我慢していた気持ち
みんなと別れてからかなりの時間が経った。と言っても、夜の九時半を過ぎる頃だったホテルの中から見える外の光が先程よりも少しだけ消えているように思える。私の故郷である大阪は、もっと光が照っていたように思うからだ。まぁ、私のただの思い違いだろうが。
私はカーテンを閉め、私はベッドで横たわっているアリスを見た。ホテルについてこの部屋に入るまで元気だったのだが、入った途端、まるで魂が体から抜けたようにベッドに眠り込んだのだ。昨日も夜遅くまで仕事があり、その後もお芝居の練習をしたに違いない。それでも私たちに気を使い、私たちよりも先に海に来ていた。睡眠時間も少なく疲れも溜まっているはずだが、アリスは疲れなど顔には出さずみんなと同等、いやそれ以上にはしゃいでいた。アリス自信も楽しみにしていたがかなり限界だったらしく、私がホテルのテレビの音量をかなり上げてみても起きなかったほどだ。
テレビを消した私は小さくため息をつき、アリスが寝ている横に座った。基本笑顔を絶やすことなく仕事熱心なお嬢様も、眠っている姿は無防備過ぎるほど赤子のような寝顔になっている。こんな姿を世に出せば、アリスのファンはもっと増えるだろう。
私はアリスの頬を人差し指で触れる。贅沢なぐらい柔らかいアリスの頬を触れることのできるのは、昔は私と鈴ちゃんの特権だったが、今となっては琴美ちゃんたちもこの頬に触れている。だから、私は少しだけ妬いたのを覚えている。
かなり唐突なことを言うと、私は中学生の頃からアリスと付き合っている。それは友達としてではなく、恋人として付き合っているのだ。この事は私とアリスだけの秘密のため、琴美ちゃんたちやアリスのマネージャーも知らないだろう。最初に告白してきたのはアリスだが、実のところ、私もアリスに告白しようと考えていた。けれどそれを行動に移すことができず、今となっても彼女に「好き」の一言も言ってあげらずにいる。
私は人差し指をアリスの頬から離し、触れていた側の手でアリスの目にかかっていた髪の毛をはらう。私は眼鏡を外し、ゆっくりとアリスに近づいた。まだわずかながらに、アリスの髪からほんのりと潮の香りがする。
「こんなことしか出来ない私だけど、アリスは私を許してくれる?」
私はアリスの耳元でそう囁き、少し位置をずらしアリスの頬に口付けた。私はアリスが寝ているときだけ、アリスの頬にキスをする。たまにしか出来ないが、それでも私がアリスにできる精一杯の感謝の気持ちだ。唇と唇でしたい、何てことも考えたことがあるが、そこまでの勇気が私にはなかった。だからこうして、アリスが見えないときにこっそりとやっているのだ。
私はアリスの頬から唇を離しキスしたところをティッシュで拭き取る。海からでた後に口紅を少しだけアリスに付けてもらったからだ。唇の跡が白いアリスの肌にハッキリと残ってしまえば、それこそ問題沙汰になるかもしれない。アリスのことは好きだが、私の個人的な願望で迷惑をかけれない。
これでよし。
完全に拭き取り、私はティッシュを丸め、ベッドの横にあるゴミ箱に入れる。あらかじめここのホテルの人には、ちゃんと分別するのでゴミ箱の中は漁らないでほしいと頼んである。訳の分からない顔をしていホテルマンを思い出すと、笑いを堪えるのが必死だ。
「か…な…。」
どうやら拭き取るときに少し力を入れすぎたみたいだ。アリスはゆっくりと体を起こし上げてこちらを見ていた。しかし、まだ完全には起きておらず、目が半分ほどしか開いていない。どうやら、かなりの熟睡だったみたいだ。
「ごめん、起こしたよね。」
私はついそう言ってしまい、紛らわすためにアリスの頭を撫でる。アリスが気づいているかは分からないが「いいよ、別に。」と言って、気持ち良さそうに私に撫でられている。私が飼い主だとすれば、今のアリスは犬か猫だろう。私はペットを飼っているような気分になった。
私はアリスの頭を撫でるのを止め、ベットから立ち上がる。
「アリス、何か飲みたいものある?」
私がそう尋ねると、やる気のない声で「みずぅ。」と答えた。流石に、こんな姿は世間に公開できないだろうと私は思った。
私は頷き、冷蔵庫に入ってあるペットボトルを取りだし、それをアリスに渡す。
