五話
「おおっ! すごいっ! 俺ってば骨折れてたのに、たちまち治ってる!」
怪我が治り、私たちがいるのも忘れてベッドの上ではしゃぐ少年。
確か頭にかけたのに、なんで頭以外の怪我も治ったんだこれ。
「す、凄い……! あんな少量の水にこれほどまでの回復力があるなんて……」
イケメンも驚いている。
驚いていてもイケメンはイケメンのままである。
まあ、ほんの少しの水しか出してないのにここまで元気になるのは驚きだけど。
ロリの天然水は最強なのか。
「あの、父様これは」
「アリスよ、これがお前の持っている性質の一例なのだ。歴代の者達も皆このような芸当が行えたという」
なるほど、聖女の天然水だったのか。天然水すげえ。
少量のお水で全回復できるなんて聖女パワーすげえ。
「うっひょー! スッゲー! もう痛くない! もう何処も痛くねえ! さっきまで俺死にそうだったのに、もうピンピンしてる! もしかして俺の中に眠っていた真の力が遂に開放されて……?」
少年が何やら一人で盛り上がっている、何言ってんだこいつ。
治したら治したでこうも騒々しいとは。
何かブツブツ訳の分からないことを呟き始めたのでとりあえず無視しておこう。
「あの、父様、怪我は治せましたが頭の中身は治せないのでしょうか」
「アリスよ、お前の使った魔法は病気や外傷には作用するが、その人が元来持っている精神までには作用はしない。催眠効果を持つ魔法は存在はするものの、精神を変質させる魔法は非常に複雑なのだ」
おう父様、そんな複雑なもん性転換薬にぶち込んでくれたのか。
複雑って何がどう複雑なんだろ。中学時代は大人しくて真面目なメガネっ娘だったのを、高校デビューで淫乱ビッチギャルにするくらい複雑とか?
どんなデビューの仕方だよ。そんな魔法あるとか怖いよこの世界。
「ブルムライト様……アリス嬢は聖女の素質を持っているとは聞いておりましたが、この歳でこれほどの力を持っているとは……」
え? 何? もしかして私凄いの?
「私も光の名を持つ家に産まれ、歴代の聖女達の情報はそれなりに把握しておりましたが、今見た彼女のそれはどの聖女の力よりも質が高い様に見受けられました……」
「ああ、ハッキリと言ってその通りだ。アリスには強力な魔法を特別な制御も無しに、ただ念じるだけで扱えるという性質が備わっている」
うえぇっ!? 何ソレ、そんなん有り体に言えばチートですやん。
一生使い道が無さそうだった低ランクポークビッツと何もしなくていい生活と引き換えに、ウルトラレア級の金髪ロリータボディと健康を手に入れたと思ったら、更にそれにおまけまで付いてたの。
もうチーンは付いて無いけど、チートは付いてるの。
どうしよう。こんなんニート気質の私なんかに持たせといちゃ絶対駄目なやつじゃん。
もっと目立ちたがり屋で、有効に使える奴に持たせるべきだろ。
ほら、すぐそこのベッドの上ではしゃいでる奴とかおすすめなんじゃない?
女の子の身体はいろいろ気持ちいいからそのままで良いからさ、チートだけアレに譲渡とか出来ないかな。
「水の魔法は今見た通り、傷病者を立ち所に癒して治す水を出す魔法。そして、光の魔法は身体から邪を寄せ付けない聖光を放つという魔法だ。これは庭師の頭部が突然光り輝き始めたという報告を聞き、調査の結果判明した」
おおう、庭師の爺さんの頭が光ってたのは魔法が発動していたからなのか。
ごめんよ爺さん。必要以上に頭ピカピカさせちゃって。
これって、あの神のジジイにも使えないかな。
「そ、そうだったのですか……では、私はアリス嬢に一体何を教えればよろしいのでしょうか」
「まあ待て、今までは前提だ。問題はここからにある」
「問題ですか? ここまで私の問題だらけの魔法にまだ何かが?」
「ほう……アリス、自分の持っている力を問題と言うか。そうだ、それが正しい」
「ええっ? い、一体何が問題だというのです?」
いやいや問題だらけだろランスロットよ。
強いて言うなら、お前のイケメンフェイス並に問題だらけだよ。
私はもっと普通な感じが欲しいの。
それでいて生活に困らない程度の力で良いんだっての。
もっとこう日常アニメ的な生活で、ゆるくてふわっとした感じで生きたいんだよ。このボディなら日常アニメでメイン張れる自信あるから。
ここファンタジー丸出しな世界で、私貴族の子で、性転換したりもして既に普通じゃないんだけどさ。
「うむ、ランスロットよ、アリスに何を教えなければというどころか、むしろ一から教えて行かなければ、おそらく先に言った二つの魔法以外は使えないだろう」
「ええっ!? ど、どうしてそんなことに」
「アリスが現時点で使える魔法は聖女の素質で得た物だからだ。それはあるのなら別に障害ではなく、寧ろ祝福されるべき能力である。だが、思いの他強力過ぎるのだ。このままだとアリスが本来持っているであろう素質すら取り込んで完全に使えなくなってしまうかもしれん。そこが問題なのだ」
「どういうことですか、それは……そんな情報我が家の記録には一切存在してませんが」
「そうであろう、何しろ今回の件はアリスが初めてなのだからな。もし素質に取り込まれた場合どうなってしまうのか予想もつかない。私も色々と関係各所への報告としかるべき対応に奔走されたよ」
え、なにそれこわい。
そんなの聞いて無いよ父様?
