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貴女の存在がかわいくて、私はただただ見とれてます。  作者: あんもち
必然デスティーノ
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Give and Take Ⅱ

「おじゃましまぁす。」


  私と鈴ちゃんとアリスちゃんは声を揃えて言い、中に入った。入るとすぐに木の香りが漂う。自然は好きな方なので、この香りも好きだ。

  けれど、横にいる鈴ちゃんは、あまり好きな香りではないらしい。きつそうな顔をしている。

  私たちは靴を脱ぎ、真っ正面にある扉に手をかけ、扉を開けた。

  どうやら、中はリビングらしい。木で出来たテーブルに三人が並んで座れる木のベンチみたいなものがある。テーブルの上には赤い色の花が花瓶に添えられている。見たことない花だ。

  私たちは周りを見渡す。そこには、愛ちゃんと舞ちゃん、そして香奈ちゃんの姿がなかった。一体どこにいるのだろうか。

 

「三人とも、どこに行ったんだろうね。」


  鈴ちゃんがアリスちゃんと話している間、私はリビングを歩いて回る。家具はほとんど木で出来ている。買ったものなのか、それとも森から木を切り倒し、切った木で作ったのか。作ったとしたなら、かなりのすごいものだと思う。

  私はふと、木の棚の上にある写真に目をやる。そこには、小さい女の子が二人と大人の男女が写ってある。小さい女の子は二葉姉妹だとすぐにわかった。髪を片方だけ結ぶのは昔からみたいで、やはりゴムは水色である。


  なら、この二人は愛ちゃんたちの両親なのかな…


  二人とも優しそうな顔をしている。けれど、こうして見てみると、愛ちゃんは父親に似ているのに対し、舞ちゃんは母親に似ている。姉妹であれほど性格が違う理由もわかる気がする。

  どこで撮ったものなのか気になった私は、その写真を手に取った。


「それはこの森の奥にある湖があって、そこで撮ったんだよ、琴美。」


  私の後ろから愛ちゃんの声が聞こえ、私は振り返る。振り返るとそこには私服姿の愛ちゃんと香奈ちゃんがいた。けれど、未だに舞ちゃんの姿は見当たらない。

  私は愛ちゃんと香奈ちゃんの服を見る。愛ちゃんはデニムのハーフパンツに真っ白なティーシャツを着ていた。ティーシャツには黒色で、熱血と書かれてある。愛ちゃんらしいのだが、もう少し可愛らしい服装でもいいと思う。

  一方、香奈ちゃんの服装はというと、以外にも可愛らしい服装だった。いつも付けている赤い眼鏡は黒色のレンズが丸い眼鏡をかけ、白色のノースリーブを着ている。下は白のたてラインがある藍色のスカンツを履いている。何だか大人っぽく見える。


  特に愛ちゃんと横にいればね…


  私はそのことは口に出さずに、写真を棚の上に置き直し、もう一度振り返る。鈴ちゃんとアリスちゃんは、テーブルの上においてあったクッキーを食べながらくつろいでいた。


  あの二人は、人の家で…


  私は二人に呆れて思わずため息をする。こんな調子で勉強なんて出来るかが、私は心配だった。




  私の思っていた通り、勉強は進まなかった。


「鈴ちゃん、寝てないで勉強して。」


  私の右横で鈴ちゃんは机に伏せて寝ている。勉強道具は出しているものの、まだ一ページもやっていない。


  厳密に言えば、五行しか書いていない。


  鈴ちゃんが勉強を嫌っているのはわかっていることだが、これはさすがにと私は思った。

 

