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六話

 



 怪我が治り、何か家で働くことになった少年を連れて再び庭に出る。

 庭に出る移動の最中、少年が私をチラチラ見ているような感じがするのが気になった。


 なんだろう、前世の頃から人の視線というものは馴れないものなのだったが、この体になってからはそれがなんだか更にピリピリ来る感じがする。

 乙女の柔肌というものはそれほどまでに敏感で感じやすいのだろうかと思い、歩きながら自分の頬をもちもちぷよぷよして確かめていると、ランスロットが変な顔をしながらこちらを見ていた。

 適当に今日は色々な人が家に来たので、表情が疲れていないか確認していたと言っておいた。これで誤魔化せただろうか。


 そうこうしていたら、私たち四人は庭に出た。

 庭では使用人の男衆がえっちらおっちらとどこからと岩や土砂を運んで来て、それを庭師の爺さんが魔法を使って細かく砕いだりブロック状に加工しては、穴を埋めるのに使用し道を舗装しようとしたりしていて、その近くではメイドたちが運んできた簡素な木製テーブルの上にタオルや救急箱や飲み物なんかを用意しており、土木作業に励む使用人たちの休憩スペースが設置されていた。


「見たまえ、今あそこで君が作った穴を家の使用人たちが塞いでいる作業をしているだろう。庭師が使っているように一見すると魔法とは便利な物だが、穴が出来てしまったのもまた魔法によるものだ。使い方次第で便利にも不便にもなってしまう」


「は、はい……」


「だからこそ魔法に対する正しい知識と技術を学んで貰いたい。そこでまずは君にもこれからあの穴を埋める手伝いを行って貰う。庭師は君と同じ土属性の魔法が使え学ぶべき内容を知るのに最も適している。私が今から話をつけるので一緒に来たまえ、ああ、それと君の名前をまだ聞いていなかったな」


「お、俺の名前は、ジョンです!」


「そうか、ジョンというのか。うむ、ではアリス、お前は先に光の魔法から練習に入りなさい」


 少年の名前はジョンというのか。

 ジョンは父様に連れられて庭師の爺さんの元へ。

 運んで行った使用人たちがもう治ったのかと大層驚いていた。骨とかボッキボキに折れてたもんね、どうやって治ったとかここで働くことになったのかとか案の定色々聞かれてるけど、そこは父様が上手く誤魔化していた。

 その後話を聞いた爺さんは渋々といった表情でジョンを指導することを承諾していた。

 父様も彼をしばらく指導するようでそのままそこに残って手伝いをするようだ。 



「では、アリス嬢。私たちも魔法の練習をしましょうか」


「わかりましたわ、ランスロット様」


 私はお嬢様風な演技で相槌をうちランスロットと光魔法の練習へ。

 場所はそのままで、時々ジョンへの熱い指導の声が聞こえてくる。


 光魔法の練習って何するんだろう。

 禿の頭をぴかぴかさせることしか出来ないんだが。


「と言っても、魔法の基礎練習というのはまず第一に属性のエネルギーを感じ取り、体内の魔力と循環させそこから放出させるのですが、ここまでは属性を調べる段階で誰もが通過するものと言われています」


「ええ、そこは父様に言われて本を読んで復習しました」


 うん、知ってる。

 というかそれがロクに出来ない身体だったから、死にかけてたんだが。

 欠陥品で偽造品だと思ってバカにしてんのかこのイケメン野郎。


「貴方もここまでは行っていると伺っています。そして次の段階なのですが、放出させる際に形を固定したり、引き起こす現象をイメージして発動を行います」


 と言って、ランスロットは右手の指先を突き出し『ライトボール』と呟いた。

 すると、指先から握りこぶしほどの光の玉がふよふよと出てきた。


「この光の玉は周囲をほんのりと明るく照らすようにとイメージして発動しました。小さくてシンプルな効果で単純な形をしていると、込める魔力の量も少なくなり、大きな失敗も無いでしょう」


 おおー、すげー。

 イケメンが難なく決めてくるのは癪だが、目の前でふよふよ浮いてる光の玉は凄いな。

 触ろうとすると質感が無く手が光の中に突き通り、手の中がじんわりとぽかぽかするような感じがした。


「この魔法に込めた魔力は少量で、ほんの数分程で消えてしまいますし力もあまり無いですが、魔力を込めれば数日照らし続けたり攻撃性を与えたりすることも出来ます。先ほどの……確かジョンとか言いましたっけ、彼が空けて自らも怪我を負った大穴の魔法はこの固定化や現象へのイメージが弱く、反対に魔力を強く込めすぎた結果そうなってしまったと考えられます」


「なるほど、そうなのですね」


 ろくに考えずに力んでたら実が出てあわや大惨事ってことか。

 こっちは考える余裕も力む暇も無く盛大に漏らしたことがあるが。

 奴と私、どちらがダメージが大きかっただろうか。うん、私だな。

 そんな私が魔法なんてうまく扱えるだろうか。


「さて、アリス嬢。貴方にも私がやって見せたように光の玉を出してみてください。大丈夫です、ただほんのり光るだけの玉をイメージすれば良いだけです」


 ランスロットは何の躊躇いも不安も無い笑顔を見せながら私に指示を出してくる。

 なんだろう、まるで稀代の素質を持つ聖女ならこれくらいのことは軽々やってのけてくれるだろうと言わんばかりの様な何処か挑発的な表情に思えた。

 なんだこの重圧は、私は奴に試されているのか? ならばその挑発、受けて立とうではないか。

 

