進出
心臓がばくばくと鳴り、頭には玉のような汗をかく。
もしもという最悪の予想が一瞬頭をよぎるがそれを頭を振って脳内から追い出す。
どうも、野宿生活が一週間を超えた渡瀬藍です。
現在、俺はいつも通り木に登り下を徘徊しているあ体長4メートルという冗談のような大きさを持つ熊に狙いを定めている。
というのも、この森で一週間暮らしていてすっかり慣れてしまった。
最初の三日、四日は野生動物におびえ常に辺りを警戒しながら生きていたが、人間というのは同じ環境が続くと慣れというものが生まれる。そして何日も同じごはんを食べていると飽きというものも発生する。
つまり、結局のところ俺は木の実と野草という味気ない食糧に飽きがきたのだ。さらにこの森での生活の仕方もわかった俺は新たな食糧を求めていた。
つまるところ熊の肉を食べれるかどうかスマートフォンでチェックするくらいには肉を求めていた。
調べたところ熊肉は食べることができるようだ。熊の肉は脂身と赤身がはっきりと分かれているらしい。想像するだけでよだれがあふれてくる。
よって先ほど説明したとおり俺は今眼下をうろつく熊に狙いを定めている。
しかしながらやはりあの熊の迫力はすさまじく、いまさらながらやめようかなとも考えている。が、俺のおなかは空腹を訴えておりしばらくの間、恐怖心と空腹感が戦っていたが空腹感が恐怖心をこてんぱんにしたことから俺は熊を倒すことにした。
倒す方法としては前回と同じく首を絞めて気絶させ、そこからさらに強化された腕力にものをいわせて首の骨をへし折ることに決めた。
頭の中で何度もシミュレーションし、タイミングを見計らって熊が背中を向けた瞬間を待つ。今だ!!声には出さないが俺は一気に飛び降り無事に背中に着地する。すぐさま首に腕をかけてホールドする。足は熊の胴体にまわし振り放されないようにする。
熊ももちろんいきなり首をしめられてびっくりするわけなので、暴れに暴れる。
口からよだれを垂らしながら爪という凶器を持つ腕を必死に振り回し、俺を振りほどこうとする。振りほどくのは無理と気付いたのか熊は走り出した。俺は決して乗り心地がいいとは言えない熊の背中の上でぼよんぼよんと跳ねながらも決して腕を離さない。
離したら地獄が待っていることが分かっているからだ。
やがて熊は気絶したらしくズザーと地面に滑りながら倒れた。俺はそれでもしばらくの間締め付けつづけ、気絶したことを確認してから腕を離した。
首の骨を折るために熊を仰向けにする。
近くにあった木
から枝を何本か折り、枝に垂れ下がっていたつるも確保する。枝と枝をバツの形に交差さえ、交わったところをつるできつく結ぶ、同じものを三個用意し、頭、胴体、足をそれぞれ仰向けに乗せる。そして首の部分だけをわざと浮かばせる。思いっきり力を込めた拳をその無防備な首に振り下ろす。バキッという痛々しい音をたてて熊の首が折れた。
再び枝を集める。今度はできるだけ乾いていて小さ目の枝をだ。ある程度集まったらそこにライターで火をつける。何度かカチカチとしていると火がついた。熊の肉を焼いている間に俺は辺りに他の野生動物がいないか調べる。野生動物は火を恐れると書いてあったが念には念をいれてだ。熊肉を食べていたら周りを囲まれていましたでは笑えないからな。
パチパチと音をあげて燃える俺の餌。香ばしい匂いが漂ってきた。俺は腕をちぎり毛皮をはいだ。獣臭さが半端じゃなかったがそれすらも今はあまり気にならなかった。
俺は大きく口を開け肉にかぶりつく。驚くことに日本で食べた焼き肉と比べても遜色がないくらい熊肉はおいしかった。俺は久しぶりに口にした肉をおなかに詰め込んでいく。
手についた肉汁すらも逃さぬといわんばかりにぺろりと舐める。そして30分後、俺は丸々一匹丸ごと食べつくした。自分でも驚く食欲だった。毛皮は何か役にたつだろうと取っておく。爪はそのまま木の枝につるで固定して、簡易槍の出来上がりだ。
「肉に爪に皮、あの熊はずいぶんと役にたってくれたな、うん満足だ」
そのまま俺は久しぶりに満腹のまま眠りについた。
「いやあああああ、誰か助けてええええ!」
俺は少女の叫び声で目を覚ます。急いで下を見るとひとりの少女、おそらく14歳ほどだろう。が汚らしい恰好をした大人3人に追われていた。
「おい、まてよ!なあに、悪いようにはしないさ。ただちょっとおじさんたちと気持ちいいことしよってだけだよー」
「へっへっへ、こいつの言うとおり最初は痛いかもしれねえがすぐにお前も気持ちよくなるさ。さあ止まるんだお嬢ちゃん!」
などと反吐が出ることをまくしたてながら3人の大人たちは少女を追っていた。
俺は木々をつたいながらそれを追いかける。とうとう少女が追い詰められた。
「さあ、もうあきらめな!俺たちの言うとおりにしてれば命だけは奪わねえさ」
「まあ、奴隷として売りにだすから殺したら逆に損だもんな」
「がはははは、違いねえ」
男たちは下品に笑いながら少女の服を脱がし始めた。
