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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
必然デスティーノ
15/97

例えこれが恋だとしてもⅢ

「…ぃ。」


  …誰だろ?


「…みぃ。」


  …鈴ちゃんかな?


「琴美ぃ。」


  鈴ちゃんだ。


  私は鈴ちゃんの声を聞き、目を覚ました。すると、目の前には目を閉じた鈴ちゃんが、唇と唇があと一歩で触れるような距離にいた。


「ちょっと鈴ちゃん!?」


  私は鈴ちゃんを押し退ける。鈴ちゃんも起きてるとは思っていなかったのか、非力な私に簡単に押し退けられた。

  私はそのまま起き上がる。けれどそこは、先ほどいた海の家ではなく、浜辺にいた。海では、二葉姉妹とアリスちゃん、それに香奈ちゃんが遊んでいた。

 

「私、何でここに?」


  私は倒れている鈴ちゃんに尋ねる。鈴ちゃんはゆっくりと立ち上がり、私に理由を話してくれた。

  聞いた話しによると、海の家にたまたま朝御飯を食べていたアリスちゃんがいたらしく、私に声をかけた人たちを追い払ったらしい。そして、鈴ちゃんを電話で呼び、私を運んだみたいだ。

  私は話を聞いて、恥ずかしさのあまり、顔を赤く染めた。海の家からここまではかなりの距離がある。つまり、ここに来るまでに多くの人々に、私の滑稽な姿を見られたのだ。恥ずかしすぎて死にそうだ。

  私の様子を見ている鈴ちゃんは、何だか不満そうな表情をしていた。手にはペットボトルを持っており、それを私に不満そうに突き出した。


「どうしたの、鈴ちゃん?」


  私は鈴ちゃんから貰い、表記を見てる。ちゃんとしたお茶だとわかり、私はペットボトルの蓋を開け、お茶を口に含んだ。それを鈴ちゃんは、やはり不満そうに私を見ていた。

  私はペットボトルから口を離し、鈴ちゃんに尋ねることした。


「どうしたの鈴ちゃん?不満そうだね。」


  私の言葉に、鈴ちゃんはますます眉間にシワをよせ、さらに不満そうに私を見た。けれど、何が不満なのか私はいまいち理解できていない。まだお酒が回っているからだろうか。

  鈴ちゃんは私からペットボトルを奪い、それを勢いよく飲み、私に戻した。ペットボトルには、まだ五分の一ほどお茶が残ってある。鈴ちゃんのことなので、飲み干すのかと私は思った。まぁ、飲み干したとしても、私のではないので構わないのだが…。


「…お礼は?」


  鈴ちゃんが小さくそう言う。その言葉に、私はやっと鈴ちゃんが不満なのかが理解できた。

  私は「あっ。」と言い、その場に正座をした。


「ご、ごめんなさい…。迷惑かけて…。」


  私はそう言い頭を下げた。土下座に近いが、地面に頭はつけていない。

  私が頭を下げていると、鈴ちゃんの両手が私の頭を掴み、顔をあげる。その時の鈴ちゃんの表情は、不満そうな顔と言うより、怒っているような顔をしていた。


「こぉゆぅ時は、ごめなんさいよりありがとうの方が嬉しいんだけど。」


  私は鈴ちゃんに怒られたみたいで、私は少し悄気る。

  鈴ちゃんが私から手を離し、私を見る。


「ごめn…。」


  私はまた鈴ちゃんに謝りそうになり、口を塞ぐ。また謝ろうとしていた私を、鈴ちゃんはムスっとした表情で私を睨む。

  私は咳払いをし、改めて鈴ちゃんを見た。


「その…あ、ありがとう…ございます。」


  私は言い終わると何か照れくさく、近くにあるタオルで顔を隠した。こういうことはあまり慣れない。

  その様子を見ていた鈴ちゃんは、「ははっ。」と私を見て笑った。鈴ちゃんにはこの気持ちは、多分理解できないだろう。

  私は少しタオルから顔を出し、鈴ちゃんを見る。鈴ちゃんは笑っていて、私が見ていることに気づいていなかった。


  鈴ちゃん…。


  この数ヵ月で鈴ちゃんとの生活に余裕ができてきた。それもこれも、鈴ちゃんが手伝ってくれているからだ。最初は何も手伝わなかったのだが、何故だか手伝いをしてくれるようになっていた。まぁ、手伝いをしてくれるようになっくれたのは、正直嬉しい。夏休みに、こうして遊べるのは鈴ちゃんのおかげとでも言ってもよかった。

