眩しい人
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ゴールデンウィーク開け一発目の授業は体育だった。
「今日から球技大会の練習だから各自自分の出る種目の練習しとけよ〜!」
体育館に集まった俺たちに体育教師の声が響く。
もちろん俺は見学だ。松葉杖でサッカーとかできるわけない。
グラウンドの端に置かれたパイプ椅子に座って、クラスメイトたちの準備運動を眺めていた。
「やっぱ厳しいかな……」
左足を押さえながら呟く。体育大会まであと3週間ほど。松葉杖は取れるけど走り回れるかと言ったらそれはまだ分からない。
『浅倉くんのサッカー見たかったなぁ……』
保健室で莉子ちゃんに言われたことを思い出す。
「莉子ちゃんに見せたかったなぁ……」
「何を?」
「うわぁぁ!!!」
驚きすぎてパイプ椅子から転げ落ちそうになった。声の方を見ると、すぐ真横の地面に水瀬が三角座りで座っていた。
さっきまでいなかったよな!?気配ゼロかよ……
「驚かすなよ……危な」
水瀬でよかったぁ……!
「浅倉がでっかい独り言言ってたのが悪いでしょ」
水瀬の口角が少しだけ上がってる。
「いつからそこにいたの?」
「さっき。女子も球技大会の練習だから来たの。で?莉子ちゃんに何を見せたいんですか?」
「揶揄うなよ……」
「いーじゃん。教えてよ」
水瀬はパイプ椅子に座る俺を見上げる。目を合わせてしまえばもう俺に力はない。
「怪我で球技大会厳しいからな……。莉子ちゃんがサッカー見たいって言ってくれたから俺もサッカー見せたいって思ってただけ」
俺は小声で言った。水瀬は両ひざを抱えたまま、わざとらしく「ふ〜ん」と鼻を鳴らした。
「莉子のこと好きだね〜」
「やめろよ……」
「見せてあげなよ。気合いで走れ」
「無茶言うな……」
俺がそう返すと、水瀬は笑いながら立ち上がった。ぞろぞろと女子組が集まってくる。
「鈴香ちゃーん!早く準備しよ!」
「ごめん今行く〜」
女子たちの呼ぶ声に水瀬は軽く手を振って返事をする。そのまま走って行くのかと思ったらこっちを振り返った。
「浅倉」
たった一言呼ばれただけで変に背筋が伸びる。
「諦めんなよっ」
そう言うと水瀬は踵を返して女子のほうへ走っていった。
「……諦めてねえし」
小さく呟いた。水瀬はもう女子たちの中に混ざって、いつもの調子で喋っていた。
その中には莉子ちゃんもいる。莉子ちゃんの姿を見つけた瞬間、胸がぎゅっと掴まれたみたいになった。莉子ちゃんを思うと足の痛みも薄れていく気がした。
「浅倉ー!ボールとって!」
男子のひとりが声を張り上げた。見ると、俺の足元に転がってきたボールを指差している。ゆっくりと立ち上がり、ボールを持ちあげる。
「……よし」
俺は一つ息をついてからボールを手で転がした。
3週間後。俺は試合に出る。最後の5分でいい。5分でいいから莉子ちゃんに見せたい。俺はボールを蹴る莉子ちゃんを見ながらそう決意した。
⭐︎
その日の昼休み。俺はいつものメンツといつもと場所で昼飯を食っていた。
「球技大会で活躍したら彼女が出来るのでは?」
古川がいつもの調子で呟く。
「そんな簡単じゃねえだろ」
柴田がいつも通り軽く返す。
「いや意外とあるだろ。スポーツできる男子はモテんの」
「帰宅部がなんか言ってら」
「地の運動神経はいいから」
古川の真顔に思わず笑ってしまう。地頭みたいなこと?
