猫カフェ
続きです!読んでください!
「わぁ……かわいい!」
猫カフェに入った瞬間、桜ちゃんの声が弾んだ。木の香りがする店内では数匹の猫がゆったりと日向ぼっこしている。
白い猫がカウンターの上で丸くなっていてグレーの猫が足元をすり抜けていった。
桜ちゃんはその場で目を輝かせる。
「見てください!猫たくさんいますよ……!」
桜ちゃんは自然と俺の腕を引っ張った。テンションがあがりすぎてる。
「いらっしゃいませ〜。お二人ですか?」
タイミングよく店員さんが笑顔で近づいてきた。
猫の柄が入ったエプロンをしていて、柔らかい声が店の雰囲気にぴったり合っている。
「あ、はい。二人です」
俺が答えると、店員さんは小さく頷いてメニューを差し出した。
「ではこちらのお席へどうぞ。猫ちゃんが自由に行き来しますので、荷物は棚の中にお願いしますね」
「はいっ!」
桜ちゃんはうきうきした様子で席に向かう。隣の席では膝の上で寝ている猫を優しく撫でるカップルがいた。
……なんか雰囲気的にちょっとドキドキする。
桜ちゃんが振り返って微笑んだ。
「浅倉さんこっちです!」
その楽しそうな姿を見て少し安心する。
「すごいね。初めて来たなぁ」
それにしても猫だ。猫が多いぞ。
「かわいい……」
足元の猫を撫でながらとろけた目で呟く。
「猫好きなの?」
「大好きです!昔は家で飼ってたんですよ」
桜ちゃんはそう言って足元の猫の頭をそっと撫でた。猫は気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らしている。
「へぇ……そうなんだ」
「ちっちゃい頃から一緒にいて、真っ白で、すごく甘えんぼで……」
そう話す桜ちゃんの顔は思い出を撫でるみたいに優しかった。
「でも小学校の時に遠くへ行っちゃって。だから……なんか思い出しますね」
「そっか」
少しだけ切なそうに笑うその横顔に、胸の奥がざわつく。
「浅倉さんはどうですか?猫好きですか?」
「んー……好きだよ。というか今めっちゃ好きになってきた」
「ふふっ、単純ですね」
そう言って桜ちゃんが笑うとすぐ横で茶トラの猫がテーブルに飛び乗った。
「わっ。来た!」
「この子、人懐っこいですね」
桜ちゃんがそっと指先を差し出すと、猫はその指に鼻先をこすりつけてきた。
「「かわいい……」」
思わず同時に言って二人で顔を見合わせる。
「真似しないでください……」
そう言いながら桜ちゃんは少し頬を染めて笑った。
「真似したのは桜ちゃんでしょ」
俺がそう返すと店の奥から小さな鈴の音がして、別の猫がのそのそと近づいてくる。
「ふふ〜どうしたの?」
桜ちゃんは膝をついて、そっとその白猫を撫でた。
「浅倉さんも触ってみます?」
「あ、うん」
言われるままに手を伸ばすと、桜ちゃんの指先と俺の指先が一瞬触れた。
お互いに気づいたはずなのに何もなかったかのように場は流れる。
俺が白猫の背中をそっと撫でると、ふわふわの毛が指の間をすり抜けていく。
猫は気持ちよさそうに目を細め、喉を小さく鳴らした。
その時、近くを一人の女性店員さんが通りかかった。
白猫はぱっと顔を上げると、迷いなくその人の方へ歩いていく。
「……あ、行っちゃった」
俺が思わずつぶやくと桜ちゃんも小さく笑った。
「よっぽど好きなんですね。あの店員さんのこと」
店員さんは気づいてしゃがみこみ、猫の顎の下をくすぐるように撫でた。
「ういちゃん、また来たの?もう甘えんぼさんなんだから〜」
その声がやわらかくて猫も満足そうに目を細めている。
「懐いてますね」
俺が声をかけると、店員さんは振り返って笑った。
「そうですね。この子、私によく懐いてるんです」
「なんか特別な関係なんですか?」
そう尋ねると、店員さんは少し照れくさそうに頬をかいた。
「実はですね……この子、私と同じ名前なんですよ」
「そうなんですか?」
桜ちゃんが驚いたように目を丸くする。
「はい。この子"うい"ちゃんって言うんです。私も“うい”っていう名前で。たまたまなんですけどつい親近感湧いちゃって。だからよくかわいがっちゃうんですよね」
「なるほど……だからそんなに懐いてるんですね」
