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あの子と同じ

続きです!読んでください!

その日の帰り道。

遠足が終わって距離が近づいた……なんて思ってたけど実際はそうでもなかった。

今日一日は結局あんまり話せなかった。


「はぁ……」

ため息が勝手に出た。教室でも廊下でも何度かチャンスはあったんだ。けどタイミングを逃してばっかり。

なんか恥ずかしいんだよな。遠足の日にカッコつけて語りまくったからだろうか。


それに朝のくすぐり事件のせいで、俺の印象はたぶん最悪だ。


「……ちゃんとしろよ」

自分に檄を入れながら制服のポケットに手を突っ込む。

昇降口を出て空を見上げると、俺の心を表しているようだった。遠足の日は星がきれいだったけど、今日は雲が多くて空は見えない。


……明日からまた話せばいいか。そう思って歩き出した瞬間――


「浅倉さん!」

後ろから名前を呼ばれて心臓が一瞬止まった。振り返ると桜ちゃんが息を弾ませながら走ってきていた。


「……え、桜ちゃん?」

「ちょっと待ってください!」

桜ちゃんは急いで靴を変えると、俺の前で立ち止まった。


「どうしたの?」

思わず問い返すと、桜ちゃんは胸の前で手をぎゅっと握りしめた。


「浅倉さんに聞きたいことがあるんです……」

その真剣な顔に思わず息を飲んだ。桜ちゃんが俺に聞きたいこと……?


桜ちゃんは一度、深呼吸をした。そして――


「お兄ちゃんって彼女いるんですか!?」

桜ちゃんは目を輝かせながら言った。


「え?」

思わず間抜けな声が漏れた。


「その……浅倉さん兄と仲いいじゃないですか」

「あ、ああ……まぁそうだけど」

「だから知ってるかなって……思ったんですけど」

桜ちゃんは顔を赤くして言葉を詰まらせた。


「いや……いないと思うけどなんでそう思ったの?」

「歩きながら話しませんか?」

「あぁ……うん。もちろん」

桜ちゃんと二人で帰り?嬉しがるな……桜ちゃんは柴田の妹。何かあったらまずいから俺が見守るだけ……


「浅倉さん?」

「ごめんごめん」

俺は軽く謝って桜ちゃんの隣に並んだ。


しばらく歩いてから桜ちゃんがぽつりと口を開いた。

「まず……前提として言っておきますけど」

「うん?」

「私がお兄ちゃんに付き合ってる人がいるか気になるのはお兄ちゃんが好きだからとかそういうことじゃないです……」

「もちろん分かってるよ」

恋バナが好きなんだもんね……恋に触れたいだけなんだよな。


「それで、なんで桜ちゃんはそう思ったの?」

「ちゃんと理由があるんです……」

「……理由?」

桜ちゃんは前を向いたまま、言葉を慎重に選ぶようにして話し始めた。


「金曜日の夜……お兄ちゃんは帰ってきてすぐソファで寝ちゃったんです」

「遠足の日か……」

確かにあの日は疲れたもんなぁ。俺も寝落ちしたわ。


「それでソファの横にお兄ちゃんのスマホが置いてあって……」

桜ちゃんは言葉を兼ねるたびに声が小さくなっていく。


「……通知が一つ来たんですよ」

「うん……」

なんでそんな怖い話みたいなテンションなの……?


「私は見ようとしたわけじゃないんです。でも……目に入っちゃって」

「それで?」

「その通知の相手は読み方は分からないんですけど、羽に衣って書いた名前の方でした。アイコンと名前を見るに多分女性だと思います」

羽衣……誰だそれ?木南とか水瀬のオチだと思ってたけど違うのか?


