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松葉杖卒業

続きです!読んでください!

「松葉杖脱却!!」

五月も中盤に差し掛かり、松葉杖生活を二週間味わった俺は教室の後ろで大きくガッツポーズをした。


昨日、医者に松葉杖解除の許可をもらったのだ。まだ足は痛むが、松葉杖を使うほどでもない。もう激しい運動以外はできるところまで回復していた。人間の体ってすごーい。


「なんか物足りねえな」

「松葉杖楽しかったのに」

「アンデンティティが……」

「お前らな……!」

俺を囲む古川、柴田、藤本の三人は俺の松葉杖脱却を望んでいなかったようだ。


「ははっ。嘘嘘。松葉杖取れてよかったよ」

柴田が笑って肩を叩いた。隣の古川は嘘って顔してないんだけど。


「まあお前らにも迷惑かけたな。二週間世話になったよ」

1番辛かったのは周りに気を遣わせてたことだ。階段を登る時とか、俺待ちになってるのがちょっと申し訳なかった。


「いいよ別に。なぁ?」

柴田がそう二人に問いかけると


「もちろん。持ちつ持たれつだからな」

藤本がいつもの調子で返し、


「よゆーってかんじ」

古川は適当に答えた。こいつは何なんだ?


「でもまだ走れはしないんだろ?あと二週間で間に合うか?」

「まあなんとかなるっしょ。俺は出る気満々だし」

そう。松葉杖が取れてやる気に満ち溢れていることが一個。それは球技大会のサッカー。松葉杖は予定より早く取れた。俺の脅威的回復スピードをもっててすれば二週間後に走りまくってることも想像できなくはないところまで来ていた。


「まあ出たとしても人気は俺がぶんどるけどな」

根拠のない自信を掲げる古川。


「取るのは人気じゃなくて笑いだろ。球技無理なんだから笑われて終わりだよ」

「はぁ?なんだとお前!」

「咲斗が可哀想だから教えてやってんだよ!」

古川と柴田の語気がどんどん強くなっていく。


「おい……お前ら?」

俺の松葉杖取れた発表会を潰すつもりか……?


「はぁ?なんだとお前!」

「事実だろ!お前の運動神経は中の下。いや……下の上レベルなんだよ!」

二人の額と額がぶつかりそうなくらい近づく。周りの空気がジリジリっと熱くなる。藤本はすかさず腕を組んで一歩下がった。


「はいはい始まりました」

俺が止める前に古川が机をガンッと鳴らす。


「おい陸也。今の撤回しろよ」

「事実を言って何が悪い?お前、去年の球技大会さ──」

柴田が何かを言おうとした瞬間。


「言うなぁぁぁぁ!!」

古川が大声で遮り、柴田の胸倉に手を伸ばした。


「ちょっお前ら!やめ──」

言い終わる前に二人は本当に掴み合いを始めていた。


「……また始まったよ、あの二人」

藤本がため息をつく。二人は教室の後ろで取っ組み合いをしている。クラスの奴らがザワザワしながらそれを見ているが、当の本人たちは全く気にしていない。


「サッカーの話してたのに何でこうなるんだよ……」

「知らん。あいつらは会話が戦闘なんだよ」

俺と藤本が呆れている間にも――


「咲斗が可哀想だから言ってんの!お前は出た途端コケる未来しか見えねえ!」

「うるせえ!俺はお前みたいな凡人とは違うんだよ!!」


「もう止めんの無理だな」

「だな……」

「はい解散解散。松葉杖卒業式を邪魔すんな」

俺は二人の肩を軽く押して、荒れる空気の中に席へ戻った。


「まだ終わらねえよ……!?」

「決着つけようぜ!」

席に戻る背中越しにまた喧嘩が始まる。もう俺はもう無視した。


足をかばいながら自分の席へ向かうとすでにそこには別の世界が展開されていた。


「え、それでさ。先生が急に……」

「ふふ。あの先生よく分からないところで怒るもんね」

近くの席で水瀬と莉子ちゃんが向かい合って楽しそうに話していた。

水瀬は長い黒髪を指でいじりながら小さく笑う。クールに見えて仲良くなるとあの笑顔を見せてくれるギャップがすごい。


莉子ちゃんは……もう普通にかわいすぎる。

一生懸命話すし、一生懸命聞くから表情がころころ変わって見てるこっちが楽しくなる。


俺の席って天国だったんだ。


「あ。浅倉くん」

最初に気づいたのは莉子ちゃんだった。ぱっと顔を上げて笑顔を向けてくる。その瞬間、記憶が飛びそうになった。


「松葉杖取れたんだね。よかった〜」

莉子ちゃんは安心した表情でそう言った。


「ありがと。天城さんにはいろいろ助けられたよ」

「ううん。普通のことしただけだよ」

幸せってこういうこと。


「ほんとだ。もうちょっと長くてもよかったけどな……」

水瀬がぼそっと呟いた。


「えぇ……!?」

水瀬もそっち側……?


