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亀裂

続きです!読んでください!

俺が莉子ちゃんに尋ねると、しばらく彼女は俯いたまま何も言わずにいた。やがて観念したかのように顔を上げ、俺の目を見てぽつりと口を開いた。


「……そうだよ。ごめんね。変に隠しちゃって浅倉くんに気を遣わせちゃったね」


「いや……謝ることじゃないけど」

やっぱりそうだった。莉子ちゃんはずっと隠していたんだ。


「私ね。本当は海を見たかったの。ここの近くの海に有名なスポットがあってさ」

莉子ちゃんは遠くを見ながら話す。本音を話しているはずなのに莉子ちゃんはさっきより寂しそうだった。


「それは何で……隠してたの?」

莉子ちゃんの顔を見てたらもう聞けずにはいられなかった。


「……なんでだろうね。なんか言えなかった。有栖と鈴香がすごく楽しそうに水族館の計画を立ててるのを見てたら、やっぱり私は口出すべきじゃないって思っちゃったんだよね。浅倉くんに隠してたのも二人にバレたくなかったからだよ」  

莉子ちゃんは話し出したら止まらなかった。隠していた思いが溢れ出てきて、止まらなくなる。


「二人が怖いの……?」

俺は恐る恐る尋ねる。


「……ううん。怖いのは二人じゃなくて二人がいなくなっちゃうこと」

莉子ちゃんは小さな声で呟いた。


「有栖と鈴香には友達も多いし、寄ってくる人がいっぱいいる。でも……私にはあの二人しかいないから。あの二人がいなくなったら私はひとりぼっちなんだよ。私は有栖と鈴香とは違うんだよ」

その言葉を聞いて俺は確信した。ずっと薄々感じていたことだ。


莉子ちゃんは二人に劣等感を抱いているんだ。


考えてみればそりゃそうだ。自分にとっての親友は学校全員の注目を集めるマドンナ。自分だけ取り残されるかもしれない。少しでも嫌われたら捨てられてしまうかもしれない。って思うのは何らおかしいことじゃない。だって二人には自分にいない“他”がいるんだから。


「そんなことないのは分かってるの。私が隠してたのは行きたいとこに行けなかったことじゃなくて、二人を信じることができなかったこと」


「…………」

俺は黙って莉子ちゃんの話を聞いていた。


「……ごめんね。普通に意味わかんないよね」

莉子ちゃんは屋上の時と同じ目をしていた。


「そんなことないよ。軽々しく分かるとも言えないけど、天城さんがいろんなことを考えてるのはちゃんと伝わってる」

なんて言えばいいかわからなかった。でも何か伝えたかった。伝えないとダメだと思った。


「……今日、ずっと天城さんのこと見てたんだ。天城さんと……天城さんのことが大好きな二人のことを見てた」

「……私のことが好きな二人?」

「うん。俺から見て木南と水瀬は天城さんが思ってるより、天城さんのことが好きで大切に思ってるよ」

元気つけたくてついた嘘なんかじゃない。俺の本音。今日一日三人のことを見ていて感じたことだ。


「……あの二人が男女問わずに人気で天城さんがなにかのきっかけで嫌われてひとりぼっちになっちゃうんじゃないかって思う気持ちは自然だし、今日隠してきたことだって俺はおかしいだなんて思わないよ」