「寝かせたら、ことみん?りんりんの寝顔の写真が撮れることだし。」


  鈴ちゃんの右横にいるアリスちゃんはそう言い、カメラを手に取っている。ほとんど没収したのに、まだあるのかと私はまた呆れる。


「たいへんそうだな、琴美は。」


  愛ちゃんが私を見るなり笑って言う。私は愛ちゃんに対して頬を片方だけ膨らし、ムスっとした。


「愛ちゃん。しゃべってないでこの問題を解く。さっきから全然手動いてないけど?」


  香奈ちゃんは眼鏡の位置を上げて、愛ちゃんに言う。その姿はスパルタ教師のようだ。


「だってこの問題わかんないんだもん。香奈先生。教えて下さ…」

「ノートに何も書いていないからじゃない?せめて少しは書かないと。」


  愛ちゃんの少し甘えた声が無駄になった瞬間、愛ちゃんは少しだけ悄気た。

  私はその光景を見て、少し笑う。


  …それにしても、舞ちゃんは何してるんだろ?


  二葉家に来てから、まだ一度も舞ちゃんの顔を見ていない。愛ちゃんが曰く、まだ部屋にいるみたいだが遅すぎる。

  私はそのことを考えていて、勉強をしていないことに気付く。気付いたときには遅く、アリスちゃんと愛ちゃんまで寝ていた。香奈ちゃんは起こすことなく、黙々と勉強している。流石は学年二位。

  とりあえず、私は三人を起こそうと立ち上がったときだった。


「す、すみません。な、何を着るか…少し…ま、迷ってまして…」


  舞ちゃんの声がして、私は声の方向に向く。階段から舞ちゃんは降りてきていた。

  いつも普通に左に水色のゴムで束ねてある髪の毛を三つ編みしている。しかも、リボンも一緒に編み込んでいる。愛ちゃんよりも髪は長いため、一本まるまま編んである。

  服装は生地が少し薄い白のスカートに黒のトップスを着ている。トップスはイギリス国旗のロゴが付いてある。そして首には、金ハートが付いてあるネックレスをかけていた。


  姉妹でこれ程の差が…


  私は舞ちゃんを見ながらそう思った。


「そ、その…変…ですか?」


  私が舞ちゃんをずっと見ていたせいで、何やら舞ちゃんに不快にさせたらしく、私はすぐに謝罪した。

  私が舞ちゃんに謝罪していると、アリスちゃんがむくりと起き上がる。


「私、いつの間に寝ていたの?」


  あくびをしてからアリスちゃんは私に振り向きながら尋ねる。あくびし終わって目を開けたアリスちゃんの目は眠そうだったが、舞ちゃんを見るなり目が醒めていた。


「まいたぁぁん。一枚だけ…一枚だけだから写真を撮ってもいいよねぇ?」


  アリスちゃんはそう言い、カメラを手に取る。彼女が一枚だけと言って、一枚だけ撮るはずがない。

  その証拠に口元から少しだけよだれが垂れており、目がハートになっている。もはや、あれを止められるのは一人しか…


「アリス、舞ちゃんが怯えている。カメラをポケットかバックにしまって。」


  私が呼ぶ前に、香奈ちゃんが行動してくれた。香奈ちゃんはアリスちゃんを軽蔑するような目付きで見ている。私ならアリスちゃんにあんな頼み方をされるよりも、こちらの方に怯えてしまうだろう。

  アリスちゃんは香奈ちゃんの目を見る。そして、目を閉じたあとすぐに開け、カメラをしまった。


「勉強会なんだから、せめて勉強終わってから写真はしたら?終わったあとにカメラは返すから。」


  そう言い、香奈ちゃんはカメラが入っているバックごと没収した。香奈ちゃんの位置からは見えないが、私の位置からだとわかる。


  …ポケット。


  ポケットに未だに大きな膨らみ一つあった。私はアリスちゃんの執念深さを違うところで使ってほしいとつくづく思い、大きなため息をついた。

  私がため息をついたことにより、香奈ちゃんはアリスちゃんに近づきポケットからカメラを没収した。香奈ちゃんはそのカメラを少し見たあと、アリスちゃんのカメラが入っているバックにそれをそっといれた。




