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司会

祭り当日。俺は王城に続く大通りに祭り用に作られた台の上にいた。時刻は朝9時ほどだろうか。眼下には夥しいほどの人がおり、どこに目をやっても映るのは人のみだった。

俺はドキドキと自己主張をする心臓をおさえつけ喉を少しだけ鳴らす。

よし、大丈夫だ。喉の調子も悪くない。司会の言葉を頭に入ってる。

がやがやと人々は祭りが……正確には誕生パーティが始まるまでの間思い思いの相手と話をしている。あるものは今日開催されるゲームについて、あるものは出場する高ランクの冒険者について。さあ、そろそろ時間だ。主役の長もやってきたし王様や王妃もきた。準備はばっちりだ。

「……えー、本日はみなさん暑いなかお集まりいただきまして大変ありがたく思っております。司会を務めましてもらっています、渡瀬藍です。えー早速ですが今日集まっていだたいたのは他でもありません、お気づきの方もいらっしゃいますと思いますが本日はなんと!街の長である、アレックス・ビートさんの56歳の誕生日です!みなさん、盛大な拍手でお迎えください!!」

少し日本風な挨拶でまとめたが反応は上々だった。人々はみな拍手をして長を迎えていた。


長が話している間にこれからの予定を確認する。次は長の妻と息子さんが用意したスピーチを聞いて、その次はプレゼントを渡す。それが終わり次第祭りの開催し、まずはフルーツバスケットを行う。負けたチームと勝ったチームどちらにも景品を用意しているから大丈夫だろう。一旦昼食をはさんで次は祭りの目玉であるケイどろを始める。このケイどろの進行状況は王城に努めている騎士のみなさんが随時魔法でモニタリングするから観客も十分楽しめるだろう。ケイどろが終わったらいよいよフィナーレだ。花火を打ち上げながらみんなで飲むや食べるやの大騒ぎ。よし、流れはこれで大丈夫だな。さあ、そろそろ長の話が終わるな、準備をしとこう。
















現在俺はフルーツバスケットの椅子を準備している。俺は司会なので別にやらなくてもいいのだけどもこの街に知り合いがいない俺は話す相手がいないので自然と手持無沙汰になっていた。やることがなかったので椅子を用意している。

「はは、まさか俺がボッチというものになるとはな……笑えねえ」





「えー、これから子供たちによるフルーツバスケットを行います。事前に渡していたカードに書かれているグループに各自分かれてください」

子どもたちは各々それぞれのグループに向かっていく。親は自分の子供たちの様子をほほえましく見ている。



「それでは改めてルールの説明をします!」

俺はこの世界風に変えたルールを説明する。

「……では、さっそく始めたいと思います!いきますよー、フルーツバスケット、はじめ!!」

俺がそう言うのと同時にオーケストラの人たちが演奏を開始する。子供たちの熱中した声に自分の子を応援する親、まるで運動会だ。

俺は一息いれるために大切にとっておいたタバコを吸う。この世界のタバコはどうやら俺には合わないらしく元の世界のタバコはとっておいた。これで残りは6本。大事にしないとな……。










「……ゲームを終えたところから景品を取りに行ってください!勝った場合は赤いテントのところへ、負けた場合は青いテントへ!繰り返します!ゲームを終えたところから景品を取りに行ってください!勝った場合は赤いテント、負けた場合は青いテントへ!終わった人は昼食をとってかまいません!」

このような内容を10分おきくらいに言い続ける。

やがてすべてのグループが終わったのかほとんどの人が昼食をとるために出店を回り始めた。俺はちゃんと終わったのかどうか確認するために屋根の上を飛び回っていた。

「……よし、あそこのグループ以外は全部終わったな、もうすぐ終わりそうだし少し見てくるか」

俺は残り6人になった最後のグループを屋根の上から拝見する。

そこにいたのは太った男の子と金髪の女の子2人、茶髪の男の子1人に青と赤それぞれの髪色をした男の子たち。目を凝らしてよくよく見てみると金髪の女の子のうちの1人は俺が盗賊から助けてあげた女の子、そう、ルーミアだった。

