好きな子いるの?
続きです!読んでください!
「桜ちゃん……?」
息を弾ませた桜ちゃんは、俺の松葉杖を見るなり目を丸くした。
「お兄ちゃんから聞きました。北斗くん怪我したって……松葉杖って大丈夫ですか……?」
驚きと心配が全部混ざったような目で俺を見てくる。
「あぁ……うん。大丈夫だよ」
そう返しながらも頭の中はまったく大丈夫じゃなかった。
やばい。莉子ちゃんといるときに桜ちゃんが来るのはやばい!!
北斗くん呼びが莉子ちゃんにバレたら……
『後輩にくん呼びさせてるとか……ちょっと無理』
なんて言われたら俺もう立ち直れないよ……!
桜ちゃんは小さく胸に手を当てながら俺の足元をじっと見つめている。
莉子ちゃんは状況が掴めていないのか少しだけ首を傾けていた。
やばいやばいやばいやばい……
俺は内心で絶叫しながらなんとかその場をまとめようと必死で口を開いた。
「え、えっと桜ちゃん!心配してくれてありがとう!でも大丈夫だよ!」
自分でも分かるくらい声が裏返ってる。莉子ちゃんがそんな俺を見て、目を瞬かせる。
「浅倉くん……知り合い?」
「うん!知り合いというかその……そう!柴田の妹だよ!」
言葉が出ない。どっちに気を遣えばいいのか分からなすぎて頭がショートしそうだ。
「柴田くんの妹さん……」
疑ってるけどこれは嘘じゃないから……
桜ちゃんは桜ちゃんで小動物みたいにきょとんとした表情で莉子ちゃんを見る。
「えっと……北斗くん、この方は……?」
やめて……!北斗くんって呼ばないで!この距離は完全に聞こえてるから!
案の定、莉子ちゃんの目がほんのわずかに見開かれる。
だが桜ちゃんはまったく悪気なくただ俺の怪我を心配してるだけの目で俺を見てくる。
そして莉子ちゃんは不思議そうに、でも少しだけ探るような目で俺と桜ちゃんを交互に見ていた。
「本当に柴田くんの妹さんなの……?」
疑いの目で見てくる莉子ちゃん。
「それは本当にそう!ね?」
「はい。柴田陸也の妹の柴田桜です」
桜ちゃんは小さく会釈した。
礼儀正しいというか控えめというか……とにかく“良い子です”って感じが全身からにじみ出てる。
「へぇ……そっかそっか。私は柴田くんと浅倉くんと同じクラスの天城莉子って言います」
莉子ちゃんはにこっと笑った。丁寧で柔らかくてけれどどこか探るような、そんな笑みに見えた。
「はじめまして……天城さん」
桜ちゃんはさらに控えめに頭を下げた。二人の間には沈黙が落ちる。
「心配してくれてありがとう!……じゃあ教室行こっか?」
俺はそう言って、逃げるように桜ちゃんに背を向けると――
「待ってください……!」
桜ちゃんの声が思っていたよりずっと大きくて、俺も莉子ちゃんもピタッと足を止めた。
「どうしたの……?」
「北斗くん……何かあったら呼んでくださいね。猫カフェの恩返しさせてください」
「あはは……うん、ありがとね」
俺はそう返すので精一杯だった。
北斗くんも猫カフェも莉子ちゃんにバレた。桜ちゃんが心配だったらという理由を説明しても、"後輩に手を出す人間"というレッテルを貼られるのはもう回避できない。
「…………」
莉子ちゃんは何とも言えない表情で俺を見ていた。
「……ありがとう!じゃあ行くね」
俺は松葉杖を突きながら、桜ちゃんに軽く微笑んだ。
「はい……無理しないでくださいね。北斗くん」
追い討ちをかけられたところで俺と莉子ちゃんは同時に教室の方を向いて歩き出した。
桜ちゃんはしばらく俺の背中を見ていたが、振り向くことはできなかった。
「……仲良いんだね」
桜ちゃんに聞こえないくらいの距離まで歩くと、莉子ちゃんが前を向いたまま、小さく吐息を混ぜるように呟いた。
「えっ……!?」
たった一言でビビってしまう。次に何を言われるのか身構える。いっそのこと「気持ち悪い」とでも言ってくれたら逆に楽かもとか思ってしまう。
俺は喉がキュッとなるのを感じながら慎重に言葉を探す。でも何を言えば正解なのか分からない。
気まずい沈黙が数歩続く。その沈黙を破ったのは莉子ちゃんのぽつりとした声だった。
「……浅倉くんとあの子ってさ」
俺が返事をする前に莉子ちゃんは続けた。
「付き合ってるの?」
「……え??」
信じられなさすぎて松葉杖を落としそうになる。
「え、え、え!? なんで!? なんでそうなるの!?」
声がおもいっきり裏返る。
莉子ちゃんはというと俺の狼狽っぷりを見ても特に焦らず、むしろ「あれ、違うの?」みたいな顔で瞬きをした。
「だって……下の名前で呼び合ってたし、デートもしたんでしょ?しかもかわいかったし」
「いやいやいやいや!桜ちゃんはただの後輩で!猫カフェはその……ちょっと事情があって!」
自分で言ってて説明下手すぎて泣きたくなる。
莉子ちゃんはほんの少し目を細めて俺を見上げるようにして言った。
「何でそんなに否定するの?」
「な、なんでって……!!そりゃ誤解されたら困るからで……!」
言いながら自分でも困る内容がなんなのか分からなくて言葉が詰まる。ただ莉子ちゃんが誤解してるのがイヤで、焦って、必死になって否定してる。その事実だけは胸の奥でやたらと暴れていた。
莉子ちゃんはそんな俺の混乱なんてお構いなしに、少しだけ顔を傾けてくる。
「……困る?」
ゆっくり探るような目で俺の心の奥を確かめるみたいに。
「いやそれは……その……」
「後輩の子に親しげに呼びされてるのも、デートみたいなことしてるのも……別にいいと思うけど?」
言葉は柔らかいのに刺さる。胸のあたりがざわって音を立てた。
「い、いや……本当にデートとかじゃなくて……桜ちゃんのためにも否定しとかないといけないし……」
莉子ちゃんに誤解されたくないから。俺にそれが言えたら。
「ふーん……」
莉子ちゃんは前を向いたまま歩く。
その横顔は一見いつも通りなのに、まつげの影が少しだけ沈んで見えた。
「……じゃあさ」
莉子ちゃんがふいに足を止めた。こっちを見た莉子ちゃんの目はさっきよりずっと真っ直ぐでだった。
「浅倉くんって」
少しだけためらって、それでも言葉を選ぶように続けた。
「好きな人とか……いるの?」
「っ……!?」
呼吸が一瞬止まった。松葉杖じゃなくて
心臓を支える棒が欲しい。
莉子ちゃんはそんな俺の反応をじっと見ていた。責めるでもなく笑うでもなく、ただ、答えを聞こうとしている目。
「な、なんで……そんなこと……」
ようやく絞り出した声は情けないほど震えてた。
莉子ちゃんはまつ毛を伏せて少しだけ視線を落とす。
「……柴田くんの妹さん見てたらなんとなく」
「なんとなく……?」
「浅倉くんって誰かに優しくしたらそのまま好かれそうだし……」
ふっと小さく笑う。でもその笑みは強がりでほんの少しだけ寂しげだった。
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