心機一転?
結局相手の方に注意はするが何事もないかのように収められてしまった。
しかし、彼女は腹いせなのか、澪が辞めさせるように仕組んだと触れ回り会社を辞めた。
その噂のせいで澪は、会社にとても居にくい状況になった。
アイデアを提出しても全く相手にされず、丁寧に教えてくれていた上司も適当に済まされる始末。当然昼は一人。澪は完全にやる気を失い、「はまさき」に通うのも増えていた。心配するおじいちゃんにも悪いなとは思いつつ、勝手に喫茶店の手伝いをしたりして夜を過ごしていた。
だが、一回やる気を失うと会社に尽くすことはもうできないものなのだなと実感した。
噂を流されてから一カ月後の十二月で澪は仕事を辞めた。
正月。
実家には帰らずゴロゴロして過ごし、有希と初詣と初売りに出かけ、はまさきに寄ったらお正月休みだった。有希には事情を全部話していたので元気が出るようにいろいろ連れまわしてくれる。幸い、何に使うわけでもなかったので貯金はかなりある。
しばらくは大丈夫だった。
「有希うちに寄ってく?」
「寄ってきたいけど二時からデートなんだよね」てへへと照れた有希がとても可愛い。
「そっか。今度会わせてよね」
「うん。了解」
じゃ、今日はここでと有希と別れた。
澪は「はまさき」の入口からなかなか離れずにいた。
しばらく立っていると澪ちゃん?と声を掛けられた。振り向くとおじいちゃんがいた。
「どうした?」とりあえず寒いからと喫茶店の中に入れてくれたおじちゃんが訊ねてきた。澪は仕事を辞めたことを打ち明けた。
何となく分かっていたのかおじいちゃんは詳しくは聞かなかった。
落ち着くよといつものカフェオレを作ってくれた。
「おいしい」
カフェオレとおじいしゃんの優しさで、張りつめていたものがほどけたのか澪は頬を涙で濡らした。泣き疲れて眠ったのか肩には毛布が掛けられていた。
手鏡で顔を覗くと目が腫れぼったい。酷い顔だ。
トイレで顔を洗っておじいちゃん?と奥の方に声をかけると誰かと話している声がした。
澪は何となく聞き覚えがある声だなと不思議に思った。
奥から姿を見せた人に澪は目を丸くした。
悟くん?
「川原さん?」
澪は昔の出来事がフラッシュバックする。