魔法陣のある部屋 ※異世界召喚物
以前短編として掲載させていただいた小説と同等の内容になります。
内容的にこちらにまとめる事ができると思い、短編を削除し、転載させていただきます。
今、俺の部屋には魔法陣がある
部屋の隅、元々本棚のあった位置だ
現れたのは3日前であり、その時にも一悶着があった
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俺がマンガでも読もうかと本棚を物色していたとき
本棚と対面にあるドアから妹が
「兄さん、ソファにマンガ置かないでっていつも言っているでしょ」
と怒鳴って入ってきたので、振り向いた瞬間後ろから本棚が消えた
そして、本棚の位置には光った魔法陣と思われる幾何学模様が浮かんでいた
俺は絶句した、見ていた妹も絶句した
そして妹の第一声が
「兄さん、いつかと思っていたけど、とうとうマンガに感化されて黒魔術とかそういうのに手を出しちゃったんだ・・・・」
である
これにはさすがに反論した
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ、いくら俺でも現実と虚構の見境ぐらいはつく
これは所謂マンガとかゲームで良くある、召喚陣って奴じゃないのか
たぶん、問答無用で召喚されるところをお前に呼ばれて振り返ったから避ける事が出来たとかそういう」
妹は悲しい表情をしている
その目はかわいそうな人を見るような目だ
「兄さん、さすがに現実にマンガとかゲームみたいなことは存在しないと思うよ」
とまで言われた
「じゃ、この魔法陣はいったい何に見えるんだよ」
さすがに証拠が目の前に浮かんでいるのだ、納得せざるを得ないはずだ
「さすがに何をしたのか分からないけど、兄さん、少しマンガとかゲームを控えたほうがいいんじゃないかな
最近、兄さんのオタク化が酷いことになってきて、父さんは黙認してるみたいだけど、母さんは心配してるし
『さすがに大学2年にもなって彼女いない暦が年と同じなんて、父さんに似て美形なのにもったいない』
っていっつも私にぼやいてるんだよ」
一応俺は美形?の部類に入るらしい
だが、俺は自他共に認めるオタク!(と思ってはいる)
大学の友人達はサークルとかアルバイトに精を出しているが、
俺はアニメやゲームに関してしか動くつもりはない
妹だけでも手を余しているんだ、彼女なんて出来ようものなら、一日6時間しか取ることが出来ない趣味の時間が更に減ってしまうではないか、
「だから、その召喚陣?ってのをさっさと閉まって、居間を片付けに行く」
妹はそんな俺を見て育ったからか、子供のときは何をするでも「兄さんと遊ぶー」と言ってついてきていたものだが、
中学ぐらいからか、オタク化した俺をもったいないとぼやき非オタク化させるために手を尽くしている
「はいはい、片付ければいいんだろう」
俺は魔法陣はそのままにして、居間の片付けに向かった
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一応説明しておくと、俺の家族は両親と俺と妹の4人家族
親父は中堅会社の課長、母は専業主婦、妹は高校生といったごく普通の家ではある
親父は俺の趣味を、「1つの物事に打ち込めるのはいいことだ、生活に滞りが出るなら辞めて貰うが、生きる糧としていいんじゃないか」と肯定してくれている
母は「趣味なんかより、浮いた話の1つや2つは出来ないの?そろそろ先のことも考えたほうがいいわよ」と趣味はやめて、リア充生活を勧めてくる
妹は「趣味は我慢するけど、かっこいいんだから、趣味を公言するのだけは辞めて。できれば趣味も辞めてほしいんだけど・・・」と小言をよく言われる
俺は自分のことをオタクと公言しているが、アニメやゲームが好きなだけで、そろそろ就職活動も始めなければ行けないとか
趣味は趣味、生活は生活ときちんと割り切って生活はしている
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「と言うわけで、兄さんの部屋に変な物が浮かんでいるんだよ」
晩御飯の席で妹が父さんに言った
うちは基本晩御飯は家族全員で取ることが日課となっている
