召喚陣のある部屋 あふたぁすとぉりぃ~
前作をこちらに移動しただけのままでは何かもったいない。
そう思ってアフターストーリーなる物を作ってみました。
休み休み書いたので、ちょっと難産だった分、面白く感じて貰えれば良いかと思います。
3年前から俺の部屋には魔法陣が浮かんでいる。
俺は3年前、とある事情で大学を休学し、1年近く異世界で勇者をやっていた事がある。
「俺の魔力なら魔王以外傷つけられる者もいないだろうし、降伏さえさせれば、殺さなくても大丈夫」
と言われたり、報酬として異世界の貢物を色々貰ったって理由で軽い気分で始めた事だった。
だが、世の中そんなに甘くは無かった。
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結論から言えば、魔王は2ヶ月程度の旅で降伏させる事ができた。
これで魔獣が大人しくなり、世界の脅威はなくなると思っていた。
「魔獣ですか。
あれは私の管轄外なので何も出来ませんよ。
アレを大人しくさせるには『迷宮』を潰していくしか手が無いんです。」
魔王が魔獣を操り、世界を混乱させているという情報はデマだったのである。
しかも話を聞いてみると、魔王の一番のお仕事と言うのは『迷宮』の繁殖を防ぎ、民を守っていくと言う事だった。
現魔王は不慮の事故で亡くなった前魔王のあとを継ぎ、『迷宮』を潰そうと頑張っていたらしいが、まだ幼かったこともあり、せいぜい発生仕立ての迷宮へ護衛つきで潰しに行くのがせいぜいだったそうだ。
そのため、年を重ねた大きな迷宮などは放置せざるを得なくなり、そこから枝分かれして増えていく迷宮も潰すのが間に合わなくなり、世界各地へ散っていってしまった。
『迷宮』は魔獣を育て、餌として人間を襲わせ、血や肉を魔獣が、得られた魔力を『迷宮』が養分にするため、放置すればするほど被害が拡大するそうだ。
これは後で聞いた事だが、前魔王の不慮の事故と言うのも、『迷宮』を潰そうと頑張っていた魔王をたまたま召喚されていた勇者が問答無用で殺していた。
うん、人間の自業自得で魔族にまで迷惑をかけていたと言う事だった。
そこまで聞いた以上、手を貸さないわけには行かなかった。
まず、各国に飛び回り、魔王の本当の存在理由や特殊な力(迷宮の核の破壊は魔王にしか出来ないらしい)の説明し、協力を仰ぐ事。
迷宮の場所の特定
迷宮で魔獣を倒していける人材の育成
どうあがいても俺以外には手を出せないぐらい巨大になった『迷宮』の駆除
一緒に召喚されたマンガや小説を基に『冒険者ギルド』を立ち上げたりなど、色々と動き回った。
その中でも一番大変だったのが人材の育成だろう。
そもそも人間の「何か困ったら勇者を呼ぼう」という頼った考え方が一番厄介だった。
最初に『迷宮』の話をしたとき、「なら大量に勇者を呼ばなくては。だが、召喚は魔力石を大量に使い、国庫が回らなくなるぞ。」と言い出した。
何故召喚にこだわるのか聞いた所、「それが常識じゃないのか?」と真顔で聞いてきた。
頭を抱えつつ、「冒険者に頼めばいいんじゃないか。」と言うと、
「あんな盗賊崩れに何が出来る。奴らほど信用できん者は無い。」とか言われる。
冒険者はこの世界で、どれだけ無法者の集まりなんだ・・・・
俺は一緒に召喚されていた小説やマンガを取り出し(アイテムボックスに後生大事に取っておいた。)こういう組織を作ったらいいんじゃないか。
と言って薦めたのが冒険者ギルドだったのだが・・・
何故か俺が「企画」「まとめ」「立ち上げ」を行う事となった。
最初は聞いたようにならず者が冒険者を名乗っていたが、ギルドとして纏め上げ、1つの職業として確立させてからは冒険者も『迷宮』対策に必要な職種として大人気となった。
『迷宮』は恐るべし魔物である反面、宝の山だったからである。
この事は『迷宮』を最初に攻略し、その際手に入れた宝物を各国の国王に見せた後、国が冒険者育成に力を入れたことからも判るだろう。
魔王や各国の王の力を借り、『迷宮』や魔王の真実を伝えると共に、冒険者ギルドを世界に浸透させると、
俺は「役目は終わった」と言ってこの世界に帰ってきた。
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日本に戻った後「ここ、どこだ」と途方にくれたのを覚えている。
そもそも、普通の住宅だった家が帰ってきたら喫茶店に変わっていたとか、誰も思わないだろう。
なんでも父さんは事前に貰っていた報酬から、新たなエネルギーの開発に成功し、その特許だけで生活が出来るようになったようだ。
しかもそのエネルギー。大気中の魔力を吸収し、無尽蔵なエネルギーを出力する事ができ、原子力に代わる新しいエネルギーとして注目されているそうだ。
父さんはその特許料で、一部を生活費、一部を国際援助に役立てているため、その管理が出来る『喫茶店のマスター』となったらしい。
・・・・・・単に趣味だろうと俺は思っている。
母さんもケーキ作りが趣味だったし、父さんはコーヒーにかなりのこだわりを持っていた。
だからその2つの趣味が、形になったと思えば納得も出来る。
だが、納得できない部分もあった。。
新しく3階建てになった3階の端に俺の部屋はあったのだが、何故かそこには今通って来たばかりの魔法陣と、別れて来たばかりの少女が座っていたからだ。
俺は断固として再召喚には応じないと突っぱねたが、少女は「うん、私もそのつもりでこの世界に来たから。」と言ってきた。
どうやら、押しかけ妻らしい。
うん・・・本当はずっと一緒にいたいと思っていたから、嬉しかったのは内緒です。
さすがにこの年で結婚は早いと思い、せめて後2年待ってくれと頼み、大学卒業まで猶予は貰った。
その後、卒業までにもいろいろな事があった。
魔法陣は開いたままで、以前のように異世界と手紙のやり取りをする事ができた。
どうも俺が飛び込まない限りは、コストを必要とせず存在し続ける事ができるらしい。
手紙の内容は、ギルドの運営方法に関してや、魔王からの手紙等。
その中でも一番多かったのは、各国の王から、「日本のマンガと小説を送ってくれ」と言う要望だった。
要望と共に、貴重なマジックアイテムなどが同封されていたので、適当に見繕っては送ってやっていた。
・・・・・・確か日本とあの世界での言語形態は違ったはずだが・・・?