  考えてみると、鈴ちゃんにはいつも助けてもらっている。体育大会の時も、鈴ちゃんと一緒でなければ、あんなことはなかっただろう。


「ねぇ、鈴ちゃん。」


  私はタオルから完全に顔を出し、タオルを鞄の上に置く。


「何、琴美?海に行くって?」


  鈴ちゃんは目を輝かせながら、右手には銛を、左手には浮き輪を持っていた。見た目が幼いだから、ますます幼く見える。

  私はこちらを見ている人物がいるかを確認するため、周りを見渡す。幸い、人があまりおらず、皆も海ではしゃいでいる。こちらを見ている視線は感じられなかった。

  私は一息ついて、鈴ちゃんを見る。早く海に行きたいのか、ワクワクした表情が顔に出ている。多分鈴ちゃんは、私が目を覚めるまで待ってくれてたのだろう。鈴ちゃんから潮の香りがしなかったのがその証拠だ。


「とりあえず、手に持っている物を置いてもいい?」


  私がそう言うと、鈴ちゃんは不思議そうな顔をする。けれど、私の言うとおりに銛と浮き輪を置き、私を再び見る。


「どうしたの、琴美?」


  鈴ちゃんが私に尋ねる。


「あのね、鈴ちゃん…。」


  私は鈴ちゃんの名前を呼ぶが、その次の言葉が声にならない。喉の奥でその言葉が引っかかっているような、そんな感じだった。

  その後も私は、鈴ちゃんの名前を呼ぶ。けれど、いつまで経っても言葉が出ない。

  私がいつまでもそうしている様子を見た鈴ちゃんは、「早くして」とでも言っているような、そんな表情を私に見せつけてくる。

  私は勢いで言おうと考え、腹をくくり大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。そして、吸うと見せかけて、私は発した。


「あ、ありがと。待っててくれて…。」


  勢いで言えたかどうかは分からないが、何にせよ、私は鈴ちゃんに思いを伝えることができ、一先ずホッとした。

  鈴ちゃんは私の言葉を聞き、少し口を小さく開けてキョトンとした顔で私を見ていた。可愛いのだが、口を開けっぱなしにしている姿は、少し阿保らしく見えるので、あまり気に入らなかった。

  私は右手の人差し指と親指で鈴ちゃんの口を閉じようと近づく。鈴ちゃんは近づいてくる私に何とも思っていないのか、キョトンとした顔のままだ。まぁ、そちらの方がありがたいのだが…。

  私はそのまま鈴ちゃんの唇に触れる。最近、鈴ちゃんはあまりキスを強要しないので、鈴ちゃんの小さくて柔らかい唇に触れる感触が何処か懐かしかった。


  私、何でこんなこと思っているんだろ…。


  私は私自身に呆れながらも、塩をつまむように、鈴ちゃんの口を閉ざした。けれど、私の心拍数は鈴ちゃんの唇に触れる前よりも確実に上がっている。何故だか私自身にすら分からない。

  私はゆっくりと鈴ちゃんの唇から指を離す。鈴ちゃんは未だにキョトンとしている。いつもなら、唇に触れると顔を赤く染める。けれど、鈴ちゃんの顔は赤く染まっていなかった。


  大丈夫なのかな…。


  私は少し鈴ちゃんを心配し、戻そうとした手を止め、再び鈴ちゃんに触れようとした。

  鈴ちゃんの頬に触れようとしたとき、急に鈴ちゃんが私の右手を握りしめた。私は驚き、反射的に手を離そうとした。けれど、鈴ちゃんの握力には非力な私は離せるわけもなかった(力がないだけである)。

