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宝物

遠足終わります!よろしくお願いします!

莉子の涙が落ち着いた頃、有栖はまだ泣いていた。


「……いつまで泣いてんの?」

「だってぇ……」

有栖はせっかくのメイクがぐちゃぐちゃになるくらい泣いていて、鈴香が若干引くくらいだった。


「……ごめんね。有栖」

莉子は有栖の肩をさすりながらそう言った。


「莉子ぉ……もういなくならないでね……」

有栖はまた泣き始め、莉子に抱きついた。


「うん。いなくならないよ」

莉子の表情にはさっきまでの不安はなかった。お互いに本音を話したことで、三人の絆は何があっても解けない硬いものになった。


「じゃあ……戻ろっか。浅倉たちも待ってるし」

鈴香は遠くのベンチに座っている二人の方を向いた。


「そうだね……」

北斗の姿を見た莉子の瞳が揺れる。自分を助けてくれた存在はまだ他にもいることを思い出す。


「ほら。行くよ」

鈴香は有栖の腕を引っ張りながら歩き出した。


「待ってぇ……まだ泣いてるから!」

「うるさい。行くよ」

「ふふっ……」

いつも通りの二人を見て莉子は安心していた。やっぱり自分の居場所はここなんだと再確認するのだった。


歩きながら莉子は一つのことを思い出した。

「ねぇ……鈴香。さっき言ってた私を見てくれてる人って誰のこと?」

莉子が涙の跡を残したまま首を傾げる。


鈴香は少しだけ意地悪そうに笑って肩をすくめた。

「誰だろうね。莉子が一番知ってるんじゃない?」


それを聞いて莉子の目がわずかに見開かれる。

鈴香の視線の先――少し離れたベンチのあたりに北斗と柴田の後ろ姿が小さく見えた。


「……浅倉くん?」

「黙秘〜」

莉子はその言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

頬の熱が涙とは違う理由で戻ってくる。


「……そっか」

小さく呟くその声にはもう震えはなかった。


⭐︎


柴田と軽く喋っていると、海の方から三人並んでこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


「帰ってきた……」

「もう大丈夫そうだな」

三人の様子を見て柴田が呟く。三人はいつも通り笑いながら歩いてきて、その光景は三人特有の安心感を取り戻していた。


俺たちは立ち上がって二人の元に駆け寄る。俺が走って行くと、莉子ちゃんもこっちに走ってきた。


「……天城さん」

近くで莉子ちゃんの表情を見て安心する。


「仲直りできたよ」

「よかった」

「本当にありがとう。浅倉くん」

莉子ちゃんはそう言って俺の目を見つめた。


「いやいや俺は何も……」

「何もしてないわけないじゃん。浅倉くんのおかげで勇気出せた。浅倉くんがいたから仲直りできたんだよ」

そう莉子ちゃんに言われて、何か込み上げてくるものがあった。大好きな莉子ちゃんの役に立てた。大好きな莉子ちゃんを守ることができた。俺はその達成感と安心感でいっぱいだった。


