原点
「本日午後3時30分頃東京羽田空港へと向かうバスと大型トラックとの間に衝突事故が発生。道路を走っていた車から110番通報がありました。事故の原因はトラックの運転手の居眠りにあったようです。なおこの事故によりバスの乗客全員とトラックの運転手を含む41名が死亡しました。警察は今後生存者であるバスの運転手と事故を見ていた人たちに事情聴取をし事故の詳しい原因を捜査するようです。続いてのニュースです……」
俺の名前は渡瀬藍、アメリカ人の父親と日本人の母親を持つハーフの19歳だ。アメリカで生まれ育った俺は大学の長期休暇に日本に旅行に来ていた。そして日本を満喫しいざ帰ろうと羽田空港へ向かうバスに乗ったところ大型トラックに衝突した。始めは大きな音がして次の瞬間には体全体を覆う衝撃がやってきた。前の座席の飲み物を乗せる折り畳み式のトレイに強く頭をぶつけた俺は意識を失った。
そして目が覚めるとなぜか壁、床、天井すべてが真っ白の窓ひとつない密室に居た。
「ここは……どこなんだ?てか俺はどうなったんだ、確かバスに乗って、それで……もしかして死んだ……?」
俺は一旦その問題を追いとき身の回りのものを確認する。服装はバスに乗っていたときと同じ上がしましまのパーカーにしたがワインレッド色のチノパンだ。左腕の手首には安っぽい柄の腕時計、ポケットの中には買ったばかりのスマートフォンとライターにタバコ。後ろポケットには財布、中身もちゃんと入っていた。
「身の回りの物はちゃんとあるな……やっぱり俺は死んだのか、そう考えるのが現実的だよな……」
あんな些細なことで死んでしまって少し腹が立つ。もっとやりたいこともあった。彼女もいるし結婚もしたい。バイトでお金をためてアメリカに帰ったらすぐに遊園地に行く予定だった。それが全部できなくなったことを考えると自然と悔しい思いになる。
ふと、何かの気配を感じて顔を上げる。そこには絶世の美女がいた。まるで天使のように美しい容姿をしていた。汚れ一つ見当たらない白い布を肌にうまく巻き付け靴ははいておらず、驚くことに宙に浮いていた。
「既にお気づきだと思いますがあなたは死にました。現在あなたの魂と肉体は次の輪廻へと向かっております。今現在は私がここにとどめておりますが」
「は?えっと俺が死んだのはわかった。理解したくない現実だがそれも受け入れよう。それでなんで俺をここに呼んだんだ?」
「あなたにはやってもらいたいことがあります。そのためにあなたをここに呼びました」
「やってもらいたいことってなんだ?悪いが今の俺はなんのやる気もでないんだ、別を当たってくれ……」
「あなたが生き返ることができる、としてもですか?」
俺はその言葉に大きく驚いた。
「生き返れるのか!?俺が、また!」
「しかしあなたの望む世界には生き返ることはできません、別の世界です」
愕然とする。一時は喜んだがそれだけに今のショックは大きかった。
「元の、地球に帰れないなら意味がない……」
「それは無理なのです。あなたの魂の力が足りません。もちろんあなたの世界に生き返ることができる人もいますよ、イエス・キリストのように」
「そうか、キリストは一度死んだんだな……。俺にはキリストのように力はない、か……
。まあいいこの際どの世界でもいい!俺を生き返らせえてくれ!!」
「はい、しかしやってもらいたいことがあります。それはあなたがあちらの世界についてから随時お伝えします。拒否することはできません。拒否すればあなたは再び死んでしまいます。あなたは受け入れるしかないのです」
「受け入れるしかないねえ……一つ約束してくれ。俺の両親と彼女は良い人生を送れるだろうか、俺がいなくてもみんなちゃんと幸せに生きていけるだろうか?」
俺は先ほどから気になっていた疑問をぶつける。これだけは聞いておきたかった。俺が死んだことによって彼女や両親が不幸になるなら死んでも死にきれない。
「安心してください。あなたの両親と彼女は幸せに生きますよ。あなたが死ぬことによって一時は消沈するようですが大丈夫です、ちゃんと立ち直ります」
そうか……幸せに生きれるのか、みんな……もう会うことはできないけど今までありがとう。
「……ところで俺を生き返らしてあなたに何の得があるんだ?」
「私たち神々は常に退屈なのです。運命を知ることができてしまう私たちは常に娯楽を求めています。私たちにとっての娯楽とはあなたのように生きている生物の一生を視ることです。おもしろい人生を視れればそれだけで満足なのです。これまでにもいろいろなことしてきました。戦争を起こしたり、災害を起こしたり。神様によっては自分が下界に降りて人々の信仰を集めたりしました。そうすることによって運命が変わるのです。私たちは変わった運命を視たいのです。だからあなたという異世界人を送り込むのです。そして異世界であなたはどんな役割を果たすのか、どんな影響をもたらすのか。私たちにも読めない異世界人の運命、あなたにかかわった人の運命ももちろん変化します。今からでも楽しみです。あなたにはそのためにいろいろとしてもらいますよ」