  そしてそのまま鈴ちゃんは、握った手を引っ張り、私のバランスを崩した後、私は鈴ちゃんを押し倒すような形で倒れこんだ。私はそのまま、鈴ちゃんが持っていた浮き輪に直撃する。空気が入っていたのが幸いと言うところだろう。

  私は頭を撫でながらゆっくりと立ち上がろうとする。


「鈴ちゃん。急に何する…。」


  私がまだ話している途中だと言うのに、鈴ちゃんは両手で私の頬を挟んだ。私は声を出そうとしたが、変な声になることに気付き、黙っていた。

  私は、鈴ちゃんにまたがるような形で数秒ほどいた。海からはみんなの声がかすかに聞こえる。けれど、かすかに聞こえる程度なので、何を言っているのかはここからではわからない。

  少し温かい風が吹き、私の髪の毛が揺れる。それと同時に、鈴ちゃんの髪も揺れた。

  私と鈴ちゃんの髪の毛が絡まったとき、私の心がドキッとした。何故だかわからない。けれど、今この状況で、私は鈴ちゃんにドキドキしているのだ。

  微かに聞こえる鈴ちゃんの声に反応した私は、海のほうを見ていた視線を鈴ちゃんに戻す。


「…と、琴美。」


  そう言って鈴ちゃんは、私の唇に唇を重ねた。数週間ぶりのキスであった。久しぶりすぎて、私は何かと色んなことを忘れていた。

 

  …苦しい。


  私はギュッの目を瞑る。それに気付いた鈴ちゃんは、入れかけの舌を抜き、唇を離した。私はゆっくりと目を開く。

  鈴ちゃんは少し照れており、口を手で隠し、視線を反らしていた。やられているこちらの方が恥ずかしいはずなのだが。


「ごめん…。ちょっと、焦ってた…。」


  鈴ちゃんはそう言い、ゆっくりと私に視線を戻す。ここまで鈴ちゃんが恥ずかしがっているのは、私は見たことがなかった。そして、鈴ちゃんが吐く台詞が何処と無く、私の癒えることない傷を抉ってくる。

  鈴ちゃんは私と目が合おうとしたとき、その場に立ち、私を笑顔で見た。


「ごめんね、琴美。嫌だよね、こんなこと。」


  鈴ちゃんから言われた言葉が、私の胸を痛める。鈴ちゃんは笑顔だが、私にはわかる。あの笑顔は作り笑いだということ。

  鈴ちゃんは私の横にある浮き輪を取ろうと腕を伸してくる。その時の心境は後になってわかることだが、私は鈴ちゃんの腕を両手で掴んでいた。鈴ちゃんはそれを見て、浮き輪から私に視線を移す。


「どうしたの琴美。早く海に行こぉうよぉ。」


  駄々をこねるかのように私にそう言う鈴ちゃん。けれど、その鈴ちゃんの目からは涙が流れていた。何の涙かはわからない。けれど、私に責任があるということはハッキリとわかることだ。

  私も立ち上がり、鈴ちゃんの前に立つ。そして、ゆっくりと顔を近づけ、頬にキスをする。「ぅぉ…。」と鈴ちゃんは呻き声みたいな声を小さくだす。

  私はゆっくりと離れ、鈴ちゃんが取ろうとした浮き輪を取り、歩き出す。

  「琴美ぃ!」と鈴ちゃんが私に聞こえる程度の声で叫ぶように言う。

  私は振り替えることなく、鈴ちゃんに話す。


「その…出来ればまだ優しくしてほしい。まだ、鈴ちゃんのこと、分からないこともあるから…。」


  私がそう言うと、鈴ちゃんは私に近づき、後ろから抱きつく。小さな胸の感触が、私の背中から感じ取れる。


「やっぱり、そう言うところが私は…。」


  鈴ちゃんの最後の言葉は、急に吹いた強風によってかき消されたが、聞き直そうとは思わなかった。鈴ちゃんも、それを望んでいるだろう。

  私が鈴ちゃんに振り返ろうとしたとき、私の顔に水がかかってきた。「ひゃ!」と私は驚き、水が飛んできた方向を見る。そこには水鉄砲を二つ持ったアリスちゃんがいた。


「そんなんじゃことみん、戦場で直ぐに殺られるよぉ。」


  アリスちゃんは笑いながらそう言い、私に水鉄砲を突き出して海のほうへ逃げていった。私は戦場に行く気など一切ない。しかし、アリスちゃんへの復讐心が私の心に芽生えた。

 