このゲームは開始時には15人なので俺は残り5人になったらその時点で残っているものを勝者ということにした。つまりあと1人脱落すればゲームは終了するということだ。

その1人が誰になるかはわからないができるだけルーミアには頑張ってほしい。

子どもたちはそれぞれ真剣な顔立ちで鬼の言葉を待っていた。鬼は赤色の髪をもつ男の子だった。男の子が口を開く。

「……それじゃあ、このグループの女の子!」

男の子がそう言うと瞬間、ルーミアともう一人の金髪がさっと動き出す。女の子たちはお互いの席を交換するしかない。問題は男の子がどう動くかだ。男の子はルーミアのほうに向かっていた。当然鬼である男の子をはさむように座っていたルーミアが反対側にある椅子に座るのは無理だった。ルーミアが脱落したことによりゲームは終了。歓声を上げるほかの5人たちは赤いテントに走っていった。ルーミアはというと泣きそうになりながら母親のもとに向かっていった。俺はその背後からそっと近づく。

「……うわああああ!!!」

「きゃあああああああああ!」

大きな声をだして脅かしてみる。当然ルーミアはびっくりしていた。

「って、ワタセさんじゃないですか!!驚かさないで下さいよ!!」

「いやなに、少しゲームに負けて泣きそうになっていたからね」

俺はニヤニヤしながら言う。

「べ、べつに泣きそうになってなんかいません。所詮子供のゲームですからね」

「またまた、強がっちゃって。しょうがない、俺が少しおもしろいことしてやるよ」

そう言って俺はルーミアに背中を向ける。

「……なにしてるんですか?」

「まあいいから乗れって、ほらほら」

背中をゆすって催促する。

「……はあ、わかりました。乗りますよ」

ルーミアが乗ったのを確認し、俺は一気に近くにあった家の屋根に飛び上がる。

「ひゃあああああああ!」

背中でルーミアが叫んでいるが関係ない。そのまま俺は先ほどから我慢していた衝動を開放する。そう、パルクールをしたいという欲求を。

屋根から屋根へ飛び回り、高いところを目指す。一際高いところへ登りそのまま自由落下する。俺がそんなことを何回かすると背中にいるルーミアも慣れたのか俺にあの建物に登ってほしいとかあそこから飛び降りてほしいとかリクエストしてくるようになった。

もともと子供ってのは高いところが好きだしな、俺はそう思いながらパルクールを続ける。









「あ、おっちゃんそこのイカ焼き2つ頂戴」

「はいよ!タレはそこにあるから好きなだけかけてくんな!」

俺はあつあつに焼けたイカ焼きに濃いソースのようなタレをかける。あー、うまい!この世界にもイカがいるんだな、とくだらないことを思いながらおなかを満たす。

あの後ルーミアを母親のもとに返してから俺も昼食をとっていた。すでにイカ焼き以外にも焼きそばやとうもろこしなどいろいろなものを食べていた。これでもまだ腹8分目だが午後にはケイどろで走らないといけないのでほどほどにしておく。イカ焼きも食べ終わったので串を捨てて店を後にしようとしたとこで隣にやってきた赤髪に目をひかれる。

あれ、これってレビィじゃね?俺へ横目でそっと確認しながら思う。

……やっぱり、そうだ。レビィだ。

「よお」

気軽に声をかける。

「なによ……って、あんたかなんでここにいるのよ」

「なんでって、イカ焼きを食べるためだよ。見りゃわかんだろ。それよりお前ピエールさんの後大丈夫だったのか」

「別にあんたに心配されなくても大丈夫よ、それにしても私でさえ半日気絶してたのにあんたなんで1時間で回復してたらしいわね、どんだけ頑丈なのよ」

「頑丈さが取り柄なんでね、それよりお前も今日のキシマジュに参加するのか」

キシマジュというのはケイどろのことだ。騎士と魔術師で騎士が警察、魔術師が泥棒にあたる。

「もちろんよ、賞金がでるなんてやるしかないでしょ。それに魔法も使っていいんだから私から逃げられるやつがいるとは思わないわ、まあ、そりゃ雷神とかは無理だけど……。そういえばその言い方からあんたも参加するの」

