宣戦布告
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教室の空気が一瞬で凍り付いた。
さっきまで怒号とツッコミと悲鳴でぐちゃぐちゃだった喧騒が莉子ちゃんの声ひとつで嘘みたいに静まる。
「……天城さん」
振り返るといつもの柔らかい雰囲気とは少し違う莉子ちゃんがそこにいた。まっすぐで迷いがないその瞳はシュガ男に向けられていた。
「浅倉くんと有栖は付き合ってません」
その一言ははっきりしていた。
「でも証拠が……!」
シュガ男が焦って反論しようとする。
「確かに二人はスタマに行きました。それは私も知ってます」
「ほらやっぱり――」
「でもそれにはちゃんとした事情があるのも知ってます。今から私が説明します」
莉子ちゃんはキッパリ言い切った。
「天城さん……」
莉子ちゃん……俺を守ろうとしてるのか……?
「女神……?」
「漏れてる漏れてる」
「事情なんか……!」
完全に押されてる声でシュガ男が言う。その問いに莉子ちゃんはたじろぐことなく、一歩前へ出た。
「浅倉くんと有栖は恋人として会ってたわけじゃありません」
まっすぐで少しも迷いのない声。それだけでシュガ男はびくっと肩を揺らした。
「浅倉くんはあの日の英語の授業で有栖に粗相をしました」
「粗相……?」
まあ……あれは粗相か。
「浅倉くんはそのお詫びとして有栖に奢らされていただけなんです」
莉子ちゃんが淡々と言い切った瞬間。
「ああ〜……」
「それなら……まあ……」
教室中に微妙な納得の空気が広がっていく。さっきまで浅倉有栖劇場の真っ只中だった連中が「なるほどな」と頷き始めた。
「で、でも……っ!」
唯一、その空気に取り残されたようにシュガ男だけが必死に声を張り上げた。
「でも!それでも二人でスタマに行ったのは本当なんだろ!?それってもう……そういうことじゃ――!」
「確かに!」
「それでも二人きりはずるいぞ!」
突然、シュガ男の必死さに引きずられたのか周りのクラスメイトたちもまた一斉に騒ぎ出す。
「おい浅倉!そういうの早く言えよ!」
「いつの間にそんなリア充イベントを……!」
「ちょっ……まっ……違うって!!」
一瞬で再燃する浅倉叩き。いやほんとどうやったら治るんだこいつら。
俺が必死に弁解しようとしたそのとき――
「――あの!」
澄んだ声が騒音を水平に切り裂いた。また莉子ちゃんだった。
全員が振り返る。その視線の濁流の中で莉子ちゃんはまったく怯まず、背筋を伸ばして前に出た。
「浅倉くんと有栖は二人で行ったんじゃありません!」
「……え?」
「私もいましたから!」
教室全体が一瞬で固まった。シュガ男の目が見開かれる。周囲の生徒たちもぽかんと口を開けて沈黙が落ちた。さっきまでギャーギャー言ってたやつらも一斉に呼吸を忘れる。
「……え?天城さんも?」
「三人で行ったの?」
「三人なら……デートとかじゃないのか」
どよめきが広がる。広がって空気がおとなしくなっていく。
「スタマ行ったのって……女子二人に奢らされただけってこと?」
「浅倉かわいそ……いやご褒美か……?」
「えっ待って。それただの財布では?」
もうさっきのような刺々しい空気はなかった。
「と、とにかく!」
莉子ちゃんは最後までまっすぐな声で続けた。
「三人で行っただけです。浅倉くんと有栖が付き合ってるなんて事実は一つもありません。変な噂はやめてください」
そのトドメの一言に教室の空気は収まった。
「えっ……ちょ……えーと……」
シュガ男は唇を噛んで俯き、反論の言葉を探すように震えていたが結局、何も言えなかった。
「……ありがと」
俺は莉子ちゃんの方を向いて口パクで伝える。莉子ちゃんはふふっと笑ってまた席についた。
「まあ……今回だけ許す」
古川も落ち着いてくれたみたいだ。
「はい。じゃあ佐藤帰って」
水瀬が冷たく言い放つ。まるでゴミでも追い払うみたいな温度の声。
それを受けたシュガ男はようやく退散するかと思われたが――
「……帰らない」
「…………は?」
帰れよ。シュガ男は帰るどころか今から本番見たいな顔をしている。
シュガ男はゆっくりと顔を上げニヤっと不気味に口角を吊り上げた。
「俺の本当の目的はこんなしょうもない恋愛疑惑の確認じゃない」
周囲がザワつくがシュガ男は完全に無視。その目は獲物を見据えるハンターのそれだった。
「僕は宣戦布告に来たんだ!」
「……宣戦布告?」
クラス中がポカンとする。急展開すぎるって……シュガ男は胸を張り、堂々と言い放った。
「球技大会のサッカーに僕が出る!君たちのクラスと僕たちのクラスが戦うことになったから宣戦布告をしにきたんだ!」
シュガ男が言い放つとまたクラスはざわめいた。
「恋愛話じゃなかったのか?」
「こいつ今日いろいろ詰め込みすぎだろ」
教室が完全に混乱状態へ。俺も頭抱えた。俺は何に振り回されてたのだろうか。
「俺と木南の必要だったのか……!?」
「……それを理由に決闘を挑むつもりだったんだ」
「お前も予想外なのかよ……」
「それでどうだ?戦いを面白くするために一つ僕から提案がある」
シュガ男が人差し指を立てて、クラスの注目を集めた。
「……提案?」
俺は眉をひそめる。するとシュガ男は教室中の空気を一気にかき乱す言葉をぶっ放した。
「僕たちが勝ったら有栖ちゃんと鈴香ちゃんをもらう!」
数秒の静寂。そして――
「何言ってんだお前!」「帰れ!」「こいつ追い出せ!」
男たちの怒号が飛び交う。教室が揺れている。
「私をもらう……?」
水瀬は困惑していた。
「お嫁さんってこと?」
「ふざけてる?」
「ごめん」
シュガ男のせいだぞ。
「僕は真剣だ!勝ったらうちのクラスに入ってもらう!」
「出来んのか……?」
「普通に無理でしょ」
周囲にツッコまれてもシュガ男はまったくブレない。
「やれることをやるんだよ!実際に入れるかどうかは問題じゃない!」
「それでいいの?」
「こいつバカなんだ」
イケメンのバカにそろそろみんなが呆れてきた頃。ガラガラっと教室のドアが開いた。
「はーい。授業やるぞー」
気づけば授業開始まで残り30秒。もう先生がやってきて、教卓で準備をし始めていた。シュガ男はそれを見て教室全体を睨みつけた後、最後に堂々と言い放った。
「覚悟しておけ1組!僕が全員倒す!約束は守ってもらうからな!」
「勝手に決めんな!」
「早く帰れ!」
怒号の嵐のなかシュガ男は満足気にニヤリと笑い、女子に手を振りながら教室を去っていった。
扉が閉まった瞬間、教室には深い深いため息が落ちた。
「……なんだったんだあいつ」
クラスの全員がシュガ男の存在を疑問に思いながら、席に着き始めるのだった。
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