勝ちに行く
続きです!読んでください!
ボールが俺の足元に収まった瞬間、相手ディフェンスの空気が一変したのが分かった。
「寄せろ!」
「一枚行け!」
相手ベンチから怒鳴り声が飛ぶ。前半は存在しなかったはずの“警戒対象”が今まさにピッチに現れた。俺はワンタッチでボールを古川に預け、そのまま斜めに走り出す。古川は迷わずリターンを返してきた。
「っ、はや……!」
ディフェンダーの反応が半拍遅れる。その隙に俺は体を捻って前を向いた。
「行け!浅倉!」
後ろから味方の声。一人目をフェイントでかわす。二人目が身体を寄せてくるが足を止めずにボールだけを外へ流す。
「くっ……!」
靴が土を削る音が耳元で鳴った。
「ナイス!」
サイドから声が飛ぶ。視界の端でウイングが一気に駆け上がるのが見えた。
「使えるな……」
俺は相手を引きつけたまま、タイミングを計ってスルーパスを通す。
「うおおっ!」
味方が抜け出し、ペナルティエリアへ侵入。スタンドがどよめいた。
だが相手GKが一歩早い。
「ちっ……!」
弾かれたボールがこぼれる。
「セカンドボール!」
俺は叫びながら前に詰めた。こぼれ球をダイレクトで叩こうとした瞬間、ディフェンダーが身体ごと滑り込んでくる。俺は一瞬で判断を変え、ヒールで後ろに落とした。
「浅倉冴えてんな!!」
古川が走り込んできて、迷わずミドルを放つ。
ドンッ!重い音とともにボールがゴールへ飛ぶ。相手GKが必死に横っ飛びし、指先で弾き出した。
「っしゃあ……!」
惜しい。さっきからGK上手いな……!だが完全に流れはこっちだ。
「いいぞ!そのまま行け!」
「押せ押せ!」
ベンチからも声が飛ぶ。前線の圧力が一気に増し、相手はラインを下げざるを得なくなる。俺は相手センターバックの間に立ち、わざと視線を集める。
「マークつけ!浅倉離すな!」
相手の叫びが聞こえる。その瞬間、サイドが空いた。
「今だ!」
俺が手で合図を出す。サイドからの低く速いクロス。俺は一歩前に出た。ディフェンダーより先に身体を入れる。
「いける……!」
その瞬間だった。ガツンと乾いた衝撃が俺を襲う。
「……っ!」
俺の身体に横から強烈な圧がかかる。完全に入ったと思ったタイミングを無慈悲に潰された。
「甘いよ」
低く冷えた声。シュガ男だ。俺より半歩早く身体を入れ、完璧なブロック。ボールは俺の足元から弾き飛ばされ、そのまま相手側へ転がっていく。
「カウンター!」
一瞬の悔しさよりも先に危機感が全身を走る。相手ボランチがそのボールを拾った瞬間、視界が一気に広がった。
「上がれ上がれ!」
シュガ男の掛け声で相手チームが上がる。前がかりになっていた分、こっちは数的不利だ。
「くそっ……!」
俺はすぐに反転し、全力で走り出す。肺が一気に悲鳴を上げるがそんなのは関係ない。ボールはすでに前方にあり、相手FWがすでにトップスピードで抜けていく。
「北斗!中切れ!」
優馬の声が飛んできた。
「広くは使えない!中だけ警戒しろ!」
その言葉で一気に視界が整理される。俺は進路を少しだけ内側に修正する。相手FWのドリブルコースを消し、シュガ男へのパスラインを意識的に切る。
「ナイス!」
優馬の声が背中に飛んできた。相手FWが一瞬だけ迷う。その半拍が致命的だった。
「今だ!」
追いついた味方DFが身体を当てる。ボールが横にこぼれた。
「まだまだっ」
シュガ男がそのこぼれ球を拾う。さっきと同じ、余裕のある表情。
「視野が広いな……」
思わず舌打ちする。シュガ男はワンタッチで逆サイドへ展開。再び走らされる展開だ。
「はぁ……っ!」
息が荒くなる。足首に一瞬だけ鈍い違和感が戻る。
「まだまだいける……!」
相手がクロスを上げようとした瞬間、俺は滑り込むように足を出した。
バチッ!ボールが俺の靴に当たり、タッチライン際へ弾き出される。
「よっしゃ!!」
「ナイスカバー!!」
スタンドがどっと沸く。俺は土に手をつきながら立ち上がり、大きく息を吐いた。胸が上下する。心臓がうるさいくらいに鳴っている。