もちろん、父さんが仕事で遅くなるときや、俺や妹が友達との約束で遅くなるときなどは1人2人欠けることはあるかもしれないが、
基本は4人で食べる
いや、俺が友達と夕飯食べてくるとかは、今まで1・2回ぐらいしかないけど
「ふむ、ヒロキそれはどういうものか分かっているのかい?」
父さんは俺に尋ねてきた
「俺にも良く分からないけど、マンガとかゲームだと、異世界からの召喚陣ってあんな感じだと思うんだよ
俺はこいつが部屋に入ってきた事で、ぎりぎりよけた感じになったけど、
あの位置からすると、問答無用で召喚陣に乗せられていたんじゃないかな」
「ふむ・・・とすると、もしかしたらもうお前はここにいなかった可能性もあるんだな」
「そんな所かな」
「それは良かったわ、帰ってこられる分からないものねぇ」
母さんが会話に混ざってくる
「でも兄さんはそういうけど、単にゲームの影響受けすぎなんじゃないかと思うの」
「そうねぇ、ヒロキにはゲームなんかより大事なこといっぱいあるんだから、そっちに目を向けて貰いたいわ」
「ちなみに召喚陣というのは、何故出てきたんだい」
「これもゲームとかの話になるんだけど、異世界で魔王?とかが暴れまわっていて、それを倒せるのが勇者だけで、
助けて貰える人を呼び出すために勇者召喚って感じで呼び出すみたい」
そう言うと、父さんは何かを考えるように黙り込んでしまう
「兄さん、武道の心得も無いのに異世界で勇者とか、無茶もほどがあるんじゃないの」
「そうよヒロキ、ゲームとかマンガって人もモンスター?っていうのかしら、も殺したり殺されたりするんじゃないの。
ヒロキは絶対にそんなところに行っちゃだめよ」
妹も母さんも心配そうにこっちを見てくる
「まぁ、ゲームとかはともかく、マンガとか小説だとチート能力って言うのがついて、モンスターとか魔王
これは敵の親玉ね。を簡単に倒したりできるんだよ」
「そうは言っても、一歩間違えたら怪我するんでしょう。
駄目よそんなの」
まぁ、母さんの心配も分かる
俺も平和な日本に生まれて、平和に暮らしているのだ
異世界なんかに召喚されて、色々と大変な中で生活していくつもりなど毛頭ない
「確かにゲームとかマンガの世界って憧れることは有るけど、苦労するのが目に見えるだけなんだから行く気は無いよ、母さんも安心してくれていいから」
「ヒロキ、その召喚陣とやらはいつ無くなる物なんだ」
母さんは俺の言葉に安心したようだが、父さんは何か考えながら聞いてくる
「どうだろう。その辺は良く分からないな
でも、そこにあった本棚はどこか行ったみたいに消えてしまったから、誰かが触ると飛ばされる可能性はあるかも」
「ならバリケードを置くとかして、下手に障らないように気をつけないといけないな
あと、お前が召喚されないとして、他の誰かに飛んで行って迷惑をかけるとかは考えられるか」
「その辺も分からない
まだあるぐらいだから、下手すると俺が入るまでは消えないし、動かないのかもしれない」
父さんは「そうか」と言ったまま、また黙り込んでしまった
「お父さん、ヒロキは行かないって言ってるんだから、もうこの話は終わりにして、ご飯を食べてくださいな」
母さんが言うと、父さんは「ああ、すまない」と言ってご飯を食べ始めた
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次の日(2日前)は父さんが家から帰ってくると、何やら手紙を書いてきた
「ヒロキ、これを召喚陣とやらに投げ込んでくれないか」
と言ってきたので、それを受け取ると召喚陣に投げ込んでみた
手紙は陣に触れると、光のようになって消えていった
父さんになんて書いたのか聞いてみた所、「ああ、そっちの面倒毎をこっちの人間に頼まないでくれって事を書いてみたんだ」と言ってきた
確かに、向こうの人間からしたら、召喚したのに誰も来ない
これは失敗したのだろうかと思っているだろう
いつまでも光っていてはどうしようもないので、手紙なりで意思を伝えたほうが良かったのだろうか
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次の日(1日前)は俺が学校から帰ってくると家の前にパトカーが止まっていた
何事かと思って急いで家に入ると、そこには困ったような警察と、おろおろした母親、そしてプラチナブロンドの妹と同じぐらいの年の少女が所在なげに座っていた