「ああ、俺も不本意ながら参加することになってる」

「そういえば司会もやってたわね、で、どっちなの」

「……どっちって何が」

「決まってるでしょ。騎士か魔術師かってことよ」

「あー、俺は一応魔術師だ」

「……おもしろくなってきたわ、あんたは絶対あたしが捕まえあげるわ、覚悟しなさい」

「……お手柔らかに」

俺は余計なことを言ったと後悔する。

「んじゃ、俺司会あるからもういくわ」

「ええ、またあとでね」

不適な笑みでレビィはそう言った。あとでねってもしかして本気で俺のこと捕まえる気なのかよ……怖い怖い。











「それではみなさん!昼食は済ませましたか!ただいまからキシマジュを開始します。各自渡しておいたハンカチを首に巻いてください。騎士の方は紫のハンカチを巻いた魔術師の方を捕まえてください。捕まえるというのは首のハンカチを取るということです!ハンカチをとられた魔術師の方は必ずここに戻って報告してください。魔術師の方は緑のハンカチを巻いた人、つまり騎士から逃げてください。魔術師の方が逃げることのできる範囲はお手元の紙に書いてある赤く斜線が引かれたところのみです。それ以外に場所に行った場合は失格となります。騎士の方も魔術師の方も魔法を使ってよいです。ただし相手に致命傷を与えるような魔法、つまり第3級以上の魔法は使用してはいけません。金色のハンカチを首に巻いている魔術師を捕まえた方はなんと賞金に加えて自分の好きなものを手にすることができます!!それでは魔術師のかたは今から私が合図したら逃げてください!騎士の方は合図の15分後より行動を開始してください!制限時間は4時間です!!観客のみなさんが待っていることですから始めましょう!」

一度言葉を切って質問がないかどうか確認する。すでにみんなハンカチを巻いており魔術師の人たちはそわそわしていた。

「ただいまをもってキシマジュ開始!!!」

俺はそう言ってわざとみんなに見えるように首に金色のハンカチを巻く。そしてそのまま路地裏に走っていった。この演出は長に指示されたことだ。一人ぐらいは金色のハンカチ持ちを知らせておいた方が盛り上がるだろうとのこと。なにも俺じゃなくてもいいだろうに……。俺はどんどんと奥に進んでいく。手元の地図を見ながら赤い斜線の範囲ギリギリまで移動する。そして前日に下見していたときに見つけていた壁のくぼみのようなところに隠れる。ここならしばらくは見つからないだろう。俺はそう確信する。おそらく騎士たちは今広場、つまり範囲の中心にいる。この中心からじわじわと外側に広がるように俺たち魔術師を探すだろう。途中でみつから魔術師もいることから完全に俺がいるような外側までくるには2時間はかかるだろう。つまり俺はここで2時間つぶせるわけだ。しかし油断は禁物だ。

というのも今回のキシマジュ参加者は1000人ほど、そのうち騎士は300人とかなり少ない。けれども騎士の方には高ランクの冒険者が多い。たとえばレビィのような。なので比較的低ランクの冒険者が多い魔術師は必ずどこかで見つかるはずだ。俺はそう思いながら辺りに人の足音や話し声がしないか耳をすませる。