「やったわね、アリスちゃん!」


  私はその場で服を脱いだ。もちろん、ちゃんと水着を着ている。今年は少し頑張ろうと、紐を首の後ろで結んである白を基調としたピンクの花柄があるホルタービキニだ。と言っても、母親のお下がりなのだが…。

  下ろしていた長い黒髪をゴムでお団子にくくりあげる。そして、水鉄砲を拾い、鈴ちゃんの手を握った。


「行くよ鈴ちゃん。皆待ってるよ。」


  鈴ちゃんは私の言葉に笑顔で頷いてくれた。

  私と鈴ちゃんは、手を繋いだまま海に向かって走る。そして、皆のところへ飛び込むかのように海に勢いよく飛び込む。水しぶきが太陽の光に当たり、ダイヤモンドみたいにキラキラと光っていた。

  浜辺から近いこともあり、すぐにお尻が陸に当たる。水温は低くはないが、気温が高いため冷たく感じる。鈴ちゃんと話していたときに流れていた汗が一気に吹っ飛ぶようだ。

  ジャンプしただけと言うのに、団子にしていた髪型が意図も容易く崩れていた。私は海に浮かんでいるヘアゴムを拾い上げ、髪を止め直す。

 私が止め終わったのを見ていたアリスちゃんが水鉄砲を私の顔めがけて撃ってくる。アリスちゃんは「ことみん撃破ぁ!」と笑顔で言っている。

  私は手で拭い、水鉄砲をアリスちゃんめがけて撃つ。水鉄砲の中には、元から海水が入っていたみたいだ。

  アリスちゃんに海水が当たる寸前で、海水が弾け飛んだ。


「「え?」」


  私とアリスちゃんは同時に声を出す。アリスちゃんの少し横に、水鉄砲を構えていた舞ちゃんがいることに、私とアリスちゃんは気付いた。

  舞ちゃんは水鉄砲を下ろし、私たちを見る。そして、女神のような笑顔で笑った。しかし、この状況からして、女神より女帝と言うべきだろうか。

  私とアリスちゃんが舞ちゃんを見ていると、舞ちゃんの精密すぎる射撃で心臓を狙い撃ちされた。痛くはないものの、戦場だと死んでいるなと考える。

 



  私はとりあえず、水鉄砲の中身が無くなったので水を入れ換えようと、沖に向かう。案外中身は入っていなかったからだ。

  皆から数メートルほど離れ、私は水鉄砲のタンクを外し水を入れる。胸を覆い隠す位の深さだが、足がつくので心配なかった。

  アリスちゃんとそれに便乗している愛ちゃんと鈴ちゃんは相変わらず、はしゃいでいる。無理もない。期末テスト後、アリスちゃんはお仕事の関係でろくに学校に来ていない。前期補習を受けたのは僅か一日だ。そのため、こうして皆が揃って時間を過ごすのは久しぶりだ。

  私は香奈ちゃんを見る。香奈ちゃんは私のすぐそばを浮き輪の上で横になってプカプカと横切った。最初は行くのを拒んでいたが、結局来てくれた。何だかんだ、香奈ちゃんも楽しみにしてくれたのだろう。アリスちゃんがいない間、少しだけ元気が無かったように思えたが、心配はないみたいだ。

  私は水を入れ終え、タンクを水鉄砲にセットする。そさて、香奈ちゃんに向けて水鉄砲を構えた。しかし、香奈ちゃんは気づいていない。このまま撃っても良いのだが、私は水鉄砲を下ろす。そしてそのまま振り替えり、水鉄砲を構えて直ぐ様撃つ。先程から気配は感じていたが、ダーツが下手くそな私は距離を出来るだけ詰めなければならない。獲物はまんまと私に引っ掛かったというわけだ。

