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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
必然デスティーノ
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嘘に決意を添えてⅤ

  私たちの高校の文化祭は、朝九時からのオープニングセレモニーで始まり十六時頃に校長先生の放送で終わりを迎える。そのため、具体的な終了時間は校長先生以外誰も知らない。ただ、実行委員会でお世話になった先輩曰く、いつも気まぐれらしいため、去年は十七時前に終わったらしい。楽しむ時間が長くなるのは良いのだが、キチンと時間は決めてほしいのが私の意見であった。

  話を戻し、私たちの高校の文化祭は県内で数少ない大規模(フェスのような規模ではないが…。)な文化祭であり、また日曜日に開催されるため、老若男女、多くの人で賑わっている。食品喫茶やバザーは勿論、校舎丸々一つ使用したお化け屋敷や第三運動場全体を使ってのかくれんぼなど、普通ならありえないような出し物もあり、一日あっても回りきれないとか。

  また規模が多きすぎるため、毎年校舎内に迷子になる人が少なからずいる。実行委員会の先輩から聞いた噂だが、お化け屋敷内で迷子になったまま消息不明になったとかならなかったとか…。


「ねぇ鈴ちゃん。いつまで食べてるつもり?」


  午前十一時前だというのに、鈴ちゃんは先程から屋台の前を通ってはこうして食べている。私が見た限りでは、焼そばに焼き鳥、サーターアンダギーやわたあめを食している。

  で、今は唐揚げを口にしていた。出来てからまだそれほど時間が経っていない唐揚げからは、美味しそうな湯気がもくもくと出ている。


「ふぁって、ふぁさふぉふぁんほぉいてきひぃたのに(だって、朝御飯抜いてきたのに)。」

「話すか食べるかどっちかにして。口にしているもの飛んできてる。」


  私は頬についている唐揚げの破片をつまみ上げる。捨てるのも勿体ないので、鈴ちゃんが唐揚げに夢中になっている隙に口にする。私が家で作る唐揚げより味が薄い気がするが、別に不味いというわけではない。けれど、美味しいと断言もできず何とも言えない。

  鈴ちゃんが買ってくれた甘さ控えめのリンゴジュースを口直しにと一口飲むと、再びベンチで座って食べている鈴ちゃんに私は問いかけた。


「朝御飯を抜いたのは鈴ちゃんが悪いじゃない。ご飯はちゃんと炊いておいていたし。」

 

  そう言って鈴ちゃんの横に寄り添うようにして、ベンチに深く腰かける。鈴ちゃんから香る石鹸の香りと、唐揚げの芳ばしい香りが絶妙過ぎるほど合わず、先程口にしたリンゴジュースを吐き出しそうになる。


「だって沢山食べたいし…。」

「食べるのはいいけど、お腹を壊さない程度に食べてよね。美味しくても戻しちゃったら嫌でしょ?」


  私は鈴ちゃんがつまようじで刺してある唐揚げをパクリと口にする。「ああ!!」と鈴ちゃんは怒ったような声で言うのだが、別に一つぐらいいいだろう。けれどやはり、美味しいと断言は出来そうにない。

  私はあまり噛まずに飲み込むと、よしっと勢いよく立ち上がる。


「ほら鈴ちゃん。今日はデートなんでしょ?彼女を待たせていいのかしら?」


  悪戯っぽく微笑みかけると、鈴ちゃんは唐揚げを手にした手をピタリと止め、ゆっくりと下ろす。ひんやりとした涼しい秋の風が吹いているにも関わらず、鈴ちゃんの頬は熱くなっていた。そして、気を逸らすように唐揚げをばくばくと口にした。きっと、気を逸らすためだろう。

  私と鈴ちゃんは同じ屋根の下で暮らしている。そして何より、私たちは付き合っている。勿論、世間でいう「カップル」ということである。鈴ちゃんは毎日のように私に抱きついてきたりキスをし、度々私を困らせていた。かと言って、別に嫌と言うわけではないが、毎日したいと言うわけでもない。

  そんな毎日私に迷惑ばかり(そこが鈴ちゃんらしくていいのだが…。)鈴ちゃんに、私は迷惑をかけてしまう。その埋め合わせ(言い方が悪いが)として今日一日、私は鈴ちゃんと文化祭デートをすることとなった。無論、嬉しい限りだ。

