本の紹介38『マジックミラー』有栖川有栖/著
ミステリーの郷愁と意外性を味わうことができる一作
学生時代は読書といえばミステリー作品だったのですが、有栖川先生の作品は中学生時代に初めて読んだ記憶があります。何作か読んだのですが、当時は地味だなという印象を受けました。ある程度の数のミステリー作品を読み、パターンというかお約束ごとが分かってくると、この地味さが持つ良さが分かってくるように思います。
ミステリーを読んでいると、トリックや設定などでで飛び道具的なもの、奇抜なものに出会うことが多いのですが、有栖川先生はそういったものを通った上であえてオーソドックスな作風にしているように思います。
刺激の強いものばかり摂取していると却って感覚が鈍っていくように感じることがあります。以前はもっと些細なことで心が敏感に反応していたのに、滅多なことでは心が動じなくなるというか。有栖川先生の作風にはそんな心を一旦デトックスしてくれる効果があるように思います。
湖畔にある別荘で女性が殺害されるのですが、被害者には多額の保険金がかけられており、夫とその双子の弟に嫌疑がかけられます。しかし犯行時間には二人ともアリバイがあり、警察の捜査はなかなか進展しない。被害者の妹は双子への疑惑の念を拭えず、知り合いの推理小説家と共に探偵に調査を依頼するというストーリーです。
容疑者は双子ということで容姿が瓜二つ、そしてタイトルになっているマジックミラーというワード。この組み合わせでどのようなトリックが仕掛けられることになるのか、読んでいる間はそればかり気になるのですが、意外な方向からボールが飛んできます。
推理小説家と被害者が元恋人同士であったとか、被害者の妹と推理小説家の関係だとか、警察関係者の性格づけだとかキャラクターの味付けも色々なされているのですが、どれもしつこくならない程度の上品な匙加減となっているのが好印象です。物足りないと感じる人もいるかもしれませんが、個人的にはこれくらいの方が現実味があって良いなと感じます。
推理小説家による劇中劇の描写や終盤に披露されるアリバイ講義など、使いようによってはもっと意外性のある展開に繋げられる要素も盛り込まれているのですが、あえて変化球にしないところが新鮮です。それでいて、マジックミラーの物語上の位置付けには思わず唸ってしまうところがあります。
正直言って予想は完全に外れたのですが、ストンと落ちる納得感があります。物語の流れから、オチに不自然さを感じさせない手腕はまさに職人芸と言えます。変化球ばかり疑っていて、ストレートで打ち取られた時のような清々しさがあるのです。終わり