俺が言うと、店員さんはうれしそうに笑った。
「ういちゃん、待っててねぇ。後でまた来るからね」
店員さんはそう言ってういちゃんを撫でると、俺たちに軽く礼をして去っていった。
「同じ名前かぁ……そういうのもあるんですね」
「だね……」
俺は少しだけその名前に違和感を感じていた。
「うい……」
思わずその名前を口の中で繰り返した。あれ?どこかで……
「……どうかしました?」
桜ちゃんが不思議そうに首をかしげる。
「あ、いや……なんかその名前……知ってる気がして」
「そうですか……」
桜ちゃんは首をかしげながらもどこか興味深そうに俺の顔を見ていた。
「ういさん……」
その名前をもう一度呟く。
「気になるなら聞いてみたらどうですか?」
桜ちゃんがカップの縁をなぞりながらそう言った。
「いやいいよ……多分勘違いだし」
俺は軽く笑ってごまかした。
「そうですか?」
桜ちゃんはまだ少し気になっているようでじっと俺の顔を見ていた。
「うん……」
勘違いか。俺はモヤモヤを心の中にしまった。
――数分後。猫をかわいがってたら喉が渇いてきた。
「なんか飲む?奢るよ」
「えっ……!ダメです!ちゃんと払いますよ!」
桜ちゃんは慌てて否定した。
「誘ったの俺だし……後輩だし、女の子だし。奢らなきゃ柴田に怒られそうだから奢らせてよ」
俺がそう言うと、桜ちゃんはちょっと顔を赤らめながら笑った。
「……しょうがないですね。そんなに奢りたいなら奢らせてあげます」
桜ちゃんの様子に俺は笑って頷いた。
一時間後。
「帰れないですぅ……」
桜ちゃんはあの後もずっと猫にデレデレだった。そんな桜ちゃんを見ているとこっちまで頬が緩んで、なんか保護者みたいな気分になってしまった。
「帰るよ〜」
「うぅ……またね」
桜ちゃんは渋々、猫との別れを告げ、俺の元まで歩いてきた。
「……ほんとに帰るんですか?」
「本当に帰るよ〜。暗くなっちゃうから」
そう言って俺はドアを開けた。桜ちゃんは「またね……」と言いながら猫に手を振って俺についてきた。
猫カフェを出る頃には外はすっかり夕暮れに染まりかけていた。これ以上、桜ちゃんを遅い時間まで居させられない。
「また来ればいいよ」
寂しそうにしている桜ちゃんに俺は呟いた。桜ちゃんは一瞬、嬉しそうな顔をしてから俯いて言った。
「……一緒に来てくれますか?」
「もちろん」
俺の口は勝手に動いていた。まるで莉子ちゃんに……
「はっ……!」
莉子ちゃん……!やばい。莉子ちゃんが好きなのに普通に他の女の子と楽しんでた……?
俺は桜ちゃんが心配なだけだ……って言ってもなんの説得力もないか。
「どうかしました?」
「ううん……なんでも」
俺がそう返すと、その後は少し沈黙が訪れた。
その沈黙で、桜ちゃんと猫カフェに行ったと言う事実が途端に恥ずかしくなってきた。側から見ればこれはただのデート。超かわいい彼女と冴えない男の不釣り合いカップル。
桜ちゃんはこの状況をどう思ってるのだろうか。今はそれが気になった。
「……今日はありがとうございました」
沈黙の中、ふと桜ちゃんが口を開いた。
「誘ってくれて嬉しかったです。猫カフェも楽しかった……」
桜ちゃんは俺の顔を見てそう言った。その顔は夕陽に照らされているからか少し赤らんで見えた。
「全然……俺も暇だからさ」
頭の中で莉子ちゃんが引っかかって、なんだか歯切れの悪い返事になってしまう。
「それで……浅倉さん。もう一つ我儘言っていいですか?」
桜ちゃんは改めて俺を向き直った。
「我儘……いいけど……何?」
俺は少しドキドキしながら答えた。桜ちゃんの顔をじっと見つめると、その目には期待とちょっとした不安が入り混じっているのがわかる。
「……浅倉さんは私のこと桜ちゃんって呼んでくれるじゃないですか」
「呼んでるね……」
今になってちょっと恥ずかしいけどね?
「なので――」
桜ちゃんは上目で俺を見上げた。
「私も……北斗くんって呼んでいいですか?」
ありがとうございました!急展開です!
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