友達
重要な話です!ぜひ読んでください!
北斗と柴田が離れた後の三人の間にはしばらく沈黙が訪れていた。それを切り開いたのは莉子だった。
「ごめんね……有栖、鈴香」
小さくて震えた声でそう呟いた。
「ううん。大丈夫だよ」
有栖は笑って返すが、鈴香の表情はまだ晴れなかった。
「莉子の本当の気持ちを聞かせてよ。全部聞かせて」
鈴香は莉子と目を合わせてそう言った。
「……うん」
莉子は北斗の言葉を思い出していた。
『きっと二人はちゃんと答えてくれる』
北斗の言葉が莉子の背中を押した。
「私は有栖も鈴香も大好き……それは本当。でもたまに不安になる」
莉子は拳を握りしめながら話し始める。
「……私は有栖と鈴香にとって邪魔なんじゃないかって思うことがあるの」
「そんなこと――」
「有栖。今は聞こ」
鈴香が有栖を制止する。有栖は頷いてまた俯いた。
「有栖も鈴香も他にたくさん友達がいるのに、いつも私を優先してくれる。かっこいいって言われてる先輩とかに誘われたりするのに、いつも私といてくれて……私はずっと申し訳なかった」
言葉が詰まりそうになる度、北斗の言葉を思い出した。背中を押してくれるような気がして、莉子は言葉を紡ぐことができた。
「私は二人みたいにかわいくないし……二人みたいに人気じゃない。私は二人と釣り合ってない……だから怖かった。いつか捨てられるんじゃないかって。有栖と鈴香が二人でどこかにいっちゃうんじゃないかって」
「莉子……」
有栖の唇が震えた。けれど言葉は出てこない。代わりに鈴香が静かに口を開いた。
「それが莉子の本音?」
「うん……」
「そっかぁ……」
それから鈴香は海の方を向いて、少し黙っていた。そして鈴香は一つ呼吸をしてから莉子の方を振り向いた。
「じゃあこっからは私たちのターンね」
「……うん」
莉子の顔がこわばる。でもちゃんと聞こうという意思がその目には宿っていた。
「莉子の話を聞いて私はすごく悲しいって思ったよ。そんなふうに思われてたんだって思った。さっきも言ったけどそんなちっぽけなことで私たちが莉子を嫌いになるわけない」
莉子ちゃんは黙って聞いていた。その目はちゃんと鈴香に向いていた。
「でも……莉子にとってはちっぽけなことなんかじゃないんだよね」
鈴香の声は優しかった。優しくて震えていて、莉子への想いが溢れ出すようだった。
「ごめんね。不安にさせたよね」
鈴香は優しく謝った。
「鈴香たちは何も悪くないよ……」
「それでも謝るよ。莉子を不安にさせたんだもん」
鈴香は首を横に振った。
「私たちも莉子への思いをちゃんと伝えないとなって思ったの。ね、有栖?」
「……うん」
有栖が少し息を吸って涙をこらえるように言葉を紡ぐ。
「莉子がいない時間、ほんの少しの時間だったけどすごく怖かった。あのまま戻ってこなかったらどうしようって思って」
「……え?」
莉子が驚いたように顔を上げる。そして鈴香も有栖に続いた。
「私も莉子と一緒に笑ってる時間が当たり前になってた。だからそれがなくなるかもって思ったら、胸の奥がなんか痛くなって。それでやっと気づいた。私、莉子がいないとダメみたい。だから私から離れることなんてないし……できないよ」
莉子の目が大きく見開かれた。
有栖も鈴香もまっすぐに自分を見つめている。嘘なんてひとつもないまっすぐな瞳で。
「でも私は……二人と釣り合ってない」
言葉の最後は涙に溶けていった。
鈴香はすぐには何も言わなかった。ただ、波の音の合間に小さく息をついてゆっくり口を開いた。
「……ねぇ莉子」
「……うん」
「釣り合うとかそういう話じゃないと思うんだよね」
鈴香は視線を落として、自分の靴先を見つめた。
「友達ってさ上とか下とかじゃなくて、ただ隣にいるものじゃん。誰かがリードするとか、守るとか、そういうのじゃなくてさ」
有栖も静かに頷いた。
「うん……私たちは釣り合ってるから一緒にいるんじゃなくて、一緒にいたいから一緒にいるんだよ」
有栖の言葉が三人の間に落ちる。莉子は拳を握りしめながら、涙を堪えて俯いていた。
「……あと全然釣り合ってるし。まぁ確かに私はモテるけど、興味ない人たちに声をかけられても鬱陶しいだけ。しかもそういう人たちって私じゃなくてもいいんだよ」
鈴香は自嘲気味に笑った。
「だから……私は莉子が羨ましいくらい。莉子にはちゃんと見てくれてる人がいるから」
「……」
莉子は一瞬、鈴香の言葉の意味がわからなかった。けれどその視線の奥にあるものを見て胸の奥が熱くなる。
「だからさ。もうそんなこと言わないでよ」
鈴香は優しく莉子を抱きしめた。
莉子は鈴香の肩の中で堪えていた涙をついに溢れさせた。
声を出すこともできず、ただ震える手で鈴香の服をぎゅっと掴む。
「莉子、聞いて」
鈴香は抱きしめたまま呟いた。
「私たちは絶対に莉子を置いていったりしない。たとえ周りが変わっても、好きな人ができても、忙しくなっても。三人で笑った時間は絶対になくならないから」
有栖も涙を拭いながら笑う。
「莉子がいてくれるから楽しいんだよ。三人で話してるときの空気、すっごく好き。莉子がいるだけで場がやわらかくなるっていうか。あの感じ莉子にしか出せないよ」
「あははっ、確かに。莉子がいなかったら多分、私は有栖と友達じゃないね」
鈴香は笑って有栖を見た。
「も〜……鈴香」
有栖も涙を拭いながら笑っていた。
「私たちは莉子が大好き。これからも一緒にいようよ」
鈴香がそう言うと、莉子は顔を上げた。
涙でぐしゃぐしゃのままそれでも二人の姿を見たくて、必死に目を開けた。
「……ごめん……ごめんね……っ」
涙と一緒に心の底に溜めていた言葉が溢れ出していく。
鈴香はその背中をゆっくりと撫でながら優しく言った。
「謝らなくていいよ。今までいっぱい我慢してたでしょ」
「ううん……私……勝手に怖がって……勝手に疑って……二人のこと傷つけた……」
しゃくり上げながら莉子は必死に言葉をつなぐ。有栖も涙をこぼしながら莉子の肩にそっと手を置いた。
「違うよ莉子。ちゃんと話してくれて嬉しかった」
「そうだよ。莉子が本音を言ってくれたからやっと私たちもちゃんと気持ちを伝えられたんだよ」
鈴香がそう言って莉子の頭を軽く撫でる。その声は少しかすれていてでも確かな温度があった。
「……私も二人のことが……大好きだよ……」
その言葉に有栖も鈴香も一瞬だけ笑って、そして同時に泣いた。有栖は涙が止まらなくなって、鈴香も堪えきれなくなっていた。
「……知ってるよ」
三人は自然と抱き合った。潮風が髪を揺らし、遠くで波が静かに打ち寄せている。
「これからも友達でいようね。三人で」
もう何も隠すことはなかった。涙も笑顔も全部そのままでいい。
その瞬間、三人の間にあった見えない壁が静かに溶けて消えていった。
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