「はい。これ飲んだらお風呂に入って。明日も早いでしょ?」
アリスはゆっくりと頷き、ペットボトルに口をつけた。口元からほんの少し水が零れ、ベットの上にポタポタと落ちていく。寝起きが悪いのは知っているが、流石にこれはと思う。
「アリス、零れている。」
私はティッシュを取りだし、アリスの口元を拭こうと近づく。アリスは何も抵抗することなく、ただ私に口元を拭かれている。寝起きだということもあるのだが、アリスは私と二人っきりにならない限り、私に甘えることはない。ただの幼なじみとして彼女は演技している。だからたまに、本当に私はこの人と付き合っているのかと思うことがある。
私は拭き終わり、再びティッシュを丸めてゴミ箱に捨てる。私が目を離している間に、匍匐前進でバスルームまで向かっていた。私が振り返ったときには、アリスはバスルームの目の前まで来ていた。きれいな髪もボサボサになっており、服もシワが少し目立っている。その姿はまるで、あの有名女優とはかけ離れた引きこもりのような姿だった。
私はアリスを引き止めようと立ち上がるが、私が立ち上がると同時にアリスはバスルームの中に入っていってしまった。私は少し立ち尽くした後、小さくため息をつき、また定位置に座った。バスルームからはシャワーの音に混じって、アリスの鼻歌が聞こえてくる。よくやく目を覚ましたらしい。
私はそれを聞きながら、アリスが寝ていた位置に移動し、アリスと同じ格好で寝転んだ。まだアリスが離れてから二分も経っていないので、まだアリスの暖かさを感じる。かなり変態に見えるがいつものことだ。アリスだって、よく私の前で「香奈のお尻の体温を感じるぅ。」とか言って、私が座っていた椅子に頬を擦り付けることがある。最近は少し減ったが、いつまで経ってもあれはないと思っている。
けど…。
私はひとつ寝返りをうち、窓から外を見る。空には飛行機が、ライトをチカチカと照らしながら空港を目指していた。
「もしあんなことを止めてしまったら、少し寂しい…。」
独り言のようにボソッとそう言った私は、そのままずっと外を眺めていた…。
私が目を覚ましたときには、外の光は街灯のみとなっていた。どうやら私はかなり寝ていたみたいだ。身体も何だか軽くなっている。
私は時間を確かめようと一度寝返りをうつ。すると、目の前にアリスの顔が現れたため変な声が出そうになったが、私はなんとか出すのを我慢することができた。まぁ、元々アリスが寝るベットのため、私がいることが普通は不思議なのである。
私は少し下がり、ついアリスを眺めてしまう。私がごそごそとしても、アリスは眉ひとつ動かさず寝ている。こちらとしてはありがたいのだが、少し動いてほしい何て考えが心の奥底にあった。
私はしばらくアリスを眺め、アリスが完全に寝ていることを確認し、今度はアリスの頬を右手で触れた。お風呂に入ったこともあり、先程よりもよりいっそう肌が柔らかくなったように感じる。長風呂アリスの基本バスタイムは二時間半だ。たまに三時間以上入っていることもあると聞いたことがある。何故そんなに入っているのかを聞いたところ、お風呂の中でお仕事の練習や学校の課題をしていると返された。アリスの課題プリントに濡れた跡があるのはそのためだと、私はあの時悟った。
私はアリスが寝ていることを忘れて、アリスの頬を撫で回しました。動かす度に、アリスの肌の柔らかさを感じる。クッションを触っているような感覚だが、クッションよりも柔らかく、それを例える言葉を見つけるよりも前に、アリスが目を覚ましてしまった。
その時の私とアリスとの間合いは、五センチほどまで近づいてた。私は自然に、アリスの頬にキスをしようとしていたみたいだ。
それに気づいた私は慌てて起き上がろうとするが、その上から覆い被さるような形でアリスが私の前に現れた。アリスの手足で動きを止められ、逃げ出せるような感じてはなかった。
私は目の前にいるアリスと目が合い、視線を窓の方に移した。
「余所見しない。」
アリスにそう言われ、私は渋々アリスの方に視線を戻します。
私はいつも仏頂面で、他人に表情を見せることはあまりなかった。それは私が私自身を嫌っているからでもある。