  今日の私と鈴ちゃんのことは、唯一私たちの関係性を知っている香奈ちゃんに前日に伝えておいたため問題はない。むしろ、その方が良いと香奈ちゃんは言っていた。何せ、今日の文化祭にアリスちゃんはお仕事のため参加しておらず、二葉姉妹の姉である愛ちゃんは部活動の出し物で舞ちゃんと行動を共にできないとか。そのため、香奈ちゃんは舞ちゃんと回ると言っていた。けれど、アリスちゃんと回りたいのだろう。寂しげなに告げた香奈ちゃんの声が、未だ脳裏にこびりついている。

  けれど香奈ちゃんには失礼だが、香奈ちゃんが作ってくれた大切な時間を使いたい気持ちが強く、香奈ちゃんのことを心配する気持ちは次第に薄れている。


「鈴ちゃん…。別にそんなに急いで食べなくても…。」


  半ば飽きれ気味でそう言うと、私は小さくため息をつく。急いでくれていることには感謝なのだが、マナーがなっていないことに、私は不満になる。

  口回りはわたあめを食べたかのように、油でベトベトになっている。鈴ちゃんは気にするような素振りをしないので、私は携帯ティッシュを二枚ほど取り出し、鈴ちゃんの口回りを拭う。私自身が言うとあれなのだが、まるで鈴ちゃんの母親になったかのような気分だ。


「ねぇ鈴ちゃん。これから何処に行きたい?あ、屋台はまた後だよ。」


  屋台という選択肢を初手で消し、私は鈴ちゃんが持つ唐揚げが入ってあった容器に丸めたティッシュをポンッと入れる。匂いはまだ残っており、一瞬眉間にシワを寄せる。


「んーー…。それならさ、お化け屋敷に行かない?先生に連行されるときに聞いたんだけどね、校舎丸々一つ使っているんだって。」


  「お化け屋敷」という単語が耳に入った途端、私はデートをするべきでなかったと本気で思った。

  勿論、私はホラー物はダメな人間だ。映像を見るだけで泣き出しそうになるため、お化け屋敷など持っての他だ。以前、琴葉がどうしてもと駄々こねたことがあり渋々私はお化け屋敷に入ったのだが、入ったところまでしか記憶がなく、気がつければ休憩所で横になっていたことがある。その日以来、私の家庭ではホラー要素があるものを全面的に禁止させた。けれどたまに、琴葉の部屋から悲鳴が聞こえることがある。

 

「お、お化け屋敷は止めといたら?人がいっぱいいるだろうから、待ち時間長いはずだよ?」


  私は動揺を抑えつつ、お化け屋敷に行くのを阻止する。行ってしまえば最後だ。私らしくないところを見せてしまうことになってしまう。それだけは死んでも避けたい。

 

「そ、それにさ。外側だけが立派なだけで、中身がすかすかなら、お、おもしろくないじゃん?」

「口調変わっ…。」

「いいから聞いてよ!」


  動揺のあまり口調が変になってしまい、またそれを否定する声の大きさを制御出来ず、私は泣き出しそうになる。けれど、そんな様子を見ていた鈴ちゃんは、何も感じていない表情をしていた。むしろ、何故泣き出しそうになるのか疑問に思うような表情をしていた。


「…変な琴美。まぁいいや。とりあえず、お化け屋敷がある校舎に行こ。ぜっったい楽しいはずだよ!」


  ベンチから勢いよく立ち上がった鈴ちゃんは、私の右手をギュッと握りしめ、お化け屋敷がある第四校舎に向けて走り出した。

  ここまで来てしまえばもう止める手段はなく、私は自決を覚悟した兵士のような心境にまで陥っていた。




  入り口に入れば最後、外の光が全て遮断された校舎は、まさしく夜の学校そのものだ。足元にだけ申し訳程度に光が続いているものの、むしろそれが怖く感じる。外から聞こえる人の声でまだ自分を保っているものの、たまに大声で叫んでいる男の子の声についついビクリとする。

  懐中電灯で辺りを照らすが、かなり年期の入った懐中電灯のため、光がそこまで届いていない。さらについたり消えたりと、いつ壊れてもおかしくない。そんな恐怖を抱えるぐらいなら、いっそのこと、この懐中電灯を壊してやりたい。

  申し訳程度の光を頼りに、私と鈴ちゃんは廊下を歩いていく。内心ビクビクとしている私とは反対に、鈴ちゃんは口笛を吹きながら地図を見ていた。見るのはいいのだが、口笛だけはやめてほしい。こんな雰囲気だ。いつ、何処から攻めてこられてもおかしくはない。


