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七話




 光の魔法の練習については今覚えたばかりの魔法より更に上の魔法を使うと、即座に私が持っている聖女の力も発動してしまう可能性があり、何が起きるかわからないとのことなので、一先ず休むことにした。


 攻撃性のある魔法を発動すると一緒に効果も出るって厄介だなー。


 マジ厄介。そんなことが起きないように祈るしかない。


 でも祈るって言ってもこの世界の神はハゲてるしなあ。

 

 自分の頭髪も救えない者に一体何が救えるっていうんだ。もはやこの世界に救いはない、なるだけ大事に巻き込まれないように死ぬまでひっそりと生きたい。




 ランスロットは父様に報告と今後の対応についての話に向かった。


 父様というと、ジョンの様子を観察しつつ、穴埋めの仕事に指示を出している。


 ジョンは庭師の爺さんにあれこれ怒鳴られビクビクしながら使用人たちと一緒にシャベルを持って穴埋めをしている。


 魔法の練習と肉体労働って何か関係があるんだろうか。

 あれかな、まず属性エネルギーをうんたらかんたらするってやつなのかな。


 土属性だとああやって土木作業に従事するのが一番効率が良いのか。


 私ももし土属性で健康体に産まれていたら強制的に肉体労働に従事させられていたのだろうか。


 そう考えると女の子に性転換するようなヘンテコな境遇に産まれてきたことは感謝しなくてはいけないかな。




◇◇◇


 私は庭の休憩スペースに向かう。


 メイド達は未だにランスロットのイケメン具合に盛り上がっていた。


 その少し離れた所には、少し寂しそうな表情をした男の使用人達が無言ながらもお互いを慰めあうような形で休憩していた。


 まだ彼らは歳若そうな程だが、絶望的な敗北に打ちひしがれて哀愁が漂っており何処か精気を失ったかのように老け込んでいる風に見えた。


 恋人同士では無いにしろ、それぞれこの家で共に働いている間柄なので、それなりの交友関係があったのだろう。

 

 内心に思い思いの淡い気持ちを抱いていたのだろうか。

 

 それがあの何処からともなく現れたイケメンフェイス。

 

 彼らと同年代のメイド達は瞬く間にそのフェイスに魅了され、自分達が視界に入らない程に騒ぎ出す。

 

 彼女達も自分達の身分を弁えているので、あくまで目の保養的な感覚で盛り上がっているんだろうけど、純朴な青少年にはあまりにもショックが大きすぎる。

 

 悲しいなあ。昔はあちら側の存在だったので、なんとなくわかってしまう。




 彼らより年齢がいってそうなオッサンの使用人達はやれやれと何処か達観したような表情で、何も言わず作業と休憩を交代で行っている。


 ここで下手に励ましたり叱り飛ばして無理に作業をやらせると、注意力散漫で返って怪我とかトラブルを起こしそうだからだろうか。


 そして三日後に筋肉痛になってたり。オッサン無理すんな。




 まあそんな気まずい雰囲気なんて無視してメイドに声をかけるよ。

 私にはそれが出来る、何故なら私はここのお嬢様。今だ微妙な感じだけど、お嬢様ったら、お嬢様。

 

 めんどくさい空気になっているけど、ライトボール作るのに緊張しちゃってのどが渇いてるんだよ。


 他人の青春ときめき色恋事情なんかより私にはそっちの方が重要なんだよ。あーお水お水。


 私は話し中のメイドに声をかける。




「ねえ、喉が渇いたからお水貰えない?」


「え? あっ! お、お疲れ様です、お嬢様!」


 若いメイドが突然の私の声にびっくりして、多少テンパりながらコップに水を注いで渡してくれた。

 

 良かった、私はお水ちゃんと貰えた。ごくごくキューっとロリータボディに染み渡る。

 

 お水おいしい。

 

 やっぱすげえよ、お嬢様は。


 それにしても、お嬢様って良い響きだよな。


 なんかこうエロエロで浪漫に溢れるフレーズな感じがする。


 でも実際にエロハプニングに巻き込まれるのは嫌だなぁ。

 

 エッチなこと大好きだけど、いざ本番に入るのはちょっと躊躇うっていう、そういう複雑な心境わかってもらえないかな。これも所謂乙女心ってやつに入るのかな。もしそうだったら私って大分女子力高かったりしちゃう?


 お嬢様で更に聖女とか絶対にその内何かに巻き込まれる可能性高いよなぁ。


 やっぱ感謝は無しの方向で。金髪ロリータなままで聖女パワーだけ消えないかな。




「あの……お嬢様……」


「え? 何?」


「いえ、その……何やら真剣な表情で考え事をしていらっしゃるようでしたので……」


「ああ、うん。ちょっと今後のことについて」


 正直この身体で何が出来るのか試してみたい。というかワクワクが止まらない。今すぐ部屋に戻ってぱんつ脱いでカードスラッシュしたい。

 

 でも、この歳で誰かと致すっていうことはしたくないし、男と付き合うっていう方向性もあまり考えが湧かない。

 だからといって女同士っていうのもそこまで好きでも無かったしなぁ。




「その……お嬢様……」


「ん? だから何?」


「今後のことと言いますと、これからの魔法の練習のことでございますでしょうか……?」


「ああ……うん、だいたいそんな感じかな……」


 すいません、別のこと考えてました。


 とても重要なこと考えてたけど、今は魔法の方がもっと重要なことになるのかな。


 でもメイドに私の魔法のことが何か関係するの?