だからこそ、我慢出来ないほどドキドキしている顔をアリスには見せたくなかった。体温は急激に上昇しており、冷房が効いた部屋だというのに額には汗が付いてある。水分を過剰摂取したい気分だった。
私はベットの上に転がっていたペットボトルを見つけ、それに向けて手を伸ばす。しかしアリスには、私が逃げ出そうとしていると思ったのだろう。アリスは伸ばした手の腕をしっかりと掴んだ。掴まれた私は、余計に身動きがとれなくなる。
「ねぇ香奈。」
私はアリスに呼ばれ、唾を呑む。暗くてよく見えないが、それでも何となくでわかる。アリスは今、怒っている。
「私、怒っているよ。」
やはりアリスは怒っていたみたいだ。暗いのにも少し慣れ、アリスの表情が少しずつ見えてくる。それにつれて、私の表情も見られると思うと余計に恥ずかしくなってきた。
私は片方の手で両目を隠す。これ以上アリスを見れば、私は恥ずかしさの余り泣き出しそうになるからだ。昔からの癖で、人に見られ続けると私は泣いてしまう。この癖のせいで、多くの人に迷惑をかけてきた。
「…私、我慢してたんだよ。」
アリスの意外な一言に、私はピクリと反応する。
「私、香奈のことが好きだよ。」
「な、何よ急に…。」
「いつも仏頂面で何考えているか分かんないところや、たまに見せる笑顔とか、私は香奈の全部が好きだよ。」
「前者褒めてる?」
「褒めてる。」
アリスが急に変なことを言い出すので、私の熱が少し下がる。あと、私ら少しだけ嫌な気持ちになった。
「だから、初めてのキスはロマンチックに済ましたかった…。なのに香奈は…。」
「まだ頬だけだけど?」
いつものようにそう冷たく言うと、アリスは少しの間固まってしまう。どうやらアリスは、私がすでにアリスとキスを済ませていると思っていたみたいだ。もちろん、キスは済ませてあるが、それは唇と唇ではなく頬にしている。先程も言ったが、私にはそこまでする勇気がなかった。それは、ただ勇気が無いというわけではない。もしアリスとキスをしてしまえば、私はこれからもずっとアリスに秘密にしながら、キスをし続けるだろう。それはアリスに悪いし、何よりも私自身にも悪い。
だから、私はアリスの気持ちを踏まえた上で、唇同士のキスをしたいと思っていた。
だから、こうしてアリスも私と同じような気持ちだということを知れて、私は嬉しかった。笑いそうになったが、私はドキドキと一緒に我慢した。
「ねぇ香奈。」
私は先程からずっとアリスを見ているので、何も言わずアリスをそのまま見ていた。腕を握っているアリスの手の力が強くなっているように感じる。
「…約束してほしいことがあるの。」
私は小さく頷く。
「…これから私が寝ている間に勝手にキスしないって約束できるなら…。」
「なら?」
私は小さく復唱する。アリスは一度口を閉じ唾を呑み込んだ後、もう一度口を開いた。
「…唇同士でもいい…。」
アリスはそう言うと、私から離れ後ろを向いて両手で顔を隠していた。私もゆっくりと起き上がるが、私の足の上にアリスが乗っているので動きが取れない。左右に足を揺らすがびくともしない。
私は後ろを向いているアリスを眺める。アリスが私に溺愛なのは付き合う以前から知っていた。付き合う前から私にベタベタとしていたからだ。でもそれは、ただの友達としてだと思っていた。付き合ってからも、アリスは変わらずベタベタとしていたため、甘えたがるアリスの姿しか見ていなかった。
だから、ここまで照れているアリスの姿を見るのは初めてだ。アリスがどんな顔をしているかは、アリスが振り返ってくれなければ分からない。けれど、アリスの照れた顔など私は見たくない。アリスは笑顔のほうが似合っている。テレビでいつも見ているからだろうか。
私はやっとの思いでアリスの上から足を抜け出すことができた。私はとりあえず、正座に座りアリスが落ち着くのを待つくことにした。ベットの上に転がっていたペットボトルを取り、水を飲む。何故ここにペットボトルが転がっているかは記憶がないが、私が飲んだまま片付け忘れたのだろう。後でアリスに言われて気づくのだが、アリスが寝ぼけていたときに飲んでいたものだった。けれど今の私には知るよしもなかった。
水を飲み終え再び同じような場所に置いた後、枕元に置いてあるアリスの携帯を取りだし、時間を確認した。先程日が跨いだらしく、時刻は零時を回っていた。時間のことを考えると、私に少しだけ眠気が襲う。