そう言って女神は怪しげにほほ笑んだ。
「……わかった、あんたらの見世物になるのは気に食わないが生き返らしてもらえるなら気にしないさ」
「そうそう、今のあなたではあちらで生き残ることは難しいでしょうから、少し力を与えましょう。うーんそうですねえあなたが今持っているその電子機器、それを異世界に行っても使えるようにしましょう。見たところかなりの情報量を取得できるようになっている機器ですね。基本的にあちらの世界はこちらの世界と似ています。兄弟世界ですからね。困ったらその機器で調べたらいいでしょう。他にはあなたの身体能力を強化してあげます。力が強くなったり足が速くなったり、病気にかからない健康な体にもしてあげましょう。こんなもんですかね。あまり強くしてもつまらないですし、さて顔はそのままでいいですね、年齢についてもそのままで行ってもらいます。質問はありますか?」
「いや、特にない。いつでも送ってくれていいぞ」
「では、せいぜい私たちを楽しませてください」
最期に見えたのは不適に笑う彼女の笑みだった。そして意識は闇に飲まれる。
「……うーん、ここはどこだ?森……か?」
起き上り辺りを見回すと一面森だった。背の高い木々に囲まれており空も少ししか覗いていない。
「強化された身体能力ってどれぐらいあがったんだ?」
俺は軽い気持ちで跳躍してみた。
すると体感的には20~30センチほど跳ぶように力を込めたはずがなんと2メートルほど跳んでしまった。
「おいおい、こりゃ少しばかり強化しすぎじゃないか?それとも、この世界はそれほどまでに過酷なのか?……心配になってきた」
力の方も試してみようと近くの木に拳をめり込ませてみる。メキメキと音を立てながら簡単に木が折れてしまった。折れてしまった木を持ち上げてみるとまるで学校で使われる机ほどの重さしか感じなかった。
自分の体の性能に驚愕しつつも何者かの気配を感じる。後ろを振り返るとそこには瞳は青い熊がたっていた。
体長4メートルほどという接頭語がつくが……。
「……なんだこの馬鹿でかい熊は……もしかして俺、狙われてる?」
その問いを理解してのかしていないのか熊は鳴き声を上げた。
「GUOOOOOOOOOOOOOO!!」
首がすくむほどの声量だった。熊の倒し方など知るはずもなく手近な木を登る。
「やばいやばい、こんな化け熊がいるとは聞いてないぞ!そうだ!スマフォで調べてみよう」
俺は急いで下を注意しながら熊についてウィキで調べる。
最大種はヒグマもしくはホッキョクグマで体長300cm、最小種マレーグマでも体長100-150cmとネコ目内でも大型種で構成される。一般に、密に生えた毛皮と短い尾・太くて短い四肢と大きな体、すぐれた嗅覚と聴覚をもつ。
頭部が大きいわりには目は小さく、耳も丸くて短い。視力は弱い種が多いが[1]、聴覚・嗅覚は鋭い。顎が発達しており、犬歯も大きいが、ネコ目の多くが、臼歯が肉を切り裂くための裂肉歯に変化しているのに対し、クマ科では裂肉歯が植物などをすりつぶすのに適した、短くて扁平なものに二次的な変化を起こしている。歯式は3/3・1/1・4/4・2/3=42(本) ・乳頭式は2+0+1=6(個) のものが一般的(アカグマの上顎門歯は2本)、寿命は25年から40年の種が多い。
四肢は力強く、筋肉質でがっしりとしている。前後の肢は幅が広く、その先には長く湾曲した鉤爪を備えた5本の指を有しており、この鉤爪は引っ込めることができず、木登りや穴掘りに優れた形状をしている。また前肢後肢とも、足の裏の大部分がネコ目の特徴である毛の生えていない肉球形状であり、踵を地
面につけて歩く蹠行性動物である。
「へ―熊って意外と寿命が少ないんだなあ……って、それどころじゃねええ!木登ってこれるかよ!」
この世界の熊は木を登りませんようにと下を見るが、当然のように爪をたてて登り始めている熊が目についた。
「ですよねえええ!!くっそ、熊の倒し方だ倒し方!!」
手順1.熊が後ろ足で立ち上がって攻撃してくるのを待つ。
手順2.熊のパンチまたはひっかきを体をすばやくかがめて避ける。
手順3.素早く熊の体の脇を通り抜けるようにバックをとり、抱きつく。
手順4.熊は手足が短いので背中まで攻撃が届かない。
手順5.がっちりとバックチョークする、いかに熊といえど脳まで酸素が届かなければ気を失う。
手順6.熊が失神する。野生動物は後ろに倒れることはないので安心。
こ、これいくしかない!これにかけよう、俺は急いで熊から離れたところに飛び降りる。
熊ももちろん俺を追って木を飛び降りる。そのまま俺と熊はにらみ合う。
我慢だ俺、ここで背中を見せたらやられる。辛抱しろ。