俺は莉子ちゃんの目を見て続けた。


「でも俺は二人を信じてあげてほしい。あの二人はちゃんと天城さんの親友だよ。俺が保証する」

「……私の親友?」

莉子ちゃんは俺の目をじっと見て、俺の言葉を噛み締めていた。

二人の間には無言の空間が生まれる。どちらも何を言えばいいか分からなくて、でもお互いの感情を整理するために必要な時間だった。


その時――。パチパチパチ。

無言の中、横から拍手が聞こえてきた。振り向くとそこには別行動の三人が立っていた。


「かっこいいじゃん。浅倉」

水瀬は俺を見て呟いた。


「え……」

「ずっと聞いてたよ。初めからね」

木南が珍しく控えめな声で言った。


「えっ……!」

莉子ちゃんだけだと思って結構恥ずかしいことも言ったぞ……


「ふれあいから帰還したらなんか暗い雰囲気だったからビビったわ」

柴田も場を和ませるように発言する。


「…………」

莉子ちゃんは俯いていた。海に行きたいってことすら隠してきたんだ。今の会話が聞かれたなんて分かったらもうどうしていいか分からないだろう。


でもそんな莉子ちゃんの辛そうな顔に話しかけたのは水瀬だった。


「莉子のバカ」

そう言って水瀬はしゃがんで俯いている莉子ちゃんと目を合わせた。


「……鈴香」

「そんなので私たちが莉子のこと嫌いになるって思ってたの?莉子の提案一つ聞けない奴らだと思ってた?莉子が海に行きたいって言っただけで怒って見捨てるようなやつだと思ってたの?」


水瀬の口調は尖っていたけど、言葉だけ見れば全部事実だった。

言葉にしたら莉子ちゃんの悩んでいたことはすごくちっぽけで、理解してくれる人は少ない悩みだったのかもしれない。


「そういうわけじゃないよ……」

「じゃあどういうわけ?」

「水瀬……そんなに責めなくても――」

「浅倉は黙ってて」

水瀬は怒っていると同時に寂しそうな目をしていた。


「言っても分かんないよ……」

莉子ちゃんは小さな声で呟いた。


「言ってくれなきゃ分かんないよ」

「……二人には分かんないよ!いつもキラキラ輝いてる二人に私の気持ちなんて……!」

莉子ちゃんは震えた声を絞り出すと、そのまま立ち上がり、走り出した。


「莉子……!」

木南が咄嗟に手を伸ばす。でも莉子ちゃんは止まらなかった。


「鈴香……どうしよう」

不安で泣きそうになる木南。取り残された水瀬はポツリと立ち尽くして呟いた。


「私たちってずっと莉子にそう思われてたのかな。莉子は私たちにずっと気遣っていたのかな」

水瀬の声には怒りと寂しさが含まれていた。

水瀬は高校入る前から一緒だもんな……確かに怒れるし、寂しいよな。


「そんなことないよ」

俺は居ても立っても居られなくなって咄嗟に声に出していた。


「ああは言ってたけど、いつもの天城さんに……今日の天城さんの笑顔に嘘はなかった。俺が言うんだから間違いないよ」

俺が一番莉子ちゃんのことを見てる。その自信があった。


「ふっ……よく言うわ」

水瀬は笑いながらも少し安心した表情を見せた。


「早く追いかけようぜ。まだそんな遠くには行ってないはず」

柴田がそう言うと、みんなが頷いて莉子ちゃんを追いかけ始めた。


⭐︎


水族館を出ると、日差しが照り付けられていてこの季節にしては少し暑かった。


「どこかな……」

木南が心配した表情でキョロキョロする。


「別れて探そ。見つけら連絡して」

水瀬はそう言い残すと駅方面に向かって走り出した。


「鈴香……」

木南の表情はずっと沈んだままだった。


「大丈夫だよ木南。絶対仲直りできる。絶対」

「ほんとに……?」

「俺に任せて。大丈夫」

この件を三人で解決するのは難しい。鍵を握ってるのは間違いなく俺だ。


「なんか頼もしいなぁ……」

「柴田も協力してくれよ」

「任せとけって」

そうして俺たち三人も分かれて走り出した。俺が向かったのは莉子ちゃんが行きたいと言っていた海方面。


証拠なんてないけどなんとなく莉子ちゃんはそっちに行ったような気がした。


任せてとは言ったが何を言えばいいのかまだ分かってない。けど不思議と不安ではなかった。

話さないと伝わらないことがある。ここでこうなったのは三人にとって逆に良かったんだ。三人だけのタイミングじゃなくてよかった。

莉子ちゃんと二人を繋ぎなおす。俺はその使命感でいっぱいだった。


今日の莉子ちゃんの笑顔を思い出す。木南と水瀬といる時にしていた笑顔は悔しいけど俺にはさせられない笑顔だ。

莉子ちゃんから親友も笑顔も失わせていいのか?


「いいわけないだろ……」

俺はただひたすら走った。莉子ちゃんを……木南と水瀬を助けたいと思いながら。

そうして砂浜までやってくるとそこには――


海をぼーっと見ている莉子ちゃんが立っていた。


ありがとうございました!

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