莉子ちゃん一筋
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俺は優馬をリビングまで引きずるようにして連れて行った。ソファに座らせると、優馬はまだ放心していた。
「説明しろ……」
優馬の絞り出すような声にはいろんなものが詰まっていた。
「はぁ……あの子は――」
仕方なく俺は経緯を話すことになった。桜ちゃんが柴田の妹で、兄貴の彼女が気になっていて、明日ちょっと様子を見に行くだけで――という事情をできる限り誤解されないよう言葉を選びながら。
「――こんな感じ?」
話終わると優馬はしばらく無言だった。目はどこか遠くを見つめている。そして数秒後、ゆっくりと口を開いた。
「……お前さ。チキンのくせに運いいよな」
そこかよ。
「いや別に望んだわけじゃないし……」
「いやいや。でもあんなかわいい子と二人でいるってえぐいから」
「俺だってそう思ってるよ……」
優馬は頭を抱えた。ようやく現実を飲み込み始めたらしい。
「てか……あの子、お前のこと好きだろ」
「いやいやいやいやいや」
反射で否定する。
「北斗くん呼びだぞ?距離近すぎだろ」
「それにも理由があるんだよ……」
俺は息をついた。
「しかも桜ちゃんは俺に好きな人がいることわかってるし」
「それは……厳しい恋だな」
「だから恋してねえから……!」
そう言った俺の声は我ながら必死すぎた。優馬はジト目で俺をじっくり見る。なんかこいつのそういう観察力だけは無駄に鋭い。
「で?行くんだろ?明日」
「まあ行くって言っちゃったし」
「だよな。じゃあ決まりだ」
「決まりって?」
「俺も行く」
優馬は当然のように言った。
「来んな!ややこしいことになるから!」
「ややこしいってのはもう既定路線だろ」
それはそう。
「俺も行ったほうがいい。柴田は俺の友達でもあるしな。松葉杖のお前と女の子の桜ちゃん。機動力がねえから俺がそれを担当してやるよ」
「機動力別に必要ないけど……」
俺が呆れて言うと、優馬は当然のように胸を張った。
「現場に突入するならフットワークは大事だろ」
「突入しねえから!」
こいつはいつも余計な方向にやる気出すんだよな。
「とにかく俺も行く。待っとけよ」
「はいはい……」
まあ一人増えたところで同じかな……。
「よろしく〜」
優馬はテーブルに置いてあったリモコンを拾って、テレビをつけた。
「てかさ」
優馬はチャンネルを適当に回しながら言う。
「お前は桜ちゃんのことどう思ってんの?」
「え?」
「ちょっと好きとかある?」
優馬は冗談じゃなくて真剣に聞いてるようだった。
「ないない。そんなのないよ」
即答した。
「俺は莉子ちゃん一筋。桜ちゃんは頼ってくれるから応えてるだけだって。桜ちゃん側もそんなのはないよ」
「そ?まあなんでもいいけど」
そう言う優馬の顔は少し安心したようにも見えた。
「はぁ……もう終わりか。ゴールデンウィーク」
俺は深くため息をつき、背もたれに体を預ける。
「お前のクラスで文句言うな」
「それはそうだな……」
俺たちは普段の会話に戻っていく。
明日からまた学校が始まる。莉子ちゃんに会えることを想像するとやっぱり胸の奥が熱くなる。
「……明日か」
俺はそう呟いて、ソファに寝転がった。
⭐︎
次の日。ゴールデンウィークが終わった。
兄ちゃんと姉ちゃんは昨日の夜に帰った。
最終日に家族で外食に行く予定が、なぜか優馬を交えて六人で行くことになったのは完全に予定外だったがまあ、結果楽しかったからいいか。次に二人に会えるのはおそらくお盆だろう。兄ちゃんと姉ちゃんは別れ際に言葉を残していった。
兄ちゃんが車の前で俺の肩をぽんと叩いた。
『北斗。恋から逃げんなよ』
不意打ちすぎて反応が遅れた。
『はぁ……?何の話だよ!』
即座に言い返したけど、兄ちゃんはニヤッとしただけですぐに運転席に座った。
そして続くように姉ちゃんも俺の前に立った。そして姉ちゃんも真面目な表情で言った。
『北斗。付き合う前にお姉ちゃんに紹介してね』
『真剣に何言ってんだよ……』
俺が呆れて返すと、姉ちゃんは俺の頭を二回ポンポンと叩いてから笑って手を振った。
『子供扱いすんな……』
自分より小さい姉ちゃんなのにその背中は大きく見えた。やっぱりいつまで経っても俺はあの二人の弟なんだろう。
『じゃーね!北斗!』
姉ちゃんが兄ちゃんの車の助手席から顔を出した。兄ちゃんも手だけ出して手を振る。
『まあいつでも帰ってこいよ』
『あははっ。お母さんじゃん!』
そこで車は出発する。そこには姉ちゃんの笑い声だけが残った。
車が角を曲がって見えなくなるまで、俺は玄関先で立ち尽くしていた。
――そして今に至る。
昨日の雨は去って、今日は快晴だった。兄ちゃんと姉ちゃんがいないから今日は松葉杖をつきながら学校へ向かう。
「慣れてきたな……」
我ながら松葉杖が上手くなってきた気がする。でも怪我自体は治らないけどあと一週間くらいで松葉杖は終わるらしい。そっちの方がいいけどね。
ゴールデンウィーク前とは世界が少しだけ違って見える。学校までの道は思った以上に静かで、空気が軽かった。
「さて……」
信号を渡ったところで、ようやく気持ちが切り替わる。
今日からいつもの学校生活が戻ってくる。教室には莉子ちゃんがいる。桜ちゃんとも会う。考えるだけで胸が重くなったり、でも少しだけざわついたりする。
曲がり角の先に学校の正門が見えた。
青い空にいつもの校舎。変わらない景色のはずなのに、どこか違う一日の始まりみたいで。
「よし」
俺は松葉杖をぐっと前へ突き出して歩き出す。その時だった。
「浅倉くん!」
後ろから名前を呼ばれた。そのかわいい声は聞き間違えようがない。
振り返ると、息を切らせながら莉子ちゃんが走ってきていた。
朝の光が制服の紺色を少しだけ明るく見せていて、髪が揺れて、なんか漫画のワンシーンみたいにキラキラして見える。
「え……」
もしかして俺を見つけたから走ってきたのか……?息を弾ませた莉子ちゃんが真っ直ぐこっちに駆けてくる。
やばいやばい。走る莉子ちゃんかわいい。走り方かわいい。やばい。
「お、おはよう!」
俺は思わず笑顔になって変に声が上ずってしまう。あんな勢いで来られたら期待するだろ……!
……でも。
「おはよー!」
莉子ちゃんは走りながら満面の笑みで挨拶をしたそのまま――俺の横をすっと通り過ぎた。
「……え?」
思考が止まる。そのまま数歩先でくるっと振り返った莉子ちゃんが笑いながら言った。
「今日、日直なの!ごめんね!」
そう言って手を振って、校舎の方へ小走りに行ってしまう。
「あっ……なるほどぉ」
俺はその背中をただ見送るだけだった。
「まぁ……そんな上手くいきませんよね」
そう呟きはしたが、恥ずかしすぎて顔が真っ赤になってると思う。
気にするな落ち着け。朝から莉子ちゃんと挨拶を交わせただけ最高だろ……?
「よし……」
松葉杖をつき直し、ぐっと前へ踏み出す。莉子ちゃんと何を話すかを考えながら。
浅倉からしたら優馬と古川たちでは結構仲良い度に差があります。
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