  私が振り替えった先には浮き輪の上に水鉄砲…にしては私の所持している物より大きいものを手にした愛ちゃんがいた。浮き輪の色から、舞ちゃんが持ってきたものだとわかる。

  私が撃った水が、愛ちゃんの右足に当たる。私の不意の攻撃に、愛ちゃんは右足を反射的に上げるが直ぐに下ろす。浮き輪の上のため、バランスが崩れてしまうと転落する。


「やったな琴美!」


  愛ちゃんが今にもバランスが崩れそうな体勢から、浮き輪を蹴りつけた。愛ちゃんが空を舞い、私から太陽を遮る。直射日光は肌に良くないから…何てどうでも良いことを考えているうちに、愛ちゃんが私に降ってきた。

 

  「何ぼさっとしているんだよ!」


  いつからそこにいたのか。鈴ちゃんがそう言うなり、私が握ったままの手を引っ張ってきた。


「ぅお!?」


  私は私らしくない声を出し、鈴ちゃんに引っ張られる。間一髪、愛ちゃんを上手くかわすことが出来たのだが、愛ちゃんが飛び込んだときに出来た大きな水しぶきに、私たちは顔から被った。口に少し入り、潮のしょっぱいのが口全体に広がった。どこまでも私は塩(潮)の餌食になるんだと、私は私自身を恨んだ。

  愛ちゃんが海に飛び込んだまま一向に出てこず、ゆっくりとこちらにやって来る舞ちゃんはおろおろとしている。カタコトが治ったとしても、心配性なところは治っていないみたいで私は少しホッとした。


「おねぇちゃん…。一体何処に…。」


  舞ちゃんが辺りをうろうろとし、アリスちゃんがやって来たときだった。

  バシャッと海から何かが出てくる音が辺りに響き、私たちは音のする方向に向いた。


「…私?」


  浮き輪の上から降りて呑気に私たちを見ながら、ゆるふわの髪を三つ編みにしてほぐしている香奈ちゃんが、そう言って三つ編みにする手を止め、自分自身を指で差した。私が警告を言おうとしたが、少し遅かったみたいだ。


「おらぁぁぁ!!」


  と香奈ちゃんの後ろから愛ちゃんが思いっきり抱きついた。その両手にはガッチリと胸を掴んである。


「ちょっと愛ちゃん!?」


  流石の香奈ちゃんも驚きの表情を顔に出した。しかし、愛ちゃんはお構いなしに胸を揉み始めた。私は咄嗟に水鉄砲を持っていない手で鈴ちゃんの目を隠す。


「香奈って見た目はあんまりないけど、鈴ちゃんと同じような感じだなぁ。ふにふにだね。」


  愛ちゃんが香奈ちゃんの胸を揉んでいる姿は、エロ親父とでも言うべきだろう。愛ちゃんの瞳が大分腐って見える。

  愛ちゃんに胸を揉まれている香奈ちゃんは、愛ちゃんを押し離そうとするが、ガッチリと掴まれているため中々離れる様子はない。


「大丈夫なの、香奈ちゃんは?」


  私は鈴ちゃんの目を隠したまま、アリスちゃんに近寄り尋ねる。


「まぁ、香奈もこういうイベントが起きることは分かっているはずだし、構わないでしょ。」


  アリスちゃんはそう言うが、左手には防水性のあるカメラがあり、シャッター音が鳴り止まない。ヨダレは出ていないがきっと気合で止めているのだろう。

  つまり結局のところ、ただアリスちゃんが私たちの恥ずかしい姿を写真にしたいだけであろう。愛ちゃんはその共犯者というわけだ。愛ちゃんが後ろにいた意味がやっと理解できたと同時に、変な寒気がした。

 

  けど、さすがにやりすぎじゃ…。


  私がそう思ったときには遅かったみたいだ。愛ちゃんが強引にも香奈ちゃんの水着の中の手を突っ込もうとしていた。香奈ちゃんの水着は紫と赤のハートがたくさんあるチューブトップだ。上下の衝撃に特に弱くずれやすいという、いつポロリがあっても…。