さて、どうしようかな。助けてもいいが大人3人が相手か、勝てるかな。
まあ、でも個人的に腹がたつから助けよう。
「とりあえずはっと……」
俺は熊の爪でできた槍をもち、3人のうちでもっともがたいがいい男に飛び蹴りを喰らわせる。木の高さと強化された身体能力分が合わさった俺の蹴りの威力はすさまじく男が吹っ飛んでいき、木にぶちあたり止まった。起き上ってこないことから気を失ったようだ。
そのまま槍を構え左側の男の背中を刺す。思ったよりも深く突き刺さり男は痛みに苦しんでいる。
「ぎゃああああ、いてえええええ!!」
「なっ!おい、大丈夫かヨネスケ!くっそお前俺らに手をだしたらどうなるかわかってんだろうな!?俺らはあの有名な……」
最後まで聞かずに殴り倒す。そして背中を突き刺した男に近づく。
「ひっ!く、くるな!!悪かった俺たちが悪かったから見逃してくれ!!頼む!!」
男は必至に泣き叫びながら俺に許しを乞うていた。
「俺じゃなくそこの少女に頼みな、もしその子が許してくれたなら俺も許してやろう」
俺はそう言って、一連のやり取りを呆然とした顔つきで見ていた少女を見る。
「……えっ、わた、私ですか?私はその……もう助かったし許してあげてもいいと思います、はい……」
「ありがとうございます!ありがとうございます!!」
男はそう言って逃げようとする。俺はその首を捕まえて言う。
「待て、あそこの倒れてる二人もつれていけ、わかったな」
「は、はいい、わかりますわかります、だから、離してください!」
俺が首を離すと男は必至に二人を抱えながら逃げていく。一人で二人を抱えるとは意外と力があるんだな……。
「それにしても、あんた優しいのかバカなのかよくわかんないな。いいのかあいつら許しても」
俺は振り返りながら尋ねる。
金色の髪をもち顔立ちは整っている。しかしごはんを食べていないのか少し細かった。
顔色も悪く、心なし髪も色あせていた。
「いいんですよ、もう。それよりも助けてくださってありがとうございます。よければお名前を教えてもらってもいいですか?私はルーミアって言います」
「俺は渡瀬藍だ、渡瀬でも藍でもどっちで読んでくれてもかまわない」
「ワタセアイ珍しい名前ですね、それに苗字があるってことは貴族の方ですか」
「いや、俺がいたところでは全員苗字をもっているだけだ。別に貴族ってわけじゃない」
「そうなんですか、ところで助けてもらったお礼がしたいです!ぜひ私の家に来てください」
家、ということは人が住んでいる場所が近くにあるっていうことかこれはラッキーだったな。俺もそろそろ人が恋しかったところだ。ここは誘いに乗っておくか。
「わかった、家まで案内してくれると助かる」
「では、少し待っていてください」
そう言うとルーミアはぶつぶつとなにかを唱えだした。ルーミアの髪が風も吹いていないのに持ち上がり、俺の髪も次第に持ち上がり始めた。
おいおい、なんだってんだこりゃ。まるで魔法じゃねえか。この世界にはそんなものまであるのか。
「それでは、いきましょう。転移!」
すると次の瞬間には家の中にいた。
「お、おおおおおおおおおおお!本当に転移した!!すごいな、ルーミア!」
俺は驚愕のあまり変なテンションでルーミアを褒める。
「え、別にそんなにすごくないですよ。練習すればだれだって使えますよお」
と、デレデレした顔で言っているルーミアは誰が見ても褒められて喜んでいた。
「……ルーミア?ルーミアじゃないの!!どこ行ってたの!水汲み頼んだでしょ!……あら、あなたは誰かしら?」
奥の方からルーミアのお母さんと思われる人が出てきた。
「あ、お母さん!この人はワタセアイさんって言って私を森の盗賊から助けてくれたの!」
「……盗賊?あんたまた勝手に森にいったのかい!?あれほど危ないから行っちゃダメって言ったでしょ!」
「だってあそこにはいろんな薬草が生えてるから……」
「だってじゃありません!もう二度とあの森にはいかないって約束しなさい!」
「……わかったよ、お母さん。もうあの森にはいかない」
「約束を破っちゃだめよ、さあ、この人のためにお茶をとってきなさい」
そう言われてルーミアはお茶を取りに部屋を出た。
「アイさんだったかしら?娘を助けていただいてありがとうございます、本当になんてお礼したらいいのかしら……」
「ああ、別にお礼はしなくても結構ですよ。たまたまあの時居ただけですので」
そう言って俺は遠慮する。なにせルーミアもこのお母さんも痩せており、家を見る限り貧しいことが一目瞭然だった。
「しかしそれではアイさんが報われないですわ、何かないかしら……」
どうしてもこの人はお礼をしたいようだ、人がいいな。といってもお礼と言われてもなあ……そうだ。
「でしたら、お金を稼ぐ方法を教えてくれませんか?何分今まで故郷にばかり篭っていたのであまり物事を知らないのですよ」