  時刻は四時五十八分。勉強会が始まって早いところ二時間ぐらい経っていた。お昼を過ぎてからやって来たこともあり、外は少しだけ橙色に染まっている。小学校の頃なら今頃、両親に怒られないよう急いで家に帰っているのだろう。

  あれからみんな、異常なほどの集中力があった。そのため、問題のアドバイス以外は一言も喋っていない。

  鈴ちゃんに限っては、うとうとしているもののあれから寝ることはなかった。


  進むスピードは一番遅いけど、ね。


  鈴ちゃんは勉強が嫌いで授業も大半寝ている。そのため、私かアリスちゃんが後ろを向いて起こさないといけない。…鈴ちゃんの横にいる愛ちゃんもついでに…

  私の視線に気づいた鈴ちゃんは、私を見るなりすぐに鈴ちゃんは机に視線を変えた。体育大会後、目を合わせると視線を反らそうとしている。

  確かにあんなことがあれば反らすのもわかる。私も視線を反らすことがある。いつものことなのだが、体育大会後はいつもより反らしている気がする。


「お腹空いたなぁ…」


  鈴ちゃんがぼそっと呟いた。その言葉を私は聞き逃しはしなかった。

  私は舞ちゃんに強く視線を向ける。それに気づいた舞ちゃんはびくりとした後、私を見る。

  私は舞ちゃんにウィンクを送る。舞ちゃんは何?という顔をしていたが、すぐに私が言いたいことがわかったらしく、舞ちゃんは席から立つ。私も続いて席から立った。


「アリスちゃん。今日はお仕事ないの?」


  私はエアコンがかかっていたためカーディガンを着ていたのを脱ぎながら、アリスちゃんに尋ねる。


「今日は私の役のところはないんだ。もし仕事があったら、今日は来てないよ。」


  アリスちゃんはペン回しをしながら私を見て言う。私はペン回しが出来ないので少し恨ましい。


「わかった。なら一時間ほど待ってて。」


  私はそう言い捨て、舞ちゃんとキッチンに向かっていった。もちろん、ご飯を作ることは舞ちゃんと私以外は知らない。四人は「何をするんだろう?」といった顔をしている。まぁ、推測すれば大体わかるだろう。

  私と舞ちゃんはエプロンを装着する。私は大丈夫なのだが、舞ちゃんの服が汚れてしまいそうで心配であった。

  舞ちゃんは冷蔵庫からひき肉と野菜を持ってきてくれた。私はとりあえずレシピが載ってある本の準備をする。まぁ、なくてもできるのだろうが。


「なら始めちゃおうか、舞ちゃん。」


  私は手を洗いビニール手袋を装着する。


「なら…わ、私は…その…野菜…切っちゃいますね。」


  おどおどしているのとは裏腹に、包丁を手に持ち構える舞ちゃん。先程より目が鋭い。今から殺人する悪党に見える。

  私はお肉をいれたボウルに卵、パン粉、牛乳、酒、バター、塩コショウ、そして、朝舞ちゃんが切ってくれていたニンニクを入れる。そして、それをよく混ぜ合わせるる。いつもなら四人分ぐらいだが、六人分と二葉姉妹の両親用の計八人分にもなると、混ぜるのにかなりの体力がいる。体力の少ない私にとっては、かなりの重労働だ。

  一方舞ちゃんはというと、盛り付けの野菜を切っていた。私がいつも家で切っているときより早く切っている。


  女子力高いなぁ、舞ちゃんは。


  きっといいお嫁さんになる、そう私は確信した。

  ひき肉を混ぜ終わり、ハンバーグのたねをつくる。そして、それらを一つずつ手のひらで打ち付けながら空気を抜く。あまり力を入れないようにするのだが、元から力は無いので心配する必要はない。

 