  すると、女の子の悲鳴が私の耳に入る。私は音のする方向に視線を移す。そこには、動揺している表情の愛ちゃんと顔の半分まで海に浸かり、胸を両手で隠し瞳が潤んでいる香奈ちゃんがそこにいた。三つ編みにするために止めていた飾りのゴムは、呑気に海に浮かんでいた。その状況からして、私が予想していた最悪な事が起きたのだと察した。


「あっ…ごめん。」


  愛ちゃんがその手に持ってあるチューブトップのブラを香奈ちゃんに返す。香奈ちゃんはプルプルと震えている。まるで仔犬が怯えているかのようだ。

  しかし、こんな深刻な空気の中でよくアリスちゃんは写真を撮り続けることができると思った。後付け加えで、薬物を使用したような顔をしている。よだれが垂れ、海にポツポツと落ちていく。

  私は少し心配で、香奈ちゃんの横にゆっくりと移動する。まだ浅いところなので溺れる恐れはない。

  私が香奈ちゃんとの距離を一メートル程詰めた瞬間、香奈ちゃんの視線が私に向いた。眉間にシワを寄せ、さらに仏頂面になる。いや、どちらかと言えば私を標的として見ているような、そんな風にも捉えた。

  私は一度止まり一歩下がる。そして、香奈ちゃんと目を合わせる。香奈ちゃんはさらに眉間にシワを寄せるが、私は動揺を香奈ちゃんには見せなかった。香奈ちゃんの考えていることは大抵予想が出来る。私を香奈ちゃん同様、水着を脱がそうとしているハズだ。しかし、それよりも前に水着を着用するべきだと私は思う。


  けれど何で、愛ちゃんじゃないんだろ…。


  愛ちゃんが香奈ちゃんに水着を返したとき、今のこの状況よりも二人の距離は近かった。千載一遇のチャンスを何故易々と見過ごしたのか、私は不思議に思う。

  私と香奈ちゃんが見つめ合った状況を、四人は見守っていた。ことの発端である愛ちゃんは、私と香奈ちゃんが試合をしているかのように応援している。


「香奈ぁ!琴美の水着脱がしてやれ!」


  女の子らしくない発言をする愛ちゃん。やること言うこと、本当にエロ親父だ。一体、どういう親の教育を受けたのだろうか。

  愛ちゃんが女の子らしくない発言をし続けるのに耐えきれなくなったのか、舞ちゃんが愛ちゃんの口を手で封じ込んだ。先程より聞こえなくなったのだが、まだ若干、愛ちゃんの女の子らしくない発言が聞こえてくる。舞ちゃんも苦労しているだろう。

  アリスちゃんは、未だに写真を撮っている。アリスちゃんにとって、今この空間はまさしく理想郷とでも言えるだろう。ピンク色をした幸せオーラが目に見えるほどだ。理性はほとんどないだろう。

  鈴ちゃんは…と私が視線を移したとき、そこには鈴ちゃんはいなかった。私は香奈ちゃんを警戒しつつ周りを見るが、やはり鈴ちゃんの姿が見当たらなかった。私じゃないので溺れているということはないだろう。

  しかし私は心配になり、一度香奈ちゃんに視線を戻す。いつの間にか、香奈ちゃんは水着を着用していたのだが、香奈ちゃんは位置調整に苦戦を強いられているみたいだ。

  香奈ちゃんが私を見ている状況ではないことを確認し、私は大きく息を吸い込む。そして限界まで吸い込んだところで、私は一気に海に入った。水温は温かいため、一気に入っても大丈夫だった。

  私は目を開けようとするが、ゴーグルを着用していないことに気付き目を開けるのを止めた。しかし、わずかな隙間から潮水が入ってきた。


  痛っ!


  私は目の痛さのことだけ考えており、私がそう思ったと同時に誤って口を開き、そこから息を吸ってしまった。いくら浅いとはいえ、私にとってはそんなものは関係なかった。

  私は潮水を口に含んでしまう。つくづく私は、塩(潮)とは相性が悪いみたいだ。

  潮水を含んでしまった私は、そのまま溜めていた酸素が一気に出てしまう。浅いなんて関係ないと言っていた私は前言撤回をしたい。

  私は急いで海から顔を出し、潮水を吐き出す。吐き出しても、しょっぱいことには変わりはない。

 

「ことみん何してるの?」


  アリスちゃんが私に尋ねる。私は潮水を吐き終え、振り替える。そこには心配そうな顔をしたアリスちゃんがいる。けれど、アリスちゃんは水着を着ていなかった。


  …!?