「ああ、そうなんですか。そうですねお金の稼ぎ方としてはいろいろありますけど一番男の人に多いのが冒険者になることですね」
「冒険者……どんなことをするんですか?」
「冒険者とは冒険者ギルドに所属しています。そして冒険者ギルドから仕事を紹介されmす。冒険者はその仕事を達成させ、それをギルドに報告しお金をもらいます。このような形でお金を稼ぐのが一番多いですね。他には漁業をやったり大道芸人などあります。新しい魔法を開発すれば一生遊んで行けるお金が手に入りますよ。まあ、魔法を開発するのはかなり難しいことですが……。大体こんなところでしょうか」
「なるほど、助かりました。最後に冒険者ギルドの場所と登録かなにかする場合何が必要なのか教えてください」
「冒険者になるには登録が必要ですよ、その時に必要なのが冒険者ギルドに所属している誰かからの紹介状、もしくは登録料として10000ギド必要です。場所はこの家を出てしばらく歩くと大通りがありますのでその通りを行き、剣と盾の看板が掛けられた大きな建物があります。そこがギルドです」
「わかりました、いろいろと教えてくださってありがとうございます」
「いえいえ、そんな大したことはしていませんよ」
そこまで話してルーミアが戻ってきた。
「どうぞワタセさんお茶です」
「ああ、ありがとよ」
俺はそのお茶を飲んでお別れのあいさつをする。
「それじゃ、ありがとうございました」
「ええーもうワタセさん行っちゃうの?もっとゆっくりすればいいのに……」
「こらこら、アイさんも忙しいのよ。はい、こちらとしてもちゃんとしたお礼はしたかったんですが助けになったなら幸いです」
俺はルーミア家を出るとギルドを目指す。10000ギドと言っていたがなんとかして10000ギドを稼がないとな、ダメ元で行ってみるか。
しばらく歩くと教えておらった通りの建物が見えた。大きさは6階建てのマンションくらいあった。扉を開け中に入る。中には入ってすぐのところにおおきな掲示板がありそこに張り紙がたくさんされていた。奥にいくと受付のような場所が何個かあった。空いていたところに行ってみる。
「いらっしゃいませ、なんの御用でしょうか」
綺麗な営業スマイルを浮かべているお姉さんが出迎えてくれた。
「ああ、冒険者の登録をしたいのだが……」
「はい、新規の登録ですか?お名前と特技、紹介状がある場合は紹介状をお出しください」
俺は出された羊皮紙にそれぞれの項目を書き込んでいく。特技にはパルクールと書いた。
「失礼ですが、パルクールというのはなんでしょうか?」
「三次元的な動き、そうだな、軽業といったところか」
「わかりました、身軽ということですね。それでは今までに何か討伐された魔物はいますか?冒険者ランクの参考にします。証拠としてそのモンスターの一部も提示してください」
魔物が何を指すかわからんが、とりあえずあの熊の爪と皮を出してみた。
「あー、これって大丈夫かな?一応倒したんだけど……」
「これはっ……わかりました、青熊の爪四個と皮一枚であなたの冒険者ランクはDです。登録料の10000ギドをもらいます」
どうやらあの化け熊は青熊という魔物らしい。助かった。しかしお金はどうしよう……。
「お金を持っていないんだが建て替えかなにかはできないのか?」
「残念ながら当ギルドはそのような制度がございません、この青熊の爪を二つ換金すれば10000ギドになりますが?」
「じゃあ、それを換金してくれ。残りの爪と皮もできれば換金頼む」
「換金することはできますがそうするとあなたの冒険者ランクは最低ランクのEからになりますがよろしいでしょうか?」
まあ、今必要なのはお金であってランクではないから大丈夫だろう。それにあの熊ならまた倒しに行けばいいし。
「ああ、かまわない」
「わかりました。では後日冒険者カードを取りに来てください」
「わかった」
よし、これでとりあえずのことはやったな、あとは今日の宿を探そう。それに昼食もとらないとそろそろおなかが騒ぎ始めるな。
俺はしばらく街をぶらぶらしてみる。ちょうどいいにおいがしてくる旅亭があった。よし、ここにしよう。
「いらっしゃい!飯かい?泊りかい?」
「どっちも頼む、いくらだ」
「一泊1500ギドだよ!ごはんもつけるなら+1000ギドさ、何泊する?」
「それじゃあとりあえず5泊する、飯も頼む」
「わかったよ!12500ギドだね、昼食はすぐにできるからそこで座ってまってな!」
ずいぶんと元気なおかみさんがいる宿だ。まあ、これで宿と飯も心配はないな。しかし残りの手持ち金が2500ギドになってしまった。まあ、ギルドで稼げばいいか。
さて、はやくごはんこないかな。
処女作です。何分文を書くということはこれが初めてなので文体、文法、誤字、脱字などでおかしい点あればご指摘よろしくおねがいします。
また、参考にしたいので評価、できれば感想を書いていってくだされば今後に活かすことができますので、その点もよろしくおねがいします。