「全部浅倉くんの言う通りになった。本当に……私のこと見てくれてるんだね」

莉子ちゃんのその言葉に胸の奥がじわっと熱くなった。視線を合わせたまま何かを言おうとしても喉がうまく動かない。


「……言ったから。約束はちゃんと守るよ」

やっと出てきたのは情けないくらい小さな声だった。


「浅倉くん……」

莉子ちゃんが少しだけ笑う。その笑顔はさっきまでの涙の名残をほんの少しだけ残しながらも確かに前を向いていた。


「おーい!何イチャついてんのー?」

後ろから柴田の声が飛んでくる。


「イチャついてねぇよ……!?」

慌てて距離を取る俺。水瀬もニヤニヤしながら近づいてきた。


「ちょっとかっこいいなって思ってたのに。イチャイチャしてるようじゃねぇ?」

水瀬は俺の顔を覗き込みながら揶揄う。


「だからしてないって……!」

「ふふっ、嘘嘘。ありがとね浅倉。柴田も」

そう素直に言われてしまうと何か恥ずかしくなってしまう。


「……いや俺は何もしてないよ」

柴田が照れ隠しみたいに頭をかいた。


「そっか。柴田は何もしてないか」

「した!やっぱした!」

「うそ。二人ともありがとう」

水瀬が少し笑いながら言った。


「莉子を止めてくれなかったら私たち……きっとバラバラだった」

「それは違うよ」

俺は思わず口を挟んでいた。


「俺がいなくても三人なら大丈夫だった」

心から出た言葉だった。絶対にそうだ。莉子ちゃんが走り出した時も、泣いているのを見た時も、この三人の関係が壊れるなんて考えもしなかった。


「そんなの……私たちだって……そう思ってたし」

水瀬は顔を赤らめて、二人の顔を見た。木南は泣き腫れた顔だけど満面の笑みで頷いていて、莉子ちゃんは俯いていて、でもその口角は少し上がっていた。


その様子を見て胸の奥がじんわりと温かくなった。三人の絆は言葉にしなくても伝わってくる。

俺はほんの少し背中を押しただけだ。


「……よかったな」

柴田がぼそっと呟いた。


「うん。ほんとによかった」

俺がそう返すと莉子ちゃんは笑った。


「じゃあさ……みんなでもう一回、海まで行かない?」

莉子ちゃんの提案にみんなの顔が晴れる。もう莉子ちゃんは堂々と自分の意見を言えるようになったんだ。


「それめっちゃいい!」

木南がすぐに手を挙げた。


「私もさんせー」

水瀬も続き、柴田が肩をすくめながら「俺もついてくよ」と笑う。


「ありがとう……」

莉子ちゃんはそう言って俺の方を見た。


「浅倉くんも来てくれる?」

「もちろん」

その言葉に迷いはなかった。


俺たちは並んで歩き出す。潮の匂いとまだ少し湿った風。

さっきまで泣いていたはずなのに今はみんなが自然に笑っていた。


先を歩く三人の背中はまぶしいくらいに輝いて見えた。肩を並べて笑い合う姿が風景に溶け込んでいくようなそんな感じがした。今日のこの瞬間はもう二度と同じ形では訪れない。そんな儚さすら感じた。


海の近くまでやってくると、潮の香りが一気に濃くなって、強い風で髪がふわっと揺れる。


「綺麗だなぁ……」

莉子ちゃんが目を細めながら波打ち際を見つめた。


「天城さんが来たがってた意味が分かるよ」

「でしょ?」

目の前に広がるのは果てしない海。太陽の光を反射して、俺たちを照らす。


「……また来たいね」

俺は不意に呟いた。


「また来ようよ。約束」

莉子ちゃんが小指を差し出してきた。


「……うん」

俺の震えた小指と莉子ちゃんの小さな小指がそっと絡む。指先から伝わる温もりに心臓が一気に跳ねた。


やばいやばいやばい。

落ち着け北斗。変な顔すんな。今までカッコつけてただろ。最後まで冷静にクールに――


無理だ。


小指つないでる……!俺、莉子ちゃんと約束してる!!指!触れてる!

テンションが一気に天井を突き抜ける。頭の中では花火が上がり続けて思考が全部「かわいい」と「小指ってこんな柔らかい?」で埋め尽くされていた。


「みんなで写真撮ろー!海バックに!」

木南がハイテンションでスマホを取り出す。


「ほらほら!」

木南は水瀬と肩を組んで無理矢理画角に入れる。


「ちょっ……そんなんしなくても入るし」

そう言いながらも水瀬は満更でもない顔をしていた。


「私たちも行こっか」

「うん」

俺たちも木南たちの隣に並んだ。


「揃った?入って入ってー!」

五人が詰め詰めになって画角に入る。


「…………」

莉子ちゃんと肩が当たっていて俺は写真どころじゃなかった。


「よし!いくよー!はいチーズ!」

木南の声と同時に、シャッター音が響く。


五人並んで笑顔の写真を撮った。

さっきまで涙でぐちゃぐちゃだったのが嘘みたいに、みんなが自然に笑っている。


「いいじゃん。ちゃんと撮れてる」

「柴田くんいい笑顔!」

「写真写りのプロだから」

「そんなのあるの!?」

そんな他愛のないやり取りが続く。笑い声が風に混ざって、波の音と一緒に響いた。


その中には俺もいて莉子ちゃんもいる。こんな幸せなことが他にあるだうか。


「浅倉くん」

名前を呼ばれて振り向くと、莉子ちゃんはスマホを向けた。


「これ」

そう言って見せられたスマホの画面にはさっき撮った五人の写真。


「ちゃんと写ってるね」

「うん……いい写真」

「ね。宝物にする」

莉子ちゃんはふわっと笑った。


今日は本当に色々あった。水瀬に好きバレするし、莉子ちゃんはかわいすぎるし、親友三人の事件が起きるし……


でもいい一日だった。


きっとこの日を俺はこの先も忘れないだろう。

やっぱり俺は莉子ちゃんが好きだ。俺は改めてそう思った。


遠足の一日は夕暮れの色に染まりながら静かに幕を閉じた。


ありがとうございました!ここで遠足は終わりになります!明日からもどんどん投稿していきます!

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