恋をしよう!
なかなか投稿できなくてすみません!気長に待ってくださると嬉しいです!
「昨日のお兄ちゃんを見て……やっぱり恋っていいなって思いました」
その言葉で心臓が一度ドクンと大きく跳ねた。桜ちゃんは俺を見るんじゃなくて、膝の上の指先を見つめて続けた。
「好きな人のことを思って……その人のために頑張るのって……すごく素敵だって」
そこまで言うと桜ちゃんは俯いたまま、ほんの少しだけ横目で俺のほうを見た。その視線から俺が目を逸らしてしまう。息を吸うタイミングすら分からない。
桜ちゃんはまたちょっとだけ震える声で続ける。
「だから……私もちゃんと……言おうって思ったんです」
「……え?」
桜ちゃんはゆっくり顔を上げた。その大きな瞳がさっきまでよりずっと強くまっすぐ俺を捉えた。
「私も恋をしようと思います」
桜ちゃんの言葉が春の空気よりもずっと鮮明に俺の胸に落ちてきた。
「……恋を?」
桜ちゃんはコクンと小さく頷いた。
「はい。昨日、お兄ちゃんを見て……誰かを大切に思うってこんなに素敵なんだって思って……」
視線は揺れているのにその言葉だけはとても真っ直ぐだった。
「だから私も……誰かのことをちゃんと好きになりたいって……そう思ったんです」
なんでだろう。ただそれだけの言葉なのに胸の奥が熱くなった。
なんか……このマインドは俺に似てるのかも。桜ちゃんは少し震えた声で言葉を継いだ。
「……北斗くんはどう思いますか?」
「え、いや……どうって……」
言いながら自分でも情けないくらい言葉が弱くなる。桜ちゃんはただまっすぐ俺を見ていた。その瞳には変な期待も変な遠慮もなくて、本当に答えだけを求めているように見えた。
「……いいと思うよ。すごくいいことだと思う。誰かを大切にしようって思えるのってなんか……すごく素敵だしさ」
桜ちゃんの顔がぱっと明るくなった。
「……ですよねっ!」
まるで胸の奥で灯りが点ったみたいに一気に華やぐ笑顔だった。さっきまで震えていた肩まですっと軽く見える。
「よかった……!北斗くんがそう言ってくれるなら自信つきます。恋をします!」
「応援するよ……」
そう言った俺の返事に桜ちゃんは「ありがとうございますっ」と小さく跳ねるように頷いた。その笑顔はほんの少し眩しくてけどどこかあどけなかった。
⭐︎
二十分後。俺は桜ちゃんが作ってくれた弁当を食べ終わった。
この量なら五分で食べれたはずなのに桜ちゃんがまじまじと俺を見るものだから、なんか緊張して遅くなってしまった。
「ありがとね。おいしかった」
そう言って俺は桜ちゃんに弁当箱を返した。
「……よかったです」
桜ちゃんは少し俯きながら受け取った。
「じゃあ……戻ろっか」
俺はベンチに立てかけた松葉杖を取って立ち上がった。
「……あ、あのっ!」
立ち上がった俺の横で桜ちゃんは座ったまま声を上げて、俺の制服の袖をそっとつまんだ。
「ど、どうしたの?」
振り返ると桜ちゃんはどこかためらいが混じった控えめな表情をしていた。
「えっと……」
指先でスカートの裾をきゅっとつまみながら、桜ちゃんは俺の顔を上目で見上げた。
「その……ほんとにめんどくさかったり、迷惑だったりしたら本当に断ってくれて大丈夫なんですけど――」
自信のなさすぎる前置きになぜかこっちがドキドキしてしまう。そして桜ちゃんは言った。
「週に一回……私がお弁当作るので……一緒に食べてくれませんか……!」
その言葉は誰もいない屋上に響いた。
「え……?」
ポカンとした声が出る。桜ちゃんは慌てて首を横に振った。
「無理ならほんとに大丈夫です!北斗くんも忙しいと思いますし……!」
「ちょちょ……待って。そういうことじゃなくて……」
やっと状況を理解してきた俺。でも理解すればするほど桜ちゃんの提案が心をかき乱す。
「俺は全然大丈夫なんだけど……桜ちゃんが大丈夫……?」
「え……いいんですか?」
俺の質問聞いてないな。
「俺は全然……」
俺はただ作ってもらった昼飯食べるだけだもんね?何もすることないよね?
「じゃあ作ってきます……!週に一回、屋上でお弁当一緒に……」
桜ちゃんがそう言った瞬間に俺は震えた。改めて言葉で整理された事実に俺は気づく。
「……あれ?」
これって……カップルとかがやることでは?
ていうか俺と桜ちゃんっていつの間にこんな距離近くなったんだ?
莉子ちゃんを忘れるな……俺が好きなのは莉子ちゃん。俺が好きなのは莉子ちゃん……!こんなことが許されては――
「どうかしました?やっぱり迷惑でしたか……?」
不安そうに見上げる桜ちゃんの目を見てしまうと、俺はもう否定できない。
「全然。むしろありがとう」
ダメだ。俺が俺のいうこと聞いてくれない。
「ふふ……じゃあ作ってきますね。日にちはまた連絡します」
そう微笑みながら桜ちゃんは立ち上がった。
「じゃあ……行きましょっか」
桜ちゃんはにやわらかい笑顔で言った。その表情が眩しくて俺は反射的に視線を落とした。
「う、うん……」
松葉杖をつきながら歩き出すと、桜ちゃんは半歩だけ前を歩いていた。
……なんだこれ。微妙に距離が近い。会話してなくても胸が落ち着かない。
二人の関係の主導権を桜ちゃんに握られてしまった気がする。
「歩くの大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ」
「ゆっくり行きましょうね」
「……うん」
桜ちゃんが半歩下がって並んで歩く。それなのに心臓の音だけやたらとうるさい。桜ちゃんがふと小さな声でささやく。
「……次も楽しみにしててください」
その笑顔を見てしまってまた視線を落とす。胸のざわつきは結局ひとつも消えなかったままだった。
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