#1 始まり
--- 世界は色をなくしている。
俺から見える世界は全て灰色に染まったかのように見える。
俺が、今まで何かを成し遂げようとしても、他の希望に満ちた人たちのように本気で取り組めたことがない。
大体、俺が何かをするといつも中途半端でつまらない結果で終わってしまう。
だから、常に期待や希望なんてものを持たないで、絶望しないようにしていた。
そんな……色が褪せたように見える世界の中で、この16年間をただ惰性的に過ごしていた ----
俺は、歩きながらそんな事を頭の中で巡らせていると、いつ間にか長い坂道の上にある、桜坂高等学校の正門についたようだ。
この学校は言うならば、普通。学力は中の下 だし、部活動も目立った功績は全くと言っていいほどない。
まぁ、その分校則などは緩いから不満ではないが。
「オーイ ! 」
ふと、後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。
「おはよう、ハル !
なんか難しそうな顔してるな ? 」
「おはよう。 顔は生まれつきだ」
今、声をかけてきたのは、来栖 光一 (くるす こういち)。見た目は、金髪で短髪のオールバック。
俺がこの高校に入って、初めて声をかけてきたのをキッカケだった。話していくとウマが合い、それからはずっとつるんでいる。
今更ではあるが、俺の名前は神宮 春 (じんぐう はる)。短髪でこげ茶の頭。
身長は、170センチと微妙な感じ。
ザ・平凡って感じ。
しかし、自分で言ってて、悲しくなるな。
「もっと、テンションあげてこうぜ ? 」
来栖は、少し慣れ慣れしい気はするが悪い奴ではないため、わりとクラスの連中からは好かれている。
「俺、低血圧だから無理。あと、お前朝から暑ぐるしい……土に帰れ」
「ちょっ ひどくね !? てか、遠回しに死ねって言ってるよね ! 」
さて、なんかうるさい奴が居るが、いつまでもここで立ち話をしていると、遅刻してしまう。
そんな訳で、俺は来栖を置いて教室へ向かうことにする。
歩くこと、数分。無事、何事も無く教室へ到着。さっそく目の前の扉を開け、窓際の一番後ろにある自分の席に座る。
少し遅れて、来栖も俺の横の席に着く。
「そういや……
明日は文化祭だけど、ハルは誰かに誘われたりしてねーの ? 」
席に着くなり、こちらを見ながらニヤついた顔で喋りかけてくる来栖。
……見ているだけで無性に、腹が立つ顔だ。
「判りきったこと聞くなよな。そんな予定はない」
「な、なんだって !? モテモテのハルちゃんについてけば、可愛い女子とご一緒出来ると思ったのに……」
……なんなんだコイツは。俺をなんだと思っていやがる。
とりあえず、一発殴る。
「頭の悪い事言ってると殴るぞ。」
「それは、殴ってから言わないでくれませんかね !? 」
涙目になりながら必死に訴えてくる。そんなに、力を込めた覚えはないんだが、こいつが貧弱なんだろう。
コイツを殴ってもあまり楽しくない、寧ろ涙目で迫るから気持ち悪いので、話を戻すことにする。
「そんなことより、文化祭でなにか面白そうなもんとかあんのか ? 」
「ああ……。なんでも、軽音楽部にスゲー2年の女子が居るらしいんだよ ! だから、そのライブ、見に行こうぜ」
ライブ…ねぇ。
こんな普通の高校でそんな有名になるような凄い人なんているのか ?
「どーせ、ハルも暇なんだからいいだろ ? 」
やたら熱くライブとその有名人について、押してくる。まぁ、暇なのは事実だし、了承の旨を来栖へと伝える。
来栖が「よっしゃー ! 」などと、喜んで居る姿を、眺めているとHRがいつ間にか終わっていた。
いつの間に、先生は来たのか謎である。
そして今日は、文化祭前日ということで一日準備。そのため、クラスは早々に作業へと取り組んでいる。
俺にも割り振られた作業があったので、来栖や周りの友達とかと、話しながらダラダラこなす。
変わりばえのしない毎日を、ぼーっとしながら過ごしていた。
---- そして、時間は過ぎ放課後となる。
帰り際に、他のクラスの教室の横を通ると、明日の本番へ向け仕上げに取り掛かる、生徒たちの明るい声が聞こえてくる。
ちなみに、これは自由参加なので、帰ることも出来る。そして、来栖とは先ほど別れたため今は一人で下校している。
~ ~
ふと、どこからか風が吹き抜ける。それとともに、楽器の奏でる音とともに、綺麗な声が聞こえた気がした。
「……ん ? 」
なんだか、気になったので、俺はその場に立ち止まり、よく耳を澄ませてみたが、既に風と一緒にやんでいた。
「……帰るか」
さっきのことは、気のせいだとし、もうここに居る意味もないため、さっさと家路に急いだ。
---- やはり、つまらない。 いつかは、俺にもこんな日常を楽しいと思える日々が来るのだろうか。
そんな淡い期待をしながら、家の扉を開け、寝室へと向かう。
その後、晩ご飯を作り、食べ終えたら風呂へ入った。
寝室のベットの上で、風と共に聞こえたような音や声についてずっと考えていた。
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