藍が必至に隠れている一方広場ではAランク冒険者、神の眼という二つ名を持つアッシャー・ランドマークが騎士たちを集めていた。

「みんな聞いてくれ!そろそろ15分が経つ。魔術師たちはすでに隠れていると思うがここで私に提案がある。みんな知ってのとおり私は神の眼といわれるほど索敵の魔法の扱いがうまい。よって効率よく賞金を稼ぐために私が指示を出したい。索敵魔法によって魔術師を見つけるのでみんなはそこに向かってくれ、どうだろうか」

その声に賛同する声がどこかしこから聞こえる。それに満足したようにアッシャーはうなずく。

「よし、では早速行動にかかろう!まずはあそこの教会のまわりに5人、中に13人魔術師が隠れている。誰か向かってくれ。その次はあそこの通りの出店に24人が隠れていいる、向かってくれ!他には……」

などと指示を出していく。どんどんと魔術師の場所が割れていった。






観客席では藍の代わりの臨時の司会者が司会をしていた。

「あーっと!早速騎士側の頭脳プレイが始まりましたあ!どんどんと魔術師の場所が判明していくぅ、このままでは全滅してしまうぞお!どうする魔術師!」

この司会の声は魔法によって街全体に響いている。つまりこの状況を魔術師も理解することができる。




しかしその声を聞いても動かない一団があった。魔術師側である者たちの中でも数少ないAランク冒険者、雷神ことライボルトだ。彼は珍しい雷の魔法が使える。そんな彼も今回のゲームに参加していた。

「雷神さん、どうします……このままじゃじきに俺たちの場所もばれてしまいます」

そんな雷神のまわりには50人ほどの冒険者が集まっていた。彼らは高ランク冒険者である雷神の近くにいれば安全だろうと考えたものたちである。

「……そうだな、このままじゃダメだ。幸いにもまだ俺たちの場所はばれていない。なら今しかないと思う20、10、10、10で分かれてあいつらを攻撃するぞ、それしかない」

「けど、あそこには高ランク冒険者が集まっています、こっちがやられちゃいますよお!」

「最悪、アッシャーだけやれればいいんだ。そうしたらこっちの仲間の場所がばれることはなくなる。いいか、アッシャーだけを優先しろ。敵もアッシャーを守りに行くと思うがなんとかしてやるしかない!こうしてる今も誰か捕まってんだ!いくぞ!!」

「……そうっすね、やるしかないっすね……みんな、いくぞ!仲間のために!!」






「おおーっとどういうことでしょう!?いきなり魔術師たちがたくさん広場に戻ってきたぞお?あっと、どうやらアッシャーを倒しに向かったそうです!なるほど、確かにアッシャーがいる限りいくら隠れても意味がありません、ここで攻撃にでた!魔術師側!」

「しかし騎士側も負けてはいません、どんどんと魔術師たちを倒しています!しかし、何人かはアッシャーのすぐ近くまでいけています!ここは魔術師側にがんばってもらいたいですねえ!!」






その司会が聞こえて他の魔術師たちも広場に集まってきた。

が、一方で全く動こうとしないものもいた。藍もそのうちの一人だった。



「やばいな……もし今攻撃してる魔術師たちが全員やられたら今度こそ俺の居場所がばれちまう、そんなことになったら長になんて顔すればいいんだ」

そう藍が考えていると藍の耳につけている魔具が震えた。

「もしもし、アイ殿か。私だ楽しくみさせてもらっているよ。しかしこのままでは魔術師側が負けてしまうぞ、君も広場に向かってくれ、そのほうがおもしろくなるだろう」

長の声が耳に突き刺さる。

「おいおい、まじかよ……けど依頼主の命令だからな……いくしかないか」

そう言って藍は重い腰も持ち上げた。辺りを確認しながら屋根に飛び上がる。

そのまますぐに広場へと向かった。


少しいつもとは違う時間に更新することになりました。ご了承ください。



いつもご愛読ありがとうございます。よろしければ誤字、脱字、文法上おかしいものなどをお知らせいただければ幸いです。

また、今後の参考にしたいので評価、感想もお待ちしております。

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