奈の表情は酔ったように赤く、うっとりとした目になっていた。緩んで開いている唇に視線をやれば、自我という言葉など、私の頭からは消えていた。

早く寝なければサンタが来ない、幼い頃はそう言われ早めに床についていた。けれどサンタが存在しないことを知った今、冷えた身体を再び温めるかのように、私と香奈は熱く絡まり溶けていた。こんなことをしちゃいけないんだと思いつつも、今まで我慢してきた分を放出するかのように、私たちは激しく愛し合い、お互いがお互いの色で染まった時、私たちはお互いで満たされていた。

冷めたピザはかなり固くなっており食べれなくなっているはずだが、私は気にすることなく横で寝ている香奈の首筋にキスマースを付けた。

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