私が少しウトウトとし始めたとき、アリスがやっとこちらに振り返ってくれた。私の眠気も飛んでいき、私は態勢を変えずにアリスを見た。窓から入る僅かな光が、アリスの銀髪を輝かせる。
「アリス…。」
私がそう呼ぶと、アリスは私にゆっくりと近づいてくる。私は自然と目を閉じ、アリスを待っているような状態になっていた。そんな雰囲気だと、私の脳が言っていたからだ。今、アリスがどのくらい近いかは分からないが、それがよりいっそう、私の胸のドキドキを高める。
「香奈。」
アリスに呼ばれ、私は目を開ける。アリスは、私と同じ格好で座っていた。アリスのほうが身長が高いので、私は少し見上げる。その時のアリスの表情は、真剣な顔をしていた。ドラマなどでよく見る顔だが、実際生で見ると「怖い」という感情が私のなかに現れた。もし私がアリスと同じドラマに出演するとなれば、アリスとのやり取りをする場面はしてほしくないと思った。
「約束、できるの?」
私は正直なところ、約束は守れないと思っている。アリスの寝顔を見てしまえば、私はまた頬にキスするだろう。これ以上秘密にキスをし続ければ、アリスや私自身に悪いとは思っている。けれど、それでも我慢することは私には出来ないだろう。それについて、私は嘘をつく気にはなれなかった。
私は縦に頷こうとしていたのを止め、目を閉じて小さく横に頭を振る。それを見たアリスはどう思っているかはわからないが、何故か彼女は声を出して笑った。
「どうして…。」
私は目を開けアリスを見る。アリスは少しの間笑い続け、しばらくしてから笑うのを止めた。
「だって、香奈らしいなって。」
アリスはそう言うと私の両手を握り、私を押し倒した。また、アリスが覆い被さるような形になる。しかし先程とは違い、両手をしっかりと握られている。何だか襲われているように感じるが、しっかりと握られている手には、あまり力が入っていない。私が全力を出せば、簡単に外すことが出来るだろう。
…やっぱりまだ我慢してる。
アリスは我慢することに慣れている。小さい頃から仕事で多忙なアリスは、色々なことを我慢してきた。運動会がある日だって、役作りのために休んでいた。ドラマの撮影が長引いて、修学旅行に行けなかった。最近はアリスのために撮影日時などを変更してもらっているみたいだが、それでも学校に来ないことはある。楽しみにしていた調理実習も、バラエティーのロケで来れなかった。
それでもアリスは弱音を吐かず、私たちに色々なことを聞いてくる。「良かったねぇ」とか「凄いじゃん!」なんて言って、皆と感情を共有しあっているが、私にはわかる。「私もやりたかった」、「私も皆と楽しみたかった。」そんな感情が私には見えていた。私も我慢していることはたくさんあるが、アリスは私の我慢とは比べ物になら無いぐらい、色々なことを我慢してきた。
「…ねぇアリス。」
私の言葉に「どうしたの?」と反応するアリス。私は少し間を開けてから、再び声を出した。
「昔から言っている。私の前では我慢しない。私には嘘をつかない。」
アリスは小さく何回か頷く。
「なら…我慢しないでほしい…。」
「香奈…。」
「か、勘違いしないで。別にアリスとキスしたいとか、決してそんなことじゃないから、決して。」
いやキスしたそうじゃん、何てアリスに言われるかもしれないが、あぁそうだ。私はアリスとキスがしたい。ロマンチックで素敵なキスを、私はアリスとしたい。
アリスはボーッと私を見ていた。私は「何?」と聞く。
「香奈ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アリスは急に私の名前を叫び、私の手を離し抱きついてきた。のし掛かるような形で私に抱きついてきたので、私は呻き声みたいな声が出そうだった。あとうるさい。
「ちょっとアリス!?大きな声出さない。隣の部屋に聞こえたらどうすr…。」
「ありがと。」
アリスはそう言うと、私を抱きしめる力を少しだけ強めた。鼻を啜るような音が耳を通る。きっとアリスの何かが切れたのだろう。