「わかりました、やってみます。所で先ほど『ライトボール』と呟いていましたけど、それも一緒に言った方がよろしいのでしょうか?」


「え? ああ、あれは発動させたい魔法のイメージを起こしやすいようにそれぞれ思い思いの単語を呟いて練習していた時の名残みたいなものです。今でもあの魔法を発動させる時に癖でつい時々呟いてしまうんです」


 へえ、そうなんだ。

 じゃあ魔法使うのにいちいち物凄い長い詠唱とかいらないんだな。

 いや、むしろイメージを起こしやすくする為に強力な魔法とか扱う時には詠唱とかしてたりするのかな。

 この調子だと中学生が考えたような一説を唱えながら強力な魔法を扱う、髭もじゃの熟練爺さん魔法使いとかいそう。

 

「じゃあ、そろそろよろしいでしょうか?」


 いや、そんな急かさなくても。心の準備ってのがあるだろ全く。

 さて無事に私は普通の魔法を使うことが出来るだろうか。


 邪を寄せ付けない聖女フラッシュの性質を出さずに、ライトボールってのを出せれば良いんだよね。

 ランスロットがやってたように、ひとさし指をピンと伸ばし、右手を前に突き出す。

 残念ながら、お手本のライトボールはもう既に消えてしまっている。もう適当にやれば良いだろ。

 

「えーい、ライトボール!」


 思わずライトボールって言ってしまった。先ほどの光の玉を意識しすぎた結果、イメージが完全にライトボールで固定されてしまった。

 すると指先から、手を広げた程の大きさの光の玉がふよふよと浮いていた。


「おおっ! ライトボール! ライトボール!」


 ちくしょう、もう完全にライトボールだわ。光の玉=ライトボールだわ。

 なんか、出会ってまだ間もないのにあいつ色に染められた気分だわ。汚されてしまったわ。

 

 アリスは穢れてしまったの、責任とって慰謝料下さいなの。


 というか安直すぎんだろ、こんなん誰でもライトボールだっての。よってノーカンで良いな。




◇◇◇


 その後ただひたすらに光の玉を出し続けた。

 玉を出して消えるまで数分ふよふよ浮かせて、消えたらまた玉を出して数分ふよふよ。

 その間ランスロットは真剣な表情で玉を見つめ、手には懐中時計を持っておおよその時間を図っている。


 これに一体何の意図があるのか聞いてみると、大きさや魔力量にバラつきがないか確かめているんだそうな。

 一個ずつ出しているのも同じ性質を持つ魔法同士が結合すると、違う性質に変化して大変なことになるかもしれない可能性があるからとのこと。


「大きさも均等で、魔力量もバラつきが無いと言って良いくらいです。この練習はもうほぼ完全に出来ているでしょう。正直驚きですよ、最低数日はかかると思っていましたし」


 そうなんですか、多分聖女補正のおかげなんだろうけどやってみたら案外簡単でしたよこれ。


「ただ、引き起こす現象によっては初級の魔法でも即座に聖女の性質が発動してしまうでしょうね」


「じゃあそれでは、一体どうすれば?」


「攻撃的な思考を与えたり、無意識で魔法を発動したり、魔力を込めすぎるとまずそうなると思ってください。使いすぎるとどうなるかわからないとのことなので、しばらくは初級の補助的な魔法だけを練習してみてください」


 うーん、制約ありすぎでしょう。強すぎる力ってのも困りものだね。

 そもそもどこまでならセーフなのか自分でもよくわからないのだが。

 部屋の照明代わりとか、夜トイレ行く時に使うぐらいならセーフなのかな。

 

「まあひとまずこれで学園の入学試験の方には問題なく行けると思います。一通りの基本は全て出来ているようですし、まさか初日でここまで行けるのは私としても助かりました」


「そうなのですか、私も今日は魔法のほうを見てもらって、ありがとうございました」


 お前が助かるんかい。初日で合格点貰えたならもう来ないのかな。それは私の精神衛生的にとても助かる。 


 しかしなんで指導の相手がこんなイケメン野郎なのか。前世に対する熱い当てつけなのだろうか。

 この場に駆り出されているメイドたちはほとんどが若く、休憩中の男たちをほっぽってこちらの方を見てキャアキャア色めき立っていた。

 無視されている男たちは、始めはメイドに声をかけたりはしていて、彼女たちの内の数人が反応し対応をしていたけれど、それもどこかおざなり気味でその内声だけで対応されるようになり、メイドに声をかけるのも止め、恨めしそうにランスロットを見ながら結局自分たちでタオルや飲み物を用意して休憩をし始めた。

 なんだろう一生懸命に働いているのに報われない彼らの不憫さが、痛いほど染み入る。可哀想である。

 顔面偏差値格差社会は何処の世界にも存在しているのか。

 こればっかりは私にも均等には出来ない。


 ジョンの方はというか、穴埋めの方はまだまだ日がかかりそうな感じがする。

 あいつ、どれだけ大きな穴空けたんだよ。

 深さの方は、大人がすっぽり入れるくらいで、それが結構な範囲に広がってる。

 結構な量の土砂がごっそり無くなってるからまずそれを持ってこないといけないし、芝生や歩道や植木も巻き込んでいるから元に戻すの相当時間かかるだろうなー。


 おそらく当分ただ働きだろうな、ジョンの奴。

 冒険者になる頃にはオッサンになってそうだな。





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