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好きだよ

続きです!読んでください!

「……っ!」

やばいやばい。やっぱり莉子ちゃんだった……!こんな早いの!?いつも先にいるけどさ……


「開いてる……」

莉子ちゃんは一番じゃないことに驚いたのか、開けたドアの前で立ち止まっていた。でもそれはほんの気休めで、次の瞬間には肩にかけた鞄を持ち直して静かに中へ入ってきた。


どうしようどうしよう!?声かけるか?いやまだ心の準備が――。

無表情で大慌てしていると、自分の席までやってきた莉子ちゃんが後ろの俺に声をかけてきてくれた。


「おはよ。早いね」


また……話しかけてくれた……!?もう俺も行くしかない!話しかけられてばっかじゃ情けないだろ!


「お、おはよう……」

かろうじて出た声は自分でもびっくりするほど小さかった。でも初めて話したぞ!一歩進展……!


莉子ちゃんは少しだけ首を傾げて柔らかく笑った。

「ふふっ、なんか眠そう」


「え、あ、いや、全然眠くないよ!」

思わず反射で返してしまった。


「そう?」

そう言って莉子ちゃんは椅子に腰を下ろし、鞄から一冊の文庫本を取り出した。

表紙を見た瞬間、俺の鼓動が一気に跳ねた。


俺がこの土日で調べまくった本の中の一冊だった。ちゃんと覚えてる。この小説は――


「"夜の硝子窓"……」

思わず口に出てしまった。まずい。流石に引かれてしまう……!


「……ん?知ってるの?」

莉子ちゃんは俺の方を振り返った。その表情はまだ何とも言えないくて、引いてるのか疑問に思ってるのか分からない表情だった。


「あっ……うん。読んだことはないけど何かで見た気がする」

咄嗟にそれっぽいことを返す。なるべくキモくないように。引かれないように……!


「へぇ……浅倉くんって本好きなんだね。前も読んでたし」


「えっ……」

微笑んだその顔を見て俺は言葉を失った。かわいすぎたっていうのもあったが初めて名前を呼ばれたからっていうのもある。そもそも覚えていてくれたのがまじでうれしかった。


ここだ。距離を詰めるにはここしかない!


「本……めっちゃ好きだよ」

めっちゃは嘘。ハマったのも不純な理由。でもこのくらい言っとかないと莉子ちゃんを逃してしまう……!


莉子ちゃんは少しだけ目を丸くしてから答えた。

「そっか。あんま本好きいないから嬉しいかも」


「……あ、天城さんも本好きなの?」

初めて名前呼んだ……!


「好きだよ」


「……っ!?」

その「好きだよ」は俺に向けられたものではないと分かっているのに心臓の鼓動のボルテージは最高潮へと上がっていった。


「あっ……へぇ……そ、そうなんだ……あはは……」

もうまともに会話なんて出来なかった。続行は不可能だ。


莉子ちゃんは小さく笑って「なんかおすすめあったら教えてね」と言い残し再び本に視線を戻した。


「あっ……うん」

俺は放心しながらかろうじて頷く。


教室の中に紙をめくるかすかな音だけが響く。俺は居ても立っても居られなくなって立ち上がり、教室を飛び出した。もうやばい。ここにいるとやばい。


廊下に出た瞬間、胸の奥から一気に空気が抜けていくような感覚がした。

やばい。心臓がまだバクバクいってる。


「好きだよ」その一言が頭の中でリピート再生される。

莉子ちゃんと付き合ったらあれ毎日聞けんのかなぁ……!妄想が捗る。何気ない一言。本に向かって言った一言。でもその言葉の意味は変わらない。


階段の踊り場まで来て壁に背中を預けた。息を整えようとしても無理だった。心拍数は上がる一方。

でも不思議と嫌じゃなかった。むしろむちゃくちゃ幸せだった。


「……話せた」

達成感でいっぱいだった。一年の六月ごろに好きになってから約十ヶ月。やっと会話することができた。

周りから見たら普通の会話で何の特別感もない会話なのかもしれない。でも俺にとっては大きな大きな一歩だった。


この調子なら明日もなんか話せる気がする。

「おすすめあったら教えてね」って言ってくれたし本屋行けばネタなんていくらでも見つかる。帰りにでも寄るか。


よし。いいぞ。いけるぞ俺。莉子ちゃんへの好意と自己肯定感が上がった俺はいつもより胸を張りながら歩いて、教室に戻った。


――ガラガラ。再び教室のドアを開けると人が何人かやって来ていた。

莉子ちゃんは相変わらず本を読んでいる。俺はその後ろに座り、持ってきた本を開いた。


「…………」

全っ全集中できない!後ろ姿だけでやばい!

