妖精王の嫁取り
昔むかしのある所に、広大な森に囲まれた国があった。
ある日、森のそばにそびえる城に世にも美しい妖精の王がやってきて、その城の主(つまり王)にこう言った。
「間もなく生まれるお前の娘を、我が妃として貰い受ける。じゅうぶんに慈しみ不自由なく育てるように」
それを聞いた王は王妃を呼び出し、腹の子は娘であり妖精王の妃となることを伝え、次には国中で慈しむようにと御触れを出した。
やがて王妃によく似た娘が生まれた。次には王によく似た娘。最後には互いによく似たそっくりの双子の娘に恵まれた。
王と王妃は後に生まれた娘らも妖精王に選ばれるやもしれぬと、全部で四人の娘らを全て城の奥に閉じ込めた。まかり間違っても他の男の目に触れさせぬために。
そうしてあのお告げから十数年を迎えたある日のこと。
金と宝石で飾り立てられた馬車を七頭の羽の生えた白い馬に牽かせ、前後を妖精の騎士に護らせた妖精王が嫁取りにやって来た。
美しく愛らしく賢く育った四人の王女らを飾り立て、嫁入り道具を山と積み上げて出迎えた王であったが、しかし。
「我が妃をどこに隠した」
祝いの空気を切り裂くように、妖精王は冷え冷えとした視線を周囲に向けた。
「わ、私の娘はこちらの四人しかおりませぬ!」
王は震えながら声を上げた。
「我は偽りをゆるさぬ。この国にいるのは確かだ。速やかに差し出せ。さもなくば城を燃やす」
その言葉に震え上がったのは王だけではなかった。王女の輿入れの見送りのために集まった家臣らも外国の客人らも困惑し、妖精王の剣幕に恐れをなした。
「しかし、私の娘は確かにこちらの四人のみでございます!」
なお言い募る王に妖精王が冷たい瞳を向けた時、人垣の奥から声が聞こえた。
「恐れながら」
周囲の人々が一斉にそちらを見やり、一縷の望みをかけて妖精王との間に道を作った。
そこには美しい下女がいた。
王はその顔を見て冷や汗を吹き出した。
下女は王に目を向けず続けた。
「きっとそれは私の娘かと存じます」
人々はどよめいた。確かに美しい女ではあるが下女である。下女が王の子を産むことなど有りはしないと。
「連れて参れ」
妖精王がそう命じると、側にいた妖精の騎士があっと言う間もなく下女の前に立ち、水仕事に荒れたその手を取ると一迅の風とともに消えさった。
残された人々は更にざわめき、王はできるだけ目立たぬよう体を小さくした。
それから少しも待たぬうちに再び風が吹き抜けると、下女と妖精の騎士は妖精王の下に戻ってきた。
下女の手を握る娘と共に。
人々はもはや声も出なかった。
質素な衣服をまといながらも、下女に似た美しい容姿に王の持つ髪と瞳。なるほど確かに王の子であった。
「娘御よ。我が妃として我と共に妖精の国に参られよ」
甘く微笑み金銀宝石で作られた花の束を差し出す妖精王に、娘はただ見惚れた。
その美しい姿に自らの二の舞を恐れた母によって家に閉じ込められて過ごしてきた娘には、生まれて初めて見た男が妖精の王だったのだ。
すっかり魅入られた娘は誰からも見えるほどにはっきりと頷き、絢爛な花束を受け取った。
母の手は離さずに。
安堵した妖精王は母を離さぬ娘を見、そしてまたその母の手を未だ握る妖精の騎士に目を見張り、そして声を出して笑った。
先ほどまでは城を燃やさんとしていた妖精王の変わりようには人々も驚いたが、とにかく怒りが鎮まったことに感謝した。
そして。
「母御よ。我が妃と我が忠実なる騎士は、母御も共に妖精の国に入ることを望んでいるようだ。この国に未練がないのであれば、招待させていただこう」
母は驚いて娘を見、そして妖精の騎士を見てわずかに頬を染めると、「ぜひに」と答えた。
そうして母娘まとめて豪奢な馬車に乗せられると、山と積まれた嫁入り道具とともに溶けるように消え去った。
残された人々であるが。
客人らは気の利く家臣らによって丁重に見送られた。とんだ土産話を携えて。
王は豪華な衣装に手で絞れるほどの汗を染み込ませ、縮こまっていた。それはそうである。
王妃はそんな王に百叩きを見舞い、恥をかかされた王女らはその姿に一瞥もくれることなく立ち去った。
腐っても妖精王の妃の生まれた国であるからして。
幸いにして、呪いをぶつけられるだとかの不幸に見舞われることはなかった。
後には王女の一人が立派な男を婿にとり、女王となって堅実に国を治めたという。
おしまい
思い付いたフワフワ設定をフワフワのまま妖精譚にしようと思って書きました。
妖精譚なのでフワフワでいいのですし、過剰な仕返しがあったりなかったりするのが妖精譚なのです。知らんけど。




