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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
必然デスティーノ
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Give and Take Ⅲ

  私は少し怒っている。いや、少しどころではない。かなり私は怒っている。今すぐにでも、運んでいるハンバーグを投げてやろうかと思うぐらいに怒っていた。


  けれど、表には出さないでおこう。


  私はこの怒りを胸のうちにしまい込もうとした時…


「琴美ぃ、ご飯まだぁ?」


  何もしていない鈴ちゃんが机で待っている。愛ちゃんも香奈ちゃんも一緒だ。二人は何やら世間話をしている。


「鈴ちゃん…今運んでいるものを一緒に運んでほしいんだけど…」

「やだぁ!」


  私の問いに、元気よく拒否する鈴ちゃん。私は本気でハンバーグを投げてしまいそうになった。


  今夜はたぶん荒れるだろうな…


  家に帰ればまた鈴ちゃんに罵倒しまくるのであろう。そう私は思った。

  私は小さくため息をついた。


「ため息してるの、ことみんの幸せが遠のくぞぉ。」


  アリスちゃんもまたハンバーグを運んできた。アリスちゃんの実家では、自分で運んだりはしないだろう。

  聞いたところ、アリスちゃんは有名になる前からお金持ちらしい。実家は遠く、今は高校の近くにあるマンションで一人暮らをしている。この前、実家の写真を見たときは、本当にこんな家庭があるのだと実感させるほどだった。


「逆に、アリスちゃんはいつも幸せそうだよね。ため息ついているところなんて、見たことないよ…」


  私は少し拗ねたように話す。

  それを聞いたアリスちゃんは少し笑い、ハンバーグを机に置いた。


「私も、幸せじゃないときだってあるよ…」


  アリスちゃんは少しうつむいてそう言った。けれど、その時の顔は笑っていた。


「けど、私はため息したあと、思いっきり息を吸い込むの。幸せを逃がさないためにも、ね。」

 

  アリスちゃんは何やらロマンチックなことを言って、席についた。

  私はアリスちゃんが言った通り、息を思いっきり吸い込んだ。これで幸せが逃げないのなら、私は苦労していないだろう。

  舞ちゃんがハンバーグを置き、全員の料理が出され、私はやっと席につく。料理が終わったあとに座ると、もう起き上がれなくなりそうな気持ちになる。

  私はみんなを見た。アリスちゃんは料理の写真を撮りまくり、それを止めようとする香奈ちゃん。味見しようとしている愛ちゃんと鈴ちゃんを止めている舞ちゃん。入学して二ヶ月ほどが経とうとしているが、これほどまで仲が良くなっている。


  …なんか家族みたい。


  私はそんなことを考えていた。


「琴美ぃ、何笑ってるの?」


  鈴ちゃんにそう言われた私は、笑っていたことに気付く。


  何笑ってるの、私?


  私は恥ずかしくなり、顔を伏せた。それを見た鈴ちゃんは、面白がった。


  今夜は罵倒どころではすまない気がする…

 

  パンっとアリスちゃんが手を叩き、私たちの視線を注目させる。


「えぇと、ならみんなで食べちゃおうか。」


  アリスちゃんの一言で、みんな席についた。香奈ちゃんは、アリスちゃんのカメラを没収する。流石のアリスちゃんでも、ご飯を食べながらは写真を撮らないだろうが。


「なら、手を合わせてよね。」


  アリスちゃんに言われ、みんな手を合わす。こんなことをするのは中学の給食の時以来だ。


「それじゃぁ、いただきます!」

「「いただきます!」」

「い、いただ…きます…」


  復唱のように舞ちゃんが言うが、私たちは触れないでおいた。

  みんながナイフとフォークを持ったのを確認して、私も持ち、ハンバーグを一口サイズに切った。ハンバーグからふっくらとした感じがナイフから伝わってくる。ナイフで切れ込みを入れると、そこから肉汁が溢れ出てくる。ここまで上出来なものができたのは多分初めてであろう。

  私はみんなの様子が気になり、ナイフとフォークを一旦下ろして様子を見た。みんなの目はまるで、宝物の中身を見ているような目だった。

  私は再びフォークを持ち、一口サイズに切り取ったハンバーグを刺して口にいれた。


  熱っ


  私は熱さで吐き出しそうになったが、それを我慢して食べる。ハンバーグはとても柔らかく、あまり噛まなくてもかんたんに口の中で崩れる。レンジで温めたのが正解だったらしい。オニオンソースがほんのりと口の中に残っている。あとで舞ちゃんにレシピを教えてもらおう。


