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貧乳ですけどなにか?  作者: 藤宮 蒼
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あの夏の日

 あの夢だ。九月も半ばを過ぎたが、まだ残暑が厳しくじんわりと寝汗をかいていた。重い身体をゆっくり起こし、湿った寝間着を脱ぎながら今朝の夢を思い出した。


そう、あの日も暑い日だった。


 「川原さん」

呼ばれて振り向いた澪は生徒手帳を手に持った男子と目が合った。落としたよと言われた気がするが、自分が手帳を受け取ったのもよく覚えていなかった。ベタだなと思うけれど一目惚れだった。

 その後一年ほど近藤悟に片思いしていた澪は、中二の夏休み明け悟の机の中に手紙を入れた。

 澪は涙を流しながら目覚め自分の部屋であることを確認して胸をなで下ろした。またあの夢だ。


 昔を思い出していると携帯のアラームが鳴って現実に戻された。

はっとして手早く着替えを済ませ、朝ご飯の準備を始める。澪は何もなかったようにいつもの日常に戻っていった。


 二十四歳になった澪は胸が小さいと気にしていたことを前向きに考え、下着メーカーの会社に勤めていた。もちろん小ぶりな胸の人をサポートする部署、その名を「プチーナ」。

意見を出し合い新しい商品作りにも気合が入る。幸い職場の人間関係は良好で、親友の有希からいつも上司の愚痴を聞かされたりすると恵まれていると実感する。充実していると一日も早い。上司に報告を済ませ、有希との約束の場所へ急いだ。月に一度の食事会。大学を卒業してからずっと続いている。

 今日は食べたことのないトルコ料理にチャレンジ。特別なことを話すわけではないがリフレッシュなのだろうと思っている。満腹のお腹をさすりながらいつもの店に向かう。


 澪が週一で通っている喫茶店「はまさき」。店主が浜崎亮太郎さんで七十二歳。澪はおじいちゃんと呼んで親しんでいる。昭和初期に建てられたお店は落ち着いた雰囲気で、入るとほっとする。

「おじいちゃんいつものおねがいします」

「カフェオレだね。ちょっと待ってね」

本当はカフェオレのメニューは無かったが澪が頼み込み作ってもらった。これが澪好みですっかり虜。疲れた日は夕飯もここで軽く済ませてゆっくりカフェオレで癒されてから自宅に帰る。

 有希はまだメニューとにらめっこしている。

中村さんはきまったかな?」

「じゃあバナナオレお願いします」

「メニュー全部注文するまでもう少しだね。ありがたいね」

有希は澪と「はまさき」に来てから毎回違うメニューを頼み続けている。全部注文してから好きなものをローテーションで注文したいらしい。

おじいちゃんと先週おきたこと、お孫さんの話をする。お孫さんがとても可愛いらしく、よく話の話題に出る。書店で仕事をしていて、喫茶店の茶葉や豆の管理などもしてくれているらしい。澪はまだ会ったことはないが、話を聞くかぎりおじいちゃんへの優しさが伝わってくるので素敵な人だろうなと澪は勝手な妄想をふくらませる。


 長かった夏も終わりようやく涼しくなってきた十月ころ、澪の回りでは奇妙なことが起こっていた。トイレに行っている間にまとめたデータがパソコンから消えたり、提出する在庫書類が無くなったりと不思議なことが続いた。上司の真壁さんにも最近どうしたと叱られることもしばしば。後輩にも心配された。

「じゃあ今日は特別何もなかったのね?」

「はい」

給湯室でコーヒーでも飲もうとやってきた澪は誰かの話し声を耳にした。

「川原さんの情報は逐一流して」

「わかりました」

マグカップを持った女性社員が給湯室を出で行くのを確認して澪はトイレに駆け込んだ。あれは私のことだ。あの二人がこの不思議な現象を起こしているのか。安易に人を疑いたくないが、理不尽なことで叱られたりすると疑いたくもなる。この会社に入って今まで人間関係で苦労したことがないだけにどうしたらいいかと途方に暮れる。

 何が原因?

考えても全く見当がつかない。

頭が痛くなってくる。こんな日は珈琲でも飲んで帰りたい。澪は「はまさき」へと足が向いた。

 



 職場で変なことが起こってから二か月。どうやら原因は一番仲良くしている社員の望月奈々子と同じ部署の子が、澪と奈々子の仲を妬んで澪の変な噂を流したり、データを消したりして評判を落とそうとしているらしいとつかんだ。まさか女同士でこんなことがあるとは。男がらみなら聞きそうだが。まあ澪は今まで彼氏がいたことないからこんなことは起こらないと思っていたが、まさか女とは。


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