無意識
続きです!読んでください!
《3-2》
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、俺たちの勝利が決まった。それと同時に足音が四方八方から迫ってくる。
「浅倉ぁぁぁぁぁ!!!」
「勝った!勝ったぞ!!!」
「サッカーの神!」
次の瞬間、ドンッと背中に衝撃が走った。
「うぐっ!?」
古川だった。そのまま勢いで俺に抱きつき、俺はそのまま後ろに倒れる。そこにさらに何人も飛び込んでくる。
「重っ……おい、やめろ!!」
「ヒーローは下敷きになる運命なんだよ!!」
「どけ!俺も抱きつく!!」
ぐちゃぐちゃだ。腕がどこにあるのか分からない。誰の足が俺の腹に乗ってるのかも分からない。砂の匂いと汗の匂いと、みんなの笑い声がぐちゃぐちゃに混ざる。
「浅倉えぐいぞ!」
「最後あれ決めるか……」
「パス出せよバカ!!心臓止まるかと思ったわ!」
笑いながら怒られる。俺は地面に仰向けのまま、ははと笑った。もう力が入らない。その人の山の隙間からふと視界の端に人影が見えた。
「……あ」
みんなが少しずつどいていく。その向こうには莉子ちゃんが立っていた。さっきまであんなに大声で応援していたのに今は静かで、でも目だけが真っ赤でぎゅっと拳を握っている。
目が合う。お互い数秒動けなかった。それから莉子ちゃんは小走りで近づいてきて、俺のすぐ横で止まった。
「浅倉くん……」
声が震えている。
「天城さん……」
「すごいよ……ほんとにすごい」
それだけ言って、唇をきゅっと結ぶ。俺は上半身だけ起こした状態で笑った。
「約束……守ったよ」
その言葉を聞いた瞬間、莉子ちゃんの目から涙がぽろっとこぼれた。
「……うん」
小さくでもはっきり頷く。その様子を見ていた周りがニヤニヤし始める。
「おいおいおい!」
「見せつけるなぁ……」
「うるせえ……!」
俺は思わず叫ぶが声に全然力が入らない。古川が横でニヤつきながら言う。
「ヒーローはお前だったか……」
「古川の顔面ブロックもすごかったけどね」
「えっ……鈴香ちゃん……!」
気づけば水瀬と木南も俺たちに近づいてきていた。水瀬は古川の肩に手を置き、顔面ブロックを労る。
「みんなすごいかっこよかった!」
木南がそう言うと、全員がどっと湧いた。
「うぉぉお!!!」
「有栖ちゃんに……かっこいいって言われた……!」
「サッカーやって良かった……!」
全員がそれに浸っているのを俺は横目で見つめる。
「ははっ……」
笑いながら俺はふと気づく。左足がズキズキと激しい痛みを連れてきていた。
「あれ……やば」
立ち上がろうとして、力が入らず、ふらっとよろける。
「おい!?」
「大丈夫か!?」
「無理すんな!」
柴田と藤本が腕を貸してくれて、なんとか立つ。
「限界かも……」
「そりゃそうだろ……」
みんなに囲まれながらゆっくりベンチの方へ歩く。振り返ると、さっきまで敵だった4組のやつらもこっちを見ていた。シュガ男と目が合う。
悔しそうに俯いていたが、俺の視線に気づくとニヤッと笑って、親指を立てた。俺も小さく手を上げて返す。
グラウンドの空気がまだ熱を持っている。歓声の余韻、砂の匂い、汗だくの俺たち。全部が混ざって、胸の奥にじんわり広がる。
「……楽しかったな」
思わず口から漏れた。
ベンチに辿り着いた瞬間、全身の力が抜けた。
ドサッと腰を下ろすと、左足の痛みが一気に主張を始める。さっきまでは興奮で誤魔化されていたのに今はズキズキと脈打つみたいに存在をアピールしてくる。
「……いってぇ」
思わず漏れた声に周りが心配そうに覗き込む。
「ヒーロー、代償がでかいぞ」
「……覚悟の上だ」
息を整えながら顔を上げたとき、ベンチの端に腕を組んで立っているやつが目に入った。
優馬だ。ニヤニヤしながらゆっくり歩いてくる。
「成し遂げたぞ」
俺が言うと、優馬は一度大きく頷いた。
「確かに成し遂げたな……」
そこでわざとらしく言葉を切る。そして一拍置いてから優馬は人差し指を立てて、ドヤ顔で言った。
「でも俺は三得点ハットトリック!北斗は二得点!俺の勝ち!」
「は?」
俺はベンチに座ったまま優馬を睨んだ。こいつこんな時でも煽ってくるのか……!?