「こんなのお店でも食べたことないよ。」


  愛ちゃんはかなり絶賛している。それを見ている舞ちゃんは笑顔で私は少し嬉しくなる。舞ちゃんは愛ちゃんを元気付けるためにこの計画に携わったからだ。


  よかったね、舞ちゃん。


「琴美ぃ、これおいしいよ!」


  私が舞ちゃんを見ていたときに鈴ちゃんにそう言われて、私は鈴ちゃんを見る。笑顔はいつもと変わらず可愛いらしい。

  私は鈴ちゃんの口元を見る。すると、ソースが付いていた。いくら私がいるからといって、一人の女の子としてどうなのかと私は思う。


「鈴ちゃん、口元付いてるよ。」

 

  私はそう言い、ティッシュを取り出して口元を拭ってあげた。その光景はもはや、母と娘であろう。


「あ…う、うん。ありがと、琴美ぃ…」


  鈴ちゃんは顔を真っ赤にして言うが、最後の方はボソボソっとしていたのであまり聞き取れなかった。


「それにしても琴美ちゃん。料理得意なんだね。」


  香奈ちゃんもかなり絶賛している。相変わらず仏頂面だが、口にいれたとき一瞬、にやついているのがわかる。


「それにしても、口当たりがなめらかだね。柔らかくてすぐに崩れてよくわかんないけど、何入れたの、ことみん?」


  流石はアリスちゃん。色々とおいしい料理を食べてきただけはある。よくない点も地味に入れてきたが、私は勉強になる。

 

「確かに…それに…ソースで分からなかったのですが…このハンバーグ…少し…緑色をしてます。」


  舞ちゃんは横にいたからわかっていたと思っていた。けれど、それを顔には出さないでおこう。


「まぁ、特別な食材を使ったわけではないんだ。」


  私はそう言い、ノートを取り出す。私が中学校頃から作っているレシピ本だ。ちなみに、これは四冊目である。

  そして私はページをめくっていき、その食材のページを開いてみんなに見せた。


「実は昨日、近くのスーパーで安くてさ。ついつい買ってしまって…。それでこれを使ったんだ。」


  買わなかったら、昨日の晩御飯はカレーではなかったはずだ。それでも量が余ってしまっていたので、細かくして持ってきたのだ。アボカドを。


「お肉は基本調味料をいれたあとに、ナツメグで臭みは消したの。アボカドの青臭さは焼いて取ったの。」


  私はノートをしまい、またフォークを握る。まぁ、レンジで温めたせいでアボカドのなめらかさをあまり堪能できないのだが。改良が必要だなと私は思う。


「けど、舞ちゃんが作ったソースもおいしいし、この野菜のドレッシングもおいしいよ。」


  普通シーザードレッシングを作るには、粉チーズを使う。けれど舞ちゃんは、小さなサイコロサイズのチーズにしている。ほんのりとお豆腐の味がする。


「あ…それは…その…も、木綿豆腐で作った…豆腐クリームで作ったんです。作り置きが、その…冷蔵庫に残ってたので…ダメ…でしたか?」


  舞ちゃんはかなり自分の料理を否定的に言っているのだが、かなり腕はあると思う。ハンバーグもあり、かなりカロリーは高いのを少し軽減してくれている。


  やっぱり、いいお嫁さんになるね。


  私はまたそうと確信した。

  すると、愛ちゃんは舞ちゃんの頭を撫でた。いや、正確には撫で回すといったところだ。


「舞はすごいなぁ。こんなものが作れるなんてぇ。一生養ってもらうからな!」

「やや、養うって…」


  舞ちゃんはかなり焦っているが、愛ちゃんはお構いなしだ。


  なんだか、少し羨ましいな…


  私には妹の琴葉がいる。実際、私が琴葉の頭を撫で回すことは可能だが、私がそれを好んでいない。


  琴葉だって、好んでいないと思うし…


  私が考え事をしているのに気づいた鈴ちゃんは、私の肩をぽんっと叩く。


「え、あ、うん。どうしたの、鈴ちゃん?」


  私は慌てて反応する。


「そんなにさ、撫で回したいなら…私のを撫で回したらいいじゃない!」


  鈴ちゃんは怒った。何に対して怒ったのかは大体わかる。


「鈴ちゃんは逆に撫で回したいだよね?」


  私の質問に大きく「うん!」と返事した。

  無論、撫で回させる気はない。

 



