明るい声
続きです!読んでください!
俺のキャラがジリジリと距離を詰めると、兄ちゃんのキャラも斧を肩にのせたまま前へ歩み寄ってくる。それだけなのに空気が重くて圧を感じる。
「行くぞ。北斗」
低い声と同時に、兄ちゃんのキャラが一気に踏み込んだ。
「速っ……!」
斧キャラとは思えない突進速度。俺は反応してステップで横に逃げようとした、その瞬間。
兄ちゃんは突進をキャンセルして、斜め下に“空振り”を入れた。
「え……?」
空振り硬直を利用したフェイントキャンセル加速。昔から兄ちゃんが意味不明にうまかった小技。
その一瞬の加速で、兄ちゃんのキャラが俺の視界からいなくなる。
「っ!!」
気づいた時には、もう真後にいた。
「ほらよ」
兄ちゃんの低い声と同時に斧が後ろからぶん回される。
ゴンッ!!俺のキャラが吹っ飛び、画面端まで滑るように転がった。
「え!?なんで今の当たるの!?」
姉ちゃんの叫びが響く。
「くそ……」
俺は歯を食いしばりながらスティックを握り直す。
画面を見ると、兄ちゃんのキャラは斧を担いだまま追撃の体勢。
「起き攻め来る……!」
慌ててガード入力する。だが、兄ちゃんは予想外の動きを見せた。
兄ちゃんは高く跳んだ……と思ったのに、空中でなにもしてこない。
「……様子見?」
攻撃するかフェイントか、わからないまま時間が伸びる。
「着地攻めか……!」
ガードを固めようとした瞬間、兄ちゃんのキャラが空中から急降下してきた。
だがその攻撃もフェイントだった。
地面すれすれで急降下をキャンセルして、着地と同時に横へ滑るように移動。
「読まれてる……」
気づけば、また俺の正面を外す形で位置を取られていた。
「そろそろいい?」
兄ちゃんの声と同時に、斧が低い軌道で横からえぐるように振られる。
「くそ……っ!」
俺はギリギリ前方ダッシュで回避した。爪先に斧の風圧がかする。
「ナイスっ!北斗まだいける!」
姉ちゃんの声が背中を押す。そのまま俺は兄ちゃんの後ろに回り込み、反撃を叩き込んだ。
「よいしょ!」
軽い蹴りが兄ちゃんのキャラの背中に入り、そこから怒涛の連打へ繋げる。
「当たる当たる当たる!!」
小技の連撃が兄ちゃんのキャラを押し下げるようにヒットする。
地上連打からの打ち上げ。空中追撃。壁際まで追い詰めて、締めの回し蹴り。兄ちゃんのキャラが壁に叩きつけられ、体力ゲージがごっそり消し飛ぶ。
「……行けぇえ!!」
コンボのフィニッシュに上段回し蹴りを放った。蹴りが兄ちゃんのキャラのアゴを跳ね上げる。
「惜しい!あとちょい!あと一発!」
姉ちゃんがぬいぐるみ抱えたまま叫ぶ。
このまま決める。勝てるぞ……!
「らああ!!」
最後の一撃を叩き込もうと踏み込んだ、その瞬間。
俺の踏み込みに合わせて兄ちゃんのキャラの斧が、まるで待っていたかのようにこちらに向いた。
「なんで……!?」
斧の刃が俺の拳に触れた瞬間、画面がピカッと光った。
「ま、焦りすぎだな」
兄ちゃんが低く笑う。
やばい。確定する。斧が地をえぐるほどの勢いで振り上げられた。
ドガァッ!!俺のキャラが空中へ吹っ飛ぶ。兄ちゃんはそのままジャンプで追いかけ——
一撃。二撃。三撃。重い斧の連打が空中で叩き込まれる。
「落ちんな落ちんな……っ!」
祈るようにスティックを握るが、どうしようもない。斧の最終段が振りかぶられ、軌跡を残して回転する。
「終わり」
兄ちゃんのキャラが振り下ろす。
ズドンッ!!
俺のキャラは地面に叩きつけられ、画面が白くフラッシュした。そして――
"KO!!"
