平民少女は急がない
…「嫁入り先なんだがなぁ…目ぼしい相手が見つからんのだよ」
これはあたしが聞いててもいい話なのかなあ。
席をはずせとは言われていないし、聞かなかった事にしとこう。
旦那様とお嬢様にお茶を注ぎつつ、そんなことを考えてた。
あたしは十四歳の平民の娘で、男爵家に奉公に入って二年になる。
十一歳の時に国家方針とかで始まった、基礎学校での成績が良く、
ここで男爵家の身の回りのお世話をさせてもらえるようになった。
お給金はそれなりにもらえていると思う。まかないも美味しい。
お屋敷の外の同い年の友達と、お休みの時に話を聞いてみたけど、
倍とは言わなくとも羨ましがられるぐらいには高いみたいだ。
仕事の方はそれなりに忙しいけど。
◆
「うへえ、九歳前で結婚とか。そんな急ぐ必要あんの?」
本日はお休み。基礎学校で一緒だった子と久しぶりに会っている。
彼女は奉公に出たりはせず、実家の農家を手伝っている。
もらった果物を味わいながら、大きな石に座っておしゃべり中。
「そうみたい。お貴族様は家と家との関係が大事っぽい。
お相手は家同士が利益出る組み合わせでないとまずいみたい」
「面倒そう。うちら平民だったらふつーにくっつけるじゃん?
そりゃ親の反対とかは時々聞くけど、割と自由っしょ?
農家の息子だろうと、鍛冶屋の息子だろうとさあ。
家の利益とか、考えてるのってほとんどいなくない?
あと、九歳で子供作んなきゃ、とか無理でしょーよ」
「あ、それはさすがに大人になってからだよ。
結婚時期は十五歳から十八歳ぐらいで、子供作りはもっと先ね。
都合によって、少し早まったりの場合もあるみたいだけど」
「そこはうちらと変わんないんだ。相手決まっちゃうだけか。
お貴族様でなくて良かったーと思っちゃったよ。
そういや、あんた今いい相手とかいるの?
お貴族様ならもうまずい年齢じゃん」
唐突に話をこちらに振られた。
「いないいない。住み込みで働いてて相手探せる訳ないって。
お屋敷はみんなおじさんばっかりだし結婚してるもの。
あなたこそどうなのよ?良さそうな男の子とかいないの?」
「あー、ダメダメ。まわりのみーんなガキでバカばっかり。
この前も女の子達の水浴び覗き見してぶん殴られてたし」
二年前まで基礎学校で一緒だった男の子達を少し思い出してみる。
確かに面白い子や力持ちな子はいたけど、頭のいい子はいない。
ちょっと年上にも年下にも、残念ながらそんな子はいなかった。
逆に頭の悪い子もいなかったけど。かっこいい子も…いないな。
近くの村では確か昔、頭のいい子が王立中央学院に入ったらしい。
しかも出世してお貴族様になっちゃって、すごいお金持ちだとか。
噂ではその男の子、あたし達と同い年と聞いている。
そういう子が仲のいい幼馴染なら良かったんだけどねえ。
◆
とは言ったものの。
ちょっと前まで平民の娘も、結婚は成人前とか早い人が多かった。
食べ物が不足しがちだから、働き手を増やそうと子供を作って、
でも子供が増える分食べ物が不足して、の繰り返しだった。
毎年冬場は食べ物不足で病人や餓死者が出ていた記憶がある。
基礎学校が始まった少し前ぐらいからあまり聞かなくなったけど、
それまではあちこちでお葬式があったように記憶している。
その分たくさん子供も生まれていたけれど。おかげで若者は多い。
あと働き手はやっぱり男の子が力も強いので、ひいきされていた。
女の子は男の子より、色々と後回しにされていた気がする。
可愛い子だとまだ子供なのに別の町にお嫁に行かされたりしていた。
今なら分かるけど、大きな町の娼館に売られたりした子もいたはず。
お腹いっぱい食べられるからって喜んでいる子もいたんだけど、
その後どうなったのか、話を聞かないのでまだ幸せかは分からない。
最近は女の子だからと、男の子の後回しにされることも少ない。
食べ物もちょっと前までみたいに冬場足りなくなったとも聞かない。
うちの実家は焼物を作ってて農家じゃないから詳しくはないけど、
なんでも温室とか蓄熱器とかのおかげで農作物が作りやすいとか。
あと肥料が良くなったとも聞いている。それで豊作が続いてるって。
わたしもみんなも、もうお金持ちに売られたりはしないと思うので、
高望みはしないから相手はゆっくり探したいなあ。出来れば恋愛で。
この少女は「六女ともなりますと」の男爵家で奉公していた。
「現在、姉は危機にあり」の前日譚。