俺を見ると母親は
「物音がしてあなたの部屋を見に行ったら、この子がいて空き巣かと思って警察を呼んだんだけど、
『この部屋の持ち主の方に会えるまでは動きません』と言って動かなく、警察と相談していたところにちょうど帰ってきたのよ」
と言ってきた
少女は俺を見ると、目を見開き
「貴方様が勇者様ですね。そのオーラを見て分かります。
貴方様が来て頂けるのをお待ちしていたのですが、手紙頂き間違いを思い知りました
改めて、私が迎えに来させていただきましたので、よろしくお願いいたします」
と言って頭を下げてきた
これは父さんに話を聞かなければ分からないと思い、とりあえず、母さんを説得し、警察の方には頭を下げて帰って貰った
・・・・・余談ではあるが、警察には「頭がアレな友人なので、母さんが勘違いし申し訳ありませんでした」といって帰って貰った。
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父さんが帰ってくるまでは大変だった・・・・・
証拠を見せると言って、こちらの世界では見たことの無いさまざまな品物を並べたり(頼みごとの対価としてうちに持ってきた貢物らしい)
魔法を使って何も無い所から水を出し(魔法を見せてくれた)たり
少女の世界での魔王の力や、世界のこと
なぜ勇者が必要なのかや、それが俺でないといけないことの必然性
色々なことを延々と話し続けられたり、
妹が少女に拒否反応を起こしたり、母さんが息子をつれていかせはしませんと切れかけていたり・・・・
トイレやお風呂も使ったことが無く、最初は騒いだり壊しそうになって慌てたこともあった
さすがに女の子相手でもあり、俺だけでは対応仕切れなかったが母さんと妹がいてくれて助かった
父さんが帰ってきて、少女を見ると驚き「まさか本当に来るとは」と言っていた
夕飯の席で、父さんを問い詰めてみると「どんな相手なのか知りたかった」とか「帰る手段があるのか調べた」など
父さんなりに考えて色々手紙を書いたようだった
少女の話は家族にも話され、家族は少女の話しを聞くと、個々人で考えることが色々あったようだ
最後の方には
父さんは「お前の人生だ、後始末だけはしっかりつけるから、お前の生きたいように行きなさい」と言われ
母さんは「ヒロキを危ない目に合わせたくないけど、あの子(少女)の事もほっておけないわ」と悩んでいたり
妹は・・・・・・・・これは言うのを辞めておこう。
結論から言うと、俺がどうしたいかに任せる。となった
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そして改めて俺の目の前の魔法陣と、妹の服を着て俺の隣にいる少女を見る
そしてため息をつくと、机に目を戻した
机の上には「休学願」と書かれた封筒と必要な書類が並んでいる
俺は少女に根負けした
けして、オタクの夢である異世界ひゃっほーとか、2次元少女の3次元化だひゃっほーとか思ったわけではない
まぁ、すべてが終わった後、帰ることもできるようだし大学も休学しておき、復帰すればいいだろう
戦闘に関しては、俺の魔力なら魔王以外傷つけられる者もいないだろうし、降伏さえさせれば、殺さなくても大丈夫と言って貰った
魔王すら力及ぶことの無い魔力量とかいっていたもんな
それを聞いたときの母親のほっとした顔が印象的だった
その辺は嘘を言っているかもしれないが、魔法とやらで自分に『嘘をつくとその嘘に応じた苦しみが起こる』って魔法まで使っていたから信用してもいいだろう
妹も試しにかけてもらって、嘘をついてみたが、俺のプリンを食べたのは自分じゃないという程度の嘘ですら、頭が割れるように痛かったらしい
ちなみに俺は、魔力が強すぎて少女の魔法ではかけることができないらしい
俺はもう一度ため息をつきつつ、魔法陣と少女を見る
少女は懇願するような目で俺をずっと見ている
知ることも無い世界の知ることも無い人たちのために自分の身を危険にさらすのは真っ平だったが、
知り合いになってしまった少女のため、そして前渡しにされた異世界の貢物の品々のため、少しはがんばって見ますか
俺は心を決めると、「休学願」に必要なことを記入し始めた