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心の底では

ぜひ読んでください!よろしくお願いします!

「ねぇ、浅倉くん」

ペンギンをもう一通り見終わった後に莉子ちゃんは声をかけてきた。


「ん?」

「次はどこ行こっか?」

そう言って少しだけ俺の顔を覗き込むように笑う莉子ちゃん。


「え、えっと……」

やばい落ち着け。次の場所、次の場所……!


「……サメとかどう?」

咄嗟に口から出たのはさっきパンフレットで見た単語。


「サメ?」

「うん……」

莉子ちゃんは目を瞬かせてそれから小さく頷いた。


「いいね!見てみたいかも」

莉子ちゃんは嬉しそうに目を細めた。


「じゃあ行こっか……」

よかった……!センスないやつだと思われるところだった……


「うんっ」

そうして俺たちは二人並んで歩き出した。


通路を進むにつれて、あたりは少しずつ暗くなっていく。青く照らされた壁、水槽の中でゆらゆらと泳ぐ魚たち。


「サメって実物見たら怖いかな?」

莉子ちゃんが見上げるように俺を見て尋ねてくる。


「どうだろ……怖いかもね」

かわいすぎて会話に身が入らん……


「あ、天城さんって動物触れないんだね」

「そうなの。だから浅倉くんも同じでよかった。一人になるとこだったよ〜」

「触るってなるとなんか怖いよね……」

大嘘。俺はめちゃくちゃ触れるタイプ。


「そうそう。でも見てる分にはかわいいんだよね」

莉子ちゃんは水槽の方を見ながらぽつりと言った。


「確かに」

莉子ちゃんは小さく笑って手にしていたパンフレットを開いた。


「サメのエリアってこの先のトンネルみたいなところかな?」

「うん。ここ曲がったらすぐだと思う」

「ふふ、頭入ってるね」

そう言って俺の方を見上げる笑顔が青い光の中でやけにきれいに見えた。


「まぁね……」

「……あれ見て浅倉くん」

莉子ちゃんが急に立ち止まって水槽の端を指さした。


「ん?どれ?」

「ほらあの白いやつ。ずっと同じ方向向いて止まってる」

「……寝てるのかな?」

「そうなのかなぁ。なんか考えごとしてるようにも見えるよね」

「確かに……」

俺がそう相づちを打つと莉子ちゃんはもう一度その魚を見て小さく笑った。


「私みたいだな……」

「え?」

「ううん。なんでもない」

そう言って首を振り、また歩き出す。その笑顔がほんの少しだけ作ったように見えた。


通路の先に青白く光るトンネルが見えてくる。

天井まで覆う水槽の中を大きな影がゆっくりと横切っていく。


「わぁ……すごい」

莉子ちゃんの声が自然に漏れる。


「思ってたより迫力あるね」

「うん……でもちょっと怖いかも」

頭上をサメが通り過ぎるたびに、水面の光が揺れて莉子ちゃんの頬を照らす。


「やばいなこれ……でか」

俺は結構サメに夢中になっていた。


「サメ好きなの?」

「男は強いのが好きなんだよ」

「あははっ、確かに弟もサメ好きかも」

莉子ちゃんが俺の言葉で笑ってくれたことが嬉しくて舞い上がってしまう。


「弟いるの?」

「うん。いるよ〜」

莉子ちゃんの弟?前世で何したらなれるの?


「浅倉くんは兄妹いる?」

「俺は兄ちゃんと姉ちゃんが一人ずつ。でももう二人とも家出てるんだよね」

そういえばしばらく会ってないな。元気してるだろうか。


「そっかぁ。末っ子なんだね」

「そう。末っ子」

「なんか……分かるかも」

莉子ちゃんは少しニヤニヤしながら悪戯っぽく呟いた。


「……それ悪い意味でしょ」

「違う違う!なんかそういえば弟に似てるとこあるなって思っただけ」

莉子ちゃんは焦ってように否定した。その様子がめちゃくちゃかわいくて頬が緩んでしまう。


「かわいいなぁ……」

「え?」

俺から出た言葉に莉子ちゃんはキョトンとした。


「かわいい……?」

莉子ちゃんがその言葉を反芻した瞬間、俺の頭が真っ白になった。


「あっ……いや、えっと……!」

やばいやばいやばい!!漏れ出た……!今日何回かあったけど本人の前でやってしまった……!何か誤魔化さないと!