必死に自分を押さえつけながら熊の攻撃を待つ。
すると熊が大きく前進しんがらギラリと光る爪を振りかぶった。
「今だ!!」
俺はすぐさま熊の横を通り抜け、やつが後ろを向く前に背中にしがみつく。
そのまま手足をがんじがらめにして強化された身体能力で首をホールドする。
「うおおおおお、さっさと気を失えええ!」
いくら届かないといってもそれはある程度であって、顔のそばをひゅんひゅんとかすめる爪は見ていて気持ちのいいものではない。
「GUOOOOOO……OOOO、OOO…………」
熊はしばらく反抗を続けていたがやがて意識が遠のいたようで、ずしんと音をたてて前に倒れた。
俺は熊から離れて汗をぬぐう。
「ふう、まじで死ぬかと思った。スマフォちゃんありがとう、君のおかげで助かったよ」
乱れた息を整えながら熊が意識を取り戻す前にその場を離れる。
結局あの熊に会った以外野生動物に会うことはなく、そのまま夜になった。
この体は夜目も効くらしくあたりを昼と同じくらいの視野で見ることができた。
キャンプ道具など持っていないので頑丈そうな、それでいて枝の少な目な木に登る。
アメリカの高校、大学とパルクールというビルとビルの間を飛び回ったりする競技のサークルに入っていたため俺の運動神経は自分でいうのもなんだがかなりいい。さらにそれが女神によって強化されているため数秒もしないうちにかなり高いところまで登ることができた。落ちないように何本かの枝が集まっているところで横になる。
熊と戦ったり生き返らしてもらったりでいろいろなことがあったため自覚できていなかったが相当疲れていたらしく俺はすぐに眠りについた。
翌朝目が覚めた俺は喉の渇きを覚えた。おなかもかなり空いているようで少し焦る。
なにせ水がありそうな場所が見当たらないし、飢えをしのぐ方法もしらないのだ。
「こんなときのために……スマフォちゃん、頼むよ……」
俺は慣れた手つきでボタンを押し、検索する。
サバイバル訓練を受けた自衛官ですら、実際のサバイバルは非常に厳しいそうです。
素人の場合、食料の確保は即エネルギーの浪費を意味します。
確保出来る食料と、そのために失うエネルギーの差が歴然で、じっとしていれば3日持つ体力を1日で失う場合もあるそうです。
日本国内での遭難に備えるのであれば、糖類・脂質の多い高カロリーの非常食を準備した方が懸命ですし、それが叶わない場合は、体力の温存に心がける方が生還率が高いです。
こんな文を発見した。なるほどあまり動かない方がいいのか。昨日あんなに派手に格闘してしまったが大丈夫だろうか。
他にも検索するとどうやら野草を探せばよいらしい。
野草を紹介しているウェブページを開きながら俺は木を降りた。
あたりに野生動物がいないことを確認し、俺はあたりに生えている草を観察する。
しばらくの間ウェブページと草を見比べているといくつかの野草を確保することができた。少量の木の実も手に入れることができた。
とりあえず今日一日の食糧は大丈夫そうだ。
「次は水だな……川や湖が近くにないかな……」
採ったばかりの木の実をつまみながら辺りをぶらつく。
数十分ほど歩いても見つからなかったために焦りが大きくなる。
「やばいな……生きていくために水は絶対に確保したいのだが」
さらにペースを上げて辺りを徘徊する。すでに日は落ちかけておりあたりは夕暮れに光で差し込んでいた。
もうダメかとあきらめかけた時一匹の角が生えたカエルを発見した。俺は木の上に登りしばらくそのカエルを観察する。カエルの大きさは昨日熊を見たせいであまり驚かなかったがそれでも1メートルほどあった。カエル嫌いの人が見たら失神するレベルだろう。
「カエルがいるということは、近くに水場があるはずだ。というかあってくれ、頼む」
そのままカエルを観察する。少しの間カエルはじっとしていたがやがてのそっと動き始めた。
ぺたりぺたりと歩き始めたカエルの歩みは遅く、じれったい気持ちを抑えながら木と木をつたって付いていく。
やっとのことで水場についた。どうやら湖のようだ。それもかなり大きな。
もう水を確保することができたのでカエルとは離れた場所に降りる。水をのぞいてみると意外にも透き通っており飲む分には問題なさそうだ。俺は渇きを癒すためにひたすら水を飲み続けた。おなかが水でたぷんたぷんになるほど飲み続けやっと飲むことをやめる。
「そういえば水場の近くには野生動物が集まるってどっかで聞いたな。あまり長居するのはよくなさそうだ」
俺はそう独り言を放ち湖を後にする。
野宿二日目を再び木の上で過ごしながら眠りについた。
処女作です。何分文を書くということはこれが初めてなので文体、文法、誤字、脱字などでおかしい点あればご指摘よろしくおねがいします。
また、参考にしたいので評価、できれば感想を書いていってくだされば今後に活かすことができますので、その点もよろしくおねがいします。