聖女やべええええ。
既にちょっと使ってるけど大丈夫だよなこれ。
今まで病弱でヒイコラしてたのに、ここに来てまたヤバい案件がぶっ込まれたぞ。
あのハゲ神なんでこんな面倒くさいことしちゃってくれてんのさ。
この一件が解決したら、絶対に頭ピカピカさせてやる。覚悟してろよ。
「わかりました。関係各所へ報告しているということは、父上の耳には既に入っているということでしょう、後で確認と今回の報告の方を私から父上の方にしても構いませんでしょうね?」
「ああ、そうして貰えると手間が一つ省けて丁度良い。それに貴様を呼んだのは色々と都合も良いからだ」
「所で……こういった話を私たち以外の人間が居る所で喋ってもよろしかったのでしょうか」
そう言ってランスロットはベッドの上の少年を見る。
彼はまだ自分の世界に入っているようだ。
確か医者が孤児とか言ってたっけ、これからどうするんだろ。
本当に冒険者になるんだろうか。というか冒険者ギルドとかあるのだろうかこの世界。
「そして俺は不死身パワーによって邪悪な魔王から人々を守り、それを打ち倒し見事伝説の勇者としての称号を手に入れ、世界各地を渡り歩いて仲間に引き入れた美少女達を嫁に貰い、最強最大の王国を築き上げ世界中から盛大に讃えられ、この世界に未来永劫語り継がれる偉大なる勇者の王様になるのだった……」
何を言ってるんだこいつは、もしかして私と同じ様にハゲジジイに叩き落とされた存在だったりして。
言ってることをよく聞いてみると、生前目にしたことあるような何やら不穏な言動を呟いている。
「確か、医者が孤児って言ってましたよね父様」
「ああ、私もそのように聞いている。そして冒険者になる等とも言っていたとも……ふふふ、とても愉快ではないか」
なにがそんなに面白いんだろう。
冒険者って今就職氷河期みたいな感じなのかな。
確か聖女誕生の時代から今までで、魔物は完全に討伐しきれていないって前に読んだ本に書いてあった様な気がするけど。
父様がおもむろに少年に近づき、ポンと肩を叩く。
「ん? 誰だ……? 今俺、今後の人生について……って、ひいいぃっ!」
「医者から聞いた所によると、どうやら君は孤児のようだがこれから先何か宛はあるのかね? もし良かったら家で働かないかね。何、悪い様にはしない……」
「ひょええっ! って、え? し、仕事くれるの? で、でも一体なんで……」
「君の一件は全て見ていた。庭に空けた大穴、怪我の方は少し心配させられたが、どうやら磨けば光りそうな魔法の素質は備えているみたいだ。君のような存在を野放しにしておくには惜しいと感じた」
父様が少年をスカウトし始めた。
いやいや大丈夫なのそいつ。勉強会に来てた貴族達の前で思いっきりやらかしてたけど。
さっきの妄想で、少なくともハーレム願望ありそうなことも言ってたし不安しか無いんですけど。
「どうだね、ここで働き当面の資金を稼ぎ、魔法の腕も磨いてから冒険者を目指してみるのも遅くはないと思うのだがね、勿論君が望めば学園の方も入学の機会を与えてあげられるが?」
「ええっ!? 学園に入学出来るんですか!? い、行く行く! 行きたいっス! ここで働きますぅ!」
何やらあれやこれやら言って本格的に雇い入れる方向で話が進んでいってる。
いつもの怖い顔をベースに、にこやかスマイルで優しいお言葉の父様。これは絶対何か企んでいる。
少年も最初はビビってたけど、以外にも親切な対応にあっという間に手懐けられてしまった。
それだけよっぽど困窮していたのだろう。もし私が孤児からスタートだったら半日もしない内に終了してた自信がある。
ランスロットの方も怪訝そうな顔で、様子を見ていた。
「ではこれから魔法の練習の続きといこうではないか、どうかね、今のままでも入学は可能かもしれないがその先が厳しいぞ。土魔法は分野外であるが、基本的な魔法の扱いについては指導が行える」
「わかりました! 何なりとお申し付け下さい!」
「大変よろしい、ではアリス、お前も練習だぞ。今日はまだ本格的な練習に望めていないからな」
ようやく本格的な練習なのか。
さっき大変なこと聞いちゃったしなぁ、ちゃんと他の魔法も扱える様になれるんだろうか。
というか、魔法の練習するならもっとラフな格好でやった方が良いんじゃね。
今の私フリフリヒラヒラなんですけど。大丈夫なんだろうか。
てかなんで魔法の練習するのにオシャレ決め込まなきゃいけないんだろうか。