「舞ちゃん、そっちはどう?」


  私は空気を抜きながら、舞ちゃんに視線をやる。


「野菜は…切れました。ど、ドレッシングは…作りますか?」


  舞ちゃんはそう言い、調味料などを出す。私はあまり市販のドレッシングは好きではない。琴葉が作るドレッシングがおいしいからだ。けれど、レシピはいつも教えてくれない。


「いいんじゃないかな?舞ちゃんの好きなドレッシングでいいよ。」


  ほとんど他人任せのような台詞を吐く私。八人分のハンバーグの空気抜きをしながらは、ドレッシングは出来ない。

  舞ちゃんは少し考えた後、何やら調味料をいくつか持ち、ドレッシングを作り始めた。


  ドレッシングの方は舞ちゃんに任せよう。


  私はやっと八人分のハンバーグの空気抜きを終え、ハンバーグをフライパンに乗せる。数が多いのでフライパンを二つ使うことにした。


「琴美…さん。油は…その…敷かないん…ですか?」


  舞ちゃんは手を止めて私に尋ねる。


「あぁ、油ね。油を敷かない方がよりジューシーになるの。」


  この前、週間雑誌においしい作り方を俳優さんが載せていたのを思い出したのだ。私が自ら思い付いたものではない。

  私がコンロに火をかけると、舞ちゃんがフライパンを片手に寄ってくる。回りから見るの、私を殺しにかかっている様にしか見えない。


「その…煮込んじゃって、いいですか?」

「それって、煮込みハンバーグにするってこと?」


  舞ちゃんは頷く。


「…わかった。ならそうしよっか。」


  舞ちゃんの意見に、私は笑顔で賛成する。舞ちゃんも笑顔を向けてくれた。私が舞ちゃんと目が合ったときにしてくれる笑顔だ。今なら、アリスちゃんの気持ちもわかる気がしてくる。

  舞ちゃんは私の横に立ち、フライパンでバターを溶かす。そして、そこに玉ねぎとニンニクを入れた。二葉家が三つ付きのコンロでよかったと私は思う。

  私はハンバーグに目をやり、ハンバーグを裏面にひっくり返す。いい焼き色だ。

  舞ちゃんはしんなりした玉ねぎとニンニクの中に、小麦粉を加えて炒める。炒め粉ぽさがなくなってきた。

  すると、舞ちゃんは何やら器を持ち、その中身を加えた。


「舞ちゃん。それ、何入れたの?」


  私の問いに、舞ちゃんは調味料の方に目をやる。私もそちらを見た。そこには、醤油、ケチャップ、みりん、砂糖、お酒があった。これらを入れたということらしい。

  ハンバーグの片面も焼き上がり、私はお皿に移す。


「そういえば舞ちゃん。ドレッシングは?」


  舞ちゃんは煮込みながら片手で器を持ち、それを私に見せてくれた。白色をしている。シーザードレッシングだろうか。

  味見したい気持ちはあるものの、私は我慢してハンバーグを移したお皿をレンジに入れ、加熱する。


「何かいい香りがすると思ったら…何作っているの、ことみん、まいたん。」


  いつの間にかいたアリスちゃんに私と舞ちゃんは驚いた。それを逃さないアリスちゃんに写真を撮られた。多分、相当恥ずかしい顔をしているだろう。


「ハンバーグだよ。あと十分もすればできると思うから、みんなには机の上を片付けさせといて。」


  私はアリスちゃんに頼むが、アリスちゃんが人差し指を頬に当てる。


「えぇとね…その…言いにくいんだけどさ、ことみん、まいたん。」


  私と舞ちゃんはアリスちゃんを見る。レンジからは加熱し終わったアラームが鳴っている。


「そのね…二人がいなくなってから…みんな、寝ちゃったんだ。」


  アリスちゃんは舌を少し出し、笑った。いつもなら、この笑顔は嬉しいのだが今は違う。

  私はレンジからハンバーグを取りだしアリスちゃん目掛けて投げつけようとしたが、舞ちゃんに意図も容易く止められてしまった。

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