 

 この子さっきからソワソワしてるようだけど、トイレに行きたいなら早く行った方が良いと思うよ。




「水の魔法はこれからのようですが、その……光の魔法については今後はどうなされるのでしょうか?」


「んー、どうなんだろう。光の玉より上の魔法を使うと能力が発動するかもしれないって言われているんだよね」


「そ、それでしたら、あの、今日お嬢様の指導にお越し下さった、シャレンジェル家の方は今後は……」


「あー、学園の入学試験は光の玉だけでも合格できるとも言われたんだよね、私への目的は果たせてる訳だからこれ以上無理に魔法を習得しなくてもいいと思うし、多分もうここにくる理由は無いんじゃないの?」


「ええっ!? そ……そうなのですか……」


 途端に元気が無くなるメイド達。


 男の使用人達と合わせてドンヨリムードが二乗に。なにこれ。


 そんなに落ち込むなよって、その内良いことあるって。多分。




「これは一体どうしたのだ」


「あっ、父様」


 と、そこに父様登場。

 後ろにはドンヨリの原因もいた。


 ジョンは未だに爺さんに怒鳴られてる。




「光の魔法は現状では初歩的な物が、能力を発動させない限界の様だなアリス」


「はい父様、その限界というのは今後変わっていくのでしょうか?」


「それは今は私にもわからない。おそらく水の魔法についても同様にそうなるのだろうな。それはまあ良い、扱える魔法の種類を把握し技術を磨いて行けば、能力の暴走に飲み込まれる危険は抑えられる」


「はあ、そうなのですか」


 危ないのは危ないままなのか。


 水の魔法も今は玉だけしか出来ないのね。ますます必要ない能力だな。


 損得で言ったら損の方が多いよね。得したことと言えば健康体になって、誰にも怒られる心配が無い、保健体育の教材を手に入れたこと位だよね。

 

 あれ? 得の方が大きいのかな? もうこれよくわかんないや。




「それで父様、今日指導に来てくださったランスロット様は、これからの私の練習にはどうなされるおつもりで?」


「なんだアリス、気になるのか?」


「いえ、気にしているのは私ではなく、主にメイド達で、そしてそのメイド達の反応を彼らが気にしているようで」


 目でチラリと彼らの方を見る。

 明らかに同様しているメイド達に男達。

 

 彼女らは馴れない父様の顔を見て、ビクビク怯えながら『そんなこと一々チクらなくても良いじゃないですか』、と言いたげな視線で私を見つめる。


 いや、モヤモヤ気にするより、ここでさっぱりと諸悪の根源がまだ来るのかもう来ないのか聞いた方が良いと思うじゃん。


 遠くでキャーキャー言われながら隣ですまし顔決められると、正直腹が立つので私としてはもう来ないで欲しい。


 そういうことは私がいない所で思う存分やって下さい。

 

 ああ、おふとんが恋しい。


 おふとんとにゃんにゃんしたい。




「はあ、そういうことですか。彼女たちを騒がせる原因となって申し訳ありません」


「ははは、若い者にはよくあることさ。君が気を病む必要は無い、それに君には既に許嫁がいるではないか」


「えっ? そうなのですか父様? 初耳ですよ。それにそんな方を私の教官として呼ぶのはどうなのです?」


 父様が口にした許嫁の言葉に少しざわめいた後、別の意味で盛り上がり出したメイド達。

 

 使用人の男達もホッとしたのか安堵のため息を吐く。


 そんなこと聞いてないぞ。


 そんな奴寄越すなよ、これでもし婚約者が嫉妬深い奴だったら恨まれるの私じゃないか。

 

 騒ぎの火種をぶち込んじゃらめぇ。火種で波乱じゃううう。




「それなら心配はあるまい、何故なら彼の許嫁はお前が元は男だったことを知っているし、

何よりお前自身にその気が無いということも知っている人物だからだ」


「はぇっ!? た、確かに少し前までは男でしたが、今はもう女の子なんですよ!? それに今はその気が無くても、いずれその気になるかもしれないじゃないですか! 全然その気が起きませんけど!」


 動揺した私を見て父様が笑い出す。何がそんなに面白かったのか。

 

 頼むから笑わないでよ、怖いから。


 イケメンとか全然好みとかじゃ無いし、寧ろ討伐対象だわ。

 

 というか許嫁って誰だよ、私は全く見当つかないわ。向こうは私を知ってて私は向こうを知らないし、なにそれもうやだこわい。

 

 そもそも男だったのに好みの男のタイプとか言われても全く思いつかんわ。

 

 でもしいて言うなら、温かくて、包容力があって、疲れた時に何も言わず優しく包み込んでくれて、抱かれるとそのまま安心して眠れる存在かな。

 

 

 

 そう、おふとん。




「えええっ!? ア、アリスって男なのかよ!?」


 突然私の秘密というかなんというか事実だったことを大声で叫ぶ奴がいた。


 でもここにいる連中は全員知ってる筈なんだけどね。知っててナチュラルにお嬢様って呼んでくるからね、もうね、どんだけだよ。

 

 振り返るとそこには変な顔に驚愕の表情をクリッピングして貼り付けたようなジョンがいた。


 今日出会ったばっかりなんだが、誰よりも馴れ馴れしいなコイツ。

 

 男なのかって、もう付いて無いんだが。くっぱり割れてるんだが。

 

 

 

 

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