「……で。肝心の内容なんですけど」

「うん……」

気づけば俺も息を飲んでいた。


『陸也くんに会えるの楽しみ!』


「これだったんですよ……!」

桜ちゃんは感情を昂らせた。大きい目をさらに見開いて詰め寄ってくる。


「おお……それはすごい情報だね」

「ですよね……お兄ちゃんは彼女がいるのでしょうか?」

桜ちゃんは手を顎に当てて考え始めた。


「それは分かんないけど……」

確かに柴田はモテるだろうな。かっこいいし、気の利くやつだし。

でもそんなこと言ってた覚えはないしなぁ……


でもずっと引っかかてたことがある。

それは柴田は木南と水瀬にあまり動じてないってことだ。それは俺みたいに他に好きな子がいるからなんじゃないか?でもそれだったらあの提案は断るか……


「浅倉さん。気になりませんか?」

「気にはなるけど。あんまり詮索するのも良くないんじゃない?」

「……そうですか」

桜ちゃんはつまんなそうに下を向いた。


「……でも」

少し間を置いて桜ちゃんがまた顔を上げた。

その瞳にはさっきまでの好奇心とは違う、どこか切なさのようなものが浮かんでいた。


「もし本当に彼女がいるなら……私、ちょっと寂しいです」

「え?」

思わず聞き返すと、桜ちゃんは慌てて手を振った。


「ち、違うんです!変な意味じゃなくて!」

「分かってるけど……」

そう言いながらも、なんとなく桜ちゃんの様子がいつもと違う気がした。


「最近、お兄ちゃん忙しいし、彼女ができたらもっと話せなくなるのかなって思ったらちょっとだけ……」

桜ちゃんは言葉を探すように靴の先でアスファルトをこすった。


「……寂しいよね。分かるよ」

「はい。でも……いつまでも頼ってはいられませんよね」

そう言って笑うその笑顔が妙に大人びて見えた。


俺は返す言葉が見つからず、ただ並んで歩いた。太陽の光が二人の影を長く伸ばしている。


「浅倉さん」

「ん?」

「浅倉さんは……好きな人いるんですよね」

桜ちゃんはそっと呟いた。控えめに微笑んで俺の顔を覗く。


「……いるよ」

「どんな人なんですか?」

その問いに思わず足が止まった。夕方の風で制服の袖が揺れる。


「どんな人、か……」

言葉を選ぶように空を見上げる。思い浮かぶのは莉子ちゃんの笑顔。


「……果てしなく優しい人。でもどこか脆くて守ってあげたくなる人だよ」

「……そうですか」

桜ちゃんはまた控えめに目を伏せた。


「いいなぁ。私も浅倉さんみたいな人に好きになってもらいたいです」

「え……」

あまりにサラッと言うものだから反応が遅れてしまった。


「えっと……どういう意味?」

桜ちゃんはそんな俺の様子を見てふっと笑った。


「……浅倉さんみたいに私をもっとちゃんと見てくれる人がいればなって。家族と冬華くらいしか本当の私を見てくれてないから」

桜ちゃんは自嘲気味に笑った。


「え……」

一緒だ。莉子ちゃんと一緒じゃん。


「……なんてねっ。重くなりすぎました」

そう言って桜ちゃんは笑った。けれどその笑顔はどこか無理をしているように見えた。口元は笑ってるのに目が少しだけ寂しそうで。


「……桜ちゃん」

思わず声をかけていた。

莉子ちゃんが好きなのは変わることのない思い。でもだからといってこのまま桜ちゃんを放っておくことは出来なかった。


桜ちゃんは足を止めてゆっくりとこちらを向いた。夕日が沈みかけていてその光が桜ちゃんの髪を淡く照らしていた。


「……変なこと言っちゃいましたよね」

「そんなことないよ」

言葉が自然と口から出ていた。黙っていると空気が沈んでいくのが分かった。


「桜ちゃん」

だから俺はほんの少しだけ勇気を出した。


「今からどっか行かない?」

「えっ……?」

桜ちゃんの目が驚きで丸くなる。俺は慌てて付け足した。


「その……いろいろ大変そうだし。気分転換にさ。カフェでも公園でもどこでも……」

「……浅倉さんとですか?」

「う、うん。もちろん無理なら全然――」


「行きます!」

食い気味に返事が返ってきた。


「早……」

思わず笑うと、桜ちゃんは頬を赤くして俯いた。


「だって……誘ってもらえるなんて思ってなかったので……」

「行きたいところある?」

「えっと……前から行ってみたかった猫カフェがあって……!」

桜ちゃんは目をキラキラさせてそう言った。


「猫カフェ?いいね。じゃあそこにしよっか」

「はいっ」

桜ちゃんは少し照れながらも嬉しそうに頷いた。二人で並んで歩いていく。


でもなんだろう。桜ちゃんが心配で声をかけたはずなのに、胸の奥が妙にざわついていた。

その理由を俺はまだうまく言葉にできなかった。


ありがとうございました!100,000字超えました!

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