異世界チート夢想
異世界に転生したら無双出来ると初めは夢想してました。
なんか死んだと思ったら、変な爺さんが出て来て『お前は手違いで~~』とか抜かしてた。
ニート殺すのに手違いも糞もねえだろと思ってたら『好きな世界に転生~~』とか言ってきやがった。
そんなの良いからこのまま成仏させてくれよと断ったら『お前はニートだったから無理』とかほざいてる。
ニートだから成仏出来ないとかそんなの差別だ、横暴だ、ドケチ、ハゲ、等と抗議してたらハゲのジジイに無理矢理この世界に投げ捨てられた。
そして気がついたら赤ん坊になっていた。それから今日で十年経った。
オッス俺、アリック・ブルムライト。今日で十歳。
前世は冴えないニートだったけど、剣と魔法のファンタジー世界で、うん百年の歴史を持つ由緒正しい貴族の名門ブルムライト家の三男に転生したらしい。
「ゲッホゲホゲホッ! ゲーッホッホホホッ! ゲホホッホーッ!」
今のは俺の咳である。ここは俺の部屋。
今の俺は自力ではベッドの上からろくに動けない程とても病弱である。
医者に見せても原因不明で、何もしてなくても三日に一度は風邪をひく位に弱い。
それが産まれてから、今の今まで続いている。
治ったと思ったらまた体調が崩れる。
多分、裕福な貴族に産まれてなかったらまた死んでたんだろうな。
こんな役立たずの、終身名誉うんこ製造機ニート一匹を、今の今まで養うなんて訳無い位に裕福である。
裕福なのは良いことだし、第二の人生でもニートライフを謳歌出来たのは良いんだが、如何せんひ弱すぎる。
正直、よく十年もこんな身体で生きられたなと思う。回復魔法様々である。
「ううっ……、あー……いつまで続くんだろこんな生活……」
「それは今日までだ。アリック」
「えっ!? って……と、父様……?」
音も無く突然部屋に入って来た、立派なひげを生やした怖そうな雰囲気を放つオッサン。
まぎれも無くこの世界の俺の父親であり、ブルムライト家の現領主である。いわば今の俺を生かすも殺すもこのオッサンの思いのままなのだ。
「聞きなさいアリック、数年に渡る長い調査の結果、お前の体調を良くする手だてがようやく判明したのだ」
「そ……それは、本当なのですか……! 父様……」
マジなのですかそれは。
うっそだろオイ、お払い箱になるまでこの部屋で生きてこうって半ば諦めかけてたのに、ようやく俺のターンきましたの?
暇を潰そうと、俺専属のおばさんメイドに頼んで、変なおとぎ話の本とか、魔法関連の本とかをいろいろ持って来させたりしたけど、正直飽きてきたんだよね。
健康になったらニートライフが危うくなりそうな予感だけど、病弱なまま過ごすのよりはマシかな。まあその内何とかなるでしょ。
「どうにかならないかと思い、古い文献や伝承を手当たり次第に調べ尽くした。そして、その中で一番有力な情報である方法を遂に見つけ出した」
「そ、その方法……とは?」
「まあ落ち着きなさい、その方法とはこれだ……」
そう言って父様から差し出されたのは、栄養ドリンク程の大きさの瓶である。
蓋を空けると、甘い香りのするピンク色の液体が入っている。
「これを飲みなさい。そうすればお前の体調はおそらく良くなる筈だ」
「そうなのですね! では……」
瓶を口元に運び、中身を一気に飲み干す。
イチゴみたいな味がして、子どもの舌でもゴクゴクとおいしくいけた。
あっ、そういえば体調が良くなるっていったって、実際これって何の液体なんだろ?
「ところで父様、この飲み物は一体何なのです?」
「……性転換薬だ」
「は……?」
「市販の薬では質が悪くてな、時間が経てば元に戻ったり、変化する際身体にも負担がかかることが多いので、そうならないように特注品を用意した」
「とく……ちゅう……?」
「負担がかからないように約三日かけてゆっくりと身体を作り替え、そして一度使えば一生そのままという優れものだ」
「え……?」
「私たちもこれを使って良いものか大いに悩み、家族と三日も話し合った……だが、ろくに部屋からも出られずに日に日に弱っていくお前の姿を思うと不憫に感じ急がせた」
「な……? かぞ……」
家族ってなんじゃい! そこに肝心の俺がいないじゃないか! どうしてそんなこと一言も言わずに決めてんの!?
え? え? 俺、女の子になっちゃうの……? マジで……? え? なにそれ?
「これしか他に方法が無かったのだ、本当にすまない……」
おっかなびっくり、突然のことで頭の中がドギマギブギウギしていると、怖い顔したオッサンは複雑な表情を浮かべて俺に軽く謝罪し、部屋にいたメイドに後を任せてそのままそそくさと部屋から出て行ってしまった。
それから、言われた通り丸三日後。
俺改め、私は、女の子になっちゃいました。(てへぺろ☆