私はどうしようかと迷ったが、私もゆっくりとアリスを抱きしめた。アリスが私を抱きしめることはよくあるが、私がアリスを抱きしめることはほとんどない。力の加減などわからないが、アリスより少し強めに私は抱きしめる。アリスの胸のドキドキが、私の身体に伝わってくる。
「香奈…。」
アリスは顔を上げ、私を見た。その距離、わずか三センチほどだ。直ぐにでもキスが出来るだろう。
「キス…してもいいかな?」
アリスの言葉に少し間を開け、私は「わかった。」と小さく返事をした。アリスはフフっと小さく笑った。
「昔なら、こんなことする何て考えたことなかったよ。」
アリスはそう言うが、私は昔から少しだけ考えていた。
「焦れったい。やるなら早くして。恥ずかしいし…。」
「あ、ごめんね。」
アリスが謝ると私たちの間に間が出来る。距離が近いため、私からキスをしてやろうと思ったが、私はアリスに任せることにした。
しばらくして、アリスが小さく「いくよ。」と囁いた。私もそれに小さく頷き承諾をした。
アリスはまたフフっと笑い、目を閉じて私の唇にアリスの唇をつけた。私もゆっくりと目を閉じる。重ねるだけのキスだが、それだけでも私の理性は吹き飛びそうだった。
アリスは私の唇からゆっくり離れ、もう一度唇を重ねた。しかし先程とは違い、キスをしている口からほんの少し舌先が出ていた。
我慢してたんだ。
私はそう思い、ゆっくりと舌先を出す。私の舌先とアリスの舌先が触れあった瞬間、お互いがよく分からない感覚と驚きに、私とアリスはお互い抱きしめていた手を離し、お互いが離れるようにお互いの肩を押して離れた。
私とアリスはしばらく見詰め合ったあと、何だかおかしくなって二人でフフっと笑ったあと、またゆっくりと抱きしめ合いながら近づいていった…。
気が付くと、外からは太陽の光が入り始めていた。いつの間かアリスに抱きついたまま寝ていたみたいだ。私の頬にアリスの寝息があたる。
私はゆっくりとアリスを離し起き上がろうとするが、アリスは寝ているなか再び私を抱きしめた。私はまた離そうとするが先程よりも力が強く、離すことを諦めてそのまま寝転んだ。
私の気持ちを知らずに、私の上でアリスは未だにぐっすりと眠っている。仕事があるとか言っておきながら、起きる様子は一切見られない。睡眠不足のせいだろうか。
「アリス、朝。」
私はアリスの背中を軽く何度か叩く。
「もう少しだけぇ…。」
そう言って、アリスは抱きしめる力を強くする。起きるきが無いようにしか思えないが抵抗しても無駄なので、私は「はいはい。」と言ってアリスの頭を撫で始めた。
二三分ほど撫でていると、アリスはゆっくりと目を開けたので撫でるのを止めた。私の上で、アリスは大きなあくびをする。まだ眠そうだが、仕事があるので寝かすことはできない。
「アリス、おはよ。」
私がそう言うと、アリスは何かを思い出したような顔をして私を見た後、私の頬に顔を近づけ「チュッ」と口づけた。急なキスに私は戸惑うなか、アリスは頬から唇を離し、私の耳に口を近づけた。
「おはよう、香奈。」
そう言ってアリスは私の上から離れ、ベットから出る。そしてその場で服を脱ぎ、全裸の状態でバスルームまで向かって行った。全裸になることはよくあることらしいが、恥じらいというものを持ってほしいものだ。
私はゆっくりと起き上がり、先程口づけされた所を手で触れる。少し経った後、私はにこりと笑った。
すると、バスルームの方からドアが開く音がした。私がそちらに視線を移すと、全裸状態のアリスがこちらに近づいて来ていた。
「ちょっとアリス!いくら私たちがそういう関係でも、全裸でウロウロするのは一人の女性として…。」
私がアリスに説教をしているというのに、アリスは私の目の前まで近づいてくる。そして、未だに説教を続ける私の頬を両手で押さえつけ、私が口を閉じるタイミングで半ば強引にキスをした。私は驚いて目を見開く。何せ、そんな雰囲気ではなかったからだ。
アリスはゆっくりと私の唇から離れる。そしてアリスは、右手の人差し指をアリスの唇に当てた。
「おはようのキスは唇、だったね。」
そう言ってアリスは、またバスルームの方へと戻っていった。
私は唖然としていたが、しばらくしてベットに倒れこんだ。
「さっきのはズルいよ、アリス…。」
そう言いながらも、私はにやけを我慢することが出来なかった。