  私は反射的に鼻を抑えた。琴葉と未だにお風呂に入ることもあり女の子の裸体は見飽きていると言っても良い。

  しかし、アリスちゃんは違った。水着を着ているときは何とも無かったのだが、脱いだ途端、その完璧とも言える身体に触れたいと私の本心がそう言い始めた。胸は多分、平均的な女子高生以上で、ウエストは海の中でよく見えないが、それでも私より引き締まっているだろう。極めつけは、その細い腕。博物館にでもあるかのような標本のように思えた。

  私はこの時、アリスちゃんと一緒の学校に通えて本当に良かったと、心のそこからそう思った。


「ことみん。ヨダレぇヨダレぇ。」


  アリスちゃんにそう言われ、我に戻った。どうやら、アリスちゃんに見とれていたみたいだ。

  私は手で口の辺りを触れる。確かに、私の口からはよだれが垂れていた。どろどろとしてあまりいい気分ではない。

  けれど、何故よだれが少し赤いのだろうかと、私は不思議に思う。


「みんなぁ、ごはんにしよぉ!!」


  浜辺から、鈴ちゃんの大きな声が聞こえてきた。時間を見るようなものは持ち合わせてなく、私は太陽を手で透かして見る。ほとんど真上に太陽があったので、鈴ちゃんが言っていることは正しいと感じた。

  太陽を見るため頭を上げていたため頭を下ろすと、頬から何かが流れているような感じがした。しかし、海水だろうと私は思い、鈴ちゃんに返事をして浜辺に上がった。

  私を見ていた鈴ちゃんは、私が浜辺に上がるなり心配そうな顔をしている。後ろにいる半裸のアリスちゃんのことだろう。幸い、周囲にいた一般のかたは、お昼のためにいなくなっていた。


「琴美、それ大丈夫?」


  私は鈴ちゃんにそう言われ、疑問しかなかった。至って怪我をした記憶はない。怪我をすれば、私ですらわかるはずだ。なのに…。

  先程、頬から流れた海水が私の口のなかにほんの少し入ったときに、鈴ちゃんの言ったことが理解できた。


  …鉄?


  口の中は潮のしょっぱいのと、鉄のような味がした。しかし、鉄のようなものは液体だが水のような感じはしなかった。


  鉄じゃない。血だ!


  アリスちゃんの裸体を見たことによる興奮で、私は鼻血を出していたみたいだ。漫画の男子小学生かと言いたくなるが、これが現実である。

  鈴ちゃんは私に大丈夫?何があったの?と尋ねてくる。別にそこまで酷いわけではない。しかし、何があったの?に関してはなにも言えない。アリスちゃんの裸体を見たからと言うと、多分鈴ちゃんは怒るはずだ。それは決して言えないことだ。

  私は鈴ちゃんを置いて早足で鞄を置いている場所に戻り、鞄の中からティッシュを取り出す。そしてそれを細く丸め、鼻に詰める。鼻の奥がムズムズする。

  私が詰め終わると皆がゆっくりと戻ってきた。香奈ちゃんは、愛ちゃんを威嚇するかのように見ながらアリスちゃんの水着を着せている。アリスちゃんは断っている素振りをしているが、香奈ちゃんは一切アリスちゃんを見ていない。

  愛ちゃんは、香奈ちゃんを見るなりしょんぼりとした顔をすると、横にいる舞ちゃんがよしよしと頭を撫でる。もはや姉妹が逆転しつつある。

  そして…。


「琴美ぃぃぃ!!」


  鈴ちゃんは安定で私に飛び付く。とりあえず怪我人となるのだが、鈴ちゃんの笑顔を見ているとそんなことを考える私自身が馬鹿みたいに思えた。

  私も何の勢いかは分からないが、勢いに乗せられいつの間にか笑顔になっていた。案外、一番楽しんでいるのは私かもしれない。そう私は思った。

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