「……よし」
俺はもう一度前を向く。スローインからの再開。相手がライン際でボールを受けた瞬間、俺の背後から鋭い声が飛んだ。
「縦!」
「っしゃあ!!」
激しい当たり音と同時にボールが転がる。奪ったのは柴田だった。身体を低く沈め、完璧なタイミングでタックルを差し込んでいる。
「ナイス柴田!!」
「そのまま行け!」
柴田は一瞬も迷わない。顔を上げるなり、前線へ鋭く蹴り出した。
「咲斗!!」
ボールは一直線に走る。古川は相手ディフェンスの裏へ飛び出していた。
「来た!!」
古川のスピードが一段、跳ね上がる。追ってくるセンターバックを振り切り、完全に一対一。スタンドが一気にざわめいた。
「行けぇぇぇ!!」
「決めろ古川!!」
俺も無意識に声を張り上げていた。足が自然と前に出る。こぼれ玉に備えて俺も全力で走った。
古川はペナルティエリアに侵入。相手GKが前に出てくる。
「落ち着け……!」
古川は一瞬だけ視線をずらし、右足を振り抜いた。
キンッ!!乾いた嫌な音。
「……っ!」
ボールはゴール右ポストを直撃し、鋭く跳ね返った。
「マジかよ!!」
「惜っし!!」
スタンドが一斉に頭を抱える。古川自身も信じられないような顔で立ち止まった。だが俺は止まらなかった。跳ね返ったボールの軌道がはっきりと見えていた。
「ここだ……」
相手ディフェンダーが戻るより、GKが体勢を立て直すより、ほんの一瞬だけ早く。
「北斗詰めろ!!」
芝を蹴る音が自分でも分かるくらい大きく響く。足首の違和感なんてそんなものはもう意識の外だ。
跳ね返ったボールが俺の前に落ちる。
「……もらった」
トラップはいらない。迷いもない。右足を思い切り振り抜いた。
ズドンッ!!足に伝わる確かな感触。
視界の端でシュガ男が必死に足を伸ばすのが見えたが間に合わない。
「行け……!!」
次の瞬間――ネットが大きく揺れた。
「っっ!!!」
一拍遅れて、爆発するような歓声。
「うおおおおおおお!!!!」
「決まったぁぁぁ!!」
俺はその場で拳を握りしめ、思い切り吠えた。
「よっしゃああああ!!」
古川が真っ先に飛びついてくる。
「ナイス!浅倉!」
「よく走ったな!」
次々とチームメイトが駆け寄ってくる。背中を叩かれ、肩を掴まれ、ぐちゃぐちゃにされる。
その輪の中で俺はふと顔を上げた。スタンドの端、いつもの三人。
木南は両手を高く上げてぴょんぴょん跳ねているし、水瀬もちゃんも見て拍手してくれてる。
そして莉子ちゃんはただ俺を見ていた。
目が合った瞬間、ぱっと表情がほどける。嬉しそうに少し照れたようにそれでもはっきり分かるくらいの笑顔で、何度も頷いていた。それだけで走った疲れも足首の違和感も全部どうでもよくなった。
「っしゃ……」
思わず小さく笑ってしまう。
「何ニヤけてんだよ」
古川が肩を組んでくる。
「何でもない……」
「どうせ莉子ちゃん見てたんだろ」
「うるさい」
それでも否定はしなかった。ゴールを決めた実感がじわじわと胸の奥で熱を持つ。
相手陣地の中央にシュガ男が立っていた。目が合うと、シュガ男はほんの一瞬だけ口角を上げた。
悔しそうでもない。驚いた様子もない。「そうこなくっちゃ」そう言っているような楽しげな笑み。
「……ふっ」
俺も自然と笑っていた。負け惜しみでも油断でもない。“面白くなってきた”って顔だ。
スコアボードを見る。
《 2-2 》
同点。でも空気は明らかに変わっていた。前半の停滞感はない。相手は下がり気味でこっちは前を向いている。
「同点じゃつまんねーぞ!」
優馬からも声が飛ぶ。俺たちは拳を握りしめて前を向いた。
「分かってるよ……」
俺は定位置に戻りながら、もう一度だけスタンドを見る。あと一点。その視線がはっきりとそう言っていた。
「……よし」
俺はフィールドを見渡して息を吸った。
「勝ちに行くぞお前ら!」
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