「あのサメかわいいなぁ……って」

流石に無理ある……!サメしかいないこのエリアでかわいいは無理!


「サメがかわいい……?さっきかっこいいって……」

「かわいくもある!かっこいいしかわいい!それがサメだよ!」

「……そうなんだ」

俺は勢いで押し切った。


「それより!サメ見終わったらどこ行く?」

ブレーキが止まらないままハイテンションで尋ねる。


「あっ……それなんだけど」

「ん?何か行きたいとことかある?」

「えっとね?その……んーと」

言いかけて莉子ちゃんは視線を落とし、言葉を飲み込んだ。


「……いや。やっぱりいいや」

「え?いいの?」

めちゃくちゃ何か言いたそうだったけど……


「うん。大丈夫!」

「そっか……」

俺はそれ以上聞けなかった。莉子ちゃんが何かを隠した気がして、それ以上聞いてほしくないのかなって勝手に思っていた。


⭐︎


サメを見終わった俺と莉子ちゃんは館内のベンチに座って休んでいた。


「あれ……」

座ってスマホを開くと、優馬からLINEが来ていた。


『ちゃんとやってる?』


二時間前だ。気づかなかった。

俺は返信を打ち込む。そういえば優馬はどこ行ってんだろ?


『頑張ってはいる。今、莉子ちゃんとふたり』

打ち込みながらにやけが止まらなくなった。


『は!?デートじゃん!』


「なっ……!?」

優馬の返信に思わず声が出てしまう。確かにデートじゃんこれ!


「どうしたの?」

俺の叫び声にスマホを見ていた莉子ちゃんが顔を上げる。


「いや……?何でもないよ〜」

俺は誤魔化しながら返信を打つ。


『そんなんじゃないから!』

俺を揺さぶるんじゃねぇよ……


返信はすぐに返ってきた。暇なのだろうか。


『そうなの?でも頑張れよ』

『頑張ってるよ』

『じゃあ頑張ってるチキンへ一つアドバイスをあげよう。女の子の気持ちってのは分からないものだ。常識に囚われるなよ』


「はぁ……?」

チキン呼ばわりからのよく分からないアドバイスに俺は困惑すると同時に少しムカついた。


常識に囚われるなって……何だよそれ。


『はいはい。ありがとうございます』

俺は適当に返してあしらう。


『あ。あと有栖ちゃんと鈴香ちゃんとの写真期待してます!』

それが帰ってきた瞬間、俺はスマホの電源を切った。そしてベンチの背もたれに体を預ける。


「ねぇねぇ。見てこれ」

莉子ちゃんが俺にスマホの画面を向けてきた。


「ん?」

「有栖と柴田くんがイルカ触ってる。鈴香が送ってくれた」

そこには木南と柴田が超ハイテンションでイルカと戯れている姿があった。


「楽しそうだね……」

俺の気も知らず楽しんでやがるな……


「次どこにしよっか。もう結構回ったよね?一周はしたかな?」

時刻は二時半。まだ一時間半も一緒にいれる喜びとあと一時間半も持たないぞという焦りが同時にやってくる。


「天城さんは行きたいとことかないの?」

やっぱりさっきのが気になって俺はもう一度聞いてみることにした。


「あー……特にはないかな」

「そっか」

まただ。また何かを隠した。


「じゃあちょっと早いけどお土産とか見とく?」

「いいかもね。じゃあお土産見に行こっか」

そう言って二人で立ち上がり、再び歩き出した。


莉子ちゃんは何を隠しているのだろうか。その答えは見当もつかないまま。

ありがとうございました!

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