「嘘嘘。よかったね」

「ビビるから……水瀬もありがとう」

俺がそう言うと、水瀬は口角を少しあげて笑った。


「でもまだ治ってはないんだよね?」

莉子ちゃんが足を見て呟く。


「そうだね……走るとかはきついかな」

「そっか〜。じゃあ……球技大会は厳しいのかな」

莉子ちゃんは少し寂しそうに俯いた。


「…………」

水瀬の視線を感じる。「莉子にこんな顔させんな」っていう眼差し。

こうなったら俺の言うセリフは一つ。


「出るよ。フルは厳しいけど絶対出るから……天城さん見にきてよ」

「……えっ」

俯いていた莉子ちゃんの顔がゆっくりと上がる。ぱちぱちっと瞬きをして少しだけ頬が赤くなった。


「……うん。見に行く。絶対行くよ」

その声はいつもの明るさより少し静かで、でもどこか胸に響くような優しい音だった。


「が、頑張らなきゃな……俺」

自分で言っておいて心臓がバクバクしている。


「ふーん……」

横から水瀬の視線を感じる。「まあ及第点かな」みたいな顔をしている。そんな空気を感じ取りつつ、話題は自然と球技大会のサッカーに戻る。


「松葉杖に逆戻りになるかもね〜」

水瀬がくすっと笑う。完全に揶揄ってる声色だ。


「フラグ立てんなよ……」

俺は眉を寄せながら返した。


「ふふっ」

莉子ちゃんが小さく笑った。でもそのあとほんの少しだけ眉尻を下げる。


「でもほんとに無理はしないでね」

「大丈夫大丈夫。松葉杖は嫌だし出られるところだけ出るからさ」

「でも浅倉くん頑張りすぎるから……」

「あら。見抜かれてる」

水瀬が意地悪く笑う。


「本当にしないよ……」

「莉子を不安にさせたら私が容赦しないから」

水瀬はさらっと物騒なことを言う。


「怖いって……」

「怖くて結構」

水瀬のさらりとした圧がすごい。けどその後、小さく付け足した。


「……まあ出るならそれはそれで楽しみにしてるけど」

水瀬はボソッと呟いた。水瀬ってツンデレだよな……そんなことを思っていると、後ろから声が聞こえた。


「浅倉が出れたら熱いよな〜」

いつの間にか後ろから柴田の声。


「あれ?」

「俺もサッカーやってたし、二人でツートップだな」

そう言って柴田は肩を組んできた。


「喧嘩は終わったのか?」

「勝負ついた」

「……鈴香ちゃん……癒してください」

後から来た古川の額にはなぜか赤い線が一本ついている。


「無理〜」

「柴田が勝ったんだな……」

「そう」「まだ決着はついてねえ!」

「「はぁ?」」

もういいって……そんなくだらないやり取りをしていると――


ガラッ!!教室の扉が勢いよく開いた。


「……ん?」

「誰?」

周囲がざわつき始める。


「ねぇねぇ……あれって」

「そうだよね……!」

特に女子が騒いでる気がする。莉子ちゃんはそうでもないけど。


振り返ると、入ってきたのは見覚えのない男子だった。

他クラスのやつだ。長身で整った顔立ち。黒髪を無造作にかき上げながら歩いてくる姿は絵に描いたようなイケメンだった。


長身のイケメンは教室中の視線を集めながらまっすぐこちらへ向かってきた。


「……誰だあいつ?」

「めちゃくちゃ顔いい……」

「え、モデル?」

ざわめきが広がる中、そのイケメンはずっと何かを探すみたいにキョロキョロしていた。


なんか……雰囲気が不穏なんだけど。


するとその視線が突然ピタッと俺に止まった。

そのイケメンはゆっくりと近づいてきて机を一つずつ避けながら俺の真正面まで来た。


教室が静まり返る。そしてイケメンはなぜか俺の肩に手を置いて言った。


「みーつけた」

「え……?」

俺は知らないところでこのイケメンに目をつけられてしまったようだ。

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