「ねぇ鈴ちゃん。ここから何処にいけばいいの?」


  私はゆっくりと懐中電灯を鈴ちゃんに向ける。横にいる鈴ちゃんの顔を、いつも通りニコニコとしている。


「とりあえず、校舎の真ん中に階段があるじゃん。あれを使って三階まで上がるんだって。」

「三階?二階じゃないの?」

「別々のルートがあるって言ってた。入り口が二つあったのもそれだからじゃない?」

「…鈴ちゃんにしては、よく回りを確認したね。」

「私は見下さないでよ!」


  鈴ちゃんは地図を脇の間で挟むと、両手で私の頬をつねる。つねる力は軽くしてくれているものの痛いに越したことはない。


「ひぃんちゃん、ひぃたいりょ。」


  私は無理矢理引き離し、開いている片方の手で頬を触れる。まだ痛みが残ってある。

 

「ほら、行くよ。始まってまだ何だからさ。」


  ムスッとした顔で、鈴ちゃんは先に進んでいく。私も頬に触れつつ、鈴ちゃんの横となってまた歩き始めた。

  お化け屋敷には、おもに「◯◯を持ち帰る」や「◯◯を完成させてくる」などといった基本設定が付き物である。勿論、シンプルにゴールを目指すだけのものもあるのだが、ここ最近は少ないらしい。聞いた話なのだが。

  そして、このお化け屋敷にもある設定が付け加えられている。持ち帰るや完成させてくる様なものではない。ある部屋でお願い事を書くという、何とも言えない設定なのだ。もう少し怖い設定だと思った私だったので、聞いたときは正直なところ、とても安心した。

  と言っても、お化け屋敷に変わりはなく、何処から悲鳴が聞こえてくる。入り口が二つあるので、片方から入ってきた人たちの声だろう。もう耳を塞ぎたい。


「この階段を上がる…って、光が一切ないじゃん。」


  先に到着した鈴ちゃんの言葉に、私はますます心拍数が上がる。けれど何とかして平常心を保ちつつ、私は階段の先を懐中電灯で照らす。


「ほとんど何も見えないね。壁に沿って上がろ。」


  私は左手に懐中電灯を持ち変えようとすると、その左手を鈴ちゃんは右手で握る。何かの仕掛けかと思い、私はつい悲鳴をあげそうになる。


「…手繋げば、怖くないでしょ?」


  暗くてはっきりとわからないため、どんな顔で鈴ちゃんが言ったのかはわからない。実はとても怖がっているのかもしれないし、私の気持ちに気づいたのかもしれない。いずれにせよ、触れてあるこの手は、紛れもなく鈴ちゃんの手である。

 

「…しょうがないわ。手、繋いであげる。」


  握られた右手にグッと力を入れると、私たちは階段を登り始めた。懐中電灯で足場を照らし、転けないようにゆっくりと昇るのだが、私の心は変になっていた。

  お化け屋敷にいるはずなのだが、恐怖でドキドキしているよりも、鈴ちゃんと手を繋いでいることでドキドキしている気持ちのほうが次第に強くなっていた。そして、感じたこともない気持ちが私の心から芽生えていた。


  今、ここでキスをしたい。


  私からキスをすることは稀で、それもほとんどやらされているの状況のため、私自らがしたいという感情はゼロに近かった。

 だから、こんな気持ちになるのは始めてであった。今すぐにでもキスがしたい。この場で、この瞬間…。


  ゴンッ!


  私が変にドキドキしているうちに、階段も終わりを向かえようとしていた。だが、最後の山を越える直前に、私は足元で何かを蹴ってしまった。サッカーボールぐらいの物だろうか。


「鈴ちゃん、ちょっと懐中電灯持ってて。」


  私はドキドキを抑え込み、握っていた手を離す。そして、片方の手に持ってあった懐中電灯を手渡すと、サッカーボールらしきものを抱え、全体を両手で触れて確認する。サッカーボールにしては少し大きく、全体が丸いというわけではない。数ヵ所に突起のような物が付いてある。あと、糸みたいなものが束に引っ付いてある。目が大分慣れてきたのだが、それでもはっきりとはわからない。


  何かの飾り物かな?


「鈴ちゃん。私に光当ててくれない?」


  鈴ちゃんは「了解っ!」と敬礼のポーズをとると、直ぐ様、私に光を当てた。そして、私は知ってしまった。

  光が手元に当り、その全貌が明らかになったとき、私は出したことないような甲高い悲鳴をあげた。

  私の手元にあったものは、ボールでも飾り物でもなく、血まみれになった女性の生首だった。

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