幸せってこういうことなんだ。話しただけなのにそんな風に思えてしまう。

俺はそこから幸せを噛み締めながら朝の時間を過ごした。


⭐︎


昼休み。同じクラスのやつに誘われ俺は中庭で昼食を食べていた。二年で初めて同じクラスになった奴らだが、始業式の日に仲良くなっておいた。男とは話せる。緊張なんてしないしな。


男が四人集まればする話は一つ。恋バナだ。

恋バナにも種類はたくさんある。彼女がいる奴がその中にいるならそいつへの質問攻めが始まる。誰も彼女がいないなら気になってる人を言い合ったりする。そして俺たち四人は――誰も彼女がいなかった。


「くそっ……!」

俺を誘ってくれたこのグループのリーダー的存在。古川咲斗ふるかわさくとが中庭のベンチで項垂れる。


「何で俺には彼女が出来ないんだ……!」


「高望みしてるからだろ?一年経って有栖ちゃんと鈴香ちゃんは無理だって理解したんじゃねーのかよ」

その隣に座る柴田陸也しばたりくやが指摘する。柴田は一年の時も古川と同じクラスで結構仲がいい。言ってる感じ、古川はマドンナ二人のことを狙っているのだろう。ていうか八割そう。


「いーじゃん!だってめちゃくちゃかわいいし。彼氏だっていないって話だろ……」


「へぇ……そうなんだ」

あの二人に彼氏がいないってのは初耳だった。確かにずっと三人でいるから男っ気はあんまりないけど。


「ていうか!同じクラスになれたのに好きにならないほうがおかしい!奇跡だぞまじで!」


「まぁそれはそうだよな……最近、他クラスのやつらに睨まれてる気がするし」


「何?浅倉もやっぱりその二人狙いなの?」

古川は俺の呟きに興味を示した。


「いや……そんなことないって」


「嘘だ〜!そんなわけないじゃん!ていうか隣、有栖ちゃんなのずるいだろ!」

古川は俺の肩を叩いた。最近叩かれすぎな気がする。


「木南は……別に興味ないよ。水瀬も」

かわいいとは思うけど本当にない。霞んでしまっているからね。


「はぁ?じゃあ誰が好きなんだよ〜」


「えぇ……?」

俺は困った。ここで莉子ちゃんと言ったらまた逆張りとか言われると思ったからだ。


「莉子ちゃんだろ?」


「そうそう莉子ちゃん……って何で知ってんの!?」

柴田の自然すぎる問いかけについノリツッコミを決めてしまった。


「河田に聞いた。あいつのことよろしくって言ってたよ」


「優馬……!?」

あいつ……次会ったら蹴り飛ばすか。


「えっ……莉子ちゃんって誰?」

古川がポカンとして言葉を落とす。


「天城莉子。いつも二人と一緒にいる子だよ」

柴田は淡々と説明をする。


「あぁ〜!あの人か!」

古川は手を叩いて、空を仰いだ。


「え、何で?」

そして真顔でこちらを向いた。


「何でって……」

やっぱり逆張りだと思われてんの……?ちゃんと顔見たことねぇだろ!まじでかわいいからな!


「二人よりかわいいから」


「へぇ……物好きもいるんだな」

はい出ました。マドンナ以外を好きな奴のことを否定する風潮。


「普通にめちゃくちゃかわいいから!ちゃんと見てないだけ!」

俺は必死に否定する。莉子ちゃんを否定されてたまるか。


「そっか。じゃあ浅倉はライバルじゃないな。よしよし」


「適当に流すな……!」


「浅倉がライバルじゃなくても他にいまくるから意味ないだろ」


「それはそう。やっぱり強すぎよなぁ……誰かいないかなぁ。隠れてるけどかわいい子」

それが莉子ちゃんなんだよなぁ……分かってねぇなぁほんとに。


「じゃあ一年生は?話題になってる子とかいたよ」

今、初めて喋ったこいつは藤本宗ふじもとそう。身長がデカくてちょっと怖いけど喋ったら一番弱そう。


「おいおい待て待て。ありすぎんだろそれ!」

露骨に古川のテンションが上がる。確かに一年にかわいい子がいるっていう噂は回ってきている。莉子ちゃんが同じクラスなのが嬉しすぎてどうでも良かったけど。


「食ったら行くぞ!」

古川はそう言って右腕を突き出した。俺も行かないといけない流れだ。











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