派手な文字が画面中央に浮かび上がる。
俺のキャラは倒れたまま動かない。兄ちゃんのキャラは斧を肩に担いで立ち尽くしていた。
「……っくそぉ……!またこれかよ……」
悔しさで歯を食いしばり、項垂れる俺。対戦中は足の痛みすら忘れていた。
兄ちゃんはスティックを置きながら、当然みたいな顔で言った。
「相変わらず最後の詰めが甘いな。北斗」
「ぐ……」
言い返したいのに、悔しさで喉が詰まる。
兄ちゃんは俺の方を見るでもなく、画面の勝利演出をぼんやり眺めながら続けた。
「悪くなかったけどな。中盤の拾いは昔より上手くなってんじゃねえの?」
さらっと言う兄ちゃんに余計に腹が立つ。でも同時にほんの少しだけ嬉しいのが悔しい。
「北斗〜!今のマジで惜しかったね!」
姉ちゃんがバタバタと俺の横に立って、ぬいぐるみを揺らしながら興奮してる。
「負けたら意味ねえし……」
姉ちゃんの励ましに、俺は俯いたままぼそっと返す。
「……泣くなよ?」
兄ちゃんは片手でスティックをくるくる回しながら、ふっと鼻で笑った。
「泣いてねえし!!」
食い気味に怒鳴った自分の声がゲーセンの騒音に負けないほど響く。
兄ちゃんは肩をすくめて、挑発みたいに続けて言った。
「泣きそうなツラで負けたら意味ねえとか言うからだろ。ほら。もう一回やんのか?」
「当たり前だろ!!次は勝つ!!」
「はは。負けず嫌いは相変わらずだな、北斗」
兄ちゃんが笑うとなんか余計にムカつくのに、同時に血が熱くなる。
この勝負はまだ終わってない。
「私もやりたい!!」
姉ちゃんが手を挙げてバタバタし始める。
「ちょっ……姉ちゃんは待ってろよ!今は兄ちゃんとバチバチなんだから!」
「じゃあ次私ね!てか私、お兄ちゃんの斧キャラ使いたい!」
「無理無理。絶対めちゃくちゃになる」
筐体の前が一気にわちゃわちゃし始め、後ろを通るキッズたちが「大人もゲームやるんだね〜」とか「あの人たち強そう!」とかひそひそ言いながら通り過ぎる。
そんな中、俺が再戦用に硬貨を取り出そうとしたそのとき。背後からパーンと明るい声が響いた。
「浅倉くん!?」
「え……?」
名前を呼ばれ首だけ振り返ると、そこには――
「木南!?」
あまりの突然に心臓が跳ねた。振り向くと、そこには満面の笑みの木南有栖が手を振りながら走ってきていた。
「やっぱり浅倉くんだ!」
木南はポシェット揺らしながら、全速力で俺の前に滑り込むように止まった。
「ちょっ……木南まじか」
俺は静かに焦る。木南の出現なんて誰が想像出来るんだ?
「あっ!噂のお姉さん……とお兄さんも!」
木南は二人を見て声を上げる。
「えっ。北斗その子……」
姉ちゃんがぬいぐるみを抱きしめながらポカンとする。
「あ〜えっと……クラスメイト」
俺はなぜか照れながら説明する。木南も続いて頭を下げた。
「浅倉くんのクラスメイトの木南有栖って言います!」
「クラスメイト……」
「ふーん……」
兄ちゃんと姉ちゃんはちょっとニヤニヤし始める。
「……何ニヤニヤしてんだよ」
「いやだってぇ……めちゃくちゃかわいいじゃんこの子」
「北斗お前……こんな子と仲良さげで……お前成長したな」
「何が!?」
俺が食い気味に言い返すと、木南はきょとんとした顔で俺と兄姉を交互に見た。
「兄弟三人で来たんですか?」
「そーだよー!仲良いでしょ?」
姉ちゃんがそう言いながら俺の頭を撫でる。
「やめろって……!」
振り払う姿を見て木南は微笑む。
「本当だ〜!仲良いですね」
「何見てたんだよ……」
俺が呆れつつも木南に尋ねる。
「木南は一人で来たの?てかゲームセンターとか来るんだな」
「全然来るよ〜。でも今日は二人で来てるんだ〜」
「二人?後一人は?」
俺が再び尋ねると木南は辺りをキョロキョロし始めた。
「あれ?どこ行ったんだろ」
「大丈夫かよ……」
そう呟いて視線を落とすと、木南はすぐに声を上げた。
「あっ!いたいた!おーい!」
木南が大きく手を振る。UFOキャッチャーの方にいるみたいだ。俺は体をゆっくり180度回転させようとする。
「誰と来てんだよ……」
ゆっくりと振り返るとそこには――
「莉子!こっちこっち!」
「えぇ!!??」
――莉子ちゃんがいた。
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