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証拠

よろしくお願いします!

少し歩くと、出口付近のお土産コーナーが見えてきた。

イルカのぬいぐるみ、ガラス細工のキーホルダー、青い瓶に入った砂。水族館って感じだ。


「かわいい……」

莉子ちゃんが立ち止まって貝殻がついたヘアゴムを手に取る。

その横顔を見ているだけで、胸の奥が静かに熱くなる。


「似合いそうだね。それ」

口から自然に出た。一瞬やば。とも思ったがさっきのかわいいに比べれば誤魔化すほどでもないと思い堂々とすることにした。


「えっ……そうかな?」

莉子ちゃんは少し頬を染めてヘアゴムを髪に当てるようにして鏡を覗いた。


「でもその髪の長さじゃあんまり結ばないよね……」 

「そうなんだよね〜」

そう言いながらも手は離さない。

その迷ってる指先がやけにかわいくて、なんかもう何でも買ってやりたくなる。


「……俺が買おうか?」

自分でも何言ってんだと思う。けど言ってしまった。


「ふふっ、大丈夫」

軽くあしらわれてしまった。冗談だと思われたのだろうか。


莉子ちゃんはヘアゴムを棚に戻して、別のコーナーに視線を向けた。

「こっちのもかわいいね」

少し歩いた先には小さなキーホルダーが並んでいた。


イルカ、ペンギン、クラゲ、今日見た生き物のキーホルダーがたくさんあった。


「これかわいくない?」

莉子ちゃんが手に取ったのは、ペンギンのキーホルダーだった。

ペンギン相当気に入ったみたいだな……


「かわいいね……」

俺はペンギンをぼんやり見つめながらさっきの“俺が買おうか”を思い出していた。

あれじゃダメだったよな。気持ちは本気なのに冗談みたいに受け取られて。

だからって次はどうすれば――


「このペンギン、青と赤のリボンつけた二種類あるんだ」

莉子ちゃんが手に取って呟いた。


これだ。ちょうどいい案が頭に降ってきた。

何か残したい。今日、俺は莉子ちゃんと水族館に来たんだっていう何かを。莉子ちゃんにも俺と水族館に来たってことを覚えてて欲しい。


「……じゃあさ」

気づいたら口が動いていた。


「……青と赤でお揃いにしない?」

言ってから呼吸が止まった。自分の声がやけに大きく聞こえる。


「え?」

莉子ちゃんが小さく瞬きをして俺の方を向く。


「お、おそろい……?」

「うん……」

声が裏返りそうになるのを必死で押し殺す。ここまで言って引けるかよ……!


「多分、それ見たら水族館に来たって思い出せると思うから」

「……それがないと忘れちゃうの?」

莉子ちゃんの声はからかうようでいて、でもどこか寂しさも含んでいた。


「いや、そ、そういうわけじゃなくて……!」

必死に否定しながらも顔が熱くなるのが分かった。

忘れるわけない。でも――


「なんかそういう“思い出”が欲しいっていうか……物として証拠が欲しいかなって」

小さく目を逸らしながら言った。少しダサいけどちゃんと素直な声だった。


少しの沈黙。莉子ちゃんは手の中のペンギンを見つめたままだ。


「……じゃあ」

小さく笑って俺の方を見た。


「青と赤、どっちがいい?」

「えっ……」

一瞬、戸惑ってから慌てて返す。


「え、えっと……じゃあ青で……」

「じゃあ私、赤にするね」

そう言うと莉子ちゃんは青のリボンをしたペンギンを俺に渡してくれた。


「いいの……?」

「私も証拠が欲しくなっちゃった」

莉子ちゃんは控えめに微笑みながらそう言った。その言葉が胸の奥にじんわりと広がっていく。


「……そっか」

それ以上の言葉はもう出てこなかった。


莉子ちゃんはレジの方へ歩いていく。その後ろ姿を見ていると、胸が締めつけられた。

うれしくて、くすぐったくて、夢の中にいる感じ。


莉子ちゃんとお揃いのキーホルダー……。


「……うまくいきすぎじゃないか?」

自分でもこの状況が信じられなかった。


支払いを終えると、俺たちはまた近くのベンチに座った。

莉子ちゃんはレシートを畳んでポケットに入れながらどこか落ち着いた表情をしている。

その手には赤いリボンのペンギン。俺の手の中には青いリボンのペンギン。


「これでおそろいだね」

そう言って莉子ちゃんは微笑んだ。


「そうだね……」

やばいなぁ……普通に。今日の帰り無事に帰れるかな?


「水族館ってやっぱいいね」

俺がそう呟くと、


「そうだねぇ……」

その笑顔は優しいのにどこか遠くにいるようだった。

何かを隠しているようで、何かを我慢しているようなそんな目をしていた。


やっぱり何かあるんだ。絶対何かを隠してる。


「…………」

莉子ちゃんはスマホを見て、一瞬、下唇を噛んだ。


「どうかした……?」

「あぁ……いや。もう三時だなぁって」

「もうそんな時間か……」

そう言われて俺もスマホを開く。映った画面はさっき切ったままの優馬とのLINE画面だった。

一つのメッセージが目に入る。


『女の子の気持ちはわからないものだ。常識に囚われるなよ』


……確かに。何も分かんない。

莉子ちゃんは行きたいところがあったのか?俺に気を遣って行かなかった?

それはないだろ。俺は莉子ちゃんの行きたい場所を聞いた。水族館で俺とかあいつらがいるから気を違う場所なんてあるのか?


莉子ちゃんはスマホをしまって膝の上に両手を置いた。


「もう少ししたら集合時間だね」

そう言って笑うけどその声には少しだけ力がなかった。


「……うん」

俺も返事をしながら視線を落とす。

手の中で青いリボンのペンギンが光を受けて小さくきらめいた。

さっきまであんなに嬉しかったのに今は胸の奥が妙にざわついている。


やっぱり……莉子ちゃんには笑顔が似合う。こんな切ない顔させんなよ。俺。


「……あのさ。やっぱり天城さんどこか行きたい場所あるでしょ」

「えっ……?」

莉子ちゃんは少し驚いた顔をした。


「ないない。大丈夫だよ?なんで?」

「いや……なんか……いつもと違うから」

「そんなことないよ。ていうか水族館にいるのに言わないなんてことしないから……」

莉子ちゃんは少し揺れた目で俺を見つめる。


その目には分かって欲しいっていう感情を含んでいる感じがした。

それは莉子ちゃんにとってかっこいい男になりたい俺の勝手の解釈だけど、だからこそ、その揺らぎを見逃すわけにはいかなかった。


常識に囚われちゃいけない。水族館の中に行きたい場所がないっていうのは本当だろう。

それなら――


「天城さん。本当は水族館の外でどこか行きたい場所があるんじゃない?」


「えっ……」

莉子ちゃんの目が見開かれる。


常識に囚われるな。そうだ。水族館にいるからって行きたい場所が水族館の中にあるとは限らないじゃないか。


「何で……」

莉子ちゃんの目を見て俺は確信した。


「余計なお世話だったらごめん……でもそうだよね。他に行きたい場所があるんだよね」

俺は優しく包み込むように呟いた。



ありがとうございました!遠足も終盤です!

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