「「御馳走様でしたぁ!」」


  ハンバーグを食べ終わり、私たちはまた声を合わせて言う。舞ちゃんに二度目はなく、少しがっかりしている。

  私は携帯の電源をいれ、時間を確認した。時刻は七時半を越したばかりであった。そろそろ帰るべきか、それとも帰らないべきか迷う。


「これからみんなどうするの?解散?」


  私はみんなに尋ねる。みんなもあまり考えてはないらしく、かなり考えている。もともと勉強しに来たのだから、ご飯を食べるなんて考えてもなかっただろう。


「ことみんとりんりんは大丈夫なの?二人とも同じ地区に住んでいるらしいけど、遠いんじゃない?」


  確かに、この中では私と鈴ちゃんの二人が家から一番遠い。三時間かけて来たのだから、今から帰宅しても十一時前に家につくだろう。琴葉のこともあるので、早めには帰りたい。

  私は鈴ちゃんにどうするか聞こうと思い、鈴ちゃんの方に振り向いた。その時にはもう、鈴ちゃんは帰宅準備を始めている。どうやら、帰りたいらしい。


「帰るみたいね、鈴ちゃん。」


  香奈ちゃんが舞ちゃんが運んできてくれていた紅茶を受取り、それをすする。いれたてで熱く、香奈ちゃんは吹き出しそうになっていた。

  私も急いで帰宅する準備をする。それにしても、以外であった。鈴ちゃんのことだ、駄々子ねながら「まだいたい!」とか言うのではないかと思っていた。

  私が片付けていると、舞ちゃんがお菓子を渡してくれた。


「その…帰りに、食べてください…。余っているんで」


  余っているにしては、多い気がする。ナイロン袋一袋はある量だろう。

  私は遠慮しようとしたが、鈴ちゃんがパッと取り、鞄に詰めた。粉々になっていないことを私は願った。

  私も帰宅する準備ができ、バックを肩にかけ、鈴ちゃんと玄関に向かう。

  私は靴を履き、身だしなみを整える。すると、みんなが送ってくれるらしく、玄関にやって来た。


「また料理作ってね、ことみん。」


  私はアリスちゃんの言葉に少しばかり嬉しさを覚えた。鈴ちゃんには一度も言われたことはない。

 

「うん。今度はお菓子を作ってあげるよ。」


  私はみんなにそう言い、鈴ちゃんと一緒に二葉家を後にした…




  電車から降り、私たちは家まで歩いて帰っている。帰りの電車はあまり混んでいなく、現在は十時四十二分だ。予想よりも少し早い。

  私の横では、鈴ちゃんがずっとお菓子を食べている。電車に乗ってからずっとだ。私が止めようとしても、鈴ちゃんは無視して食べ続けている。


  なんか、気にさわることしたかな…


  私は鈴ちゃんの顔を見ようと覗き込む。すると鈴ちゃんは、すぐに視線を反らしお菓子を食べる。


  ハンバーグ、おいしくなかったのかなぁ?


  私はますます心配になってくる。鈴ちゃんを元気にさせようと考えて作ったのに、逆効果だったのだろうか…

  私は顔をあげ、小さくため息をつく。そして、吸い込む。


「ねぇ、琴美ぃ…」


  鈴ちゃんは私を呼び、足を止めた。私は二、三歩前に行ってしまい、鈴ちゃんの方に振り返る。


「今日はね…その…ありがと。」


  …ん?