そんなやり取りを横で聞きながら、俺はさっきの水瀬の言葉を思い返していた。
『諦めんなよっ』
ただの揶揄い混じりの励ましなのに残っている。
「浅倉は出んの?」
柴田に聞かれ、俺は少しだけ考えてから答えた。
「出たいけどな〜」
「お、やる気じゃん」
「莉子ちゃん効果だな」
古川がニヤニヤしながら言う。思わず弁当の箸が止まった。
「いやまあ……」
否定はしなかった。できなかったが正しいか。
「俺も有栖ちゃんと鈴香ちゃんのために頑張るかな〜」
「二人はお前のこと見てないよ」
「なんだと!?」
そこで古川が柴田に飛びかかる。
「まただ……」
藤本が俺の隣で呟く。
「まだ分かんねえだろ!」
「見ねえよ!二人からの印象低いからな!」
「貴様!!」
二人はどんどん揉みくちゃになっていく。
「止めてください。藤本さん」
「仕方ないなあ……」
藤本のでかい体が二人の間に入る。両手で頭を押さえると二人の勢いは完全に死んだ。
「強いな……」
やっぱり藤本には敵わない。
⭐︎
色々ありながらも昼飯を食べ終わった俺たちは中庭から教室に戻るために廊下を歩いていた。昼休みの終わりはまだ少し先なのに、学校の廊下ってなんで静かなんだろう。
「……あっ!有栖ちゃんと鈴香ちゃんがいるじゃん!」
古川の声が静かな廊下に響いた。
木南と水瀬は少し先で笑いながら話していて、古川の声に気づいてこっちを見る。目が合った瞬間、古川は反射で走り出した。
「行くな咲斗……!」
柴田の制止虚しく、古川は一直線に突っ込んでいく。そして案の定、水瀬の鋭い視線が刺さった。
「なに?」
「えっと、その……二人笑顔が今日も綺麗で……」
気まずい空間が生まれる。
「藤本任せた……俺はもう疲れたわ」
柴田は全てを放り投げるように言い残し、気怠そうに息をついた。
「はいはい。俺の担当ね」
藤本は文句一つ言わずに古川の元に走っていく。
藤本が古川の元につき、廊下で騒いでる古川の声が小さくなっていく。藤本が古川の首を掴んで取り押さえているのが見える。
「はぁ……バカだなほんと」
柴田が俺の隣で呟く。柴田と二人きりになった俺の頭にはもちろん今日の放課後のことが浮かぶ。
「なあ柴田」
「ん?」
俺は少し歩幅を落として、隣の柴田を見た。
「柴田は……球技大会でアピールしたい人とかいないの?」
柴田は一瞬だけ眉を上げた。そのまま少しだけ黙り込む。
「……なんだよ急に」
「いや。柴田の恋愛の話とか聞いたことないなーって思って……」
悪手だったか……?聞く必要なかったかな……
「俺の恋愛なんてつまんねえよ」
あっさりした声だった。柴田はそれだけ言うと、前を向いたまま歩き続けた。でもその声にはどこか重さがあった。
「つまんないってなんだよ」
俺が笑い混じりに言うと、柴田はポケットに突っ込んだ手を少し揺らした。
「別にいないわけじゃねえけどさ」
「……そうなんだ」
やっぱり……羽衣さんは彼女なのか……?
「恋愛ってむずいよな。浅倉のこと本当はすげえって思ってんだよ」
「え?」
意外な言葉に足が止まりそうになった。
「好きな子のために真っ直ぐなの俺にはちょっと眩しい」
「そんなこと……」
そう言う柴田の顔はどこか遠くを見ているようだった。
「……眩しくなんかないよ。泥臭いくらい」
「それが眩しいって言ってんだよ」
柴田は笑った。でもその笑いはどこか寂しさを含んでいた。
やっぱり何かあるんだな。桜ちゃんはただ純粋な興味だけで言ってるんじゃないんだ。近くで見ているからこそ何か感じるものがあるのかもしれない。
「……とんでもなく眩しい人を追ってるから俺も眩しく見えるのかな」
俺がそう言うと、柴田は一度だけ立ち止まった。
「やっぱいいな。浅倉」
「……何それ」
取り残された言葉を俺は飲み込んで追いかけた。
廊下の先で藤本に捕まってる古川の情けない声が聞こえてくる。
いつもの日常のはずなのに、さっきの一瞬だけ色が違った気がした。
「行こうぜ。もう昼休み終わる」
「……おう」
俺は胸の奥をぎゅっと握られたように感じながら歩く。放課後のことを考えると、心臓が少しだけ速くなった。
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