「俺のシチュエーションの方が価値高いから!」
「得点数が全てなんだよ!数!」
「俺、後半だけで怪我人だからな!」
いつものように言い合っていると優馬はさらにニヤニヤして俺に近づいてくる。
「悔しかったら走ってこいよ、北斗ぉ?」
そう言ってぴょんと軽く後ろに跳ねる。
「今なら余裕で逃げ切れるぞ?」
「……この野郎」
立ち上がろうとして、左足に体重をかけると痛みが走る。
「っっ……!!」
ガクンと膝が折れそうになる。周りが慌てて支える。
「無理すんなって!」
「追うな追うな!絶対追うな!」
優馬はそれを見て、腹を抱えて笑っている。
「ほらほら!来いよ!ハットトリック様に追いつけるかな?」
「覚えとけよ……!」
俺は悔し紛れに吐き捨てた。俺はその優馬の背中を見送りながら深く息を吐いた。
「あいつだって本当はすごいって思ってるよ」
柴田が俺の横にしゃがむ。
「はいヒーロー。優馬は俺が蹴っとくからお前は普通に保健室な」
「あっ……お願いします……」
藤本と柴田が両側から肩を貸してくれる。立ち上がると、思った以上に左足が頼りない。自分の体なのにうまくコントロールできない感覚がある。
「行きましょう……」
みんながまだ興奮気味に騒いでいる中、俺はゆっくりグラウンドを後にする。
「マジでよく走ったな……」
藤本が呟く。
「気合いだよ気合い……」
「気合いで何とかなるものなのか……?」
「俺はなるんだよ」
莉子ちゃんの応援がなきゃ多分諦めてたけどな……。
「まあ莉子ちゃんも応援してたしな」
「えっ……」
柴田って心読めんの……?
「まああれは燃えるわな。好きな子に応援されるなんてな」
「……あの時の俺なら何でも出来たな」
「ははっ、言えてる。"ただの応援"じゃなかったしな」
俺は柴田のその一言が引っかかった。
「"ただの応援"じゃなかった?」
確かに莉子ちゃんの応援は他の人より特別なものだけど、応援自体は普通だったぞ……?
「うん。だって莉子ちゃん、"北斗くん"頑張れって言ってたろ」
「あーそれか。確かに北斗くん頑張れって…………あ!!!!!!」
自分の声がグラウンドに大きく響いた。柴田と藤本がびくっと肩を揺らす。
「ど、どうした!?」
「痛むのか!?」
「違う違う違う違う!!!」
俺は二人の肩を掴んだ。
「今なんて言った!?」
「え……?莉子ちゃんが北斗くん頑張れって言ってたって……」
「それだよ!!!!」
頭の中でさっきの光景が一気に再生される。
『北斗くん!!頑張れー!!!』
あの時は試合中でアドレナリン全開で、何にも気にしてなかった。
「北斗くんって呼んでたぁ…………」
浅倉くん。ずっとそれだった。それなのに。
「なんで急に名前……」
俺がそう漏らすと、柴田と藤本が顔を見合わせてニヤッと笑う。
「今気づいたのか……」
「莉子ちゃんのビッグプレーだな」
足は痛いし、体はボロボロなのに顔だけやたら熱い。
さっきまでの歓声も、砂の匂いも、汗の重さも、全部どこか遠くにいってしまって、頭の中に残ってるのはあの声だけ。
「無意識かもな。夢中になって考える暇もなく言葉が出たんだよ」
「無意識……」
俺はゆっくり息を吐いた。
今日、俺は二点決めた。試合にも勝ってヒーロー扱い。
でも。
「……一番嬉しいかもな」
ぽつりと呟いた声は二人にしっかり聞かれていた。
「はいはい。ごちそうさま」
「青春してんな〜」
肩を貸してもらいながら俺は校舎の前にたどり着く。扉の前で一度だけ、グラウンドの方を振り返った。
まだみんな騒いでる。まだ歓声が上がってる。その中にきっと莉子ちゃんもいる。
俺は小さく笑った。胸の奥が不思議なくらい暖かかった。
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