「だぁかぁらぁ!今日、おいしいハンバーグ作ってくれて…ありがとってこと 」

 

  私はやっと、鈴ちゃんの言いたいことが理解できた。


「いつから知ってたの?」


  私は鈴ちゃんに向かって、二、三歩歩み寄る。


「この前、部屋に入ったとき。パソコンの電源が付けっぱなしで寝てたから起こそうとしたときに見たんだ。それで…」


  鈴ちゃんは鞄を下ろし、中からノートを取り出す。私のレシピ本だ。無くなったと思っていたが、鈴ちゃんが持っていたとは…

  鈴ちゃんは伏せんが貼り付いているページを一枚一枚開けていく。伏せんが貼ってある場所は全て、ハンバーグに使えるページだ。


「これを見て、琴美がいつか作ってくれるんだなって思ったんだ。」

「そう…。」


  どうやら、鈴ちゃんのためにご飯を作ったことはわかっていないらしい。それはそれでいいのだが、心に引っ掛かるものがある。


  …わがまま…キスだよね。けれど、これで鈴ちゃんが元気になるなら。


  私は覚悟を決め、鈴ちゃんに近寄る。


「それでさ、おいしかったよ。なんか元気が出たよ。ありがと、琴美ぃ!」


  鈴ちゃんの声に私は元に戻る。元気が出たと聞いて、私は安心した気持ちと残念な気持ちが入り交じった、よく分からない気持ちになった。


  って、残念ってどういうことなの、私?


  私は恥ずかしくなり、鈴ちゃんが持っていたお菓子を横取りしてばくばく食べる。鈴ちゃんが止めようとしたときには、もう口の中だ。

  私は鈴ちゃんを鋭い目付きで見る。けれど、鈴ちゃんは何やら心配そうにこっちを見ている。

  その理由は、直後にわかった。


  …辛っっっ!!


  どうやら、辛いお菓子もあったらしく、私はそれを食べていたらしい。私は辛い物が好きじゃなく、お菓子でも涙目になるほどだ。

  ちなみに、しょぱかったり酸っぱかったりするものは大丈夫である。

  私は咳き込んで、口の中のお菓子をその場で吐き出してしまう。私は吐き出したお菓子を見た。すると、大半が辛そうな色をしているものだった。混ざったからかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。

  私は自動販売機がないか辺りを見渡す。しかし、あるのは街頭と家ぐらいだ。口の中がとてもヒリヒリとする。


  鈴ちゃんは何か飲み物をもっているはず…


  私は鈴ちゃんに手をさしのべる。私自身は飲み物がほしいと頼んでいるのだが、鈴ちゃんはそれに気づいてくれるのかが心配だ。


  最悪の場合、引っ張って帰らせてもらう。


  すると、鈴ちゃんはその手を振り払い、私の口に何かを無理矢理入れた。丸くてつやつやとした舌触りだ。


  …飴だ。


  私の口に入れてくれたのは飴であった。しかも、私のお気に入りのイチゴ味だ。ほんのりとした甘さが口の中に広がり、ヒリヒリを少し抑えてくれる。


「あ、ありがと…鈴ちゃん。」


 私は先ほど考えていたことを思いだし、鈴ちゃんの顔を見ずにお礼をする。

  すると、鈴ちゃんは何かに気づいたらしく、私に一歩近づいた。


「でもでも、もう少し元気がほしいなぁ。ねぇ、琴美?」


  鈴ちゃんは悪戯そうな目で私を見る。どうやら、私が近づいたことによって何をするのかに勘づいたらしい。


  まぁ、合っているのだが…


「き、キスなんて絶対にしないんだからね。」


  私は大きな声でそう言った。まぁ、しようとしたのは私だが、別に好き好んでやろうとしたわけではない。それこそ、鈴ちゃんが元気になってくれると思ったからだ。

  けれど、もう元気そうだ。

  私は鈴ちゃんを見て、少し笑顔になった。

  その後、私は鈴ちゃんにキスを強要されたが、理性がある私は拒否していき家まで耐え抜いた。

  そしてその晩、私は鈴ちゃんに罵声をたっぷりと浴びさせた。




  ここからは私の後日談である。

  二週間後が経ち、期末テストが始まった。私は毎日、鈴ちゃんに教えていたこともあり、学年トップでテストを終えた。

  一方の鈴ちゃんは、あれほど頑張ったものの、テスト本番で疲れが限界になったのか、ほぼ寝ていた。そのため、テストの結果は悲惨なものだった。

  そのため、テスト結果を知った日、私はまた鈴ちゃんを罵倒した。

  そして、特に大変だったこともなく、気がつけば夏休みになろうとしていた。

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