表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『沈黙の翼(ブルーガルーダ)』 ~その海で、僕たちは大人を信じられなくなった~  作者: 水前寺鯉太郎
海難審判編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/22

第21話:真実の凱旋

第21話:真実の凱旋

1. 逆転の法廷

 半年を経て、再び開かれた海難審判の再審。

 だが、法廷を包む空気は前回とは正反対だった。傍聴席を埋め尽くす遺族たちの瞳には、もはややるせない絶望ではなく、獲物を追う獣のような、鋭い「怒り」が宿っている。

 証言台に立つのは、再び水江櫂。

「証人、あなたが提示した新たな『記録』に基づき、再質問を行います」

 審判官の声も、どこか緊張で強張っていた。

 櫂の視線の先――受審人席には、あの「雇われ船長」が、もはや演技をする余裕もなく青ざめた顔で座っている。そしてその隣、本来ならそこにいるはずのなかった男、佐伯が、政府高官としての誇りを必死に繕いながら、忌々しそうに櫂を睨みつけていた。

2. 逃げ場の失われた「沈黙」

「これが、僕が撮影した動画の静止画です」

 法廷の大型モニターに、あの写真が映し出された。

「車両甲板が崩落する瞬間。そして、その様子を特等席から見下ろしている佐伯氏です。……この時、あなたは船長に何と命じましたか?」

 佐伯側の弁護士が立ち上がる。「異議あり! このような不鮮明な写真は証拠能力に……」

「ならば、これを見てください」

 櫂が差し出したのは、吉岡から託された『極秘積載指示書』の写しだ。

「事故直後、本省のサーバーから削除されたはずのデータです。そこには、あなたの秘書の署名で、『証拠を隠滅するために船体を速やかに沈没させろ』という指示が記されていた」

 法廷に、爆発するような怒号が響いた。

 佐伯は、椅子から立ち上がろうとして、足がもつれた。

「……捏造だ! そんなもの、ただの学生と、落ちこぼれ記者が作った出鱈目だ!」

「捏造なのは、あなたの言葉の方だ」

 櫂の声が、佐伯の叫びを真っ向から切り裂いた。

3. 三百人の「声」

「あなたは、自分の利権を守るために、僕たちの仲間を海の底に置き去りにした。……船長に指示して、救助を待たずに逃げさせた。三百人が、暗い水の中で、どんなに苦しんで死んでいったか、考えたこともないでしょう」

 櫂は、カバンの中から、あの日から一度も手放さなかったあの『一眼レフカメラ』を取り出し、高く掲げた。

「このカメラは壊れました。でも、中にあった真実までは殺せなかった。……これを見ても、まだ『幻覚』だと言うんですか!」

 静まり返った法廷に、佐伯の荒い呼吸音だけが響く。

 逃げ道は、もうどこにもない。

 証拠隠滅の指示、癒着の記録、そして決定的瞬間を捉えた少年の「執念」。

 審判官が、震える手で槌を叩いた。

「……証拠を採用します。受審人・佐伯、およびガルーダ・ラインに対し、重大な犯罪事実の疑いあり。直ちに警察当局への告発、および審理の続行を命じます」

 その瞬間、傍聴席から嗚咽と、地鳴りのような拍手が沸き起こった。

 陽太が、涙を流しながら櫂の肩を叩く。

 あの日、霧の海で止まってしまった時計の針が、今、猛烈な勢いで「正義」へと動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