要望はどんどんエスカレートし、かの有名通販書店と独占契約を交わしたほどだ。
今、あの世界ではどうなっているか知るのが怖い・・・
後は、本気で計画を練り始めたのが、この世界とあの世界をつなぐ事だ。
このように召喚陣を通してこっちの世界とあっちの世界で手紙や物のやり取りが出来るのであれば、人のやり取りも出来るのではないか。
という理論から、あっちの世界で研究が進んでいるらしい。
父さんも、今の特許もそうだが、あの世界の技術が有れば、この世界も飛躍的に進歩できるのではないかとかなり乗り気だ。
そして今日。
俺は少女と妹と一緒にTVを見ている。
TVには1人の冴えないおっさん。
つまり父さんが写っている。
この番組はノーベル賞授与式というかなり名誉な番組で、父さんはその中でも
「新エネルギー理論」として科学賞を。
「特許料のほぼ全てを世界の為に使い、数々の実績を残した」と言う事で平和賞の2つを同時取得してしまった。
そして父さんはこの場でさらに爆弾発言をするつもりだ。
もちろん俺達はこれを知っているし、向こうの世界ではそれを心待ちにしている。
常に人が通れる『召喚陣』もとい、『扉』も成功し、実験は終わっている。
「私が今、この場に立っていることを日本人として、そして世界に生きる1人の人として誇りにお持っております。」
父さんの演説が始まった。
朗々と定型どおりの挨拶で、聞いているとどうしても眠くなってくる。
だが、本番が始まる時が来た。
「ですが!!、本来このエネルギーは私1人で発見する事ができたものではありません。
この世界には魔力が渦巻いておりましたが、その魔力を1から扱うには最低でも千年はかかったでしょう。
私には、その千年を別の世界で生きてきていた友人達がおります。」
すると、父さんのいる横手から人族・魔族様々な人種の召喚者たちが現れた。
「紹介しましょう。
彼らは、異世界で魔術を操り、エネルギー理論の基礎を与えてくださった方々です。」
TVの中に居る人達がどよめいている。
「断言しましょう。
彼らの力を借りれば、今の世界を更に発展する事ができます。
例えば、砂漠に植物を実らせる事など、彼らにとっては簡単な事なのです。」
モニターにはサハラ砂丘が写る。
「これはライブ映像です。
かの地に1人の少女が居るのが見えるでしょうか。」
彼女は、植物の共であるエルフ族の巫女の1人で、俺の知り合いでもある。
「ご覧ください。」
彼女は詠唱を唱え、世界樹の種を砂漠へ投げ入れる。
そして詠唱を完了させると、砂漠のあちこちから新緑の芽が飛び出してくる。
普通の植物では砂漠に生息する事は無理だろう。
だが、魔力をすって成長する世界樹ならば、間違いなく根を張るだろう。
「今は彼女1人ですが、それだけでもこれだけの力があります。」
TV内の人達は先ほど以上の動揺を見せる。
「この世界と、かの異世界。
私たちには、つなげる力と技術があります。
2つの世界をつなぐ事で、弊害が起こる事も多々ありましょう。
ですが、私は信じます。
この世界も、かの異世界も、つながる事で更なる発展を見せる事ができると。」
父さんの演説が終わると、TVの中だけでなく、世界が震えた。
もちろん危険だと声高々に叫ぶ人達も多い。
だが、それ以上に異世界に魅力を、希望を求める声のほうが大きい。
これから世界は大きく変わっていくだろう。
だが、多分、うちの一族はかわらないだろうなぁ。
新しくうちの一族に加わった、となりの少女も含めて。